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[1] 読書日記 桜庭一樹の「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」は、「秋」の物語だった。 一方こちらは、タイトルが示すように、「夏」が舞台の、 笹生陽子 「ぼくらのサイテーの夏」(講談社文庫) を読了。 児童文学。 「砂糖菓子」と比較せずにはいられぬほど、似通った道具立てと、テーマ。 それでいて、季節が変わっただけで、こうも作品の明度が変わってくるものなのか、 と感じさせられる作品。 (ちなみに書かれたのは、「ぼくらのサイテーの夏」の方が10年近く早い) よく専門書の記述や、文章の書き方等で「難しい事を難しく書くことは誰でもできる、 難しい事を易しく書くことこそ難しい」とは、良く言われることではあるけれども、 「暗いテーマや、重いエピソードを、暗いまま、重いまま書くことは容易いが、それを 口当たりの良いものになおして提示する事こそ難しい」と言う事もできるのではないかとも、 読後一息ついて思ってみたり。 とにかく外れがない。 小学校各教室の学級文庫に、最低1冊は常備しておきたい作家。
2006年11月30日
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[1] 読書日記 読み終わって、書店で掛けてくれたカバーを外すと、 <こんな面白い本 どうして見逃していたんだろうか!?> との文字が帯に踊っていた、 クリストファー・プリースト 「奇術師」(ハヤカワ文庫) を読了。 本棚の中で二年あまり積み、今まで見過ごして来ただけに、その惹句には同感。 小説として非常に面白かった。 少なくとも、ここ三ヶ月以内に読んだ長編の中ではベスト。 ミステリとして読み始めたが、ジャンルは超越的。 恐らく何の先入観も持たずに、読み始められる読者が一番幸せな読者。 次善は、多分私同様にミステリと思って読む読者。 要は、私は幸せな読者であったと言いたい。 その場合はなるべく事前情報をシャットアウトしておくのが大事。 読者によって、「ネタばれ」の閾値がまるで作品だと思うので、うっかり巻末の解説やら、 ネット上に氾濫するレビューを読もうものなら、簡単にミステリとしては「ネタばれ」に抵触 する文献にゴロゴロ出会ってしまう憂き目に会ってしまうかも。 裏表紙の概要が、過不足のないものだったので最後に引き写しておく。 <北イングランドに赴いたジャーナリストのアンドールは、 彼を呼び寄せた女性ケイトから思いがけない話を聞かされる。 お互いの祖先は、 それぞれに「瞬間移動」を得意演目としていた、 二十世紀初頭の天才奇術師。 そして、生涯ライバル関係にあった二人の確執は 子孫のアンドールにまで影響を与えているというのだが……!? 二人の奇術師がのこした手記によって、衝撃の事実が明らかになる!> 面白い海外文学を読みたい人には、是非ともお薦めしたい逸品。
2006年11月29日
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[1] 読書日記 <ミヤテツさん、読み過ぎです!> という帯のキャッチコピーが印象的だった、 宮崎哲弥 「新書365冊」(朝日新書) を読了。 まず帯の話。 「読み過ぎ」という言い回しに、軽い違和感とショック。 読書量に実感を持って、上限をきめつけてかかっている人達がいるんだな、 という事を面白く感じる。 「食べ過ぎ」、「飲み過ぎ」、「太り過ぎ」、「面白過ぎ」……。 そう考えると、どの言葉も如何にも自分本位な言葉。 今まで何も考えずに、これらの言葉を恥ずかしげもなく使っていたかと思うと、 痛ましい限り。 他人を許容できない自分の狭小さが際立つ。 閑話休題。 ここからが、本体の話。 新書本の書評集にして、ブックガイド。 そして著者の自伝とも言える。 これだけの数の、しかも多岐に渡る新書本の評価となってくると、その価値観の 一貫性の裏に著者の姿が透けて見えてくる。 それにしても、いくら仕事でも毎月60冊以上の新書を読むというのは凄い。 その量ではなく、質が。 自分には全く興味の無い分野の本を、そんなにも読む根気と時間はない。 とりあえず自分がフォローしていなかった本を、読みたくなる一冊。
2006年11月28日
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[1] 読書日記 <アイリーンは地味な茶色い髪をしていた。 いや、地味なのは髪の色ではなくて、彼女自身だった。 アイリーンは茶色い髪の地味な女性で、どんなときでも規則に従った。 矯正施設ならではのくだらない規則を馬鹿正直に守る彼女に何度いらいらさせられたことか> と、主人公が辛らつに過去を振り返り、評する、研修時代の仲間だった女性カウンセラー。 彼女が、勤務先の刑務所で囚人と性交渉を持ち、クビになった上に、免許も剥奪されかかっているという。 <(アイリーンは)安定した職をえて、一連の規則がつくりだす秩序ある世界に安定していた> そんな彼女がどうして? 主人公マイケルは、到底信じることができない。 <しかも、当人はまったく後悔していない>と言う。 この謎を導入部にして、その後刑務所内での囚人殺害事件へと展開する、 アンナ・ソルター 「囚人分析医」(ハヤカワ文庫) を読了。 <厳重な監視体制化>で撲殺された幼児虐待犯。 現場には凶器は残されておらず、そもそも刑務所という特殊な舞台ゆえに凶器になりうるもの自体が存在しえない。 犯行はどのようにして行われたのか? そして彼は何故殺されたのか? 冒頭のホワイダニットと、続くこのハウダニットの二本の柱を軸にして、サブプロットを取り込み、更なる広がりを見せていくミステリ。 と締めくくってしまえば、海外作品にゴロゴロしてるミステリになりますが、実はこの作品の魅力はこの謎部分では「無い」というのが、特色。 実はこの作品の売りは、主人公のマイケルのドMぶり(作者のドS志向とも言う)。 主人公のマイケルは、妊娠八ヶ月の女性心理学者。 そんな体でありながら、刑務所での仕事を引き受けるわ、その内容と来たら、性犯罪者たちのグループ療法だわ、挙句の果てに上記の事件の真相究明に乗り出し、危険な状況に次から次へと飛び込むわで、読んでるこちらの方が彼女よりも腹の子の安否を気遣ってしまうプレイの数々。 しかも、彼女は孤独を愛している為、一人での時間が失われる恋人(腹の子の父)との同居が日々苦痛で仕方がない、という精神的なSMプレイも実行中。更に言えば、今妊娠しているということは、将来子供が生まれてくる事になり、そうなるとこれから先一人での時間は……、にも気付かされてしまい新たなる苦悶をも背負い込みます。 これに較べればミステリ的な要素は、断然インパクトに欠けます。 とまあ、そんな本(だと思います)。 筆者の死刑肯定論とも取れる場所も何箇所か在り。 犯罪者の檻の中へ身を投じる妊婦に興味がある人はどうぞ。
2006年11月27日
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[1] 読書日記 映画「カル」(1999年,韓国)を鑑賞。 過去に3回観て、3度とも途中で寝てしまった映画で、一生ラストまで観ることは叶わないのではないかと思っていた作品。 どうも韓国映画とスペイン映画のサスペンスやホラーは、画面の暗さと言語のリズムが相俟って、眠気を誘われます。 それはさておき、1回観ただけでは理解できずに、続けざまにもう1度観て、その間に何とか自分なりに解釈を引き出し、納得するに至る。 凹部が伏線として論理的に処理が可能。 サイコキラーものの皮を被った、本格ミステリ映画。 メイントリック部分は、日本の本格ファンならお馴染みの有名作品のトリックを裏返しにしたものでしたが、それを支える動機の見せ方が素晴らしい。 まさに映像で魅せるミステリでした。 映画を観ながら、頭も使いたい人にお薦め。 その気分を引きずるままに、 ダフネ・デュ・モーリア 「破局」(早川書房) を読了。 他の異色短編作家の作品を読み終った時と同様の満足感。 多彩。 「奇妙な味」系の短編集。 この作品群の中では、「青いレンズ」が過不足なくて、好みに合致。 只今、同作者の「レベッカ」を積み本の山から探している最中です。 ちなみに「カル」も解釈次第で、この短編集と同じようにザラツキが舌に残るような「奇妙な味」を楽しめます。
2006年11月21日
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[1] 読書日記 この作者の別の作品も読んでみたい、と思っていたので、 北森鴻 「花の下にて春死なむ」(講談社文庫) を読了。 ミステリ。連作短編集。 物語の筋立て、作中に出てくる料理が共に、美味。 アームチェア・ディテクティヴ(安楽椅子探偵)ものというよりも、素直に「九マイルは遠すぎる」の直系の短編集と呼称するのが適当と思われる。 面白かったが、事件や示される解決(探偵役の解釈)がいかにも作り物めいて見えるところは、読者を選ぶ感じ。「本格」モノが好きならば、問題はないか。 引き続き、この作家の本は定期的に読んでいきたい。[2] マイルCSの結果を受けて。 順当。 1着馬はいくら人気薄であろうとも、その後の成績から能力の高さを示す事が多々あるが、2着ないし3着に展開の綾などで、フロックめいた馬が飛び込んでくるのは例年の傾向どおり。 この後のレースで、ここ上位馬の人気が悪戯に煽られるだけで何処にも繋がらないGI。
2006年11月20日
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[1] 読書日記 <日本の近現代文学には、「病気小説」や「貧乏小説」とならんで「妊娠小説」 という伝統的なジャンルがあります> これは、 斎藤美奈子 「妊娠小説」(ちくま文庫) の「はじめに」における出だしの一文である。 慧眼。 永らく読みたかった本であり、過度の期待をかけながら読み出すも、裏切られる事なく、堪能の内に読了。大いに笑わせてもらう。 見事な「斬り」口。 めった斬り。 文学をテキストに沿って読み解くための、実践的ハウツー本。 文学を「読みたい」人にお薦めの一冊。
2006年11月16日
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[1] 読書日記 すっごく面白いミステリに出合った。 北森鴻 「凶笑面―蓮丈那智フィールドファイル〈1〉」(新潮文庫) 新鮮。 続編は勿論、同作者の別の作品を今すぐに読みたい。
2006年11月15日
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