森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2022.03.09
XML
昨年「強迫症を治す」という本が幻冬舎新書として出版されました。
亀井士郎氏と松永寿人氏の共書です。
強迫性障害とは何か、その克服方法についての本です。
至れり尽くせりの本です。強迫性障害の人は一見の価値があります。
それ以外の神経症の人にも役に立ちます。

亀井士郎氏は、京大医学部を卒業されて、精神科医をされている方です。
この方は確認恐怖、加害恐怖、感染症恐怖でまともに仕事ができなくなりました。兵庫県医科大学で薬物療法と認知行動療法(CBT)に取り組むことで症状を克服された。症状は2年かけて重症化し、CBTの開始から2年かけて回復したと書かれていました。2年というのはとても早い方だと思います。

この本を読んでの私の感想です。
強迫神経症の専門医は残念ながら京大医学部にもいないと言われています。

また認知行動療法は保険適応になっていますが、1回30分以上の施術をおおむね16回以下で行うことになっている。
これでは個人病院の経営としては成り立たない。
個人病院では、一人10分以内で診察を行い、回転率を上げる必要がある。
医者は道楽で診療をやっているわけではない。もっともなことです。

私は神経症が症状として固着した方は、アリ地獄の底に落ちた状態だと思っております。とりあえず、アリ地獄から地上に這い出ることが先決です。
そのためには、薬物療法、カウンセリング、30もあるといわれる精神療法のどれを選択しても構わないと思っております。
もちろん認知行動療法でも、森田療法でも構いません。
どちらもそれなりに実績があります。

ただし、神経症はいったん症状が治ってもそこで安心してはいけないと思います。なぜなら強迫神経症にかかりやすい人は、不安、恐怖、違和感、不快感にとらわれて、増悪しやすいという神経質性格、体質を持っているからです。
火山の噴火のように、マグマだまりには、弱い地層を探し当てて機会があればいつでも噴火を待ち構えているような状態にあるのです。
一つの症状が軽快して安心してしまうと、別の神経症として再発する可能性が高い。それ以上に、いつまでも生きづらさから解放されない。


暴露療法は対症療法です。
これは不安を対応しやすいものから順に10個ぐらいの階層に分ける。
助言者の指導や付き添いのもとに、不安を乗り越えやすいものから一つ一つクリアして、成功体験と自信をつけていくというものです。
そして最終的な課題を乗り越えて症状を克服するという方法です。
つまり、CBTの特徴は、不安、恐怖、違和感、不快感を真正面から取り組むと必ず乗り超えられる対象としてとらえていることです。

森田療法で症状を克服した者からすると、不安と敵対してはうまくはいかないという気持ちが強いです。むしろ再発は免れないと思います。
さらに神経質者特有の生きづらさはなくなりません。

森田療法は神経症的な不安は、欲求や欲望の裏返しとして発生しているという考えです。ですから不安を退治することは、欲求や欲望も封じ込めることになる。
人間から欲求や欲望を無くしてしまうことは、人間をやめてくださいということになります。ですから安易に不安を退治する方法で治療に取り組んではならない。
不安は無二の親友として扱う必要がある。
不安には手を付けないで、欲求や欲望の方に手をつけるという考えです。
不安と欲望のバランスをとることが大切になるという考えです。
車でいえばアクセル(欲望)を踏み込まないと、目的地に着くことはない。
でも、ブレーキ(不安)が故障した車は、事故を起こし車は大破する。
運転していた人も下手をすると死んでしまう。
アクセルを踏み込むことを優先しながら、適宜ブレーキをかけて制御する態度が大切になると言っているのです。

では具体的にはどのようにして、症状を無くしていくのか。
森田でも同じく行動を大事にしています。
しかし、ハツカネズミが一晩中糸車を回すような行動は百害あって一利なしという考えです。必要な時に、必要に応じて、必要なだけの行動を一心不乱に取り組むことを目指しています。
つまり何よりも生活に密着した行動を重視しているのです。
自分の日常生活を豊かに充実させることを目指すということです。
ですから行動はいかに生活に密着しているかどうかが厳しく問われるということになります。症状を克服するための安心行動は厳に戒めているのです。
ここが大きなポイントとなります。

森田療法はアリ地獄から地上に這い出た後が大切であると言います。
オリンピックでいえば国内予選を勝ち抜いて、国の代表として選抜されたことで安堵してはいけない。そこはやっとスタート地点に立っただけのことである。

そこから人生観の確立に向けて学習が必要になってくる。
これから人生100年時代に向けた指針を持たないと社会の荒波には立ち向かえないでしょう。ここでの眼目は2つあります。
一つは不安の特徴や役割、不安と欲望の関係をしっかりと学習する。
つまり不安をのけ者にしない。不安を人生のパートナーとして扱う。
そして次に生の欲望の発揮に邁進する。

二つ目は神経質者は認識の誤りをしっかりと理解する。
神経質者は頭でっかちです。観念優先で事実を否定する態度が強すぎる。
それが神経症を作り出す大きな原因になっています。
観念で事実を抑え込むことが、生きづらさを抱える原因となっている。
事実を優先して、観念は補助的に活用するように態度を改める。
この態度を身に着けて、生活面に応用できるようになると生き方が変わります。
これを森田理論学習によってしっかりと理解して、実践として活かしていく。

尚、森田療法から強迫性障害の解放を扱っている名著がありますのでご紹介しておきます。「強迫神経症の世界を生きて」 明念倫子 白揚社です。
強迫行為で苦しんでおられる方はぜひご参照ください。

私は、アリ地獄から脱出するためには、有効な精神療法なら何でもよいと思います。ただし、そこで安心していると、別の神経症を再発する確率が高い。
再発を防ぐためには、そこが出発点だと認識して、森田理論学習に取り組むことをお勧めしたい。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2022.03.09 06:37:01
コメント(0) | コメントを書く
[森田療法と他の療法について] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

森田生涯

森田生涯

Calendar

Comments

森田生涯 @ Re[3]:強情と盲従の弊害について(02/27) ststさんへ 今の生活は日中のほとんどが…
stst@ Re[2]:強情と盲従の弊害について(02/27) 森田生涯様、返信アドバイスをしていただ…
森田生涯 @ Re[1]:強情と盲従の弊害について(02/27) ststさんへ コメントありがとうございま…
stst@ Re:強情と盲従の弊害について(02/27) 森田生涯様、こんばんは。 過去に何度かコ…
軸受国富論@ Re:森田の正道を歩むとはどういうことか(06/05) かの有名なドクターDXの理論ですね。ほか…

© Rakuten Group, Inc.

Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: