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地元のシネコンが入っている大型スーパーの中にあるサーティーワンアイスクリームで、チョコミントアイスを食べました。子供の頃から、このフレーバーが好きだったんです。逆に、「ロッキーマウンテン」とか、チョコレートたっぷりのフレーバーは苦手でした。あと、チーズケーキのフレーバーも好きです。
2014年07月30日
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前から気になっていた映画「チョコレートドーナツ」が、今月26日から地元のシネコンで公開されていたので、レディースデーを利用して観ました。ゲイのカップルが、母親から育児放棄されたダウン症の少年・マルコを引き取って育てるというお話です。本当の家族とは何か?無償の愛とは何かを観客に問いかける素晴らしい映画でした。けれど、悲しい結末に思わず涙しそうになりました。未だに同性愛者や障碍者に対する偏見や差別はありますが、映画の時代背景を考えると、今よりももっと激しかったかもしれませんね。何だかマルコが、可哀想でならなかったです。
2014年07月30日
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「おい、ちょっといいか?」 塾の帰りに千尋が駅前のコンビニで雑誌を立ち読みしていると、そこへあの男がやって来て千尋に話しかけてきた。「あなた、義母さんの別れた旦那さんなんですってね?」「俺の正体を知っているのなら、話が早いな。」男はそう言うと、千尋の手を掴んでコンビニから出て行った。「僕を何処に連れて行くつもりですか?」「つけばわかるよ。」 男が千尋を連れてきたのは、ショッピングモールのフードコートだった。閉店時間が近いので、客は千尋達のほかには誰も居なかった。「僕にお話ししたいこととは、何ですか?」「俺と育子がどうして別れたのか、お前は知っているのか?」「ええ。子供が出来なかったから、別れたって聞きました。」「あいつと俺がまだ夫婦だった頃、結婚してなかなか子供が出来なくてな、お袋があいつの身体に何か欠陥があるんじゃないのかって、一度産婦人科で不妊検査を夫婦で受けてみたんだ。そしたら、身体に欠陥があるのはあいつではなく、俺の方だった。」男の話を千尋は黙って聞きながら、彼の顔を見た。「男性不妊症って知っているか?」「いいえ。」「簡単に言うと、俺は子種がないんだと。」「無精子症というものですか?」「ああ。検査の結果はちゃんと俺がお袋に話した。そしたらお袋はそんなものは嘘に違いない、あの女がわたしを陥れようとしているだけだって言って・・何が何でもお袋は、子供が出来ない責任を育子に押し付けようとしていたんだ。」「それで、あなたはどうされたんですか?」「育子は俺に愛想をつかして別れた。風の噂であいつが再婚したって聞いて、あいつに会おうとしたんだ。そしたら、坊主があいつの養子だってことを偶然知ったんだ。」「あなた、お名前は?」「五十嵐だ。」「五十嵐さん、義母にとってあなたは既に過去の存在です。今更あなたが義母に会っても、義母は歓迎するどころか、あなたと結婚していた頃の苦い記憶を思い出して不快になるだけです。お願いですから、二度と僕たちの前に現れないでください。」千尋の言葉を聞いた男―五十嵐は、溜息を吐いた後千尋を見た。「そうだよな。あいつにとって俺との結婚生活は悪夢そのものだったわけだ。今更あいつに会っても、仕方がねぇよな。」五十嵐はさっと椅子から立ち上がると、ポケットから財布を取り出し、千尋の前に一万円札を置いた。「これで何か美味い物でも食え。」「困ります、そんなことをされても・・」「じゃぁな、坊主。」五十嵐はそう言って千尋に背を向けると、フードコートから去っていった。「ただいま。」「遅かったわね、ちーちゃん。ご飯は?」「外で食べてきた。」「そう。お風呂沸かしたから、入りなさいね。」「わかった。」 湯船に浸かりながら、千尋はフードコートで会った時、五十嵐が何処か寂しそうな顔をしていたことを思い出した。「ちーちゃん、土方先生から電話よ。」「土方先生から?」「ええ。何でもあなたと話したいことがあるって・・」育子から電話の子機を受け取った千尋は、歳三が黙っていることに気づいた。「土方先生、千尋です。話したいことって何ですか?」『あんたの所為で、あたしの家庭は滅茶苦茶よ!』通話口越しに聞こえてきたのは歳三の声ではなく、ヒステリックな琴子の声だった。「土方先生は一緒に居られるのでしょうか?」『そんなこと、あんたには関係ないでしょう!今すぐうちに来て!』にほんブログ村
2014年07月30日
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「千尋ちゃん、どうかしたの?」「さっき、門の外から僕の事を見ていた男が・・」「そう。」希はそう言うと、突然千尋の手を掴んで中庭から外へと出て行った。「ちょっと、そこのあなた!」希に呼び止められ、千尋を見つめていた男はゆっくりと彼女の方に振り向いた。男の右の頬には、傷があった。「あなた、千尋ちゃんにつきまとっているんですってね?」「お前には関係ねぇだろう、引っ込んでいろよ。」「そうはいかないわ。」希はそう言って男を睨むと、男は一瞬怯んだ後、舌打ちしてそのまま何処かへ行ってしまった。「希さん、有難うございました。」「千尋ちゃん、これから困ったことがあったらわたしに何でも言って。これ、わたしのスマホの番号とメールアドレスね。」 千尋と希が近藤家の中庭に戻ると、勇と談笑していた歳三が二人の元へ駆け寄って来た。「二人とも、何処に行っていたんだ?」「千尋ちゃんにつきまとうストーカーに、ガツンとわたしが言ってやったのよ。」「希、本当にお前は全く変わってねぇな、そういうところ。」歳三はそう言うと、溜息を吐いた。「ねぇトシ兄、まだあの人とは続いているの?」「ああ。琴子は今実家に帰っている。美砂は今日、実家に預けてきた。」「そう。あの人とは結婚式の時に会ったけれど、何だかつんけんしていて嫌だなぁって思ったのよね。トシ兄はどうしてあんな人を選んじゃったんだろうって、思ったわ。」「希も近藤さんも、琴子に対して厳しいな。」「だって、あの人たちわたしや勇兄がトシ兄と話している時、不機嫌そうな顔をしてわたし達の方を睨んでいたんだもの。妙に嫉妬深いっていうか、自己中心的っていうか・・実家では、お姫様みたいに向こうのご両親から可愛がられてきたんでしょうね、きっと。」「まあな。」「いくらトシ兄が家事や育児を手伝ってくれるからって、こんなに家を空けるなんておかしいと思わない?熱が出ている子供を放ったらかしにして、同窓会に出席するなんて、普通母親がすることじゃないと思うわ。」「まぁ、あの子は母親の自覚を持たないまま子供を産んだんだから、仕方がないんじゃないのかねぇ。」いつの間にか歳三と希の近くに来ていた近藤の養母は、そう言うと二人にアイスクリームのカップを手渡した。「トシ、琴子がこのまま実家から帰って来ないのなら、あの子とどうするのかを考えな。」「それは、琴子と別れることを考えろってことか?」「察しがいいね。あたしゃぁあんたら夫婦の事に口を挟むつもりはないがね、希がいう事には一理あると思うね。」 バーベーキューパーティーが終わり、近藤家を後にした歳三は、千尋を自宅で車まで送った。「土方先生、今日は誘ってくださって有難うございました。」「ああ。千尋、家の前だからって油断するんじゃねぇぞ。」「わかりました。それじゃぁ、おやすみなさい。」歳三の車から降りた千尋が家の中に入ると、リビングの方から養父母が話す声がした。「まだあの男はお前のことを諦めていないのか?」「ええ。わたしにとってはもう縁が切れた人だっていうのに、いつわたしがここに住んでいることを知ったのかしら?」「警察に相談した方がいいんじゃないのか?殺人事件が起きたら遅いんだぞ!」「わかっているわよ、そんなこと!」 扉越しに二人が口論している声を聞いた千尋は、そのまま階段を上がって自分の部屋に入った。にほんブログ村
2014年07月29日
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「それにしても、こんなクソ寒い中でバーベキューをするなんざ、近藤さんは変わっているな。」「バーベキューは夏だけのものじゃないぞ、トシ。」バーベキューコンロで肉を焼きながら、勇はそう言うと笑った。「まぁ、そうだな。」ダウンジャケットを着こんだ歳三は、そう言うとコンロの近くに置いてある座椅子の上に腰を下ろした。「トシ、そんなところに居たら火傷するぞ。」「大丈夫だよ。」「寒がりな所は相変わらず変わっていないな、トシ。」「皆さん、料理の下ごしらえが出来ましたよ!」下ごしらえを終えた女性陣と千尋が野菜と魚介類を持って中庭に出ると、そこから食欲をそそる肉の匂いがした。「美味しそうな匂いだねぇ。」「ええ。つね達も、遠慮せずに食べろ!」「あなたがそうおっしゃるのなら、有難くいただきます。」「勇、あんたはいつもつねさんに甘いんだから。あたしの嫁時代には、そんなことはなかったよ。」「今と昔とは時代が違うんだよ、義母さん。」「つねさんは良い時代に勇の女房になったもんだね、羨ましいったらありゃしない。」近藤の養母はそう言うと、母屋の中へと戻っていった。「お義母様、一体どうなさったのかしら?」「いつものことだから、気にするな。」勇はつねを励ますかのように彼女の肩を叩くと、缶ビールを彼女に手渡した。「土方先生、ちょっと今宜しいですか?」「ああ。」千尋と歳三は、人気のないところへ移動した。「話って何だ?」「昨夜、母から僕につきまとっている男の事を話したんです。そしたら、母はその男の事を知っていると言いました。」「それで、お袋さんは何だって?」「その男は、もしかすると自分が別れた夫かもしれないと・・」「お前のお袋さんは、離婚歴があるのか?」「ええ。前の旦那さんと別れた理由は、子供が出来なかったからだって・・詳しくは、話してくれませんでした。」「そのこと、荻野の親父さんは知っているのか?」「ええ。土方先生、このことは誰にも・・」「わかった。」歳三と千尋が中庭に戻ると、そこにはダウンジャケットとジーンズ姿の女性が立っていた。「トシ兄、久しぶり!」「誰かと思ったら、希(のぞみ)じゃねぇか!」女性は歳三の姿を見るなりそう叫ぶと、彼を抱き締めた。「土方先生、この方は?」「ああ、お前が会うのは初めてだったな。こいつは近藤希、勇さんの義理の妹だ。」「初めまして、希です。あなたが、トシ兄さんの生徒さん?」「はい。荻野千尋と申します。」「千尋ちゃんっていうのね、宜しくね。」女性―希はそう言って千尋に笑顔を浮かべると、右手を差し出した。「こちらこそ、宜しくお願いします。あの、希さんお仕事は何をされていらっしゃるのですか?」「記者よ。世界中を回っているの。日本に帰国するのは久しぶりだわ。」「希、久しぶりだな!」「勇兄、久しぶりね!義姉さんも元気そうで何よりだわ。」「希さん、1年ぶりね。ゆっくりしていってね。」「ええ。」 千尋が希たちと談笑していると、彼は門の外から自分の事を見つめている男の姿に気付いた。にほんブログ村
2014年07月28日
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「ねぇ、何かあったの?」「実はね、あなたに変な荷物を送りつけてきた人がわかったのよ。」「え、それは本当なの?」 夕食の後、千尋は育子から自分に汚物を送り付けてきた犯人が警察に自首してきたことを知った。 犯人は、荻野家の近所に住む主婦だった。犯行の動機について、犯人は自分が苦しい生活をしているのに幸せそうな荻野家が妬ましくてついやってしまったということだった。「そう。ねえ母さん、僕に変な荷物を送りつけてきた人は、あの人じゃないかって思っていたんだけれど・・」「それはないわよ。あの人は今、精神病院に居るんでしょう?」「そうだけど・・土方先生は、あの人から汚物を送り付けられているんだよ。」「それ、本当なの?」「うん。この前、土方先生とファミレスで夕食をしていた時、先生が話してくれたんだ。それにね、今日土方先生に家まで送って貰ったとき、変な男が僕の事を見ていたんだ。」「その人、どんな顔をしていたの?」「余りよく憶えていないけど、右の頬に傷があったな。母さん、その人を知っているの?」「ええ、ちょっとね・・」育子はそう言って千尋を見たが、彼女は男について何かを知っているようだった。「明日、近藤先生の家でバーベキューパーティーがあるんだ。」「そう、わかったわ。おやすみなさい。」「お休み。」 部屋に戻った千尋は、ベッドに寝転がると目を閉じ、そのまま眠った。「近藤先生、おはようございます。」 日曜日、千尋は歳三とともに近藤宅を訪れると、近藤達は既にバーベキューの準備を中庭で始めていた。「荻野君、よく来たな。」「何か僕に手伝う事はありますか?」「済まないが、台所で食材の下ごしらえをしてきてくれないか?」「はい、わかりました。」 千尋が近藤家の台所に入ると、そこでは女性陣が食材の下ごしらえをしていた。「あの、近藤先生に言われて来たのですけれど・・」「荻野君だっけ?あんたは海老の背ワタを取っておくれ。」「わかりました。」近藤の養母からそう言われた千尋が海老の背ワタを取っていると、台所に近藤の妻・つねが入ってきた。「お義母さん、遅れてしまって申し訳ありません。」「つねさん、あんたは野菜を切っておくれ。」「はい。あなたが、荻野君ね?」「はい。初めまして、奥様。」「奥様なんて呼ばなくてもいいわ。荻野君、忙しいのに来てくれて有難う。」「いいえ、こちらこそ。わざわざ招待してくださって有難うございます。あの、これ母が作ったパウンドケーキです。」「まぁ、有難う。後でいただくわね。」つねは千尋からパウンドケーキを受け取ると、それを冷蔵庫の中に入れた。「何だかこういった賑やかなことをするのは、久しぶりだねぇ。」「そうですね、お義母様。」「まだ勇とトシが学生だった頃、二人はよくつるんではあたしが二人の飯の世話をしたもんさ。」「近藤先生と土方先生は、昔から仲が良かったんですか?」「二人は同じ学校に通っていたからね。家も近かったから、自然と仲良くなってつるむようになったのさ。」「そうなんですか・・」「人と仲良くするのに、理由なんて要らないのさ。」「そうですね。」にほんブログ村
2014年07月28日
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「如月先生、お話って何ですか?」「あなた、まだ土方先生とはお付き合いしているの?」如月は家庭科室に入るなり、そう言うと千尋を見た。「いいえ。」「じゃぁどうして、いつも数学準備室に居るのかしら?あなた、まだ土方先生に未練があるの?」「どうして僕にそんなことを聞くんですか?」「どうしてって、あなたはわたしの最大の恋敵だからに決まっているじゃないの。」如月は大袈裟な溜息を吐きながら、椅子の上に腰を下ろすと、髪先を指で弄んだ。「如月先生は、土方先生の事を狙っているんですか?」「ええ、そうよ。彼ほど素敵な男は、何処を探したって居ないわ。たとえ彼が既婚者でも、わたしは彼の奥さんから土方先生を奪える自信はあるわ。」「そうですか・・」「土方先生の奥さんのことはともかく・・あなたが土方先生の事を諦めてくれればいいの。これ以上彼につきまとわないと、この場で約束なさい。」「それは出来ません。」千尋がそう言って如月を見ると、彼女は般若のような顔をして自分を睨んでいた。「そう・・あなたがそんな態度をわたしに取るのだったら、わたしにも考えがあるわ。」「では、僕はこれで失礼いたします。」千尋はそう言って如月に頭を下げると、家庭科室から出て行った。「千尋、今日から部活休むって聞いたけど・・」「うん、ちょっとね。じゃぁね、平助。」「またな、千尋!」 放課後、千尋は教室を出ると、歳三が待っている数学準備室へと向かった。「土方先生、失礼いたします。」「時間通りだな。それじゃぁ千尋、家まで送っていってやるよ。」「はい。」 歳三と千尋が校舎から出て、駐車場へと向かっていると、校門の近くで一人の男が自分達を睨んでいることに千尋は気づいた。「どうした?」「校門の近くに、男の人が・・」千尋がそう言って男が立っている場所を指すと、そこにもう男は居なかった。「嫌がらせをされていることを、警察には言ったのか?」「ええ。担当の刑事さんは、力になってくれると言ってくれましたが・・こういった嫌がらせとかストーカー被害って、警察はなかなか調べてくれないんですよね。」「ああ。警察は事件が起きねぇと動かねぇもんだ。」歳三がそう言いながら車を発進させて職員専用口から出ようとしたとき、車の前に一人の男が立ちはだかった。「危ねぇだろう、気をつけろ!」咄嗟にブレーキを踏み、車を急停止させた歳三はそう言いながら突然車の前に飛び出してきた男に向かって怒鳴ったが、男は無言で歳三を睨みつけた。「おい、俺達に何か用か?」「・・別に。」男は助手席に座る千尋の方を見ると、そのまま歳三に背を向けて校舎から外へと出て行った。「何だ、あいつ・・君が悪いやつだな。」「あの人、この前プールで僕に話しかけてきました。」「そいつに何かされなかったか?」「ええ。」「千尋、これからは一人きりになるんじゃねぇぞ、わかったな?」「わかりました。」 千尋が帰宅してリビングに入ると、育子が溜息を吐きながらキッチンで夕食を作っていた。「ただいま。母さん、何かあったの?」「ええ・・後で、話すわね。」「わかった・・」にほんブログ村
2014年07月27日
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『まー君、今日帰国するのよね?気を付けて帰って来てね。』「わかっているよ、母さん。」 ホテルの部屋でスーツケースに着替えや家族への土産を詰めながら、真紀はスマートフォンで養母と話していた。『まー君、オリンピックまで無理しちゃだめよ。わかっているわね?』「うん、わかっているよ。それじゃあ、もう切るね。」普段自分の事を気に掛けない癖に、真紀がフィギュアスケートの選手として有名になってから、養母は急に“慈愛に満ちた母親”を演じるようになった。 真紀はそんな彼女が鬱陶しくて堪らないが、宮下家の養子とならなければ好きなスケートに打ち込むことが出来なかった。 スーツケースの蓋を閉めながら真紀が溜息を吐いていると、スマートフォンがメールの着信を告げた。彼がメールを開くと、それは双子の弟・千尋からのものだった。“大会優勝おめでとう。オリンピックも頑張ってね、千尋より”弟からのメールを読み終えた真紀は、笑いながらスマートフォンの電源を切ってベッドに入った。『今、宮下真紀選手がデンマークから帰国しました。』 千尋が自宅のリビングでテレビを観ながら宿題をしていると、画面に真紀の記者会見の様子が映っていた。『大会優勝おめでとうございます。オリンピックへの意気込みを聞かせてください。』『オリンピックでは、必ずメダルを獲りたいと思います。』『それは金メダルということでよろしいでしょうか?』『さぁ、それは皆さんの想像にお任せいたします。』記者たちに向かって微笑む真紀の姿を見た千尋は、そのままテレビを消した。「ただいま。」「母さん、お帰り。」「さっき、真紀ちゃんの記者会見がテレビでやっていたわね。」「お兄ちゃんなら、きっとオリンピックで金メダルを獲ると思うよ。」「そうね。ねぇちーちゃん、あなたに今朝荷物が届いていたわよ。」「有難う。」育子から荷物を受け取った千尋が段ボール箱を開封すると、中から激しい腐敗臭が漂って来て思わず顔を顰めた。「どうしたの?」「わかんないけど・・」千尋がそう言いながら段ボールの蓋を開けると、中には腐った生ごみと死後三週間経った猫の死体が入っていた。「一体誰がこんな嫌がらせを・・」「母さん、警察呼んで。」「わかったわ。」 その日から、千尋宛てに汚物が送られてくるようになった。「お前のところにも、汚物が届いたんだな?」「ええ。土方先生のところに届いた物と同じような物が、僕宛に届いたんです。差出人が誰なのかはわかりませんが・・もしかすると、あの人が腹いせにやっているんじゃないかって思うんです。」「あの女は今、精神的におかしくなっているからな。千尋、今日は何時に帰るんだ?」「暫く部活を休むことにしたので、4時には帰ります。」「そうか。」「それじゃぁ先生、また放課後に。」千尋が数学準備室から出て廊下を歩いていると、彼は突然如月に呼び止められた。「荻野君、ちょっと話があるんだけれど、いいかしら?」「はい・・」「じゃぁ、家庭科室に来て頂戴。」にほんブログ村
2014年07月27日
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翌日、千尋は学校の帰りに小学生の頃から通っているスポーツジムへと向かった。「千尋君、お久しぶりね。」「お久しぶりです。」「今日は泳ぎに来たの?」「ええ。」 更衣室で水着に着替えた千尋は、プールサイドで準備運動をした後、25メートルプールの中に入り、クロールで三往復した。タオルで濡れた身体を千尋が拭いていると、そこへ一人の男がやって来た。「あの、もしかして宮下真紀さんですよね?」「いいえ、違います。」「そうですか・・」男はそう言うと、千尋に背を向けてプールから去っていった。「千尋、お前もここのジムの会員なのか?」「ええ。母がここの会員なので、家族会員として登録しているんです。」「そうか。」「土方先生は、どうしてこのジムに?」「最近デスクワークが多くてな、運動不足を解消するために毎日来ているんだよ。」歳三はそう言うと、千尋の隣で準備運動を始めた。「あら、土方先生。先生もこのジムの会員さんですか?」「如月先生・・」背後で声がしたので歳三が振り向くと、そこには紺色に白い水玉模様のビキニを着た如月が立っていた。「こんにちは、如月先生。」「荻野君、あなたも居たのね。」「先生も、ここのジムの会員さんなんですか?」「ええ、そうよ。でも、土方先生とこんなところで会えるなんて思っていなかたわぁ。毎日ここに通おうかしら?」歳三に気があるような如月の言葉を聞いた千尋は、嫉妬で胸が痛んだ。「それじゃぁ、また。」「ええ、また・・」如月がプールの奥へと消えてゆくのを見送った歳三は、安堵の溜息を吐きながらプールに入った。「如月先生、土方先生に気があるんじゃないんですか?」「あの人、一昨日俺の家に来たんだよ。琴子の悪口を言って勝手に帰っていったがな。」「そうですか。土方先生、後でお話ししたいことがあるんですが・・」「もうここから出ようか?」「はい・・」 ジムから出た二人は、近くにあるファミリーレストランに入った。「話ってのは何だ?」「実は昨日、僕が家に帰ると、母方の祖父母がうちにやって来て、あの人に会ってくれないかって僕に頼んだんです。」「朱莉さんの両親がお前の家に来たのか?」「ええ。母さんはあの人たちを家に上げてしまったことを僕に詫びて泣いていました。母さんは何も悪いことをしていないのに・・」「それで、お前はあの人たちにどう返事をしたんだ?」「あの人と会うのは断りました。あの人はもう、僕の母親ではありませんし、僕にとっての家族は、荻野の両親だけです。」「そうか・・」「それに先生、母と昨夜ここに食事に来た時、妙な視線を感じました。何だか気味が悪いです。」「千尋、これから帰るときは俺に連絡しろ。家まで送っていってやるから。」「土方先生にご迷惑はかけられません。」「俺は教師として、当然のことを言っているだけだ。」「有難うございます、その言葉に甘えさせていただきます。」 二人の会話を奥のテーブル席で聞いていた男は、舌打ちをして伝票を持ってレジへと向かった。にほんブログ村
2014年07月26日
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「千尋、さっきはどうしたんだ?」「あいつら、真紀のサインが欲しいって言ってきたんです。僕は無理だって言っても、向こうは簡単に諦めてくれなくて・・」「そうか。有名人の兄貴を持つと大変だな。」「ええ。こんなの、一度や二度じゃありません。双子だから、余計に厄介なんですよね。」千尋はそう言って溜息を吐くと、歳三から手渡されたクッキーを食べた。「そういやぁ、真紀の担任と昼休みに少し話をしたんだが、あいつこのままだと留年するかもしれねぇな。」「海外遠征を繰り返していると、出席日数が足りなくなるのは当然です。学業との両立は、レベルが上がれば上がるほど難しいです。」「眞岡先生は真紀の事を特別扱いしないって言っていたからなぁ。これからどうなるんだか・・」「それは、僕たちが心配することじゃないですよ。」「そうだよな。なぁ千尋、真紀とは最近会っているのか?」「いいえ。昔はよくお互いの家を行き来していましたけれど、今はメールで連絡し合っているだけです。」「そうか。」「土方先生、奥様が娘さんを置いて実家に帰ってしまわれたんですって?」千尋の言葉を聞いた歳三は、思わずコーヒーを噴きだしてしまった。「それ、誰から聞いた?」「眞岡先生からです。」「へぇ、そうか・・」「あの人、変なんですよね。授業中に関係のないことを突然話し出したりして、みんな気味悪がっています。」「そういやぁ、昼休みに眞岡先生と話している時、ほとんど先生一人が喋っていたような気がしたな・・」「あんまりあの人と関わらないほうがいいですよ。」千尋はそう言うと、鞄を持って椅子から立ち上がった。「それじゃぁ、僕はこれで失礼しますね。」「気を付けて帰れよ。」 千尋が学校から帰宅すると、リビングには一組の老夫婦が養父母とソファに向かい合わせになるようなかたちで座っていた。「ただいま・・」「ちーちゃん、お帰りなさい。こちらの方は、あなたのお祖父さまとお祖母さまよ。」「初めまして、荻野千尋です。」「あなたが、千尋君ね。」和服姿の老婦人はそう言ってソファから立ち上がると、千尋に優しく微笑んだ。「あの、うちに何のご用でしょうか?」「千尋君、あなたのお母様に会いたくない?」「え?」「あなた達を産んだお母様・・朱莉(あかり)がね、あなた達に会いたくて堪らないってこの前うちに電話してきたのよ。ねぇ千尋君、わたし達と朱莉に会ってくれないかしら?」千尋が返答に困り、育子の方を見ると、彼女は俯いて唇を噛んでいた。「あなた方の娘さんとは会いたくはありません。」「そう・・」「来るだけ無駄だったな。」憤然とした様子でソファから立ち上がった老人は、そう言って妻の手を掴むとリビングから出て行った。「母さん、どうしてあの人達を家に上げたの?」「あの人達と会いたくなかったんだけど、勝手に家に上がり込んできたから、追い出せなくて・・ごめんね、ちーちゃんに嫌な思いをさせてしまったわね。」「母さんの所為じゃないよ。ねぇ、今日は父さんの帰りは遅いの?」「ええ。夕飯は要らないって言っていたから、二人で外食でもしましょうか?」「うん。」 千尋が育子とともに近くにあるファミリーレストランに入ると、奥のテーブル席から視線を感じた。「ちーちゃん、どうしたの?」「何でもない・・」にほんブログ村
2014年07月26日
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5月に更新して以来、全然更新していなかった「金襴の蝶」の連載を再開いたしました。また更新が滞るかもしれませんが、宜しくお願いいたします。
2014年07月25日
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「眞岡先生、お話とは何でしょうか?」「宮下真紀についてなんですが・・彼がフィギュアスケートの選手として活躍していることは、土方先生もご存知ですよね?」「ええ。それが、どうかしましたか?」「宮下真紀の出席日数が全然足りないんです。このままいけば、留年するかもしれません。」「まぁ、それは仕方がないでしょう。」「わたしは宮下が有名なスポーツ選手だからといって、特別扱いはしません。彼の本業は勉強です。」「眞岡先生、それはわたしではなく、宮下本人に言ってください。」眞岡の話はもっともだが、そんな当たり前のことを自分に言われても困る。「土方先生は、宮下とは付き合いが長いんですか?」「さぁ・・」「話は変わりますが、如月先生は土方先生の事を前から狙っているようですよ?」「へえ、そうですか・・」昨夜の如月の様子を思い出しながら、歳三はそう言って眞岡を見た。「土方先生の奥様は、子供が入院しているというのに子供を土方先生に押し付けて実家に帰っていると、如月先生から聞きました。」「琴子は、結婚前から自分の都合を常に優先してきた奴ですから・・それは母親になっても、変わらないでしょう。」「まぁ、そういう一部の親が子供を虐待したりしますよね。大阪で幼い子供二人を自宅に閉じ込めて餓死させた女も居ますし・・子供よりも、自分の都合を優先する人は、子供を産むべきじゃないと思います。」眞岡はそう言って軽く咳払いすると、コーヒーを一口飲んだ。「あ、さっきのは土方先生の奥様のことを非難しているつもりではないですよ。あくまでも、僕個人の意見です。」「わかっています。琴子が娘を産んだ時、あいつはまだ遊びたい盛りの年頃でしたからね。同級生がお洒落して遊びに行ったりしている時に、赤ん坊の世話をしなければならないのがあいつには我慢ならなかったんでしょう。」「土方先生は、優しい人なんですね。」「え?」「僕が土方先生の立場だったら、すぐに奥さんを家に連れ戻して、離婚を言い渡します。」「眞岡先生は、厳しいんですね。」「ええ。僕は理想が高いので、35になっても独身なんですよ。時々母親からは早く孫の顔が見たいと催促の電話がかかってきます。」「それはこたえますね。」「一度結婚相談所に登録して、お見合いパーティーに何度か出てみたのですが、収穫なしでした。相手の女性たちが結婚する男に求めるのは、安定した収入と、自分をどれほど愛してくれるかという愛情の深さだと気付いた時点で、婚活をする気をなくしてしまいました。一生独身でも、今の時代お金さえあれば、生きていけると思うんです。」「そうですか・・」「すいません、僕が土方先生を呼び出したのに、自分の話ばかりしちゃって・・」眞岡はそう言って苦笑すると、再びコーヒーを一口飲んだ。「とにかく、土方先生は奥様を甘やかし過ぎているんじゃないですか?このままだと、奥様に完全に舐められてしまいますよ?」「眞岡先生、ご忠告、有難うございます。」「宮下の事は、僕が一度親御さんを学校に呼んで、じっくりと三人で話したいと思います。」眞岡がそう言ったとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。「僕の話に付き合ってくださって、有難うございました。」 歳三が教室に入ると、何やら千尋の周りに数人の生徒達が集まって騒いでいた。「おいてめぇら、もう授業始まってるぞ!」歳三の姿に気付いた生徒達は、バツの悪そうな顔をして千尋の席から離れた。千尋の様子が少しおかしいことに気づいた歳三は、放課後彼を数学準備室に呼び出した。にほんブログ村
2014年07月25日
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「すいません、連絡もせずに突然押しかけちゃって・・」「いえいえ、どうぞ。」「それじゃあ、失礼いたします。」歳三が自宅に如月を招き入れると、彼女はリビングに入ってすぐキッチンの流し台に溜まっている食器の山を見た。「すいません、散らかっていて・・」「もしよければ、わたしが洗いましょうか?」「いいえ、お気遣いなく。」歳三はそう言うと、流し台に溜まっている食器を洗い始めた。「先生の奥さん、どちらにいらっしゃるんですか?」「家内は実家に帰っています。何でも、高校の同窓会があるとかで・・」「美砂ちゃんを家に置いて行ったんですか?信じられないですね。」「あいつは俺が仕事で家を空けている時、俺が帰って来るまで美砂と二人きりだから、たまには息抜きをしたいんでしょう・・」「でも、普通病気の赤ん坊を連れて行くでしょう?何だか、奥さんってお子さんに薄情なんですね。」如月の言葉を聞いた歳三は、思わず食器を洗う手を止めた。「すいません、わたし少し言い過ぎましたね。」「いいえ、気にしていませんから。」「美砂ちゃんの様子はどうですか?」「熱が下がって、快方に向かっています。明日、見舞いに行こうと思っています。」「そうですか。土方先生、何か困ったことがあったら言ってくださいね、力になりますから。」「有難うございます。」「それじゃぁ、わたしこれで失礼しますね。」如月は歳三に頭を下げると、リビングから出て行った。(一体如月先生は何をしに来たんだ?) 翌朝、歳三が出勤すると、職員室でパソコンに向かっていた如月が椅子から立ち上がり、彼に会釈した。歳三が自分の席に座ってノートパソコンの電源を起動させていると、鞄の中にしまっていたスマートフォンがメールの着信を告げた。『暫く実家でゆっくりとしています。帰って来るまで美砂の世話を宜しくお願いします 琴子』妻からのメールを読んだ歳三は、それを返信せずに削除した。娘が肺炎になって入院したというのに、同窓会に出席する方が大事なのだろうか。普通なら、同窓会が終わった後すぐに帰って、娘の様子を見に病院に行くだろうに。琴子は美砂の事が心配ではないのだろうか。「土方先生、ちょっといいですか?」「はい・・」歳三がノートパソコンから顔を上げると、そこには宮下真紀の担任である眞岡信二が立っていた。「宮下真紀の事で、先生にお話をしたいことがあるのですが・・今、宜しいでしょうか?」「今は忙しいので、後で宜しいでしょうか?」「そうですか。では昼休みに、化学室でお待ちしております。」眞岡はそう言って歳三に頭を下げると、職員室から出て行った。「土方先生、朝のHRに遅れますよ。」「はい。」にほんブログ村
2014年07月25日
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「うわ、急に降ってきやがった。」「そうですね。さっきまで晴れていたのに、急に降ってきたら洗濯物がなかなか乾かないから困りますね。」 千尋が佐助と洗濯物を取り込みながらそんなことを話していると、彼は何者かの視線を感じて振り向いた。 すると、前川邸の前に一人の女が立ち、じっと千尋達の方を見ていた。「佐助さん、すいませんが洗濯物の方を宜しくお願いいたします。」千尋は佐助に洗濯物を任せると、女の元へと走って行った。「あなた、わたくしに何かご用ですか?」「別に何も。ただ最近壬生浪士組に入隊してきた異人とのあいの子を見に来ただけさ。」女はそう言って千尋の顔を覗き込んだ。「あなただって異人とのあいの子でしょう?」「それ、誰から聞いたの?」「そんなこと、あなたには関係ないでしょう。」「そうだね。わたしはつね。君は?」「荻野千尋と申します。」「千尋君ねぇ・・その名前、覚えておくよ。」女―つねはじろりと千尋を睨むと、雨の中何処かへと消えていった。「さっきお前、変な女と話していただろう?」「ええ。」「もしかしてあいつ、長州の間者じゃねぇの?」「そうでしょうか?」「まぁ、間者ならあんなに堂々と姿を見せるわけがねぇな。」佐助はそう言うと、雨戸を閉めた。「本当にやるのか、土方さん?」「ああ。」「容保公直々のご命令とあっちゃぁ、無視するわけにもいかないからな。」「そうだな。」副長室では、近藤達が芹沢鴨暗殺計画について話し合っていた。「芹沢さん、今夜は沢山飲んでくれ。」「ふん、下戸の貴様が飲みに誘うなど、珍しい事をするものだな。」 島原の料亭で酒宴を開いた歳三たちは、そこで芹沢達を泥酔させた。「もうそろそろ寝ただろうな?」「ああ。」黒装束に身を包んだ歳三たちは、雨の中芹沢達が寝ている前川邸の中へと入った。「なぁ、今何か大きな音が聞こえなかったか?」「気のせいじゃねえか?」「そうだな。」大部屋で寝返りを打ちながら、千尋は雨音に混じって男達の怒号や激しい剣戟の音を聞いたような気がした。 翌朝、芹沢鴨たちが昨夜未明に何者かに殺害されたことを千尋達は知った。「下手人は、恐らく長州の者だと・・」「まぁ、芹沢さん達は最近色々と恨みを買っていたから、いつかこうなると思っていたんだよな。」 朝餉を食べながら同僚たちがそんな話をしているのを聞きながら、千尋が味噌汁を啜っていると、そこへ総司がやって来た。「おはようございます、荻野君。」「おはようございます、沖田先生。」「昨夜、芹沢先生が何者かに暗殺されたとか・・」「ええ、そのようですね。」その時、総司の顔が少し引き攣っていることに千尋は気づいた。(沖田先生は、芹沢先生が殺されたことについて何か知っている・・)にほんブログ村
2014年07月22日
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「女が壬生寺の境内に?」「ええ、あの灯篭のところに居りました。」千尋がそう言って女が立っていた場所を指すと、そこには女の姿は既になかった。「おかしいな、さっきはあそこに居たのに・・」「荻野君、女の事は屯所に戻ってから話しましょう。」「はい、沖田先生・・」千尋は首を傾げながら、総司とともに洛中へと向かった。―壬生狼や・・―早う京から去ね・・ 洛中を巡察していると、町民たちの冷たい視線が千尋達を刺した。浅葱色の山形模様の揃いの羽織を着た彼らは、遠くから見てもかなり目立っていた。町民たちは、江戸からやって来た田舎侍達に対して悪感情を抱いていた。「沖田先生、先ほどから視線を感じるのですが・・」「余り気にしないほうがいいですよ。わたし達は芹沢さんの所為ですっかり京の人々から嫌われていますからねぇ。」「そうですか・・」 芹沢達水戸派は、最近軍資金集めと偽り、商家から押し借りを繰り返してはその借金を踏み倒していた。更に、島原の角屋で芸妓の髪を断髪させ、営業停止にさせるなどの暴挙を働いた。「沖田先生、芹沢局長は最近巡察にも出てきておりませんが、一体どうなさったのでしょうか?」「芹沢さんは、京の治安を守るよりも、お梅さんと遊んでいる方が楽しいんでしょう。」総司は嫌悪で顔を歪めながら、吐き捨てる様な口調でそう言うと、千尋に背を向けて再び歩き出した。 芹沢が借金の取り立てに来た商家の妾に乱暴を働き、その女を自分の妾にしたことは千尋達平隊士の間でも周知の事実である。芹沢は商家から押し借りした金を、お梅という妾の着物代に使っていた。 そのお梅は、芹沢という強力な後ろ盾があるからか、近藤達試衛館派には尊大な態度を取り、彼らからは蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われていた。「土方さん、あの女は芹沢さんの威を借りて好き放題していやがるぜ。」「そうだよ、あの女と芹沢さん達とどうにかしないと、会津藩が俺達のことを見限るかもしれないぜ?」 副長室にやって来た藤堂平助と永倉新八は、芹沢達の素行の悪さを歳三にぶちまけた。「平助、新八、お前らは何も心配するんじゃねえ。芹沢さん達のことは、俺と近藤さんが何とかする。」「何とかするって・・具体的にはどうするんだ?」「それはまだお前らには話せねぇ。だが、策は考えてある。」「そうか・・忙しいのに、邪魔をして悪かったな。」「お前ら、必ず門限までには屯所に戻れよ。」「わかった。」歳三は平助達が副長室から出て行くのを見た後、溜息を吐いて書類仕事の手を休めた。(芹沢さんを、どうにかしねぇとな・・)にほんブログ村
2014年07月21日
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「貴様、何者だ!?」「名を名乗るほどのものではないよ。」女はそう言うと、貴助の顔を覗き込んだ。淡い褐色の瞳が月光を弾いて金色に輝いた。美しくも禍々しい色だった。「桂先生を探っているのか?」「いいや。お前の飼い主には興味はない。あるのは、お前の潜伏先・・狼どもの巣さ。」女は淡々とした様子でそう言うと、貴助を見た。「わたしはあいつらに少し恨みがあってね。報復の機会を狙っていたところなのさ。」「報復だと?仲間をあいつらに殺されでもしたのか?」「似たようなものだね。それじゃぁ、縁があったらまた会おう。」女はクスクスと笑いながら、闇の中へと消えていった。(薄気味悪い女だったな・・) 貴助がそう思いながら屯所に戻ると、井戸の傍で千尋が顔を洗っていた。「千尋・・」「貴助さん、今までどちらに行っていらしたのですか?」「ちょっと野暮用にね。」「そうですか。」「なぁ千尋、お前こそこんな時間に何をしているんだ?」「暑いので、少しでも涼もうかと思って顔を洗いに来たのです。」「そうか・・なあ千尋、屯所に戻る途中、変な女に会ったんだ。」「変な女、ですか?」「ああ。髪は頭巾を被っていてよくわからなかったが、恐らく異人とのあいの子だな。瞳の色が淡い褐色だった。」「そうですか。」「その女は、壬生浪士組に恨みがあるって言っていた。気を付けた方がいいぞ。」「そうですか、わかりました。」貴助の言葉に頷いた千尋は、大部屋へと戻った。 翌朝、千尋が台所で朝餉の支度をしていると、そこへ総司がやって来た。「荻野君、おはようございます。」「おはようございます。貴助さんから聞きましたが、昨夜副長から怒られたようですね?」「ええ、浪士たちの遺体を路上に放置してしまったことで、土方さんからきついお叱りを受けました。」「そうですか。それよりも昨夜、貴助さんから妙な話を聞きました。」「妙な話、ですか?」「ええ。何でも、昨夜変な女に会ったとか・・その女は、壬生浪士組に恨みを抱いていると・・」「そうですか。その女の正体を、監察方に探って貰うことにしましょうかね。」「有難うございます、宜しくお願いいたします。」「わかりました。今日も一日頑張りましょう。」「はい。」総司は台所から出ると、副長室へと向かった。「土方さん、失礼します。」「総司、何の用だ?」「昨夜、荻野君から聞いた話があるんですけれど・・」「勿体ぶらずにさっさとその話とやらを俺に聞かせろ!」苛立った歳三はそう言うと、総司を睨んだ。「壬生浪士組に恨みを抱いている女が、貴助君の後を昨夜つけていたそうですよ。」「女か・・」「もしかして土方さん、その女に心当たりでもあるんですか?」「うるせぇ!」 総司とともに巡察へ向かう途中、千尋は壬生寺の境内で一人の女こちらの様子を窺っていることに気づいた。「どうしました、荻野君?」「さっき、壬生寺の境内に女が・・」にほんブログ村
2014年07月21日
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「笑っていられるのは、今の内だぜ!」男はそう言って千尋を睨みつけると、彼に向かって突進した。だが男の刃が千尋の喉元に届く前に、彼は千尋によって斬り伏せられていた。「わたくしを侮っては困りますね。」「この、ふざけやがって!」眼前で仲間を倒された男は、殺意に滾った目で千尋を睨むと、獣のような雄叫びをあげながら千尋に向かってきた。だが、男の刃が千尋に届く前に、総司が男を一撃で斬り伏せていた。「荻野君、彼らの後始末は奉行所の方たちにお任せしましょう。」「ええ。」千尋と総司は男達の血で汚れた切っ先を懐紙で拭うと、そのまま男達の死体を放置して屯所へと戻った。「おいおい、待ってくれよ・・」貴助は二人を慌てて追いかけながら、背後に何者かの視線を感じた。(何だ、今の?)「貴助君、どうしたのですか?」「いえ、何でもありません!」(気のせいだな。)貴助は我に返り、千尋と総司の後を追った。 路地裏に、一人の女が佇んでいることに気づかずに。「総司、さっき奉行所の方から苦情が来たぞ。」「へぇ、そうですか。」「そうですか、じゃねぇよ!お前と荻野が騒ぎを起こしたせいで、俺がお前らの尻拭いをする羽目になったんだからな!」「それはすいませんねぇ。」「てめぇ、後で副長室に来い!」「はぁい、わかりました。」 屯所から戻った総司は、歳三から雷を落とされた。「沖田先生、わたくしの所為でご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありませんでした。」「荻野君、あなたが謝ることはないですよ。」総司はそう言って千尋の肩を優しく叩くと、そのまま大広間へと向かった。「なぁ千尋、さっきはお前、凄かったなぁ。」夕餉の支度の為に台所に入った千尋は、そこで貴助に話しかけられた。「ええ。」「千尋は江戸に居た頃、何処かの道場に通っていたのか?」「薙刀の道場に通っておりました。」「へぇ、そうだったのか。」「貴助さん、何故そのような事をお聞きになるのです?」「いや、ちょっと興味があってさ・・」「早く夕餉の支度をしませんと、副長の機嫌が悪くなるばかりですよ。」「ああ、そうだな・・」「道場の事は、またあとでお話しいたします。」千尋はそう言うと、夕餉の膳を持って台所から出て行った。 その日の夜、大部屋を抜け出した貴助は提灯を持って屯所を出て、ある場所へと向かった。「貴助、来たのか。」「桂先生、壬生浪士組には大きな動きはありませんでした。」「そうか。それよりも、あの金髪の少年の事は何かわかったか?」「あいつは、母親が病で亡くなるまで京に住んでいたそうです。何でも、母親は異人とのあいの子で、祇園で芸妓をしていたとか。」「報告有難う。お前はもうさがっていい。」「では、俺はこれで失礼いたします。」 貴助が桂の潜伏先である旅籠から出て屯所へと戻ろうとしたとき、彼は自分を尾行している何者かの気配を感じて振り向いた。「何者だ?」「おや、ばれてしまいましたね。」 闇の中でクスクスと笑う誰かの声が聞こえたかと思うと、月明かりに照らされた一人の女が貴助の前に現れた。にほんブログ村
2014年07月20日
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行きつけの茶店で団子を食べながら、千尋は自分の隣に座る貴助を見た。彼と初めて会ったとき、彼は騒ぎを起こしていた新見を見事な体術で倒した。「どうしたんだ?俺の顔に何かついているのか?」「いいえ。あなたと会った時、あなたは見事な体術で新見先生を倒しましたね。その体術は一体どこで学ばれたのですか?」「自己流さ。それよりも千尋、お前はこの前京で育ったって言ったよな?」「ええ。母が祇園の芸妓をしておりましたから、わたくしは母が亡くなるまで京の置屋で育ちました。」「そうか。道理で物腰が穏やかだと思ったぜ。」貴助はそう言うと、千尋に微笑んだ。「貴助さんのお国はどちらですか?」「江戸かな・・正直言うと、俺はいつどこで生まれたのかさえもわからないんだ。」「まぁ、そうでしたか。要らぬことを聞いてしまいましたね。」「いや、いいんだ。それよりも、沖田さんは本当に壬生浪士組一の剣の遣い手なのか?女みてぇな顔をしているし、あんな細い身体で剣が握れるのかねぇ?」「人は見かけによりませんよ。沖田先生は、天然理心流の師範代を務めていらっしゃる方なのですから。」「天然理心流?聞いたことがない流派だな。」「何でも、局長が江戸で道場をやっていた時に門下生の方々に教えていらした流派だとか・・詳しいことは余りわかりません。」「そうか・・」千尋に沖田総司の事を聞いた貴助だが、彼は余り幹部たちについて詳しくないらしい。「なぁ千尋、お前を連れて行きたいところがあるんだが、今度お前が非番の時はいつだ?」「そうですね、明後日あたりです。」「そうか。」「わたくしを連れて行きたいところとは、何処なのですか?」「それはまだ教えるわけにはいかない。楽しみが半減するだろう。」「それも、そうですね。」「二人とも、そろそろ屯所に戻りましょうか?」「ええ。」総司とともに茶店を後にする千尋の背中を眺めながら、貴助は暫く二人の様子を見ることにした。 はやまった行動をとっては、すぐにこちらの正体がばれてしまう。そうなれば、桂が自分を間諜として壬生浪士組を潜入させた意味がなくなってしまう。(桂先生のご迷惑を掛けないように、俺が出来ることをするんだ。)「貴助さん、どうかなさったのですか?」「いや、何でもない。」「夕餉の時間に遅れたら、土方さんに怒られてしまいますよ。」総司はそう言って貴助に微笑んだ。その笑みはまるで、菩薩のように優しいものだった。こんな女みたいな顔をした男が、鬼神のように剣を振るうのだろうか―そんなことを貴助が思ったとき、突然三人の前に人相の悪い数人の男達がやって来た。「何ですか、あなた方は?」「壬生浪士組一番隊組長、沖田総司だな?」「ええ、そうですが・・」「幕府の犬め、死ね!」男達は口々にそう叫ぶと、三人に突然斬りかかって来た。間髪入れず、総司は鯉口を切り、男達の一人を斬り伏せた。「余り騒ぎは起こしたくないのに・・困った人達ですねぇ。」そう言って笑う総司の目は、狂気に満ちていた。「おのれぇ・・」「囲め、相手は二人だけだ!」仲間を殺された二人の男達は、総司と千尋を囲んだ。「これで逃げられねぇだろう?」「それはどうでしょう?」千尋はそう言うと、男達を見て笑った。にほんブログ村
2014年07月18日
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最近ソルティーライチにハマっています。さっぱりしていて、美味しいんですよね。
2014年07月17日
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「吉田、わたしと話したいこととは何だ?」「最近江戸からやって来た浪士組とかいう輩が幅を利かせているという話を、聞いているか?」「ああ。だが、どうやら浪士組は水戸天狗党の残党どもと、百姓崩れの者どもとの間で派閥争いが起きていると、この前わたしが放った間諜から文が来た。」「仲間割れか・・将軍警護の為に上洛してきたとか聞いたが、奴らの心は一つではないようだな。」「そうらしい。だが、相手を深く侮っていては、いずれこちらが泣きを見ることになる。吉田、くれぐれもはやまった行動はするなよ。」「わかった。」吉田はそう言うと、座布団から立ち上がって部屋から出て行った。「貴助、お前に頼みたいことがある。」「頼みたいこと、ですか?」「ああ。お前が話していた金髪の少年と、親しくなって貰いたい。」「何故ですか?」「間諜を浪士組の中に潜ませてはいるが、いつ向こうにこちら側の動きが露見するのかは時間の問題だ。そこでだ、浪士組の隊士と顔見知りのお前が間諜として潜り込めば、向こうも警戒しなくて済むだろう?」「良い案ですね、桂先生。」「上手くやってくれよ、貴助。」「はい。」貴助はそう言うと、桂に深く頭を下げた。「この任務、必ずやり遂げてみせます。」「頼りにしているぞ。」桂はそっと貴助の肩を叩くと、部屋から出て行った。 翌日、千尋が八木邸の中庭で洗濯物を干していると、そこへ貴助がやって来た。「よう、また会ったな。」「貴助さん、お久しぶりです。」「俺、浪士組に入隊することになったんだ。これから宜しく。」「こちらこそ、宜しくお願いいたします。」 長州の間諜として壬生浪士組に潜入した貴助は、千尋に親しげに話しかけ、彼の警戒心を解いた。「これからあんたのこと、千尋って呼んでもいいかい?名字で呼び合うのも、堅苦しいからさ。」「ええ、構いません。」「じゃぁ千尋、お前ぇさんは京に来たのは初めてなのかい?」「いいえ。わたくしは昔、京に住んでおりましたので、少し土地勘があります。」「へぇ・・俺はまだ江戸から来たばかりで、全然土地勘がないから、よく道に迷うんだよ。」「沖田先生も、そう仰られます。まぁ、毎日洛中を歩いていれば、慣れてきますよ。」「そうか。」「荻野君、ここに居たんですか。おや、そちらの方は?」縁側から声がしたかと思うと、貴助は自分達の前に黒髪を背中で一括りに結んだ優男がやってくることに気づいた。「沖田先生、こちらはこの前、洛中でお会いした・・」「貴助さんですね。初めまして、壬生浪士組一番隊組長の、沖田総司です。」「改めまして、自己紹介させていただきます。貴助です。」「名字は何というのですか?」「実は・・俺は自分の名字を知らないのです。」「まぁ、そうなのですか。すいません、失礼な事を聞いてしまいましたね。」「いいえ。名字を知らなくても、俺には貴助という名があるだけで充分ですから。」貴助はそう言うと、屈託のない笑みを総司に浮かべた。「貴助さん、これから荻野君と茶店に行こうと思っているのですが、あなたも一緒に如何ですか?」「お言葉に甘えさせてご一緒させていただきます。」(こいつが壬生浪士組一の剣の遣い手と言われる、沖田総司か・・そんな風には見えないな。)にほんブログ村
2014年07月15日
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久しぶりにミスドに行きました。新商品のミスタークロワッサンドドーナツのレモン味は、とても美味しかったです。日曜日とあってか、店内はほぼ満席状態でした。少し食べ過ぎたなって後悔しました。
2014年07月13日
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「何をなさいます!」貴助から突然抱きつかれた千尋は、そう叫ぶと彼の頬を平手で打った。「済まねぇな、いきなり抱きついちまって。」「謝らなくても結構です。それよりも、何故屯所に居るのですか?」「あんたらの後をついてきたら、ここに迷い込んじまったんだよ。」「そうですか。貴助さん、今夜はもう遅いのでお帰りくださいませ。」「わかった。」貴助はそう言うと、千尋に背を向けて屯所から出て行った。「荻野君、どうしたんですか?」「沖田先生、先ほど貴助さんを井戸の傍で見ました。」「ああ、あの昼間の方ですか?どうしてこんな夜遅くに貴助さんが屯所に居たのですか?」「それが、わたし達の後をつけてきたら、屯所に迷い込んでしまったと・・」「何だか、怪しいですね。」総司は低く唸りながら、首を傾げた。「もう寝ましょう、明日も早いですし。」「ええ・・」千尋は総司とともに、屯所の中へと戻った。 その頃、夜の洛中を歩いていた貴助は、とある旅籠の前で立ち止まると、その中に入った。「只今戻りました。」「貴助、帰って来たか。」 貴助が旅籠の中に入ると、一人の青年が彼の元へ駆け寄って来た。「先生、帰りが遅れてしまって申し訳ありません。」「いや、いいんだ。それよりも、今日は洛中で侍相手に大立ち回りをしたとか・・」「ああいう類の輩は、見ていると癪に障るので、一度懲らしめた方がいいと思いましてね。それよりも、昼間異人とのあいの子を見かけましたよ。」「異人とのあいの子だと?」「ええ。そいつは金色の髪と翠の瞳をしていて、まるで西洋の宗教画に描かれている天使のような美しいやつでしたよ。男なのが残念でしたが。」「そうか。」「それよりも先生、最近壬生浪士組なる者達が幅をきかせているとか・・」「ああ。だが奴らは所詮江戸からやって来た田舎侍の集まりだ。わたし達が恐れることは何もない。」「そうですね。」「貴助、少しわたしに付き合ってくれないか?」「はい、わかりました。」旅籠から出た貴助と青年は、島原にある遊郭に来ていた。「桂先生、お久しぶりどすなぁ。」「最近忙しくて余り遊びに来られなくて済まないね。」「いいえ。桂先生はこの国の為に頑張ってくれてはるんやから、うちらは何も言える立場やおへん。」 その遊郭の女将は青年と貴助に微笑むと、彼らを奥の座敷に案内した。「先生、これから来るお方はどなたなのですか?」「それは会ってからのお楽しみだ。それよりも貴助、お前がさっき話していたあいの子の少年のことを、詳しく話してくれないか?」「わたしがそいつと立ち話をしたのはほんの少しだけですよ。先生、何故そいつの事ばかり聞くんですか?」「少し興味がわいてね・・」青年―長州派維新志士達のリーダー・桂小五郎は、そう言うと窓の外に浮かぶ月を眺めた。「桂先生、お客さんどす。」「済まない、用事があって少し遅れた。」「何だ、先生が会おうとなさっていたのは吉田先生だったのですね。」「貴助、久しぶりだな。相変わらずお前は口が達者だな。」「有難うございます、吉田先生。」 部屋に入った吉田稔麿は、そう言って貴助を見ると桂の隣に腰を下ろした。にほんブログ村
2014年07月10日
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※BGMとともにお楽しみください。「いきなり何を言っていやがる。俺達は何もそんなことは・・」「微塵にも思っていないと言えるのか?まぁ、儂らのような武家の者に比べて、お前達は武士のふりをしている紛い物にすぎんからな。」芹沢から侮辱され、歳三は怒りで頬を赤く染めた。(こいつ、言わせておけば・・)歳三が黙って芹沢を睨みつけていると、彼は歳三に臆することなく歳三を睨み返した。「お前ともう話すことなどない、さっさとここから出て行け。」「言われなくとも、出て行ってやるよ。」歳三は座布団から立ち上がり、芹沢の部屋から出て行った。「トシ、大丈夫か?」「ああ。近藤さん、後で俺の部屋に来てくれねぇか?」「わかった。」 八木邸に戻った歳三が溜息を吐きながら副長室に入ると、そこには自分の句集を読んでいる総司の姿があった。「総司、勝手に俺の句集を読むんじゃねぇ!」「減るもんじゃないんですから、いいでしょう?」「良くねぇよ!」歳三が総司から句集を奪い返そうとしたが、総司は歳三の脇をすり抜け、何処かに逃げて行ってしまった。「ったく、あいつは俺に嫌がらせを毎日一回しねぇと済まねぇのかよ・・」彼が溜息を吐きながら文机の前に腰を下ろそうとしたとき、文机に文が置かれていることに気づいた。(何だ?)歳三がその文を開くと、そこには総司の字で、“余り無理しないでくださいね。”とだけ書かれていた。「馬鹿野郎、お前に心配されるほど、俺は落ちぶれちゃいねぇよ。」そう言った歳三は、口元に笑みを浮かべていた。「荻野君、少しいいですか?」「ええ、構いませんよ沖田先生。」「じゃぁ、失礼しますね。」 千尋が大部屋で読書をしていると、そこへ総司がやって来た。「沖田先生、それは?」「ああ、これは土方さんの句集です。あの人、下手な俳句をここに書き溜めているんですよ。」「そうなのですか・・少し、見ても宜しいでしょうか?」「ええ、構いませんよ。」総司がそう言って歳三の句集を千尋に見せようとしたとき、大部屋の襖が勢いよく開け放たれた。「総司ぃ、やっと見つけたぞ!」全身に殺気を漂わせた歳三は、鋭い眼光を光らせながら総司を睨みつけると、彼の手から句集を奪った。「あの、副長はどうしてさっき怒っていらっしゃったのでしょうか?」「土方さん、あの句集をわたしに奪われて大声でこの前朗読されたものだから、わたしになかなか句集を見せてくれないんですよ、酷いでしょう?」「そんなことがあったんですか・・」千尋は総司の話を聞きながら、何と答えたらいいのかわからずに、彼に愛想笑いを浮かべた。 その日の夜、喉が渇いた千尋が水を飲みに井戸へと向かうと、そこには昼間街中で見かけた謎めいた青年・貴助の姿があった。「あなたは・・確か、貴助さんでしたね?一体どうして、このような場所に居られるのですか?」千尋の問いに貴助は答えずに、いきなり千尋を抱き締めた。にほんブログ村
2014年07月08日
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青年と目が合った千尋は、総司とそのままその場から立ち去ろうとしたが、不意に彼に手を掴まれた。「あんた、綺麗な顔をしてんなぁ。」振り向くと、そこには自分に笑顔を浮かべる青年が立っていた。「先ほどの体術、お見事でした。どこで会得されたのですか?」「なぁに、あれは勝手に本を見て、俺が自己流で学んだものさ。それよりもあんた、異人とのあいの子かい?」「いいえ、異人とのあいの子は、わたくしの母です。」 江戸の荻野家に住んでいた頃、女中達から時折蔑みの視線を送られたことがあったが、青年のようにあからさまに不躾な質問をぶつけるような者はいなかった。初対面の自分に対し、無礼な態度を取る青年に怒りを感じるどころか、千尋は少し拍子抜けしてしまった。「そうかい。あんた、名は?」「そちらからお名乗りするのが礼儀では?」「あぁ、こりゃぁ済まねぇなぁ。俺ぁ貴助(きすけ)っていうんだ。」「荻野千尋と申します。」「それじゃぁ、またな千尋!」青年―貴助はそう言うと、千尋に向かって手を振った。「何だか面白い人でしたね。」「ええ。あの方、町人ではなさそうです。」「そうですね。先ほどの体術といい、喉元に刃を突きつけられても毅然な態度を取っていた様子といい、恐らく武家、それも名家の御出身のようですね。」 総司と千尋が貴助の正体を互いに推理しながら屯所に戻ると、前川邸の方が何やら騒がしかった。「どうしたんでしょうね?」「総司、やっと帰って来たのかよ!」「平助、前川邸の方で何かあったの?」「それがさぁ、芹沢さんが借金の催促に来た菱屋の妾を部屋に連れ込んで手籠めにしたんだよ。」「何てこと・・それで、その方は?」「女は悲鳴を上げて家からさっき裏口から出て行ったさ。まったく、芹沢さんは商家に押し借りをしては町民から嫌われているっていうのに、これじゃぁますますあの人の所為で壬生浪士組の評判が悪くなる一方だ。」「土方さんはどちらに?」「土方さんなら、近藤さんと一緒に芹沢さんの所へ抗議に行ったよ。」「そうですか・・」総司はそう言うと、前川邸に向かった。「芹沢さん、何てことをしてくれたんだ!」「まぁそう怒るな、土方。痴情の縺(もつ)れに口を挟むなど、無粋というものだ。」「痴情の縺れだと!?借金の催促をしてきた商家の妾を手籠めにしただろうが!」歳三はそう言うと、芹沢を睨んだ。「ただでさえあんたの所為で、壬生浪士組は町民たちから嫌われているんだ!それなのに、ふざけたことをしやがって!」「おい土方、芹沢先生に対して何と無礼な口の利き方を・・」「新見、お前は下がっていろ。」「ですが先生・・」「近藤、お前も下がれ。土方と二人で話したいことがある。」「わかりました。」近藤はそう言うと、心配そうに歳三を見た後、部屋から出た。「俺と話したいことってなんだ、芹沢さん?」「土方、貴様は何やら大きな勘違いをしているようだな?」「勘違いだと?」「そうだ。貴様はもしや、わし達を出し抜いて会津藩に取り立てて貰おうなどと企んではおるまいな?」にほんブログ村
2014年07月06日
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「荻野、一本!」「また荻野が勝ったぞ!」「凄いな、あいつ。」 隊士達は道場で稽古をしながら、千尋を見ていた。「おいてめぇら、さぼってんじゃねぇぞ!」「まだ鍛え足りねぇようだなぁ。」「ふ、副長・・」隊士達はその後、歳三から厳しい稽古を受けた。「荻野君、剣の腕が上達しましたね。」「いいえ、わたくしは沖田先生の足元にも及びません。」「そんなに謙遜しなくてもいいですよ。それよりも、わたしこの前いいお店に行ったんですけれど、荻野君もどうですか?」「お言葉に甘えてご一緒いたします。」 稽古が終わり、千尋は総司とともに祇園の「鍵膳」という甘味処へと向かった。「この店の名物は、黒蜜入りの葛きりが美味しいんですよ。」「そうですか。ではわたくしもそれをお願いいたします。」「へぇ。」「沖田先生は、甘い物がお好きなのですね。」「ええ。江戸の菓子も美味しいですが、京の菓子は見るだけでも楽しめますね。」「そうですね。沖田先生、今日はこんな素敵なお店に連れて来てくださって、有難うございます。」「礼など要りませんよ。その代わり、わたしの買い食いにこれから付き合ってくださいね。」「わかりました。」 鍵膳で葛きりを堪能した後、千尋と総司が店から出ると、何やら通りに人だかりができていた。「何でしょう?」「行ってみましょうか。」二人が野次馬を押しのけると、道の中央に一人の侍の前にひれ伏す若い娘の姿があった。「どうか、堪忍しておくれやす。」「刀の鍔が当たっただけで、あないに激昂するやなんて・・」「ほんま、壬生狼は怖いわぁ。」若い娘を怒鳴りつけている侍は、よく見ると水戸派の新見錦だった。「新見先生・・」「止しなさい、荻野君。ここで騒ぎを起こしたら、わたし達の印象がますます悪くなります。」「ですが・・」千尋は何とかして若い娘を助けようと、野次馬の中から飛び出そうとした。その時、新見と若い娘の間に、突然一人の青年が割って入って来た。「若い娘さんにそう怒鳴りつけなくてもいいだろう?そんなんじゃ、男が廃るぜ?」「何だ、貴様!」「別に俺ぁ名乗るほどの者でもねぇさ。」青年はそう言って笑うと、新見を睨んだ。紺の着流しを纏い、肩に木刀を担いでいる青年は、自分の喉元に刃を突きつける新見の前でも泰然とした態度を取っていた。一体彼は何者なのだろう―千尋がそう思ったとき、突然新見の身体が地面にたたきつけられた。「おのれ・・」「さっさとここから立ち去りな、俺にこれ以上痛めつけられる前に。」口元に笑みを浮かべながら新見にそう言い放った青年の目は、全く笑っていなかった。「覚えておれ!」新見が去って行った後、青年は地面にひれ伏している若い娘の手をとった。「気を付けて家に帰りなよ。」「おおきに、助かりました。」若い娘は青年に向かって頭を下げると、そのまま通りの向こうへと消えていった。「あの人、身のこなしが軽いですね。」「そうですね。只者ではないことは確かですね。」千尋がそう言いながら総司の方を見ると、彼は青年と目が合った。にほんブログ村
2014年07月05日
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オリジナル小説の更新をこのブログでしておりますが、それとは別にpixivで二次創作小説を書いております。二次創作とオリジナルの決定的に違うところは、世界観を一から構築するか、しないかですね。これまでいくつも二次小説を書いてきましたが、完結までに色々と悩みながら書きました。それはオリジナル小説も同じですが、二次小説は原作ありきですから、そのイメージをぶち壊さずに、自分が書きたい小説を書くというものか。作業が大変なのです。まあ、それが一番の苦しみでもあり、楽しみな訳ですが(^_^)
2014年07月04日
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海辺の町にやって来た少女・アンナは、そこで謎めいた少女・マーニーと仲良くなる。マーニーの正体と、アンナの出生の秘密が終盤近くで明らかになり、とても不思議で感動に満ちたラストに少し胸が熱くなりました。この本に書かれているような人たち、何処にでもいそうですね。自己愛と攻撃欲が強い人とは、余り関わらないほうがいいかもしれませんね。上司を殺した無実の罪で投獄され、家族や恋人を失った雅史の生涯は、虚しいですね。彼の母親が息子を犯罪者へと仕立て上げた刑事や弁護士、裁判官を殺したくなる気はわかりますが、復讐による殺人は何も生まない・・婚約者を殺された刑事が、目撃者の男に向かって怒鳴る言葉に思わず読みながら頷いてしまいました。警察がちゃんと捜査をしていたら、冤罪は防げたはずなのに・・昨日、「少年舞妓・千代菊がゆく!」シリーズの最新刊を近所の書店で購入しました。マルチエンディング形式になっていて、今回の巻では千代菊が楡崎に自分が男であるということを告白するというものでしたが・・まさか、あんな終わり方をするなんて・・バッドエンディングのなにものでもありませんね。あと二冊あるみたいですが、少し拍子抜けたとうか、納得がいかないラストでした。残り二冊のエンディングに少し期待します。ネット上で後味の悪い話として有名な小説ですが、確かに後味が悪かったです。あのセミナーハウスでのくだりは気持ち悪かったし、味方だと思っていた学者も最期は・・ヒロインが一体何をしたのか予想がつきましたが、彼女は自分が正しいことをしたのかどうか、死ぬまで自問自答することでしょうね。
2014年07月03日
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「誰です、そちらに居るのは?」「バレた!」「だからやめろって言っただろうが!」 外の茂みからがさがさと騒がしい音が聞こえたかと思うと、その中から数人の男達が出てきた。「うるせぇぞてめぇら、一体何の騒ぎだ!?」「副長・・」「あの、これは・・」「言い訳は副長室で聞く!てめぇら、さっさと俺について来い!」 千尋が風呂から上がると、彼は総司に呼ばれて副長室に向かった。「副長、荻野です。」「入れ。」 副長室に入った千尋は、歳三の前で正座している数人の男達と目が合った。「こいつらが、先ほどお前が風呂に入っているのを覗いていた。」「まぁ、そうでしたか・・それが、どうかなさいましたか?」「今、俺がこいつらに何でお前の裸を覗いていたのかって聞いていたところだ。」千尋が男達を見ると、彼らは一斉に俯いた。「この前の相沢達の騒ぎといい、今回の騒ぎといい・・隊内の風紀が乱れて困るな。」「土方さん、このままだと埒が明かないので、荻野君をわたしと斎藤さんの部屋に連れて行っても宜しいですか?」「好きにしろ。」「では荻野君、行きますよ。」「はい・・」 副長室から総司とともに出た千尋は、その足で総司の部屋に向かった。「もう遅いから、お休みなさい。」「はい・・沖田先生、あの人たちはどうなるのですか?」「それは、土方さんが決めることですから、わたしにはわかりませんね。」総司はそう言って千尋に微笑んだ。「あなたが京に来たのには、深い事情があるのでしょうね。」「深い事情などありません。ただ、家に居場所がなかっただけです。」「そう。わたしも、九つで試衛館の内弟子になったのは、家の事情で口減らしの為に出されたようなものです。」「そんな事情があったのですか。」「人は誰しも、他人には口外できないような秘密を抱えていますよ。わたしと同室の、斎藤さんも色々と事情を抱えていますからね。」総司はそう言って千尋の隣に横になると、そっと千尋の手を握った。「荻野君、これから辛いことがあったら何でも隠さずにわたしに言ってくださいね。悩みや苦しみを一人で抱えるよりも、二人で分かち合った方が楽になるでしょう。」「はい・・」「さてと、もう寝ましょうか。」「お休みなさいませ、沖田先生。」「お休みなさい、荻野君。」 斎藤が副長室から出て部屋に入ると、彼は総司と千尋と手を握り合いながら寝ている姿を見て思わず笑ってしまった。「おはようございます、沖田先生、斎藤先生。」「おはよう、荻野君。昨夜は良く眠れたようですね?」「ええ、沖田先生のお蔭です。」 翌朝、総司と斎藤が井戸で歯を磨いていると、稽古に向かう途中の千尋はそう言って二人に会釈をし、道場へと向かった。「お前と荻野君は、まるで実の兄弟のように仲が良いな。」「斎藤さん、もしかして荻野君に妬いているんですか?」「何を言う。」 斎藤はそう言って総司を見ると、彼はクスクスと笑いながら井戸から去っていった。にほんブログ村
2014年07月03日
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「千尋ちゃん、あんた珠代ちゃんからあの子の両親の事を何か聞いてないか?」「いいえ。」 亡き母・珠代が生きていた頃、千尋は一度も彼女から自分の祖父母にあたる彼女の両親について何も聞いていなかった。「珠代ちゃんはなぁ、異人とのあいの子やったんや。」篠は千尋の顔を見ながらそう言うと、茶を一口飲んだ。「もしかしたら、あんたのことを探してはる人というんは、あんたの母方のお祖母さんかもしれへんなぁ。」「もしそうだとしても、何故今更になってわたくしのことを探しに来たのでしょうね?」「それは、うちにもわからへんわ。それよりも千尋ちゃん、いつまで京におるつもりなん?」「わたくしは、江戸にはもう戻りません。」「そうか。珠代ちゃんの墓参りにはもう行ったんか?」「いいえ。今度しのさんが母の墓に案内してくださることになったので、その時に母の墓参りに行こうかと・・」「そうした方がええ。なんやこの年になって長生きできてよかったわぁ。こうして千尋ちゃんが成長した姿を見られるんやからなぁ。」「わたくしも、女将さんと久しぶりに会えてよかったと思っております。」 篠と取り留めのない話を一時間ほどした後、千尋は『大和屋』の前で彼女と別れ、屯所へと戻った。「随分と遅かったですね。」「少し人に会っていたものですから・・」「あなたが会っていた人というのは、この前ここへ来ていた女の方ですか?」「いいえ、違います。わたくしが会っていたのは、昔お世話になっていた祇園の置屋の女将さんです。」「そうですか。失礼な事を聞いてしまいましたね。」 玄関先で千尋を出迎えた総司は、そう言うと彼に頭を下げた。「沖田先生、わたくしに何かご用でしょうか?」「ええ。先ほどあなたに江戸のお兄様から文が届いたので、それを渡そうと思ってあなたの帰りを待っていたのですよ。」「有難うございます、沖田先生。」 総司から道貴からの文を受け取った千尋は、大部屋の隅でそれに目を通した。そこには、兄の子を授かったお英が、“不幸な事故”に遭い子を流してしまい、そのことでお英が由美子から激しく詰られたということが書かれてあった。(酷い・・)ついこの前まで、お英が子を授かったことを知った千尋にとって、子を失ったお英がどんな気持ちでいるのか、容易に想像が出来た。そして、お英を流産させたのは由美子の仕業に違いないと、彼はにらんだ。「どうした、そんなに怖い顔して?」「佐助さん・・」千尋は我に返り、自分の背後に立っている佐助に気づいた。「さっきあんた、鬼みてぇな恐ろしい顔をしていたぜ?何か実家の方であったのかい?」「いいえ、何でもありません。」「あんたみてぇな可愛い子ちゃんには、怒り顔よりも笑い顔の方が似合うぜ。」「男に可愛い子ちゃんというのはいただけませんね。」佐助の言葉を受けた千尋が思わず顔を顰(しか)めると、彼は大きな声で笑った。「もうちょっと肩の力を抜いたらどうだい?」「そうですね・・」 夕餉の後、千尋は湯船に浸かりながら溜息を吐いていた。“もうちょっと肩の力を抜いたらどうだい?”(肩の力を抜く、かぁ・・) 人の顔色を窺う癖をどうすればなくせるのだろうかと思いながら千尋が湯船から上がろうとした時、外で何か物音がした。にほんブログ村
2014年07月02日
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遅ればせながら、第四部の感想をここに書いていこうと思います。まさしく、「世界は二人のためにある!」といったイチャイチャラブラブワールドなイングランド組でした。思わず読んでてニヤニヤしました。漸く結ばれたジェフリーと海斗・・ホント、長かったですね。ということは、クライマックスが近いのか?ラストのラウルが何か企んでいるようだし・・和哉も16世紀にきそうだなぁ。あ~、読み終わったあとなのに続きが気になる!遂に戦いの幕が開けましたね。ラウルは今回登場しませんでしたが、あいつはまた何かを企んでいるようだなぁ。それよりも、アロンソは海斗が生きていて、戦場に居ることを知ってしまいました・・どうなるのかなぁ。スペイン・イングランド、両サイド共に色々と波乱に満ちていた巻でした。アロンソの元従者で、ラウルの部下であるトマーソと海斗は会えるのでしょうか?とうとう戦いが始まりました。ビセンテは、海斗が生きていることをまだ知らずにいる・・もし知ったら驚くだろうなぁ。まさかラストでラウルの過去が明らかに。人を愛することでその愛を失い、生きて悪意を撒き散らすラウル。彼とヤンとの関係は複雑ですね。さて、これからどうなるのかまた続きが気になります。本編はシリアスまっしぐらだけれど、グローリア号のメンバー達の過去が明らかになったり、海斗とジェフリーのラブラブ話が読めたりと、楽しめた番外編でした。
2014年07月02日
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イオンのアルティジャーノというパン屋で、早めのランチを頂きました。ピザは、石窯で焼いただけあって、生地がふんわりしていて美味しかったです。アイスコーヒーも、苦くなくてちょうど良い味でした。
2014年07月02日
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江戸から上洛してから半月以上が経ち、千尋は漸く京での生活に慣れてきた。「荻野君、何処かに出かけるのですか?」「ええ。」「気を付けて行ってらっしゃいね。」「はい、わかりました。」 屯所を出た千尋は、その足でかつて自分が住んでいた祇園の置屋『大和屋』へと向かった。 三条大橋を渡り、花見小路を通ると、千尋は祇園の風景が少しも変わっていないことに気付いた。「あら、誰かと思うたら千尋ちゃんやないの。」 背後から突然声がして千尋が振り向くと、そこには宮川町の芸妓・しのが立っていた。「しのさん、お久しぶりです。」「まぁ、随分と綺麗になったなぁ。あんたの亡うなったお母さんによう似てはるわぁ。」しのはそう言って千尋に笑うと、彼を近くにある甘味処へと連れて行った。「しのさん、『大和屋』の皆さんは元気にしておられますか?」「篠さんなら、元気にしてはるえ。それよりも千尋ちゃん、あんた江戸で暮らしていたのと違うの?」「色々と事情がありまして、京で暮らすことになりました。」「へぇ、そうなんや。そういえばなぁ、あんたに会いたいて言う人が、この前うちのお座敷に居たんえ。」「その方は、男の方ですか?」「女のお客様やったわ。お座敷には普通男のお客さんしか居てはらへんから、珍しいなぁと思うて色々と聞いてみたら、そのお客さん、あんたのことを探しているみたいでなぁ・・」「そうですか。しのさん、その女性の年恰好とかはわかりませんか?」「余り長いことそのお座敷に居てへんはったさかい、詳しいことはわからへんかったわ。」「そうですか。」「珠ちゃんのお墓参りには行ったん?」「いいえ、まだ行っておりません。母の墓が何処にあるのかさえ、知りませんし・・」「何やったら今度、うちが珠ちゃんのお墓に案内してあげるわ。」「まぁ、有難うございます。」甘味処の前でしのと別れた千尋は、『大和屋』へと向かった。「御免ください。」「どちらさんどす?」 廊下の奥から出てきたのは、若い舞妓だった。「あの、女将さんにご用があるのですが、女将さんを呼んできては貰えませんでしょうか?」「しずちゃん、誰か来たんか?」「おかあさん、お客様どす。」「千尋ちゃんやないの。」玄関先で千尋を出迎えた篠は、そう言うと彼に優しく微笑んだ。「お久しぶりです、女将さん。」「まぁ、会わん内に綺麗になって・・立ち話も何やさかい、奥でお茶でも飲みながら話でもしようか?」「はい。」「しずちゃん、うちの部屋にお客様を案内しおし。」「わかりました、おかあさん。」先ほど千尋に応対した若い舞妓は篠の言葉を聞いてさっと立ち上がり、千尋を篠の部屋へと案内した。「千尋ちゃん、あんたはてっきり江戸で幸せに暮らしていると思うてたんやけど・・何で京に居るん?」「それには色々と事情がありまして・・それよりも女将さん、さっき宮川町のしのさんから聞いたのですが、わたくしを探している方がいらっしゃるとか・・」「ああ、その話か・・」千尋の言葉を聞いた篠は、そう呟くと深い溜息を吐いた。にほんブログ村
2014年07月01日
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