日本とアメリカの外交や軍事を担当する閣僚、つまり日本の林芳正外相と岸信夫防衛相、アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースチン国防長官がバーチャル会議を1月7日(日本時間)に開いた。その冒頭、ブリンケン長官は極超音速兵器や宇宙戦力などを年頭におき、日米が新たな研究開発協定に署名すると語っている。日米の仮想敵国はロシアと中国だ。中国単独ということはありえない。
アメリカやイギリスの私的権力が19世紀から続けてきたユーラシア大陸周辺部から内陸部を締め上げるという長期戦略を維持してきた。その戦略をまとめたのが地政学の父とも言われるイギリスの地理学者、ハルフォード・マッキンダー。ジョージ・ケナンの「封じ込め政策」やズビグネフ・ブレジンスキーの「グランド・チェスボード」もその戦略に基づいている。
この戦略は1991年12月にソ連が掃滅した段階でほぼ達成されたように見えたのだが、21世紀に入ってウラジミル・プーチンがロシアを曲がりなりにも再独立させることに成功、アングロ・サクソンの計画は揺らぐことになった。ネオコンのようなアメリカの好戦派はロシアを再び屈服させようと2014年にウクライナでクーデターを実行したが、それが原因でロシアと中国は「戦略的同盟関係」を結んでしまう。裏目に出たわけだ。
2015年にアメリカ政府は好戦的な陣容に替えられる。2月に国防長官をチャック・ヘイゲルからアシュトン・カーターへ、9月には統合参謀本部議長をマーティン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代させたのだ。
シリアへの本格的な空爆が始まると推測する人もいたが、統合参謀本部議長交代から5日後にロシア軍がシリア政府の要請で介入、アメリカの手先として動いていたアル・カイダ系武装勢力やダーイッシュの支配地域は急速に縮小していく。そこでアメリカは新たな手先としてクルドと手を組むことになった。
2017年4月にドナルド・トランプ政権は地中海に配備されていたアメリカ海軍の2隻の駆逐艦、ポーターとロスから巡航ミサイル(トマホーク)59機をシリアのシャイラット空軍基地に向けて発射したものの、6割が無力化されてしまう。ロシアの防空システムがアメリカのシステムより優秀だということが明確になった。
それを目撃したサウジアラビアのサルマン国王はその年の10月にロシアを訪問、ロシア製防空システムS-400を含む兵器/武器の供給をサウジアラビアは購入する意向を示したと言われている。勿論、アメリカから取り引きを潰す強い圧力があったはずだ。
2018年4月にもアメリカはミサイルでシリアを攻撃している。この時はイギリスやフランスを巻き込み、100機以上の巡航ミサイルをシリアに対して発射したが、今度は7割が無力化されてしまう。前年には配備されていなかった短距離用の防空システムのパーンツィリ-S1が効果的だったと言われている。こうしたアメリカによるミサイル攻撃を含め、シリアでの戦争はロシア軍の強さとロシア製兵器の優秀さを世界へ知らせることになった。
アメリカ海軍が「太平洋軍」という名称を「インド・太平洋軍」へ変更、太平洋からインド洋にかけての海域を一体のものとして扱うことを明確にしたのは2018年5月のことである。これもマッキンダーの戦略に沿っている。
日本を太平洋側の拠点、インドを太平洋側の拠点にし、インドネシアが領海域をつなぐとされたが、インドがロシアとの関係を強化し、インドネシアもアメリカと距離を置き始めている。
アメリカは東アジアにおける軍事同盟として「クワド」を組織した。アメリカのほか、オーストラリア、インド、そして日本で構成されているが、インドはアメリカ離れしつつある。
そこで新たに作り上げたのがアメリカ、オーストラリア、そしてイギリスをメンバー国とする「AUKUS」だ。アメリカとイギリスの技術でオーストラリアは原子力潜水艦を建造するという。