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カテゴリ: 陽明学



 云う。憂苦を去りて悦楽を求むるは俗楽也。
天地の理〔ことわり〕、陽〔よう〕のみにして陰〔いん〕なきことはあたわず。
人生の境〔さかい〕、苦楽たがいにいたれり(至れり)。
苦をいとえ(厭え)ども去ることあたわず。楽を求むれども得〔う〕るあたわず。
たまたま楽を得ても楽中に苦を生ず。
況〔いわん〕や、患難の来たること、冬の寒気のいたるがごとくにして、ふせぐべからず。
故に、俗楽は、仏家にいえる水の泡の如く、電〔イナビカリ〕の影のごとく、
幻〔マボロシ〕のごとくにして、其の有無を定めがたし。
真楽は悦楽・憂患を以て二つにせず。
憂〔うれ〕うべくして憂うといえども、憂え、心中、
人欲のまじわりなければ、其の楽しみを改めず。
悦ぶべくして悦ぶといえども、其の喜び、心中、
人欲のまじわりなければ、楽しみて淫〔いん〕せず。
怒るべくしていかるといえ共〔ども〕、火気〔かき〕の動きなければ、
心体〔しんたい〕廓然〔カクゼン〕太公〔たいこう〕(大公)にして本体の正を失わず。
たとえば外人(※他人)の相〔あい〕争い相闘う者を見るがごとし。
其の非道なるは、我が心にも怒る。
いかるといえども、我にあづからざれば、心動かざるがごとし。
病苦といえ共、病〔やまい〕のために心体をくるしめず、常に快活の本然を失わず。
此の心の動かざるところ、則〔すなわ〕ち楽しみ也。
ひとり死生の理〔ことわり〕において、聖学の徒大体まどいなし。
昼夜の道とひとしき理はさとれり。
しかれ共、其の心、死にあたりては、
日くれていぬる(寝る)と同じくおもうことかたし(難し)。
ここにいたりて毫髪〔ごうはつ〕(※わづか)もいさぎよからざる所あるは、
全体においてまだ融釈〔ユウエキ〕せざる所ある故也。
されば、いまだ至楽にいたることあたわず。
世間、死をよくする者多しといえども、或いは名により、或いは学見により、
心を起こして、強いて安〔やす〕んずるなり。
昼夜の道に通じて知る者すくなし。





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Last updated  2022年03月27日 05時53分51秒


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