森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2017.02.23
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声楽家の佐藤宏之氏は、自宅で声楽の個人レッスンを行っていましたが、ある時期から引きこもりや発達障害の問題を抱えた若者のレッスンに関わるようになりました。
しかし、ここで予期せぬことが起こります。なんと声楽のレッスンを続けるうちに、うつ病などの問題を抱えた生徒の状態が次々と改善していったのです。

例えば、ある30代の男性は、大学時代にうつ状態を発症し、無気力で引きこもりがちの生活を送っていました。
その後、精神科を受診したところ、統合失調症と診断され、薬物治療を受けましたが、ほとんど改善は見られませんでした。
その後、自宅で大声を上げる、母親の家庭内暴力、自殺企図などの症状が出現して入退院を繰り返すようになりました。
佐藤氏が母親からの依頼で声楽レッスンを開始したところ、約半年後からこれらの症状は次第に改善し、現在は塾の講師として勤務しながら、税理士の試験に合格するなど、社会適応度においてかなりの改善を示しました。

音楽療法そのものは既に長い伝統があります。一般には病気や障害の改善を目的としてなされています。その位置付けは代替医療もしくは補完医療というものになります。
しかし、佐藤氏のレッスンは、通常の音楽療法とは比較にならないほどの治療的な影響があります。
これは、 2010年第42回日本芸術療法学会でその成果を発表し、大きな反響を呼びました。


生徒に対しては、ひたすら「うまく歌う」ことだけが目標となります。
にもかかわらず、診断や分析、解釈に基づいた治療法よりも高い成果を上げているかに見える。
これはなぜなのか。

まず、レッスンに定期的に通ったり、人と触れあったりすることによる心理的刺激があります。
これに歌唱や筋肉トレーニングなどの生理的刺激が加わり、日常生活全般を活性化する可能性があります。
技術的な向上が、達成感や自己肯定感の回復をもたらし、レッスン生同士の交流や合唱活動への参加などは社会性を改善する機会になるのでしょう。
こうした改善が間接的に自己コントロールや情緒的な安定、あるいは対人スキルの向上などをもたらすのかもしれません。
他にも、歌唱技術の向上過程が常に言語化され、評価されていくことで、客観的な自己認識が可能になるといった側面も考えられます。

精神科医の斎藤環さんは、こうした声楽療法の経験を通じて、うつ病治療における「身体性の回復」の大切さを改めて思い至りました。
声楽療法は従来の音楽療法とは異なり、強力に身体に働きかけます。
発声に関わる筋肉を鍛えたうえで発声練習を繰り返し、身体をいわば1個の楽器に変えていくのです。


ケースにもよりますが、うつ病が重くなると、自分の身体に対してひどく鈍感になることがあります。
そうした場合、身体の不調や疲労に気がつかないまま、無理を重ねて燃え尽きてしまう、といったことが起こりやすくなっています。
統合失調症などの場合にもよく言われますが、身体感覚の回復は、改善の指標として極めて重要です。
単に睡眠や食欲の改善だけではなく、 一種の快癒観とでも言うべき心地よさが感じられれば、その改善は本物と考えて良いでしょう。
(「社会的うつ病」の治し方 斎藤環 新潮選書 235ページより引用)


しかし、長引いたうつ病は薬物療法だけでは治りきらない人がいるとも言われます。
そういう人たちに対しては、認知行動療法や森田療法を始めとした精神療法を併用しています。
その一環として声楽療法も付け加えられるのではないかと思います。
この考え方は、うつ病そのものにはたらきかけるというよりも、失われていた身体感覚を改善していく方法をとられています。
森田先生は心身同一論の立場をとられています。心と身体は密接な関係にあり、どちらか一方を取り上げて治療していくということでは病気そのものがよくなっていかない。
両方を同時に回復に向かわせる方法がよりベターであると言われています。
そういう意味でこの声楽療法は、うつ病の治療法として意味があるのではないでしょうか。





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Last updated  2024.04.07 10:47:54
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