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カテゴリ: 陽明学

一二の奥に入る  心友問う。いかなるをか士〔し〕というべき。

 云う。義理を知るなり。五典十義其の中にあり。

 問う。いかなるを君というべき。

 云う。義理を立つる也。君の、義理に専〔もっぱ〕らなるは、臣の、忠を進むる也。
人をすすむべきためにするにあらず。みづから(自ら)義理を尊ぶ也。
臣下はその義に感じて心服す、服すれば忠あり。

 問う。道を学ぶは義理を知るにあらずや。
しかるに、今の問学する人義理を知らざるは、何ぞや。

 云う。ただに経伝の上に義理を論弁し、或いは身に行〔おこな〕うと思える人も、
真〔まこと〕を欣〔よろこ〕んで法(※形式)に落ちなどすれば、真の義理には通し。
故に気質の美なる人の義理を知りたるにはしかざる学者多し。
生まれ付き理を知るべき人も、学によって其の知〔ち〕ふさがり(塞がり)、
おもむきあしく(悪しく)なりたるもあり。
いにしえの人は文学なけれども、貴賤共に義理を知りたる人多し。
君たる人、一人を賞して衆人〔しゅうじん〕悦〔よろこ〕ぶは、義理を以て賞すれば也。
又〔また〕一人を賞して衆人そねむは、義理の賞にあらざれば也。
源の義経、次信〔つぎのぶ〕(※佐藤嗣信)が志に感じて、
又たぐいなかりし名馬を、合戦の最中〔さなか〕に、事かくべきをもかえりみず、
引き馬にあたえられしは義理の賞也。
しかる故に、人々給わりたる様に思えり。
利心〔りしん〕の分別〔ふんべつ〕あらば、大将の不慮の死をすべきも馬也。
十死に入〔い〕りて一生を得〔う〕べきも馬なり。
二つなき名馬を死人にひきて(※与えて)すてんよりは、
此の大事に臨みてみづからはなたず乗り給うか、
若〔も〕したまわらば、生きて用に立つべき者に給うべきと云うは利也。
利を以てあたえば衆の恨みあるべし。
軍士の心そむかば、よき馬に乗り給うとも、何のかいかあるべき。
故に、名将は功有りし者の子孫を取り立て、親の代に忠ありしをわすれず、
筋目を尋ねてほどほどにめぐみ養う時は、衆みなたのもしき主君と思いて、
己が身のみならず、子孫のためにも忠をはげますものなり。
されば賞を得ざる者も得たるがごとくおもえり。
義理を行いて私〔わたくし〕なければ也。
孔子の春秋一経の奥旨〔おうし〕、一つの義理を立て給うなり。
義を知らざるは夷狄〔いてき〕禽獣〔きんじゅう〕也。
大学の理も、上〔かみ〕仁を好むときは下〔しも〕義を好むといえり。
しかるに、上仁を好みて下義におこらざる(起こらざる/興らざる)者あるは、
其の仁〔じん〕真〔まこと〕ならずして義なければ也。
仁義は本一徳也。故に故に君子の仁は必ず義あり。

 問う。今時〔いまどき〕筋目ある者を取り立て、善人をあげても、
衆そねむ事あるは、何ぞや。

 云う。利心のみにして弁〔わきま〕えなき者は、一旦さある(※そうである)事有り。
少しの義理をもわきまえ心ある者は、しからず。ゆくゆく聞き伝えて服する者也。
又にくく(憎く)そねましく思いし者の子孫にて、上よりは恩賞なくて叶わざる筋目あり、
忠功あれども、其のさたなくおちぶれ居〔お〕るを見ては、
かくあるまじき事とは思いながら、凡情の習いにて何ともいわざれ共〔ども〕、
人々本心あれば、そこ(底)意には君のたのもしからぬ事を知るもの也。
忠義の亡ぶる所〔ところ〕也。
この故に、明君は、徳を賞するに位〔くらい〕を以てし、
功を賞するに禄〔ろく〕を以てし、才を賞するに職を以てす。
昼夜の奉公には小禄あり、当座の奉公には其の品〔しな〕の褒美あるべし。





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Last updated  2023年01月27日 22時33分06秒


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