朝鮮が行った短距離ミサイルの発射実験に関し、アメリカのドナルド・トランプ大統領は信頼関係を損なう行為ではないと発言した。朝鮮側は真の平和と安全は主権を守るための強い物理的な力必要だと主張、長距離ミサイルの発射実験も準備しているとしている。
朝鮮の金正恩労働党委員長は2月27日と28日にかけてハノイでトランプ米大統領と会談したが、合意に至らなかった。決裂した理由はマイク・ポンペオ国務長官とジョン・ボルトン国家安全保障補佐官が同席したことにあると言われている。このふたりには朝鮮と交渉する意思がない。ネオコンと同じように、従属しなければ破壊するという姿勢だ。
それから2カ月後の4月24日、 金正恩委員長は列車でウラジオストックを訪れた。25日にはロシアのウラジミル・プーチン大統領と会談
本ブログでは繰り返し書いているように、プーチン大統領は朝鮮半島の軍事的な緊張を緩和させ、鉄道やパイプラインで東アジアを結びつける計画を遅くとも2011年に打ち出している。
アメリカのバラク・オバマ政権がリビアやシリアへジハード傭兵を送り込んで侵略戦争を始めたこの年の夏、ロシアのドミトリ・メドベージェフ首相はシベリアで朝鮮の最高指導者だった金正日と会い、110億ドル近くあったソ連時代の負債の90%を棒引きにし、鉱物資源の開発などに10億ドルを投資すると提案しているのだ。言うまでもなく、朝鮮は資源の宝庫。植民地化されずに開発が進めば豊かな国になる。
ロシアや中国はユーラシア大陸に鉄道網を張り巡らせ、エネルギー資源を運ぶパイプラインを建設しようとしている。朝鮮が同意すれば、鉄道とパイプラインは朝鮮半島を縦断、釜山までつながる。西の果てはヨーロッパだ。
金正恩の父、金正日はロシアの提案を受け入れたが、2011年12月に急死する。朝鮮の国営メディアによると、12月17日に列車で移動中に車内で急性心筋梗塞を起こして死亡したというが、韓国の情報機関であるNIS(国家情報院)の元世勲院長(2009年~13年)は暗殺説を唱えていた。これが事実なら、誰が殺したのか?
それに対し、アメリカ支配層の基本戦略は支配と略奪。ヨーロッパ流とも言える。十字軍の中東侵略は財宝だけでなく知識を盗むことに成功した。スペインやポルトガルは15世紀から17世紀にかけて世界を荒らし回り、ラテン・アメリカで金銀財宝だけでなく、資源も略奪する。その象徴的な存在がボリビアのポトシ銀山だ。
イギリスはボーア戦争(1899年から1902年)を引き起こしてトランスバールとオレンジを併合、すでにイギリス領になっていたケープ植民地とナタールを合わせてできたのが南アフリカ連邦を作り上げる。
この地域ではダイヤモンドや金が大量に産出、その流通をロンドンがコントロールすることになる。つまり、金本位制を採用する国の通貨はロンドンが支配することになった。
ボーア戦争の前にイギリスは中国(清)の侵略に乗り出している。当時のイギリスは機械化が進んで生産力が向上していたが、生産した製品が思うように売れない。清との交易では大幅な赤字になっていた。
この状況を打開するためにイギリスは麻薬のアヘンを売りつけることにする。綿製品をイギリスからインドへ、アヘンをインドから中国へ、茶を中国からイギリスへという仕組みだ。
麻薬の流入を清政府が容認するはずはなく、戦争になる。1840年から42年まで続いたアヘン戦争と56年から60年にかけての第2次アヘン戦争だ。こうした戦争でイギリスは勝利するが、内陸部を制圧する戦力がない。そこで目をつけられたのが日本だった。このイギリスの戦略を引き継いだのがアメリカにほかならない。
時を経て20世紀の後半。1989年にベルリンの壁が壊され、90年には東西ドイツが統一された。その際、アメリカの国務長官だったジェームズ・ベイカーはソ連のエドゥアルド・シェワルナゼ外務大臣に対し、統一後もドイツはNATOにとどまるものの、東へNATOが拡大することはないと約束したことが記録に残っている。
それをミハイル・ゴルバチョフは信じたが、アメリカは約束を守らない。すでにNATO軍はロシアの玄関先まで到達、軍隊を配備し、ミサイルを設置してロシアを恫喝している。その結果として軍事的な緊張は高まり、全面核戦争の危険性は冷戦時代よりはるかに高まってしまった。これがドイツ・モデル。
ジョージ・W・ブッシュ政権の要求に従ってリビア政府は2003年に核兵器や化学兵器の廃棄を決定する。廃棄すれば「制裁」を解除することになっていたのだが、アメリカ政府は約束を守らない。それどころか、2011年2月にはバラク・オバマ大統領はアル・カイダ系武装集団などを使ってリビアを侵略する。破壊、殺戮、略奪で現在は暴力が支配する破綻国家だ。これがリビア・モデル。
アメリカ軍はベトナム戦争で負けたが、その戦争でベトナムの国土は惨憺たる状態になる。アメリカ軍による「秘密爆撃」ではカンボジアやラオスでも国土が破壊され、多くの人々が殺された。戦闘では通常兵器だけでなく、化学兵器の一種である枯れ葉剤(エージェント・オレンジ)やナパーム弾が使われている。CIAのフェニックス・プログラムでは人々を殺すだけでなく、共同体を破壊した。
ソ連が消滅してから3年後の1994年にアメリカはベトナムに対する「制裁」を解除するが、その代償としてベトナムは新自由主義を受け入れる。IMFなどの「毒饅頭」を食べることになったのだ。
しかもベトナム戦争中にアメリカ側が行った犯罪的な行為は不問に付され、ベトナムの庶民は低賃金労働者として西側巨大資本の金儲けに奉仕させられている。これがベトナム・モデルだ。
アメリカ支配層が朝鮮半島で目論んでいるのはこの3モデルのひとつ。アメリカ側が朝鮮に許す選択肢は屈服の仕方の違いであり、主権を認める気などない。それを朝鮮側も一連の交渉で理解しただろう。