ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2月8日、バレリー・ザルジニー軍最高司令官を解任し、後任にオレクサンドル・シルスキーを据えた。ザルジニーは兵士の犠牲を少なくしようとしているのに対し、アメリカ政府の意向を受けたゼレンスキーは「玉砕攻撃」を繰り返させようとしてきた。アヴデフカでの戦闘でザルジニーは全面撤退を計画、ゼレンスキーと対立する。
そのザルジニーは11月1日付けエコノミスト誌に発表した論説の中で戦闘が「膠着状態」にあると説明、ゼレンスキーとの対立が話題になり始めた。ゼレンスキーはイギリスの対外情報機関MI6のエージェントだと言われているが、同誌はイギリス支配層と深く結びついていることから、イギリス支配層がゼレンスキー大統領からザルジニー司令官へ乗り換えようとしているのではないかとする推測が流れ始めたのだ。
勿論、戦闘が「膠着状態」にあるわけではない。ウクライナでの戦闘は終始ロシア軍が優勢で、すでにウクライナ軍は壊滅状態。「ウクライナは前線でロシア軍に押されている」という生やさしい状態ではない。
ウクライナ軍は2022年2月から一貫して劣勢にあり、それを逆転するためにアメリカ/NATOは「反転攻勢」を強要、ウクライナ軍は23年6月4日から東方へ突撃するのだが、ロシア軍は「スロビキン防衛線」を築いて待ち構えていた。この防衛線は歩兵塹壕、戦車対策の「竜の歯」、土手、地雷原などを組み合わせたもので、数百キロに及ぶ。その防衛線に向かってウクライナ軍は「バンザイ突撃」を繰り返すことになる。この「反転攻勢」でウクライナ軍は壊滅状態になった。
しかし、すでに「ルビコン」を渡ってしまったジョー・バイデン政権は引き返せない。ウクライナで勝たなければならないのだ。そこでアメリカ政府やウクライナ政府の内部で対立が生じることになった。そうした中、ゼレンスキー大統領は昨年12月12日にワシントンを訪問、今年1月31日にアメリカのビクトリア・ヌランド国務次官がキエフへ入ったのである。ゼレンスキー大統領に何を語ったのかは不明だが、最高司令官の交代と関係があるかもしれない。
新司令官のシルスキーは「玉砕攻撃」を指揮した人物で、昨年にはソレダールやバフムートの戦闘で多くのウクライナ兵を死なせた張本人。ザルジニーは撤退を望んでいたという。アメリカ政府やゼレンスキーに好かれたのはシルスキーだが、ウクライナ軍の内部で彼は嫌われているという。彼がこれまでと同じ戦術を強行するなら、ウクライナ兵の死傷者は増え続ける。
司令官交代の話が出た時、後任としてキリーロ・ブダノフGUR(国防省情報総局)総局長の名前が挙がっていた。昨年5月、ロシア人の暗殺を主張していると伝えられた人物で、軍事的な訓練は受けていない。そこで、ロシア国内を含む前線の後方における破壊活動を展開するのではないかと噂されていたが、シルスキーが新司令官に就任してもこの予測が消えるわけではない。