アメリカ政府が 2022年10月12日に発表した「NSS(国家安全保障戦略)」 によると、彼らは「大国間競争」、つまりロシアや中国との戦いが始まっていると考え、中国を主敵と位置付けたようだ。 同年10月28日に出された「NDS(国家防衛戦略)」 でも中国をアメリカの「ペーシング・チャレンジ」、つまり主敵だとしている。
ウクライナではこの年の初頭からウォロディミル・ゼレンスキー政権はドンバス周辺に部隊を集結させ、攻撃を始めていた。ウクライナ軍はドンバスへ侵攻、民族浄化作戦を行う予定だったことが後に判明するのだが、ロシア側はその情報を入手していたようだ。
ロシア軍は2022年2月24日からミサイル攻撃を開始、ドンバス周辺に集結していたウクライナ軍の部隊を壊滅させた。その際航空基地やレーダー施設だけでなく、生物兵器の研究開発施設を破壊、機密文書を回収している。
この段階でロシア軍の勝利は確定的で、イスラエルの首相だったナフタリ・ベネットを仲介役とする停戦交渉が始まった。双方とも妥協に応じ、停戦は実現する見通しが立ち、ベネットは3月5日にモスクワへ飛んだ。そこでベネットはプーチンと数時間にわたって話し合い、ゼレンスキーを殺害しないという約束をとりつけている。
ベネットはその足でドイツへ向かい、オラフ・シュルツと会ったのだが、その3月5日にウクライナの治安機関SBUはキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームに加わっていたデニス・キリーエフを射殺している。事実上、SBUはCIAの下部機関だ。
停戦交渉の進展でロシア軍はウクライナ政府との約束通りにキエフ周辺から撤退を開始、3月30日にはブチャから撤退を完了する。31日にはブチャのアナトリー・フェドルク市長がフェイスブックで喜びを伝えているが、虐殺の話は出ていない。この動きを西側の主要メディアはロシア軍の「敗北」と「虐殺」だと宣伝した。
停戦交渉はトルコ政府の仲介でも行われた。アフリカ各国のリーダーで構成される代表団がロシアのサンクトペテルブルクを訪問、ウラジミル・プーチン大統領と6月17日に会談しているが、その際、 プーチン大統領は「ウクライナの永世中立性と安全保障に関する条約」と題する草案を示している 。その文書にはウクライナ代表団の署名があった。つまりウクライナ政府も停戦に合意していたのだ。
4月9日になると、イギリスのボリス・ジョンソン首相がキエフへ乗り込んでロシアとの停戦交渉を止めるようゼレンスキー政権に命令し、4月30日にはアメリカのナンシー・ペロシ下院議長が下院議員団を率いてウクライナを訪問した。その際、ゼレンスキー大統領に対してウクライナへの「支援継続」を誓う。戦争の継続を求めたのだ。この当時、アメリカやイギリスの支配層はロシアに勝てると思い込んでいた。
ペロシは2022年8月2日、台湾を強行訪問した。1972年2月21日から28日にかけてリチャード・ニクソン大統領が中国を訪問、それから続いていた「ひとつの中国」政策に挑戦したわけだ。ニクソンの訪中は中国をソ連から引き離して取り込み、ソ連を攻撃する準備だった。
ところが、バラク・オバマ政権のネオコンが2014年に行った工作がこの構図を崩してしまう。ウクライナでは2月にネオ・ナチを利用して行ったクーデターでビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒し、9月から12月にかけては香港で「佔領行動(雨傘運動)」と呼ばれる反中国政府の運動を仕掛けたのだ。その結果、アメリカがロシアと中国の体制を転覆させようとしていることが明白になり、ロシアと中国を接近させることになった。
しかし、アメリカが中国に対する攻撃の準備を始めたのはさらに前のことだ。2010年6月に発足した菅直人内閣は閣議決定した尖閣諸島に関する質問主意書の中で「解決すべき領有権の問題は存在しない」と主張、1972年9月に日中共同声明の調印を実現するために田中角栄と周恩来が合意した「棚上げ」を壊したのである。
この合意で日中両国は日本の実効支配を認め、中国は実力で実効支配の変更を求めないことを決めていたわけで、日本にとって有利な内容。それを壊した理由は日本と中国との関係を悪化させることにあったとしか考えられない。
そして同年9月、海上保安庁は尖閣諸島付近で操業していた中国の漁船を取り締まり、漁船の船長を逮捕した。棚上げ合意を尊重すればできない行為だ。その時に国土交通大臣だった前原誠司はその月のうちに外務大臣になり、10月には衆議院安全保障委員会で「棚上げ論について中国と合意したという事実はございません」と答えているが、これは事実に反している。
こうした状況について総理大臣だった 安倍晋三は2015年6月、赤坂の「赤坂飯店」で開かれた官邸記者クラブのキャップによる懇親会で、「安保法制は、南シナ海の中国が相手なの」と口にしたと報道されている 。安倍政権下、着々と対中国戦争の準備が進められていることを明らかにしたのだ。日本は戦争への道を進んできたのだが、進む方法はアメリカの支配層から指示されている。日本は「頭のない鶏」状態だと言えるだろう。
アメリカ国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が発表した報告書には、GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画が記載されている 。
そうしたミサイルを配備できそうな国は日本だけだと分析されているのだが、その日本には「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約があるため、ASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力することにし、ASCMを南西諸島に建設しつつある自衛隊の施設に配備する計画が作成されたとされている。2016年には与那国島でミサイル発射施設が建設された。
2017年4月には韓国でTHAAD(終末高高度地域防衛)ミサイル・システムの機器が運び込まれ始めた。2013年2月から韓国の大統領を務めた朴槿恵は中国との関係を重要視、THAADの配備に難色を示していたのだが、朴大統領がスキャンダルで身動きできなくなっていたことからミサイル・システムを搬入できたのである。結局、朴槿恵は失脚した。
THAADが韓国へ搬入された後、2019年に奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも自衛隊の軍事施設が完成した。ミサイルが配備されることになる。
ところが、 2022年10月、「日本政府が、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を米政府に打診している」とする報道 があった。亜音速で飛行する巡航ミサイルを日本政府は購入する意向で、アメリカ政府も応じる姿勢を示しているというのだ。自力開発が難しいのか、事態の進展が予想外に早いのだろう。
トマホークは核弾頭を搭載でる亜音速ミサイルで、地上を攻撃する場合の射程距離は1300キロメートルから2500キロメートルという。中国の内陸部にある軍事基地や生産拠点を先制攻撃できる。「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約は無視されていると言えるだろう。
そして昨年2月、浜田靖一防衛大臣は2023年度に亜音速巡航ミサイル「トマホーク」を一括購入する契約を締結する方針だと語ったが、10月になると木原稔防衛相(当時)はアメリカ国防総省でロイド・オースチン国防長官と会談した際、アメリカ製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入時期を1年前倒しすることを決めたという。当初、2026年度から最新型を400機を購入するという計画だったが、25年度から旧来型を最大200機に変更するとされている。
この過程でアメリカは日本と韓国の軍事同盟を推進し、台湾では「独立派」を利用して中国を挑発、さらにフィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア(ボンボン・マルコス)も取り込み、日本はフィリピンとの軍事的なつながりを強めている。
こうした動きをロドリゴ・ドテルテ前大統領、ボンボンの姉であるイミー・マルコス、大統領のまたいとこで駐米大使のホセ・マヌエル・ロムアルデスもアメリカとの軍事的な関係を強める政権の政策に懸念を示しているのだが、すでに JAPHUS (日本、フィリピン、アメリカ)なる軍事同盟を編成している。
このほか、アメリカはオーストラリア、インド、そして日本と「クワド」を編成、オーストラリアやイギリスとは「AUKUS」なる軍事同盟を組織、NATO(北大西洋条約機構)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は2020年6月、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、日本をメンバーにするプロジェクト「NATO2030」を開始すると宣言している。
バイデン政権は「ひとつの中国」政策を堅持すると口にしているが、中国政府は信用していないだろう。台湾では1月13日に総統選挙が実施され、蔡英文の政策を継承していると宣言している民主進歩党の頼清徳が40%を獲得して勝利した。
蔡英文や頼清徳は中国からの独立を主張しているが、実際にはアメリカに従属する道を進むことになる。台湾人は中国との戦争を望んでいないと言われているが、ウクライナの人びともロシアとの戦争を望んでいなかった。そうした意思に関係なくアメリカ政府が戦争を始めたのだ。アメリカの手先になる道を選んだ人物が総統になった意味は重い。