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【万葉集/新潮古典文学アルバム】歌わずにはいられない気持ちをストレートに表現する暑い暑いと言っていたら、ここのところ急に朝夕涼しくなってきた。コオロギの声も聴くようになり、いよいよ秋らしくその気配をひしひしと感じるようになった。いにしえの人なら、さしあたり萩の花などを愛でた歌などをひねったかもしれない。たとえば次のようにだ。 『秋萩の 咲きたる野辺は さ男鹿そ 露を分けつつ 妻問ひしける』 これは万葉集からの引用だが、季節の花と鳥獣とを組み合わせている。後世の、季語を一つだけ使った俳句とはだいぶ趣きが違う。 今回は、新潮古典文学アルバムの2巻を手に取ってみた。『万葉集』である。目を引くのは、巻頭のエッセイを俵万智が手掛けているところだ。俵万智と言えば、『サラダ記念日』で一世を風靡したベストセラー歌人である。“恋多き女”とも呼ばれ、ある意味職業と私生活が上手い具合にコラボして、今の立ち位置を確立した凄腕の人物だ。現代人には取っつきにくい『万葉集』だが、この俵万智のエッセイを読むだけでもちょっとだけ短歌への興味がそそられるのだから不思議だ。 一つ勉強になったのは、 相聞歌(そうもんか)⇒「あなたのことが好きです」挽歌(ばんか) ⇒「あなたが死んで悲しい」 これを高校時代の古典の授業で、これほどシンプルに先生から教えてもらっていたら良かったのに。俵万智は「あらっぽい言い方かもしれない」と前置きしながらも、万葉歌を突き詰めた形で解説してくれる。西欧のポエムにも通じるものがあるが、もともとは心から伝えたいこと、自然を謳歌する気持ちなどをストレートに表現するところから始まったのである。ものすごく単純で、おおらかで、「見るからにそれだけのこと」でしかない歌。 私は長野の善光寺に詣でた際、門前町のお土産物屋さんでカタクリの花が刻まれた印鑑ケースを買った。カタクリの花なんて見たこともなかったので、ただただ珍しさだけで買ってしまったのである。この古典文学アルバムをめくっていると、万葉歌は植物について歌われているものも多々あり、その一つとしてカタクリの花(かたかごの花)の写真が掲載されている。見ると、可愛らしいけれど地味な花である。大伴家持が次のように歌っている。 『もののふの 八十をとめらが 汲みまがふ 寺井の上の かたかごの花』 なんだか奥行も何もない感じだが、本当にそのままストレートな歌である。単純で素朴ながらも、その光景が目に浮かぶ。私は好きだ。俵万智も、おそらく万葉集の手を加えていない素朴の持つ新鮮さとか力強さに惹かれたに違いない。その証拠に「とれたての野菜は、塩をかけただけでおいしい」と述べている。 最近の若い人はラブレターなんて書かない、だろう。ましてや好きな人に想いを込めて歌に詠むことなど、皆無に違いない。我々の先祖がどれほどの情熱を持ち、奔放な愛を歌いあげたかを知るには『万葉集』が一番かもしれない。その入門としてこの古典文学アルバムをおすすめしたいと思う。 新潮古典文学アルバム2『万葉集』 森淳司◆俵万智コチラ★吟遊映人『読書案内』 第1弾はコチラから★吟遊映人『読書案内』 第2弾はコチラから
2016.10.16

【マッチポイント】「運はとても大事だ」「運よりも努力の方が大切よ」「もちろん努力も大事だが、運を軽く見ちゃいけないよ。科学者によれば、この世の出来事はすべて偶然によって決定するのさ。証明済みだ」もともとコメディアンだったウディ・アレン監督だが、なりゆきからか(?)役者となり、映画監督となり、今では名匠とまで呼ばれるほどに成功を果たした人物である。代表作に『おいしい生活』や『ギター弾きの恋』などがある。どの作品にも共通しているのは、せつなさの中にちょっとした笑いがあることである。(さすがはコメディアンだ。)ところが『マッチポイント』においては、そのコメディ・タッチを完全に封印している。このDVDを借りる前にいろんな方々のレビューを拝見してみたが、“新境地”と表現する感想が多かった。この作品を見て、ようやくその意味がわかった。たしかにこれまでの作品の流れからして、軽い皮肉を交えたコメディ感覚は薄れ、ものすごくブラックな、ある意味深刻さのただよう内容となっているのも見逃せない。思い出したのは名作『太陽がいっぱい』の、全体からかもし出されるヒリヒリとした痛みのような感覚である。 ストーリーはこうだ。舞台は英国、ロンドン。元プロテニス・プレイヤーのクリスは、特別会員制テニスクラブのコーチとして就職した。アイルランド出身でしがないテニスコーチでしかないクリスにとって、エリートの集まりであるテニスクラブは上流階級との出会いのチャンスでもあった。あるとき、富豪の御曹司トムのコーチを依頼されたところ、思いのほか二人は意気投合した。トムは、苦学してプロテニスプレイヤーとなったクリスに尊敬の念を抱き、自宅へ招待するなどしてますます仲良くなっていく。トムには、一途で純情な妹クロエがいたが、トムからクリスを紹介されたとたん、たちまち一目ぼれしてしまう。クリスも大金持ちのトムの妹ということでクロエを気に入り、二人は交際するようになる。一方、トムもアメリカ人女性ノラと婚約していた。ノラはハッとするほどの官能美を備え、男性を虜にするような魅惑的な女性だった。女優を目指してオーディションなどを受け続けているのだが、なかなか芽が出るようすはなかった。クリスとクロエ、トムとノラは、四人で食事や映画、週末の休暇などを共にするようになる。ところがあろうことか、クリスは美貌の持主ノラに夢中になってしまう。クロエには感じられないセクシーなノラを自分のものにしたくてたまらなくなる。そしてある日、クリスは大胆にもノラと激しい情交に及ぶのだった。 『マッチポイント』はアメリカ人監督によるイギリス映画となっているが、見事な出来栄えである。上品で優雅な、しかも育ちの良いトムとクロエの兄妹に対し、しがないアイルランド人青年クリスと女優志望でアル中ぎみのアメリカ人ノラ。この富と貧の差がスゴイ。 ノラ役に扮したスカーレット・ヨハンソン、これは適役。大胆でエロスにあふれた演出はお見事。けだるそうにタバコを吸うシーンは官能的だ。ウィキペディアで調べたらユダヤ人とのこと。敬虔なクリスチャンかと思いきや、なんと無神論者なのだとか。やはり人は民族性とか見かけだけでは計り知れないものなのである。 『マッチポイント』のテーマはズバリ、「人生とは運である」と私はとらえた。もちろん他にも「浮気は良くない」とか「愛欲は身を亡ぼす」とか、とらえ方は様々だが、ラストを見たら「人生とはすべて運によって支配されているんだなぁ」と、実感してしまう説得力がある。このラストが気に入らない方々もたくさんいると思う。私も半分は納得がいかない。だが、すべてがすべて法に守られフェアな世の中かと問われれば、そうではないのも確かである。かなりブラックな結末ではあるが、サスペンス好きのみなさんのジャッジを期待したい。お勧めの逸作である。 2005年(英)(米)、2006年(日)公開 【監督】ウディ・アレン【出演】ジョナサン・リース=マイヤーズ、スカーレット・ヨハンソン
2016.10.02
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