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カテゴリ: Hiekka aikaa
geese


バタフライナイフで刺し殺された事件が起きたのは1998年1月のことでした。
その後発売されたBUBKA1998年5月号の「初めてのナイフ」という記事の中で、
(真偽のほどは不明ですが)渋谷の若者たちが携行しているナイフを紹介していて、
「護身用ナイフ」の浸透ぶりにイヤな気分になりました。


その約1年前、自分はたしか野方かどこかの図書館の階段に腰かけて、
織本篤資著『ナイフの愉しみ』(※)の冒頭部を読んだことがありました。

「ボウイナイフのごついスタッグのハンドルを握りしめれば、
 誰だって研ぎ澄まされたブレードの底から、
 フロンティアに生きる男たちのドラマが見えてくる。
 真鍮板を折り曲げただけのチープなハンドルの肥後守ですら、
 ノスタルジックな響きをもつ一編の抒情詩たり得るのである。

 握りしめたナイフの底から、さまざまな物語が見えてくるだけではない。
 男たちは、一本のナイフによって、白昼夢ともいうべきイメージの森へ、
 自らを解き放つことができるのである。

 ポケットの中をまさぐりつつ、路地裏の暗がりで、
 小娘を脅しあげるケチなジゴロになることもできれば、
 ブッシュ・ナイフを研ぎつつ、今まさに筏でアマゾンを下りつつある
 植村直己に生まれかわることもできる。
 フィレ・ナイフのブレードに親指の腹を当て、切れ味を確認している瞬間、
 自らが、巨大なマリーンを釣り上げた不屈の老サンチャゴに他ならぬことに気づく。
 ファイティング・ナイフをためつがめつコップ酒の三杯も呷(あお)れば、
 アルコールの朦朧の霧の中から、宿敵ドン・ペドロを決闘で斃し、
 ついに聖者とあがめられながら修道院で死んだ背徳漢、
 ドン・ジュアンが、わが身に乗り移る。
 同じようにして、焦げた原野の清流で、
 鱒釣りに熱中するニック・アダムスに変容することもできようし、
 三十六フィートのスループを操って、初の単独世界周航に成功した
 キャプテン・スローカムにわが現身(うつしみ)を
 重ね合わせることもできるのである。」
 (前掲書 P.15、16 より引用)


…ナイフマニアたちはこんなことを考えていたのか!
上記の文章を読んだ時に、かなりの衝撃を受けました。
なぜなら、自分は引用文にあたるようなことを、
文字通り “夢想” だにしていなかったからです。
「どうりで、話が合わないわけだ(笑)!」と目から鱗が落ちました。
同著の白昼夢のくだりは、さらに多くの例を引いています。


「繰り返すが、よほど鈍感でない限り、
 男たちは、じっとナイフを見つめているだけで
 原始穴居人から始まって、あらゆる国の時代と兵士、殺し屋、
 ハンター、漁師、テロリスト、無頼漢、登山家、追いはぎ、革命家、
 ギャンブラー、牧童、放浪者、宇宙飛行士、航海者、極地探検家、
 好みによっては、脱獄囚、切り裂きジャック、
 怨敵(おんてき)をゾンビに変えるヴードゥー教の呪術師……と、
 ありとあらゆる男たちの歴史と物語、その幻想に漂うという、
 不思議ないっとき(原文ママ)を過ごすことができるのである。

 申すまでもなく、ナイフの機能は、切る、削る、突く、裂く……と、
 きわめて単純なものである、
 しかし、以上に見てきたように、一本のナイフを選び、所持し、
 使うということは、必然的に鬱蒼たるイメージの森に踏み込んで、
 際限もなく想念をふくらませる内的な営みであることが判るであろう。

 男にとってナイフは、鋼でできた童話であり、劇場であり、
 隠された願望やコンプレックスを照らし出す鏡でもあるのである。」
 (前掲書 P19、20 より引用)


なぜ、ここで引用文を挙げるかというと、
前掲書の全文中、自分の参考になったのはこの冒頭部だけだったからです。
活字になった、ナイフを握りしめて想像に耽(ふけ)るナイフマニアたちの描写…。
もちろん、著者の意見に異を唱える人はいるでしょうが、実際に、
ナイフマニアの人たちを見てきた自分には思い当たる部分がありました。


ナイフを持って夢想する人たちと、
ナイフを護身用に持ち歩く渋谷の若者たち。
一見、まったく無関係に思える両者の間を橋渡しするかのように、
1999年頃から、アメリカのタクティカル・ナイフ・ブームを受けて、
国内のナイフ専門誌で対人殺傷用ナイフが紹介されはじめることになります。
奇妙に歪められた日本風「タクティカル・ナイフ」として…。
(本稿続く)


 ※今回の引用にあたり、図書館から借りてきました。





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Last updated  2009年01月24日 14時37分45秒


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