森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2021.10.19
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次のエピソードから、人間関係のあり方を考えてみたいと思います。

会社で上司が部下に、「これをやっておいてくれ」と仕事の依頼をしました。
部下は「はい分かりました」と返答しました。
その時部下は、今やりかけ中の仕事があるので、それが終わってから取りかかろうと思いました。するとしばらくして、上司がやって来て、「あれ、できているか」と尋ねました。
部下は、「はい、すぐにやります」と答えましたが、もう少しで自分の仕事が終わると思った彼は、上司から依頼された仕事を後回しにしました。

三度目に上司がやってきたとき、堪忍袋の緒が切れました。
「上司の指示を何だと思っているのだ。もうやらなくてもいい。だからお前はダメ社員なんだよ」とものすごい剣幕で怒鳴りました。部下は突然のことで大変驚きました。
断ったわけではないのにどうして叱責されなければいけないのか。
いきなり上司が切れて、暴言を吐いたので、心が傷ついたというのです。

一方、上司は我慢に我慢を重ねていたのですが、ついにダムの水がいっぱいになり、一挙に決壊したのです。このことが部下には全く理解できなかったのです。
確かにこうしたすれ違いがあると、上司と部下の人間関係は一瞬で険悪になります。
お互いに周りの人を巻き込んで相手の悪口を言うことになると、組織は滅茶苦茶になります。

この場合は上司と部下という立場の違いはありますが、力関係は拮抗していると思います。
上司が有無を言わさないで、相手を自由にコントロールすることは不可能です。
力が拮抗していると、お互いが自分の考えや気持ちを前面に押し出していくようになります。
森田でいうと、お互いが自分の「かくあるべし」を相手に押し付けるようになるのです。
すると相手の「かくあるべし」と自分の考えや気持ちが対立するようになります。
「かくあるべし」を押し付ければつけるほど相手との人間関係は悪化してしまいます。

お互いの力関係が拮抗している場合は、対立関係、犬猿の仲になりやすいと思います。
夫婦の人間関係、親子の人間関係でもそうです。友達関係もそうです。同僚もそうです。


これを防ぐことはできないのか。
森田理論では「かくあるべし」の応酬をするのではなく、まず相手の立場、言い分、気持ち、事情を考えてみることを提案しています。つまり事実本位に徹することです。

先の例では、上司がこの仕事は、午後の会議で使う急ぎの仕事であること。自分は別の準備があるので時間が取れないことを部下に伝えて、なんとか協力してもらえないかとお願いする。
交渉したからと言って、部下が引き受けてくれるかどうかは分かりません。
そのときは不本意ながらも上司は引き下がらなければいけません。


部下には部下の言い分があります。
いきなり指示命令で、自分をこき使おうとする上司の態度に不満を感じる。
自分の仕事は自分なりに段取りがあって、それを中断されるのは困ります。
まして、自分もノルマや時間との戦いの中で仕事をしているのだ。
そのことを配慮してほしい。その日の仕事が遅れて残業や明日に廻すことはしたくない。
あとで、遅れた分を助けてもらえるという条件なら快く引き受けてもよい。など。

上司はいきなり自分の仕事を押し付けるのではなく、相手の気持ちを斟酌しながら交渉をする。
うまくいかないときのことを考慮して、第2案、第3案を考えておくという姿勢が大切になります。

相手にお願い事をするとき、当然相手は引き受けるべきだと考えているとすれば、見込み違いになった時のショックは計り知れない。実際はその方が多いように思います。
たとえば集談会で「世話役を引き受けてもらえませんか」と交渉することがあります。
断られるケースも多々あります。いちいちショックを受けていたら消耗します。
引き受けるべきだという考えに固執していては、必ず後に尾を引きます。
そのうち、依頼することが恐怖になります。
そして世話役の補充ができなくなり組織が低迷してくるのです。

このような硬直した考えでは、人間関係はうまくいきません。
そのうち、相手を非難する。否定する。冷たくする。無視する。
つまり、たえず仕返しを考えるようになる。

これは相手は自分の依頼を断るべきではない。素直に従っていればよい。
相手を服従させて、意のままにコントロールしようとしているのです。
森田理論でいくら「かくあるべし」を少なくして事実本位の態度にならないと、神経症から立ち直り、生きづらさはなくならないと分かっていても、強力な観念優先の態度がコールタールのようにまとわりついているといった感じです。

自分には自分なりにこうしたいという欲望・気持ちがあります。
それは裏を返すと、相手にも相手の立場、気持ち、事情があるということです。
この考えがすっぽりと抜け落ちて、自己中心が独り歩きしてしまうとまずいのです。
自分の気持ちを私メッセージで伝えて、相手の都合や事情をきく。
難しければ、「じゃまた機会があったら、お願いします」と身を引く。
行動の決定権はあくまでも相手に委ねるという態度を維持する。
その匙加減は、数多くの失敗の経験の中ではぐくまれてきます。

双方の言い分を明らかにさせて、つぎにその溝を埋めていくのが、人間関係を良好に保つ秘訣になります。しんどい交渉ですが、この態度を維持していると、人間関係はよくなります。
森田理論はその方向を目指している人を応援しているのです。





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Last updated  2021.10.19 06:48:54
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