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安心して聴ける安定した演奏 スティーヴン・スティルス(Stephen Stills,スティヴン・スティルス)は、バッファロー・スプリングフィールドを経てCS&Y(クロスビー、スティルス&ナッシュ)、CSY&N(クロスビー、スティルス、ヤング&ナッシュ)で名を馳せ、ソロ作やマナサスといったバンド・プロジェクトでも活動を重ねていった。そして、1975年にソロとしての第3作として世に出されたのが、本盤『スティルス/孤高の世界(Stills)』であった。 1970~71年にソロとしての最初の2作品をリリースした後、スティルスは新バンドのマナサスの作品を2つリリースしている。1973年にこのバンドは解散したが、こうした経緯の後に制作され、リリースされたのが本盤であった。レコーディングの参加メンバーには、マナサスゆかりのジョー・ララ、ダラス・テイラー、ケニー・パサレリの名が見られ、CSN&Yのクロスビーとナッシュ(7.と9.のバッキング・ヴォーカル)、さらにはリンゴ・スター(9.のドラムス)がゲスト参加している。 この盤のスティルスの音楽は、どこか柔らかい物腰に変わってきたような部分があり、それが従来のスティルス節と組み合わさっているような印象を受ける。バンドではなくソロに戻ったという状況と、マナサス活動中に結婚し子どもが生まれたといった私生活とも関係していたのかもしれない(ただし本盤発表後に離婚している)。 感覚的な言い方で恐縮だが、この人の作りだす音楽は、個人的に妙に波長が合う。本盤もその例外ではなく、そうした“感覚的”な観点から何曲か挙げてみたい。1.「君の面影(ターン・バック・ザ・ペイジズ)」は、やや肩の力を抜いた雰囲気でありながら、びしっと決まっているのがいい。6.「ママに捧げるお伽話(トゥ・ママ・フロム・クリストファー・アンド・ジ・オールド・マン)」は上記の通り家族ができたことから作られた曲とされるが、確かにいい感じのリラックス度で曲が進行する。もっとソリッドでコアなスティルス節を楽しむという意味では、10.「バッド・シャッフル(シャッフル・ジャスト・アズ・バッド)」や11.「冷酷無情の世界(コールド・コールド・ワールド)」なんかがいい。 それにしても、本邦ではこのスティーヴン・スティルスという人が話題に上ることがどうも少ない。曲もヴォーカルも筆者的にはツボにはまっていて、様々な楽器も器用に操って自分の音楽を作り上げることができ、実に稀有なアーティストだと思うのだけれど…。[収録曲]1. Turn Back the Pages2. My Favorite Changes3. My Angel4. In the Way5. Love Story6. To Mama from Christopher and the Old Man7. First Things First8. New Mama9. As I Come of Age10. Shuffle Just as Bad11. Cold Cold World12. Myth of Sisyphus1975年リリース。 Stephen Stills スティーブン スティルス / Stills / Illegal Stills / Thoroughfare Gap (2CD) 輸入盤 【CD】 ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひクリックをお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年11月26日
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バンド力が発揮されたライヴ演奏盤 トラフィック(Traffic)は、スペンサー・デイヴィス・グループで頭角を現したスティーヴ・ウィンウッド(Steve Winwood)が1967年に結成したバンドだった。当初は彼のワンマン・バンドのような色合いが濃かったが、1969年にブラインド・フェイス(エリック・クラプトンらと合流したいわゆる“スーパー・グループ”で、この年のうちにあえなく解散)に参加した後、様子が少し変わった。トラフィックの活動は、これを境に第一期(結成から1969年の解散まで)と第二期(1971年の再結成から1974年の解散まで)に分けられる。本盤はちょうど後者の時期にあたるライヴ盤で、バンドとしてのまとまりやアンサンブルが存分に発揮されている。 もう少し細かな事情を見ておくと、本盤ではデイヴ・メイスン(Dave Mason)の参加が鍵になっている。メイスンは、1968年に一時期的にバンドを抜けているが、その際は数か月後に復帰、そして最初のバンド解散時にはバンドを再び脱退していた。要するに、彼はウィンウッドとは折り合いが悪かった(2000年代の殿堂入りに至っても、そのステージを巡って仲たがいしていた)のだろうけれど、1971年の再結成時にもこの人物の姿はなかった。しかし、ほんの一時期だけ(たった6公演だけだったらしい)、彼はこの第二期に合流した。本盤にはその時の演奏が収められている。 この盤のジャケットには、バンド名ではなく、メンバー名が列記されている。上記のようなわけで、スティーヴ・ウィンウッド(ヴォーカル、ピアノ、ギター)とデイヴ・メイスン(ヴォーカル、ギター)に加え、ジム・キャパルディ(パーカッション)、クリス・ウッド(サックス、フルート、ピアノ、オルガン)、リック・グレッチ(ベース)、リーバップ・クワク・バー(コンガ、ティンバル、ボンゴ)、ジム・ゴードン(ドラム)という全員の名が記されている。収録内容は、全6曲のうち、4曲がLP時代のA面、残る2曲がB面となっている。つまりは、最初の4曲は通常の尺(といっても6分超の演奏も含まれるのだけれど)で、アルバム後半は長尺の演奏(約11分と約9分)の2曲という配分になっている。 聴きどころは、やはり後半の長尺の2曲。5.「ディア・ミスター・ファンタジー」は、トラフィックのデビュー盤(『ミスター・ファンタジー』)に収録のナンバー。6.「ギミー・サム・ラヴィン」は、トラフィック結成前にウィンウッドが属していたスペンサー・デイヴィス・グループの代表曲。どちらも元の尺よりも大幅に長く、ライヴ演奏向けの長尺構成の意図が明確で、緊張感と盛り上がりが存分に楽しめる。他に注目したい曲としては、4.「欲ばりすぎたネ(シュドゥント・ハヴ・トゥック・モア・ザン・ユー・ゲイヴ)」で、2.「サッド・アンド・ディープ・アズ・ユー」と並んで、デイヴ・メイスンのアルバムからの曲で、メイスン自身がヴォーカルを担当している。[収録曲]1. Medicated Goo2. Sad and Deep as You3. Forty Thousand Headmen4. Shouldn't Have Took More Than You Gave5. Dear Mr. Fantasy6. Gimme Some Lovin'1971年リリース。 Traffic トラフィック / Welcome To The Canteen 輸入盤 【CD】 【輸入盤CD】Traffic / Welcome To The Canteen (トラフィック) 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年11月22日
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聴き続けたい、地味な好盤 マイク・フィニガン(Mike Finnigan)は、1945年オハイオ州出身のキーボード(主にハモンド・オルガン)奏者、ヴォーカリスト。デイヴ・メイスン・バンドの一員として活躍したほか、ジミ・ヘンドリクス、CSN&Y、タジ・マハール、マリア・マルダー、リンゴ・スター、レナード・コーエンなど様々な大物ミュージシャンのレコーディングやツアーへの参加経験を持つ。 ジェリー・ウッドとの共作を先に残していたとはいえ、彼にとって初めてのソロ作品となったのが、1976年リリースのセルフ・タイトル作『マイク・フィニガン(Mike Finnigan)』であった。いわば“隠れた名手”的なセッション・ミュージシャンが、三十路にして出したソロ作品といったわけだったが、特にヒットというわけでもなく、日本でもこの作品は発売もされなかったという。だからといって聴く価値のない盤かというと、まったくもってそんなことはない。“こういう地味な好盤こそ聴き継がれてほしい”思う作品の典型例の一つと言っていいように思う。 ジャケットのイメージからは、カントリーか何かのアルバムと思ってしまう人もいるかもしれないが、実際には米国ルーツ音楽に根ざした泥臭さとソウルフルさが同居する楽曲を軸とし、さらにはジャズの影響も窺い知れる作品に仕上がっている。全体的には、様々な曲のカバーが中心だが、その選曲にもセンスが感じられる。以下、個人的好みを元に、注目曲をいくつか挙げてみたい。 冒頭の1.「グレイス・オブ・ユア・ラヴ」や2.「パフォーマンス」を聴くとすぐにわかるように、いくつもの曲でそのヴォーカリストとしての素質が発揮されている。さらには4.「ザ・ルーム・ノーバディ・リヴズ・イン」なんかも併せて聴くにつけ、ふとしたきっかけでボズ・スキャッグスのようなAORヒット・メイカーになれたのではなかろうかと想像してしまう(実際、彼は後にAOR風なアルバムを制作している)。5.「ニューヨークの想い」は、言わずと知れたビリー・ジョエルの名ナンバー。7.「サザン・レイディ」は、リタ・クーリッジで知られる曲だが、ここではマリア・マルダーがコーラスに参加している。8.「エヴリシング・ウィル・ワーク・アウト・ライト」は、演奏面でもヴォーカルに関しても、本盤の中で特に筆者の一押しのナンバー。ついでながら、ギターにエイモス・ギャレットが参加しているのも目を引くが、上記5.や8.のギタープレイもなかなかカッコいい。上にも記したとおり、こういう“地味な好盤”こそ、長く聴き続けられるべきと思う。もちろん、自分でもまだまだ聴き続けたい。 [収録曲]1. Saved by the Grace of Your Love 2. Performance3. Baby, I Found Out 4. The Room Nobody Lives in5. New York State of Mind 6. Ace in the Hole7. Southern Lady8. Everything Will Work Out 9. Misery Loves Company10. Holy Cow11. Mississippi on My Mind1976年リリース。 ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひクリックをお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年11月19日
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壮大なる20世紀ロック曲のオンパレード盤 ステイタス・クオー(Status Quo)は、イギリスのロック・バンドで、すでに半世紀を超える活動歴を持つ。ブギー・ロックの代名詞的なバンドで、本邦ではなぜだか知名度が低いものの、とりわけ1970年代~80年代にかけて多くヒットを放った。 2000年発表の本盤『フェイマス・イン・ザ・ラスト・センチュリー(Famous in the Last Century)』は、何とも爽快な作品である。“ミレニアム”騒ぎに沸き、21世紀を迎えようというタイミングで出された本盤の表題にある“前世紀(Last Century)”というのは、もちろん、リリース当時に終わりを迎えつつあった20世紀のことを指している。 そして、演奏されている曲は、文字通り20世紀を代表するナンバーのオンパレード的な内容である。ロバート・ジョンソンの8.「スウィート・ホーム・シカゴ」もあれば、チャック・ベリーの5.「ロール・オーバー・ベートーヴェン」もある。エルヴィス・プレスリーでよく知られる13.「ハウンド・ドッグ」もあれば、ボブ・シーガーで知られる2.「オールド・タイム・ロックン・ロール」も取り上げられている。 バンドのメンバー(ヴォーカル、リードギター)であるフランシス・ロッシは本作のことを“やりたくなかった最悪の盤”と述べている。ジャケット写真に目をやると、エリザベス女王やジョン・レノン、プレスリーらに並んでメンバーも一緒にモノクロ写真で載せられている。確かに“やり過ぎ”感もなくはないのだけれど、筆者的にはこれはこれで結構よかったのではないかと思う。何より有名曲が次から次へとあのブギー・ロック調で登場するわけだから、聴き手としては素直に楽しむことができる。しかもこれを60分も70分もやらると、聴く側は疲れるだろうが、従来のLP時代以来のアルバム1枚分の時間(実際の本盤の収録時間は44分弱)に収められているのも楽しめるポイントと言えるように思う。[収録曲]1. Famous in the Last Century2. Old Time Rock and Roll3. Way Down4. Rave On!5. Roll Over Beethoven6. When I'm Dead and Gone7. Memphis, Tennessee8. Sweet Home Chicago9. Crawling from the Wreckage10. Good Golly Miss Molly11. Claudette12. Rock'n Me13. Hound Dog14. Runaround Sue15. Once Bitten Twice Shy16. Mony Mony17. Famous in the Last Century2000年リリース。 Status Quo ステイタスクオー / Famous In The Last Century 輸入盤 【CD】 下記のランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、バナーをクリックして応援いただけると嬉しいです! ↓ ↓
2020年11月16日
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累計アクセス数が550万件を超えました。この場を借りまして、本ブログをご覧いただいている皆さまにあらためて感謝いたします。何だかここ数日、世間ではだんだんと外出できない雰囲気がただよい始めていますが、お時間の許す方は、過去記事も含めぜひご覧いただけると嬉しいです。引き続きご愛顧のほどよろしくお願いします。 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年11月14日
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ハイペースでアルバム発表が続いた時期のスタジオ第4作 クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル(CCR, Creedence Clearwater Revival)は、ジョン・フォガティ(ギター、ヴォーカル)を中心とした4人組のロック・バンド。1960年代末から1970年代初頭にかけて、短い活動期間ながらも、彼らはヒットを連発した。 1968年にファンタジー・レーベルからデビューし、その後もこのレーベルからアルバムを連続して発表した。デビュー盤はサイケ色も強かったが、まもなくストレートなロックへと傾いてゆく。1969年は彼らにとってキーとなる年だった。年頭には前年に録音した『バイヨー・カントリー』を発表、夏には同年前半に録音した『グリーン・リヴァー』を発表、そして、11月には本作『ウィリー・アンド・ザ・プア・ボーイズ(Willy and the Poor Boys)』を発表した。このように、年に3枚もオリジナル・アルバムを発表し続けられるほど制作意欲が高く、活力に溢れていた。 実際、彼らの作品はハイペースで発表されたものの、急いで作った感じはせず、どれも充実度が高い。本盤に関していくつか注目したい曲を挙げてみたい。CCRの最大の魅力は、“3分間のレコード芸術”で、短い時間にロックのエッセンスをコンパクトに詰め込んで楽曲として提示できていた点にある。彼らのシングルが次々にヒット(不運にも全米2位が最高位で、全米1位は生まれなかったのだが)した理由でもあったのだろう。そのような観点からすると、2.「青空の死者(イット・ケイム・アウト・オブ・ザ・スカイ)」、3.「コットン・フィールズ」、6.「フォーチュネイト・サン」は特に聴き逃がせない。 その一方、多くの曲が3分以内という彼らの楽曲演奏の傾向の中で、少し長めのものにも触れておきたい。8.「ザ・ミッドナイト・スペシャル」は4分ちょっとなので、特段長いわけでもないのだけれど、トラディショナル曲で、かつてカントリーでヒットした曲とは思えないカッコいいロック調に仕上がっていて必聴。それから、6分越えで、彼らとしてはかなり長尺な10.「エフィジー」もじっくり聴く価値のあるナンバー。CCRの活動は長く続かなかったものの、もしそのまま続いていたらこの路線を掘り下げてほしかったとひそかに思っていたりする。[収録曲]1. Down on the Corner2. It Came Out of the Sky3. Cotton Fields 4. Poorboy Shuffle5. Feelin' Blue6. Fortunate Son 7. Don't Look Now (It Ain't You or Me)8. The Midnight Special9. Side o' the Road10. Effigy1969年リリース。 ウィリー・アンド・ザ・プアボーイズ +3 [ クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル ] ウィリー・アンド・ザ・プアボーイズ+3/クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル[SHM-CD]【返品種別A】 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2020年11月12日
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INDEXページ(ジャンル別、アーティストのアルファベット順)を更新しました。ここ最近の記事を追加しています。INDEXページへは、下のリンク、もしくは本ブログのトップページ(フリーページ欄)からお入りください。 アーティスト別INDEX~ジャズ編(A-G)へ → つづき(H-M)・つづき(N-Z) アーティスト別INDEX~ロック・ポップス編(A-B)へ → つづき(C-D)・つづき(E-I)・つづき(J-K)・つづき(L-N)・つづき(O-S)・つづき(T-Z) アーティスト別INDEX~ラテン系ロック・ポップス編(A-L)へ → つづき(M-Z) アーティスト別INDEX~邦ロック・ポップス編へ 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2020年11月08日
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スペイン語ロック名曲選・第2弾(その5) 不定期でとぎれとぎれでしたが、9月後半から1か月半ほどにわたり5回に分けてスペイン語ロックの名曲選を更新してきました。この第2弾、今回でひとまず一区切りです。今回は、メキシコの有名ロック・バンド、カイファネス(Caifanes)の「ビエント(Viento)」です。1988年に発表されたセルフ・タイトルのファースト作『カイファネス』に所収のナンバーです。 カイファネスは、サウル・エルナンデス(Saúl Hernández, ヴォーカル、ギター)を中心とするバンドで、1996年にいったん活動を休止し、サウルは新バンドのハグアーレスで活動を展開していきました。結局、2011年にはカイファネスは再結成され、現在まで活動を続けるに至っています。 そのようなわけで、バンド再開後のライヴでの「ビエント」の演奏シーンもご覧ください。2011年のライヴでの一場面です。 ついでながら、個人的な話を付け加えておくと、筆者はサウル・エルナンデスに会ったことがあります。確かカイファネスの活動を停止し、ハグアーレスの活動を開始した頃でしたが、レストランでの食事中にも関わらず、ファン・サービスを忘れないといった、とても感じのよい対応でした(おまけに一緒に写真も撮ってくれました)。だから贔屓というわけではないのですが、カイファネスもハグアーレスも筆者のお気に入りバンドだったりします。[収録アルバム]Caifanes / Caifanes(1988年)↓参考リンク(いずれも上記とは別盤です)。↓ 【輸入盤CD】Caifanes / El Silencio【K2020/1/24発売】 【輸入盤CD】Caifanes / El Nervio Del Volcan【K2020/1/24発売】 【輸入盤CD】Caifanes / Volumen 2 (Aka El Diablito)【K2020/1/24発売】 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2020年11月04日
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1977年、ドイツでのライヴ盤 トム・ウェイツ(Tom Waits)のスタイルは年代と共に変化していったが、1970年代の“弾き語り詩人”的なパフォーマンスは多くの人たちを魅了してきた。筆者もそれに憑りつかれた一人である。もともと初期のライヴ盤としては、1975年の『娼婦たちの晩餐』があったが、この1977年のドイツでのライヴ盤は、どうやらブートレグとして出回っていたものが一般に出回ったものということのようである(正式リリースではないみたいだけれど、音質はちゃんとしたものである)。 ジャジーな演奏、しゃがれた声、自由なマイク・パフォーマンス…とこの当時のトム・ウェイツのいい部分がそのまんまにしっかりと収められているライヴ盤である。彼のデビューから、『土曜の夜』や『ブルー・ヴァレンタイン』などを経て、『ハートアタック・アンド・ヴァイン』までの辺りを好きな人にはぴったりはまる盤ではないかと思う。 個人的な独断と偏見で好みの演奏を何曲か挙げておきたい。1.「スペア・パーツ」は上記の名ライヴ盤『娼婦たちの晩餐』でも重要な役どころだったナンバー。4.「ピアノが酔っちまった」は、『スモール・チェンジ』の所収曲で、表題からして“酔いどれ”な感じだが、歌詞にもあるように、元々のタイトルには、末尾に“(Not Me)”とあり、正確には「ピアノが酔っちまった(俺ではなくて)」というもの。いくつもの曲に言えることだけれど、10.「エモーショナル・ウェザー・リポート」なんかに見られるように、自由でインプロヴィゼーショナルな雰囲気がいい。『土曜の夜』所収の12.「ニュー・コート・オブ・ペイント」を聴いてもわかるように、アルバムの演奏の再現という気は、おそらくはさらさらなくて、その場の雰囲気の方がはるかに重視されて演奏されたというのが、このライヴ感を醸し出す最大の源になっていたのだろうと思う。 それにしても、この辺の時期まで(厳密には1980年の『ハートアタック・アンド・ヴァイン』までというのが最も適切かと思う)のトム・ウェイツの演奏は、本当に“酒場”に似合う音楽だった。その酒場というのは、静かで小さなバーだったり、猥雑な雰囲気のする酒場そのものであったり、広いスペースで酒が提供されている場所だったりと様々なものを含む意味で言っているのだけれど、1970年代に本当にそういう場で一杯いただいてみたかった。まあこのトム・ウェイツの演奏の時点で筆者は未成年で、日本の外にも行ったこともなかったわけで、どだい無理な話ではあったのだけれど(笑)。[収録曲]1. Spare Parts2. Invitation to the Blues3. Depot, Depot4. The Piano Has Been Drinking5. Pasties & A G-String6. Step Right Up7. Semi Suite8. Fumblin' with The Blues9. Midnight Lullaby10. Emotional Weather Report11. I Can't Wait to Get off Work12. New Cort of Paint13. Nobody but You14. Diamonds on My Windshield15. Everytime I Hear the Melody16. The One that Got Away2008年リリース(1977年録音)。 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年11月02日
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