森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2013.02.19
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カテゴリ: 神経症の成り立ち
倉田百三はいろんな強迫神経症で悩んでいたが、一番は観照の障害だった。これは珍しい症状だ。

これは松尾芭蕉を例にとるとよく分かる。「静かさや岩にしみいる蝉の声」という句がある。
なんと静かに思えることよ。鳴き声しか聞こえず、かえって静けさがつのるように感じられる蝉の声は、まるで岩々にしみこんでいるかのようだ。
芭蕉は自然の中に溶け込み、自然と一体になって心穏やかに、心身が安心しきった幸福の境地を詠んでいる。
倉田百三も自然と一体になって、そこに湧きでる感じを作品に投影していくことが作家としての自分の仕事だと考えていた。

ところがある日神奈川県藤沢でいつものように夕日を眺めていた時のこと。実に不思議な体験をした。いつも湧きあがってくる夕日と自分との間になんともいえない通じ合う陶酔の気分がまるで湧いてこないのである。夕日の美しさが心に湧きあがってこない。あらゆる手段を用いて、やりくりしてもどうにもならない。反対に、そうしようとすればするほど、夕日の美しさが自分から遠ざかっていくのである。戯曲作家としての自分の将来にかかわる大変な事件だったのである。

森田先生は、百三の苦悩のもとは、観照に一番の価値をおいた理想主義にあると見抜いていた。事実に服従しないで、自分に都合のよいように事実をやりくりしようとするその態度に問題がある。

しかし森田先生は、思想の矛盾を百三に説明することはしていない。
そのかわり、その苦悩を背負って小説を書けとすすめた。

森田先生は、「書けても書けなくてもいい。ともかくペンを執って原稿用紙に向かいなさい。そうこうしているうちに感興はいくらでもわいてくるものです。」

百三は森田先生の命令にしたがい、ほんとうにつらくてきつい思いを持ちながらも原稿用紙の前に座った。こうしてできた小説が「冬鶯」であるが、これが多くの作品の中でも優秀な作品であった。





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Last updated  2013.02.19 07:42:27
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森田生涯 @ Re[3]:強情と盲従の弊害について(02/27) ststさんへ 今の生活は日中のほとんどが…
stst@ Re[2]:強情と盲従の弊害について(02/27) 森田生涯様、返信アドバイスをしていただ…
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