日本の自衛隊は7月19日から25日まで北海道でドイツ軍、スペイン軍と合同軍事演習を実施する予定だ。これに対してロシア外務省は6月28日に強く抗議したという。ロシアにとって戦略的な重要性が高まっている極東の軍事的な緊張を日本がアメリカの傀儡として高めようとしていると見ているのだろう。
ロシア外務省が抗議した6月28日、 ガスプロムのアレクセイ・ミレルCEOはサハリン島沖の天然ガスを極東ルートを利用して2027年から中国へ供給しはじめる予定だと述べている 。すでにロシアは「シベリアの力」パイプラインを2019年12月に完成させ、天然ガスの供給を始めているが、今後、ロシアと中国の同盟関係を強化する上で天然ガスは重要なファクターだ。
アメリカのバラク・オバマ政権は2013年11月から翌年の2月にかけてウクライナでネオ・ナチを利用したクーデターを実行、10年の選挙で当選したビクトル・ヤヌコビッチ大統領を暴力的に排除した。ヤヌコビッチが「中立政策」を打ち出し、米英への従属を拒否したからだ。
ウクライナに傀儡体制を築くことにより、ロシアと西ヨーロッパを結ぶつけていた天然ガスのパイプラインを抑えることでロシアから西ヨーロッパという市場を奪い、西ヨーロッパからロシアという安価なエネルギー資源の供給源を奪うことで西ヨーロッパとロシアを弱体化させようとしたのである。
安価で輸送リスクの小さいロシア産天然ガスを日本も購入するためのプロジェクが存在する。日本の製造業は長年、高い電気料金で苦労してきた。その原因はコストの高い中東の石油を買っていたからだ。軍事的な緊張が高い中東を出港してからアラビア海、アメリカ軍が支配するインド洋を経由して難所のマラッカ海峡を通過して運べば高くなる。
そこで、日本はサハリンにLNG(液化天然ガス)や石油を生産するプラントの「サハリン1」と「サハリン2」を建設した。このプロジェクトをアメリカの支配層が嫌がっていることは明白である。
日本とヨーロッパを結ぶ航路がある。マラッカ海峡を通過してインド洋、紅海、そしてスエズ運河を通過して地中海へ入るのだが、中東で戦乱が広がれば、この航路は麻痺する。現在、イスラエル軍がガザで住民を虐殺しているが、それをやめさせるために行動している数少ない勢力のひとつがイエメンのアンサール・アッラー(通称、フーシ派)。
この攻撃は効果的で、アメリカもイスラエルも止められない。そこでUAEとバーレーンはイスラエル向けの輸出品をヨルダン経由で運んでいた。この事実を伝えたジャーナリストのヒバ・アブ・タハはヨルダンで懲役1年を言い渡されている。
この不安定な航路を避け、しかも短時間に輸送できるのが北極航路。北極海をロシアの沿岸沿いに航行するルートで、中国にとってもメリットが大きい。ロシアの港から出た船は千島列島を横切り、ベーリング海峡を通って北極海へ入るのだ。
アメリカ軍に従属している自衛隊はロシアと中国を結ぶパイプラインや北極海航路にも狙いを定めているが、それだけではない。
アメリカの国防総省系シンクタンク 「RANDコーポレーション」が発表した報告書 には、GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画が記載されている。2016年に与那国島でミサイル発射施設が建設された理由はそこにある。
2017年4月には韓国でTHAAD(終末高高度地域防衛)ミサイル・システムの機器が運び込まれ始めた。2013年2月から韓国の大統領を務めた朴槿恵は中国との関係を重要視、THAADの配備に難色を示していたのだが、朴大統領がスキャンダルで身動きできなくなっていたことからミサイル・システムを搬入できたのである。結局、朴槿恵は失脚した。
THAADが韓国へ搬入された後、2019年に奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも自衛隊の軍事施設が完成した。ミサイルが配備されることになる。さらに波照間島を軍事拠点にしようとしているようだ。
5月17日にはアメリカのラーム・エマニュエル駐日大使が与那国島と石垣島を訪れ、陸上自衛隊の駐屯地や海上保安庁の巡視船を視察したというが、与那国島、奄美大島、宮古島、石垣島のミサイル施設はアメリカ軍の戦略に基づいて建設された。アメリカ大使が与那国島と石垣島を訪問したのは何らかのテコ入れが必要になったからだろう。この人物、イスラエルに忠誠を誓っていると言われるシオニストで、好戦派だ。
アメリカはオーストラリア、インド、そして日本と「クワド」を編成、NATO(北大西洋条約機構)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は2020年6月、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、日本をメンバーにするプロジェクト「NATO2030」を開始すると宣言した。
2021年9月にはオーストラリア、イギリス、アメリカがAUKUSなる軍事同盟を創設したとする発表があり、アメリカとイギリスはオーストラリアに原子力潜水艦の艦隊を建造させるために必要な技術を提供するとも伝えられた。そうした潜水艦を動かすためにはアメリカの軍人が乗り込む必要があり、事実上、アメリカ海軍の潜水艦になる。
山上信吾オーストラリア駐在大使はキャンベラのナショナル・プレス・クラブで2022年11月14日、日本がオーストラリアの原子力潜水艦を受け入れる可能性があると表明、岸田文雄政権は2022年12月16日に「国家安全保障戦略(NSS)」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」の軍事関連3文書を閣議決定、2023年度から5年間の軍事費を現行計画の1.5倍以上にあたる43兆円に増額して「敵基地攻撃能力」を保有することを明らかにした。
2022年10月には、「日本政府が、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を米政府に打診している」とする報道があった 。亜音速で飛行する巡航ミサイルを日本政府は購入する意向で、アメリカ政府も応じる姿勢を示しているというのだ。自力開発が難しいのか、事態の進展が予想外に早いのだろう。
トマホークは核弾頭を搭載でる亜音速ミサイルで、地上を攻撃する場合の射程距離は1300キロメートルから2500キロメートルという。中国の内陸部にある軍事基地や生産拠点を先制攻撃できる。「専守防衛」の建前と憲法第9条の制約は無視されていると言えるだろう。
そして2023年2月、浜田靖一防衛大臣は亜音速巡航ミサイル「トマホーク」を一括購入する契約を締結する方針だと語ったが、10月になると木原稔防衛相(当時)はアメリカ国防総省でロイド・オースチン国防長官と会談した際、「トマホーク」の購入時期を1年前倒しすることを決めたという。当初、2026年度から最新型を400機を購入するという計画だったが、25年度から旧来型を最大200機に変更するとされている。
さらに、フィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア(ボンボン・マルコス)も取り込んでJAPHUS(日本、フィリピン、アメリカ)なるものを作り上げ、 アメリカの軍事顧問団は金門諸島と澎湖諸島に駐留して台湾の特殊部隊を訓練している と伝えられている。
2024年6月26日から8月2日まで、太平洋中部で世界最大規模の海戦演習が行われる。約29カ国が参加する2024年環太平洋海戦演習(リムパック)だ。アメリカやカナダだけでなく、ヨーロッパからベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、イギリスというNATO加盟国が演習に参加している。そこにアメリカと軍事同盟を結んでいるオーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国も加わる。
ウクライナや中東に続き、東アジアも軍事的な緊張が高まっている。その切掛けを作ったのは2010年6月に発足した菅直人内閣だ。1972年9月に日中共同声明の調印を実現するために田中角栄と周恩来が合意した「棚上げ」を壊し、中国との取り決めを無視して2010年9月に海上保安庁は尖閣諸島付近で操業していた中国の漁船を取り締まり、漁船の船長を逮捕した。
その時に国土交通大臣だった前原誠司はその月のうちに外務大臣になり、10月には衆議院安全保障委員会で「棚上げ論について中国と合意したという事実はございません」と事実に反する答弁をしている
こうした状況について総理大臣だった 安倍晋三は2015年6月、赤坂の「赤坂飯店」で開かれた官邸記者クラブのキャップによる懇親会で、「安保法制は、南シナ海の中国が相手なの」と口にした と報道されている。安倍政権下、着々と対中国戦争の準備が進められていることを明らかにしたのだ。