森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2017.04.18
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30代半ばの女性が、気分の落ち込みや対人ストレス、不安や不眠を訴えて岡田尊司先生のところへ相談に来に来られました。
12年前から心療内科にかかり、抗うつ剤や抗不安薬、その後は、躁鬱も疑われて気分安定薬などを服用してきたが、はかばかしい変化は見られなかったという。
体はいつも緊張している感じで、力が上手く抜けない。昔の嫌な記憶ばかりが蘇ってくるという。
職場では、最初はとてもうまくいくのだが、やがて人間関係に行き詰まっていやになり、何回も転職を繰り返してきた。
最近では、親しくしていた人ともギクシャクすることが多く、皆が自分から離れていくような感じがするという。
今回うつが強まったきっかけは、親しかった友人が彼氏のほうに夢中になって、彼女が見捨てられたと思ったことにあるようだ。

彼女の行動の特徴は、相手に気に入られようとして一生懸命尽くすことだ。
そこまで献身的な努力をしてもいつも評価される訳では無い。
顧客や上司が少しでも不機嫌な態度を見せると、彼女はオロオロしてしまう。

彼女には安心感や人に対する信頼というものがなく、物事を絶えず悪いほうに考えてしまう。

岡田医師によると、症状だけを見て診断すれば「気分変調性障害」ということになるだろう。
さらには、パニック障害や双極性障害ではないかと考える医者もいるだろう。
また、自己否定が強く、見捨てられることに対して過敏な点に注目すると、軽度ながら「境界性人格障害」と診断されるかもしれない。
どの診断も、彼女の抱えている症状の1部を説明することができ、間違いだとは言えない。
ただ、そのように診断して治療するということになると、結局、色々な症状に効く薬を何種類も飲まなければならないことになる。
それで症状が良くなれば良いのだが、はかばかしい改善が見られないというケースが多いのである。

岡田尊司氏の診断は次のようなものである。
彼女は相手が友人であれ、同僚や上司であれ、顧客であれ、その人に気に入られようと涙ぐましいまでに努力をする。
相手の顔色に敏感で、「自分が相手から良く思われていない」と思うと不安で仕方がなくなる。
こうした特徴は、愛着不安(愛着する相手に自分が受け入れてもらっているのか不安になること)が強い状態であり、 「不安型」と呼ばれる不安定な愛着に特徴的なものである。

ずっと昔のことなのに、昨日のことのように、その不快な記憶がよみがえってきて、もう一度心をえぐられるような気持ちになる。
傷つけた人の怒りの気持ちにとらわれ、肥大したり、やるせない悲しい気持ちになって落ち込んだりする。
こうした傷つきやすい傾向を抱えた人は、過去に実際に傷つけられた体験をしていることが多く、それが自分をいちばんに守ってくれるはずの親であったということも多い。
親やその人にとって大切な存在から受けた心の傷を引きずり、傷つけられることに過敏になっているのである。
こういう人は、普段は穏やかで明るく落ち着いているように見えても、自分を傷つけた人のことを考えただけで冷静ではいられなくなり、顔つきまで変わってしまう。

人を心から信じられなくなってしまったり、傷つけられることに過敏になりすぎて、悪意がない相手や物事にまで悪意を感じてしまい、過剰に反応し、良好だった関係まで自分から壊してしまうということが起きやすい。
結局、彼女は過去の亡霊を、目の前にいる別の存在に対して見てしまうのである。
親やその人を傷つけた存在に対する不信感や怒りを、別の人にぶつけ、幻を相手に一人相撲を取ってしまい、結果的に無関係な人間関係まで壊してしまう。

彼女は幼い頃から父は再三暴力をふるわれて育ってきた。
父親のことが恐ろしくていつもビクビクしていた。
大きくなってからも、どんなことであれ、父親に知られるのが不安だった。
父親が知ったらまた怒り出すのではないかという警戒心が働いてしまうのだ。
一方、母親も父親を恐れて、彼女のことをかばってくれず、父親を怒らせた彼女の方が悪いと言うような言い方をされてきた。
彼女は理不尽に攻められ、否定されるだけではなく、そうした攻撃から誰も自分を守ってくれないという絶望感の中で育ったことになる。
それが彼女の安心感の乏しさや根深い不信感となって心だけでなく体にしみついていたのである。
彼女は、見捨てられることに敏感で、人の顔色を過度に気にする不安型愛着障害とともに、過去の傷に触れられると不安になりやすい未解決型愛着を抱えているのである。
ですから、表面的な症状だけで安易な診断を下し、薬を処方するだけでは彼女の問題は解決しないのである。

彼女の問題は愛着障害として捉えることができれば、対応方法は全く異なってくる。
愛着の形成は0歳から1歳6ヶ月の間と言われている。
ところが、幸いなことに、遺伝子とは違って、愛着障害はある程度可塑性を持つ。
成人した後でも安定した愛着の再形成は可能なのである。
愛着障害からの回復は岡田尊司氏の「愛着障害の克服」 (光文社新書)という本に紹介されている。
また「愛着障害」という本では、簡単な診断テストも記載されているので参考にしてほしい。





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Last updated  2017.04.18 07:00:22
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