FLESH&BLOOD 二次創作小説:Rewrite The Stars 6
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
火宵の月 芸能界転生パラレル二次創作小説:愛の華、咲く頃 2
火宵の月 ハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁 0
火宵の月 帝国オメガバースパラレル二次創作小説:炎の后 0
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士 2
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:幸せの魔法をあなたに 3
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 0
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月 昼ドラ大奥風パラレル二次創作小説:茨の海に咲く華 2
火宵の月 転生航空風パラレル二次創作小説:青い龍の背に乗って 2
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
火宵の月×薔薇王の葬列 クロスオーバー二次創作小説:薔薇と月 0
金カム×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:優しい炎 0
火宵の月×魔道祖師 クロスオーバー二次創作小説:椿と白木蓮 1
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:それを愛と呼ぶなら 1
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黄金の楽園 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳥籠の花嫁 0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:蒼き竜の花嫁 0
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国 1
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
火宵の月 転生昼ドラパラレル二次創作小説:それは、ワルツのように 1
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火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
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火宵の月 現代ファンタジーパラレル二次創作小説:朧月の祈り~progress~ 1
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黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
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火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
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火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~ 1
火宵の月 千と千尋の神隠し風パラレル二次創作小説:われてもすえに・・ 0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
火宵の月×天愛クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
火宵の月×ハリー・ポッタークロスオーバーパラレル二次創作小説:闇を照らす光 0
火宵の月 現代転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説:もう一度、始めよう 1
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:愛の螺旋の果て 0
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風パラレル二次創作小説:愛の名の下に 0
火宵の月 和風転生シンデレラファンタジーパラレル二次創作小説:炎の月に抱かれて 1
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 1
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 1
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風昼ドラパラレル二次創作小説:砂塵の彼方 0
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イラスト素材提供:十五夜様ライン素材提供:ひまわりの小部屋様「小母様には、困ってしまうわね。結婚する気が全くないというのに、しつこくわたくし達をひっつけさせようとするんですもの・・」「ああ、まったくだ。」 帝国ホテルへと車を走らせながら、歳三はそう言うと助手席に座る紗江子を見た。「紗江ちゃんは、結婚は?」「今は結婚したくないわ。フランスで本格的に服飾を学んで、小さい頃の夢だったデザイナーへの道を歩き出そうとしているところなのよ?そんな時期に、結婚なんて考えられないわ。」「そうか・・」「それよりも、歳三様の妹さん・・確か千尋さんといったわよね?彼女、今おいくつなの?」「今年で13になるんだが・・母さんはあいつの嫁ぎ先を必死で探しているんだよ。」「まぁ、酷い。まだ13の千尋さんを、顔も知らない相手と結婚させようとなさっているの、小母様は?」「ああ。母さんは、早く千尋を家から追い出したいんだろう・・」歳三はそう言うと、ハンドルを握り締めた。「お嬢様、気がつかれましたか?」「ええ・・ねぇ、義兄様は?」「坊ちゃまなら、紗江子様をホテルまで送られました。」「そう・・」「お嬢様、お休みなさいませ。」「お休み。」 千尋の部屋から出た睦が母屋へと戻ると、台所で怜子が険しい表情を浮かべながら女中達を叱っていた。「このお皿、油汚れが残っているじゃないの!あなた方には給金分ちゃんと仕事をして貰わないと困りますよ!」「申し訳ございません、奥様・・」「二度と同じことをしたら、許しませんからね!」怜子はそう言って女中達を睨んだ後、台所から出て行った。「今夜の奥様は何やら機嫌が悪いねぇ。」「そりゃそうだろう、あの離れの子の嫁ぎ先がなかなか見つからないんだからさ。」「13の娘の嫁ぎ先を探すなんて、無理に決まっているよ。そんなに奥様は、この家からあの子を追い出したいんだろうかねぇ?」「それよりも、歳三坊ちゃまはどうなさるおつもりなんだろうかねぇ?まさか、生涯独身を貫かれるおつもりじゃないだろうねぇ?」「別にいいじゃないか、そんな事。あたしらには所詮、関係のない事さ。」睦は女中達の噂話を黙って聞きながら、汚れた皿を洗った。「歳三様、送ってくださってありがとう。」「紗江ちゃん、おやすみ。」帝国ホテルの前まで紗江子を送り届けた歳三は、そのまま車で自宅へと戻った。「お帰り、歳三。」「母さん、紗江子さんとは何もありませんでしたよ。」「あら、そう・・」「この際だから言っておきますが、俺は結婚する気はありません。だから、要らぬお節介はしないでください。」「ま・・」歳三の言葉を聞いた怜子の顔は、怒りで赤く染まった。「それともうひとつ。あなた最近、千尋の嫁ぎ先を探していらっしゃるようですが、それも止めていただきたい。」「歳三、あなた千尋のことをどう思っているの?まさか・・」「部屋で休みます。」歳三はそう言うと、怜子に背を向けて居間から出て行った。 翌朝、離れで歳三が千尋と朝食を取っていると、部屋に何やら慌てふためいた様子で睦が入ってきた。「坊ちゃま、お嬢様、大変です!」「どうしたの睦っちゃん、慌てた顔をして?」「土御門興産が、倒産したそうです!」にほんブログ村
2014年03月13日
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イラスト素材提供:十五夜様ライン素材提供:ひまわりの小部屋様 客間で歳三と紗江子が昔話に花を咲かせている頃、母屋の浴室では千尋が浴槽に浸かりながら歳三と紗江子の関係を邪推し始めていた。(あの紗江子さんという方は、義兄様にとってどのような方なのかしら・・もしかして、ご結婚の約束を交わされたのでは・・) 客間で紗江子をもてなした睦によると、彼女はデザイナーになる為に単身フランスへ4年間留学し、帰国次第自分の店を銀座に開くつもりだという。女学校へ行けるのは、ほんの一握りの女性だけで、大半の女性は女中奉公に行ったり、女郎屋に売られたりしていた時代で、紗江子は自分の夢を叶える為に誰も頼らず、異国の地で学問を修めた。 それを睦から聞いた千尋は、同性として紗江子に対して嫉妬と憧憬(どうけい)の念を抱いた。彼女に比べると、自分は親の脛を齧り、女学校も親の金で通わせて貰っているし、生活費だって親が払ってくれている。(わたくしは、紗江子さんにはかなわないわ・・)千尋は湯船に顔を深く沈ませると、そのまま気を失った。「お嬢様、しっかりなさってください!」「睦、どうした?」「お嬢様の寝間着を置こうと浴室に行きましたら、浴室の中がやけに静かなので変だと思って扉を開けましたら・・お嬢様が湯船の中でお倒れになっていたんです!」睦はそう言うと、大きな団扇で湯にのぼせてしまった千尋の顔を扇いだ。「千尋、しっかりしろ!」歳三が千尋の頬を平手で叩くと、彼女は低く呻いた後目を開けた。「坊ちゃま、お嬢様はわたくしに任せて、坊ちゃまは客間にお戻りくださいませ。」「だが・・」「お嬢様は、坊ちゃまの前で醜態を晒したくないと思っておいでですので・・」千尋が目覚めるまで浴室に留まろうとした歳三だったが、睦からそう言われ、彼は客間へと戻った。「何か浴室で騒ぎがございましたの?」「いや・・何でもない。」「どうせまた、あの子が長湯でもしてのぼせたのでしょう?全く、学校で怪我をしたのかと思えば、今度は湯にのぼせるなんて・・何て落ち着きがない子なのでしょうね、千尋は。」怜子は吐き捨てるような口調でそう言った後、グラスに注がれた白ワインを飲んだ。「歳三様、あなた妹さんがおられるの?」紗江子はそう言うと、歳三を見た。「ああ。妹といっても、母親違いの妹だがな。」「紗江子様、突然フランスから帰国なさったのは、銀座でご自分のブティックを開く為だとお聞きしましたわよ?」「ええ。わたくしは経営に関しては完全に素人です。歳三様に手伝って頂ければ、嬉しいのですけれど・・歳三様も、お忙しい身ですし・・」「あら、うちの歳三でよければ、こき使ってくださいな!」怜子はそう言うと、椅子の下で歳三の向う脛を軽く蹴った。歳三が痛みに顔を顰めていると、紗江子が怪訝そうな表情を浮かべながら彼を見た。「どうかなさったの、歳三様。」「紗江ちゃん、俺でよければ、手伝うよ。」「まぁ、ありがとう。見知らぬ方にお願いするよりも、歳三様にお願いした方が助かるわ。」「紗江子様、今夜の宿はもうお決まりになっているの?」「ええ。帝国ホテルに部屋を取りました。」「そう・・歳三、紗江子様を帝国ホテルまで送ってさしあげなさい。」「わかりました、母さん。」紗江子とともに客間から出ようとした歳三の手を、怜子が突然掴んだ。「いい、紗江子様をその気にさせるんだよ?」「母さん、やめてくれよ、こんな時に・・」「モタモタしていないでさっさとお行き!」怜子はそう言うと、息子の背を平手で叩いた。にほんブログ村
2014年03月13日
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イラスト素材提供:十五夜様ライン素材提供:ひまわりの小部屋様「千尋、学校で怪我したって本当か!?」「義兄様、学校まで迎えに来て下さったの?」 放課後、千尋と千華が校門から外へと出ようとした時、二人の前に一台の車が停まり、その中から歳三が降りて来た。「お前の帰りが遅いから、気になって迎えに来たんだ。」「ごめんなさい義兄様、家に連絡するべきでしたわね。」「じゃぁ千尋さん、わたしはここで失礼するわ。」「千華さん、今日はありがとう。さようなら。」「ええ、また明日ね。」千華と校門の前で別れた千尋は、歳三が運転する車の助手席に乗り込んだ。「お前、そんな事を同級生に言ったのか・・」「ええ、だって本当の事だもの。」 自宅へと向かう車の中で、千尋は今日学校で起きた事を歳三に話した。「お前なぁ、いくら本当の事だといっても、それを相手に言うのは駄目だろうが?」「千華さんも、義兄様と同じことをおっしゃっていたわ。一体わたしの何処がいけなかったの?」「お前ぇは相手に本当の事を言ってよかったと思っているんだろうが、向こうは公衆の面前でお前に侮辱されたって感じたんじゃねぇのか?」「あ・・」歳三の言葉を聞いた千尋は、自分に憎悪に満ちた視線を送る同級生の姿が脳裏に甦った。「千尋、言葉ってもんは、良く考えて口に出すものなんだよ。たとえ本当の事だからって、すぐに相手にそれを伝えちゃならねぇよ。」「わかりました・・」「右手の怪我は、どうだ?」「千華さんに湿布を貼って貰ったから、少しは良くなったわ。」「そうか。」 帰宅した歳三と千尋は、母屋の玄関に女物のハイヒールが置かれていることに気づいた。「誰か、お客様がいらしているのかしら?」「さぁ・・」「あら歳三、やっと帰って来たのね!」客間からドレスで着飾った怜子が出て来たかと思うと、彼女はそう言って歳三に笑顔を浮かべた。「今、紗江子(さえこ)様がいらしているのよ。」「紗江ちゃんが?」「あなたにご挨拶したいって、フランスから帰国したばかりなのにうちに寄ってくださったのよ。歳三、そんな所で突っ立ってないで、さっさと客間に入りなさい!」怜子は歳三の手を掴むと、そのまま客間の中へと戻った。「お嬢様、お帰りなさいませ。」「ただいま。睦ちゃん、今日は早く休むから、お風呂沸かして頂戴。」「かしこまりました。」千尋は客間の前を通り過ぎると、中庭を通って離れへと向かった。「お久しぶりですわね、歳三様。」「久しぶりだな、紗江ちゃん。」歳三が怜子とともに客間に入ると、そこにはペンシル・ラインの深緑のドレスを上品に着こなした松本男爵家の娘・紗江子がチンツ張りの椅子に座っていた。彼女はデザイナーを志し、パリに4年間留学していた。「長旅で疲れているのに、うちに寄ってくれて有難う。」「暫く会わない内に男前になりましたわね、歳三様。」「お前こそ、暫く会わない内に良い女になったな、紗江ちゃん。」「ふふ、歳三様にそう言っていただけると嬉しいわ。」 紗江子はそう言うと、歳三に微笑んだ。にほんブログ村
2014年03月12日
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イラスト素材提供:十五夜様ライン素材提供:ひまわりの小部屋様「荻野さん、この前の英作文の宿題、良く出来ていましたよ。」「ありがとうございます、先生。」 教室で担任・鈴田から英作文の宿題を受け取りながら、千尋はそう言うと嬉しそうな顔をして席に戻った。「荻野さん、最近先生から褒められてばかりいるわね?」「あら、そうかしら?」「あなた、何か先生に贈っているんじゃなくて?」「それ、どういう意味かしら?」千尋はそう言うと、隣に座っている同級生を睨んだ。「言葉通りの意味よ。先生があなたを贔屓にしているのは、何か賄賂(わいろ)を贈っているからじゃなくて?」「あなた、そんな馬鹿な事を考えてばかりいるから、いつまで経っても成績が悪いんだわ。」千尋は同級生に背を向けると、彼女の敵意に満ちた視線を感じた。「ねぇ千尋さん、さっきのは少し言い過ぎではなくて?」「あら、本当の事じゃないの。」体育の時間、友人の千華(ちはな)からそんなことを言われた千尋は、彼女の言葉をそう一蹴した。「あなた、あの子が怒ると怖いってこと、知らないから呑気でいられるのよ。気を付けた方がいいわよ。」「気を付けるって・・何に気を付けたらいいのかわからないわ。」千尋がそう言って千華を見た時、木陰であの同級生が自分に恨めしそうな視線を送っている事に気づいた。「それでは皆さん、二人一組になって薙刀の練習をしましょう!」「はい!」あの同級生と組むことになった千尋は、少し嫌な予感がしたが、彼女に向かって一礼した。「それでは、はじめ!」周りの生徒達が薙刀を構え、一斉に蹲踞(そんきょ)の姿勢を取った。千尋も彼女達に倣って蹲踞(そんきょ)の姿勢を取ろうとした時、同級生が突然薙刀を千尋の頭部目掛けて振り下ろしてきた。咄嗟の事で頭が混乱していた千尋だったが、彼女は薙刀の柄で同級生の攻撃を受けた。その時、彼女の右手に鋭い痛みが走った。「わたしを馬鹿にするからよ。」頭上から降って来た声を聞き、千尋が俯いていた顔を上げると、目を爛々(らんらん)と輝かせた同級生が自分を見つめていた。千尋はさっと立ち上がると、薙刀の柄を握り締め、同級生の脛(すね)を打った。「千尋さん、大丈夫!?」「井村さん、後で詳しい事情を聞きますから、わたくしと職員室にいらっしゃい。」「先生、あいつが悪いんです!あいつが、わたしを馬鹿にして・・」「お黙りなさい!高原さん、荻野さんを医務室へ連れて行ってあげてください。」「わかりました、先生。」騒然とする校庭を後にした千華と千尋は、人気がない医務室へと入った。「右手、見せて頂戴。」「ええ・・」千尋がそう言って千華に右手を見せると、そこは赤く腫れていた。「酷いわね、こんなに腫れて・・」千華は湿布を千尋の右手に貼りながら、溜息を吐いた。「あの人、朝の事を根に持っていたのね。」「そりゃぁ、あんな事を言われたら、誰だって怒るわよ。」「でも、本当のことなのよ?それを相手に伝えただけなのに・・」「千尋さん、何も全て本当の事を言っていいってものではないわ。もう少し考えないと駄目よ。」にほんブログ村
2014年03月12日
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イラスト素材提供:十五夜様ライン素材提供:ひまわりの小部屋様(ったく、かったるいなぁ・・)歳三はネクタイを緩めながら、パーティーの喧騒から逃れるように人気のないバルコニーへと向かった。 彼は佐伯侯爵家のパーティーに、嫁探しの為に来ていた。 歳三はこういったパーティーの類は大嫌いで、招待状が届いても必ず欠席の返事をする。だが、今回のパーティーで何としても歳三を結婚させたいと思っている怜子は、勝手に歳三がパーティーに出席するという返事を先方に送ってしまった。『いい、今夜のパーティーで嫁を見つけて帰ってくるのですよ!』佐伯侯爵家へと向かう前、そう怜子から発破をかけられた歳三であったが、彼はもう帰りたくなってしまった。(俺は当分結婚なんてしねぇよ、クソ婆!)怜子に向かって心の中でそう毒づきながら、歳三はバルコニーから離れて大広間から出て行こうとした。その時、誰かが彼の上着の裾を掴んだ。何だろうと思いながら歳三が振り向くと、そこには7,8歳のナイトガウンを着た少女が立っていた。一体何故こんな場所に子どもが―そんな疑問を歳三が抱き始めた時、白い割烹着(かっぽうぎ)姿の女性が大広間に入ってきた。「まぁさやかお嬢様、こちらにいらしていたのですね?」割烹着姿の女性はそう言うと、少女の手をひいて大広間から出て行こうとした。「わたし、まだここに居たい。」「いけません、もうお休みの時間ですよ。」「でも・・」二人がそんな会話を交わしている時、楽団がワルツを演奏し始めた。「可愛いお嬢さん、わたしと一曲踊って頂けませんか?」歳三はそう言うと、少女に向かって右手に差し出した。「ええ、喜んで。」―まぁ、可愛らしいこと・・―あの方は、どなたなのかしら?―素敵な方ねぇ・・煌めくシャンデリアの下で、ワルツを踊る歳三と少女の姿を、パーティーの招待客達は笑顔を浮かべながら見ていた。「お嬢様、もうお部屋にお戻りくださいませ。」「わかったわ。」少女はそう言うと、歳三に向かって微笑んだ後、乳母に手をひかれながら大広間を後にした。「ねぇ、わたくしと踊って下さった方はどなた?」「土方歳三様でございますよ。」「わたくし、大きくなったらあの方と結婚するわ。」「まぁお嬢様、ご冗談を。」「わたくしは本気よ。」自分の言葉を冗談として捉えて笑う乳母を睨むと、少女は頬を膨らませて拗ねた。「お帰りなさい、歳三。パーティーはどうだったの?」「小さなレディとワルツを踊りましたよ。パーティー自体は退屈でしたが、彼女とワルツを踊った時間だけが楽しかったです。」「そう・・」 怜子はパーティーから帰宅した歳三の言葉を聞き、落胆した表情を浮かべた。にほんブログ村
2014年03月11日
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イラスト素材提供:十五夜様ライン素材提供:ひまわりの小部屋様「何故、このような事をなさるのです?」「決まっているだろう、君を愛しているからだ。」遼太はそう言うと、千尋の唇を塞いだ。「てめぇ、俺の妹に何していやがる!?」二人の背後で歳三の怒声が聞こえたかと思うと、遼太は歳三に殴られて縁側へと吹っ飛んだ。「お止め下さいまし、坊ちゃま!」「止めるな!」「お止め下さいませ、義兄(にい)様!」歳三が縁側に転がった遼太の上に馬乗りになってなおも彼を殴ろうとするのを見た千尋と睦は、慌てて歳三を止めに入った。「土御門様、今日のところはお帰り下さいませ!」「わかったよ・・無粋な真似をして済まなかったね、千尋ちゃん。」口の端に滲んだ血を手の甲で拭った遼太は、そう言って客間から出て行った。「千尋、あいつに変な事をされなかったか?」「ええ。」「まぁ、一体何の騒ぎです!?」客間での騒ぎを聞きつけた怜子(れいこ)は、客間に入ると割れた花瓶の残骸が絨毯(じゅうたん)の上に転がっているのを見て絶句した。「奥様・・」「千尋、この花瓶は高いのよ!弁償して頂戴!」「申し訳ございません・・」「母さん、花瓶を割ったのは俺と遼太だ。千尋を責めるな。」「歳三、いつもお前はそうやって千尋の肩をもつんだから。」千尋が花瓶を割った濡れ衣を着せられそうになり、歳三は怜子に真実を話すと、彼女はそれを頑なに信じようとはしなかった。「睦、後片付けをお願いね。」「かしこまりました、奥様。」「睦っちゃん、わたしも手伝うわ。」「お嬢様は、ご自分のお部屋にお戻りくださいませ。ここはわたくしがやりますから。」「義兄様、わたくしの所為でご迷惑をお掛けしてしまって、申し訳ございません。」「謝るな、お前ぇは何も悪くねぇんだから、余りそう自分を責めるな。」「ですが・・」 その日の夜、歳三は千尋が居る離れで夕食を取りながら、昼間の出来事をひたすら自分に詫びる千尋にそんな言葉を掛けた後、彼女を自分の方へと抱き寄せた。「義兄様!?」「遼太のやつ、昼間はわざと俺の前であんな事をしたんだ・・お前が、俺に気があるのを知っていて・・」「義兄様・・」「千尋、余り遼太とは二人きりで会わないで欲しい。」「わかりました。」「それよりも千尋、女学校の方はどうだ?」「毎日が楽しいです。仲のいいお友達が出来ましたし。」「そうか、それは良かったな。」 離れの方から時折聞こえて来る千尋と歳三の笑い声を母屋のダイニングルームで聞きながら、怜子は苛立ちをぶつけるかのように、ステーキをナイフで一口大に切った。「どうした、そんなに苛々して・・何かあったのか?」「あなた、歳三には早く身を固めて貰わないと、あの子はいつまで経っても千尋から離れませんわ!」「兄妹が仲良くしていてどこがおかしいんだ?お前は色々と考え過ぎなんだよ。」「あなた・・」にほんブログ村
2014年03月11日
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イラスト素材提供:十五夜様ライン素材提供:ひまわりの小部屋様 翌朝、千尋と歳三は宿を出て、東京行きの始発汽車で鎌倉を発った。「千尋、家に帰る前に寄りたいところがあるんだが・・一緒に付き合ってくれねぇか?」「ええ・・でも、何処に行かれるのですか?」「それは、行けばわかるさ。」 東京駅で汽車から降りた歳三は、千尋を連れて銀座にある高級宝石店に入った。そこにはエメラルドやダイヤモンドの指輪やネックレスがショーケースの上に陳列され、時折美しい輝きを放っていた。「まぁ、綺麗・・」「土方様、いらっしゃいませ。」店の奥から、黒いワンピースを着た女店員がショーケースの前にやって来た。「頼んでおいた物を、持って来てくれ。」「はい、かしこまりました。」女店員はそう言って歳三と千尋に微笑むと、再び店の奥へと消えた。「千尋、暫く目を閉じていろ。」「どうして?」「いいから。」千尋が暫く目を閉じると、彼女は指に何か冷たい物が触れる感覚がした。「目を開けろ。」「はい・・」ゆっくりと千尋が目を開けると、自分の左手の薬指には先程までショーケースの上で輝きを放っていたダイヤモンドの指輪が嵌められていた。「義兄様、これは・・」「お前の女学校の入学祝いにここで買ったんだ。受け取ってくれ。」「こんな高価な物、受け取れませんわ。」千尋がそう言って指輪を抜こうとすると、歳三がそっと彼女を制した。「素直に俺の好意として、指輪を受け取ってくれ。」「まぁ、ありがとうございます・・義兄様。」千尋は歳三に笑顔を浮かべると、彼は羞恥で顔を赤く染めて俯いた。 自宅に戻った千尋は、自分の部屋にある押し入れの天袋にしまってある宝石箱を取り出すと、そこに歳三から贈られたダイヤモンドの指輪をしまった。「千尋、居るの!?」「はい、お義母様。」「千尋、昨夜お前歳三と鎌倉で一泊したそうね?」「はい・・」怜子は怒りに滾った目で千尋を睨むと、何も言わずに彼女の部屋から出て行った。「お嬢様、お客様がいらっしゃっております。」「睦っちゃん、お客様ってどなた?」「土御門様とおっしゃられる方です。」「土御門様が?」千尋が部屋から出て客間へと向かうと、そこには歳三の友人である土御門遼太(つちみかどりょうた)がソファに座って寛いでいた。「土御門様、お久しぶりでございます。」「千尋ちゃん、久しぶり。」客間に千尋が入ってくるのを見た遼太は、さっとソファから立ち上がるとそう言って彼女に微笑んだ。「兄は只今外出しておりますが、何か兄にご用ですか?」「いや、用があるのは歳三じゃなくて、君に用があるんだ。」「わたくしに?」「ああ。」遼太はそう言うと、そっと客間のドアを閉めた。「ねぇ千尋ちゃん、僕の所にお嫁に来て欲しいんだ。」「土御門様・・」「君が密かに歳三の事を好いていることは知っているよ。」遼太はそう言って千尋に微笑んだ後、彼女の華奢な身体を抱き締めた。「土御門様、お離しください!」「嫌だと言ったら?」にほんブログ村
2014年02月25日
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イラスト素材提供:十五夜様ライン素材提供:ひまわりの小部屋様 女学校に入学した千尋は、同じクラスで何人か仲の良い友達が出来た。今まで家の中に閉じこもり、外の世界を全く知らずに育った千尋にとって、女学校は楽しい所だった。「ただいま帰りました。」「お帰り。学校はどうだった?」「楽しかったです。」「そうか、それは良かった。」歳三はそう言うと、千尋の言葉を聞いて嬉しそうに目を細めた。「千尋、もうすぐお前の母さんの月命日だな。」「そうですね。」「今週末、一緒に俺と鎌倉に行かないか?」「はい、喜んで。」 週末、千尋は歳三とともに千尋の母が眠る鎌倉市内にある墓地へと向かった。「お母様、お久しぶりでございます。」母の墓前に花を供え、両手を合わせた千尋はそう言うと、ゆっくりと目を閉じた。歳三はそんな彼女の様子を見ながら、そっと墓の前から離れた。「おや、今月も来なさったのですね。」「住職様、お久しぶりです。」「すっかりご立派になられましたなぁ。」寺の住職はそう言うと、歳三を見た。「東京の方はどうですか?」「相変わらずですよ。最近、母は俺に縁談を勧めてくるんです。お前もそろそろ良い年なのだから身を固めろと・・」「それは当然だ、君ももう良い年だからなぁ。」住職は縁側で茶を一口飲んだ後歳三を見てそう言うと、彼は溜息を吐いた。「俺はまだ、結婚したくないんですよ。千尋の事があるし・・」「お主はまだ妹離れしておらんのか?困ったものじゃのう。」「からかわないでください、住職様。俺は・・」「義兄様、こちらにいらしていたのですね。」 千尋が住職を何かを話している歳三を見つけ、寺の中庭から中に入ると、住職は気を利かして縁側から離れた。「なぁ千尋、お前ぇこれからどうするつもりだ?」「何ですか義兄様、いきなりそんな事をお聞になるなんて・・」「いや、何でもない・・忘れてくれ。」「そうですか・・何だか義兄様、最近変ですよ?」その日は鎌倉に一泊せずに東京へ帰る予定だったが、突然大雨に降られ、歳三と千尋は駅の近くにある宿で一泊する事になった。「どうぞ、こちらです。」宿の仲居に案内されて入った部屋の中央には、一組の布団の上に二つの枕が置かれてあった。「まぁ・・」「てっきり俺達の事を新婚の夫婦だと思ったみてぇだな、宿の者は。」歳三はそう言って溜息を吐くと、押し入れの中から布団を取り出した。「俺はこっちで寝る。」「そうですか・・」「明日の朝は早く出るから、早く寝ろよ?」「はい・・お休みなさい、義兄様。」「お休み。」 夜の帳が下りても、千尋はなかなか寝付けずにいた。何故なら、自分に背を向けて眠っている歳三の存在が気になってしまうからだった。そっと布団から出た千尋は、歳三の枕元に立ち、彼の寝顔を見つめた。自分よりも肌理が細かくて抜けるような白い肌をして、目鼻立ちが整っている義兄の寝顔を見ながら、千尋は彼の唇に口付けたいという衝動に駆られた。(少しだけなら・・)恐る恐る千尋が己の唇を歳三の唇に近づけようとした時、歳三が突然低い声で呻いて寝返りを打った。(わたし、何て馬鹿なことを!)にほんブログ村
2014年02月25日
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イラスト素材提供:十五夜様ライン素材提供:ひまわりの小部屋様「おう、帰ったぞ。歳三はどうした?」土方家当主・篤俊(あつとし)がそう言って居間に入ると、そこには不機嫌な表情を浮かべた彼の妻・怜子がソファに座っていた。「あの子なら、あの女の所ですよ。」「なんだ、そうか。」「あなた、あの女を早くこの家から追い出して頂戴な!あの女は夜な夜な下手糞な癖に月琴を弾いては、母親の霊を呼び出してあたくしの枕元に立たせているのよ!」「そりゃぁ、お前の被害妄想に過ぎないだろう?千尋はそんな嫌がらせをするような子じゃないさ。」「まぁ、あなたったら、いつもあの子の肩をお持ちになるのねぇ!」怜子は夫の言葉を聞くなり頬を膨らませ、居間から出て行った。一人ソファに取り残された篤俊は、ネクタイを緩めながら溜息を吐いた。「義兄様、起きてくださいな。」「何だよ、うるせぇなぁ・・」 畳の上に寝転がり、座布団を枕代わりに、スーツの上着を布団代わりにして寝ていた歳三の身体を千尋が揺さ振ると、彼は低く呻きながらゆっくりと起き上がった。「こんな所で寝ていては風邪をひいてしまいます。どうか、お部屋に戻ってくださいませ。」「いいじゃねぇか、たまにはここで布団を並べて二人で寝ても。」歳三はそう言うと、腹違いの妹を抱き締めた。「そのようなこと、奥様がお許しになる筈がないでしょう?」「ふん、俺はあんな婆の言う事なんて聞くもんか。」「義兄様・・」頑として自分の部屋から出ようとしない歳三を前に困り顔を浮かべた千尋は、溜息を吐きながら奥の廊下の方から足音が聞こえてくることに気づいた。「坊ちゃん、またこちらにいらしておいででしたか。」すっと部屋の襖が開き、二ヶ月前に土方家にやってきた女中・睦(むつ)が部屋に入ってきた。「お願いですから義兄様、どうかお部屋にお戻りくださいませ。」「おお睦、丁度いいや。俺の部屋から布団を運んで来い。」「かしこまりました。」密かに惚れている歳三の頼みごとを断れず、睦はそう言うと再び襖を閉めて歳三の部屋へと向かった。「こうして一緒に布団を並べて寝ていると、子どもの頃のことを思い出すなぁ・・」「ふふ、そうですわね。まだお母様が生きていらした時、義兄様はよく鎌倉に遊びに来てくれましたわね。」 その日の夜、歳三と共に布団を並べてそこに横になりながら、千尋は母が生きていた幼き頃、鎌倉で歳三と過ごした楽しい夏の日々に想いを馳せていた。毎年夏になると、いつも東京で離して暮らしている歳三がやって来ると、母と二人で暮らしていて静まり返っている別邸の中が急に賑やかになり、歳三は千尋を海水浴や夏祭りに連れて行き、彼女が欲しい物を買ってやったりしていた。 まだその頃は自分達が腹違いの兄妹であるという複雑な事情も知らず、仲のいい幼馴染同士だと二人は信じて疑わなかった。「千尋、春から女学校に行くんだってな?」「ええ・・」「誰かに苛められたら俺に言えよ。俺がそいつを懲らしめてやるから。」「もう、義兄様ったら・・」歳三の言葉を聞いた千尋がそう言って噴き出すと、それにつられて歳三も大声で笑った。 肌寒い2月が過ぎ、桃の節句が過ぎて桜の季節を迎える頃、千尋は女学校入学の日を迎えた。「まぁ、良くお似合いだこと。」「お嬢様はお振袖と袴姿も似合うけれど、セーラー服もお似合いになるのね。」真新しい紺サージのセーラー服姿の千尋を遠目で見ながら、女中達はそんな事を囁き合い、どこか浮き足立った様子で給仕をしていた。「義兄様。」「千尋、良く似合うぞ。」「ありがとうございます。」自分の髪に蒼いリボンを飾ってくれた歳三に何処か照れ臭そうな笑みを浮かべた千尋は、意気揚々と土方家の門を出て女学校へと向かった。にほんブログ村
2014年02月23日
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イラスト素材提供:十五夜様ライン素材提供:ひまわりの小部屋様 雪がしんしんと降り積もる夜に、今日もまたあの部屋からどこか物哀しげな月琴の音色が聞こえてきた。「ほら、また・・」「奥様がすぐに癇癪を起こされるよ・・」廊下で月琴の音色を聞いていた女中達がそんな会話を交わしていると、不意に彼女達の前にあった部屋の襖が大きく開け放たれ、そこから顔を怒りで赤く染めた一人の女が出て来た。「煩い、静かにしろ!」女はそう言うと中庭に降り、月琴の音色がする部屋に向かって大声で怒鳴った。「ほら、言わんこっちゃない。」「くわばら、くわばら。」女中達はそそくさと女の前を通り過ぎて廊下の奥へと消えていった。女はというと、裸足のまま月琴の音色がする部屋の襖を乱暴に開け放ち、土で汚れた足でその部屋の畳を踏みながら、月琴を奏でる一人の少女の頬を平手で打った。 女に打たれた少女は泣きもせず、鮮やかな金髪を波打たせながら畳の上に蹲った。「毎晩毎晩あんたの下手糞な月琴の音を聞いているこっちの身にもなってみろ!お情けでここに置いてやっているというのに・・」「すいません、すいません。」「まったく、可愛げがない子だこと!」女は不快そうに鼻を鳴らすと、そのまま少女の部屋から出て行った。 部屋に一人取り残された少女―千尋は、女が残していった泥の足跡を恨めしそうな目で見つめながら、溜息を吐いた。 千尋がこの家に引き取られることになったのは、彼女の唯一の肉親であった母親が一昨年の春に病死した後のことだった。名のある資産家の妾として母は鎌倉の別邸をその男から与えられ、彼女が死ぬまで千尋は母と親子二人で互いに支え合いながら生きて来た。だがその母が病死し、頼れる身内がいない千尋を哀れに思い、男は自分の本妻と子が暮らす家に彼女を娘として引き取ったのだった。 男の本妻は、妾の娘である千尋が気に入らず、母の形見である月琴以外、彼女が持っていた宝石や着物などを全て取り上げては自分の物にしていた。この家に仕えている女中達も女主人である本妻に倣い、千尋に辛く当っていた。誰一人味方が居ないこの家で、千尋は夜な夜な月琴を弾いて亡き母を偲んでいた。「千尋、居るか?」女に汚された畳を雑巾で千尋が拭いていると、廊下の方から義兄・歳三の声が聞こえた。歳三だけは、千尋の事を唯一気に掛けてくれる存在だった。「はい、居ります。」「邪魔するぞ。」歳三はそう言うと、部屋に入った。「今日は千尋に、土産を買ってきたんだ。」「お土産、ですか?」「そうだ。」歳三はスーツのポケットから、金平糖が入った袋を取り出すと、それを千尋に手渡した。「まぁ、ありがとうございます義兄(にい)様。」「今日もあの人から怒られたのか?」「ええ・・」「まぁ・・」「まったく、あの人はすぐに癇癪を起こして困るな。」歳三はそう言って溜息を吐くと、千尋が抱えている月琴を見た。「千尋、お前の月琴を聞かせてくれねぇか?」「そんな・・義兄様に聞かせられるようなものではございません。」「いいじゃねぇか、聞かせてくれよ。」「では・・」 千尋の部屋からまた月琴の音が聞こえてきたので、女がまた彼女の部屋に向かい、襖をそっと開けて中を覗くと、そこには歳三が畳の上に寝そべって千尋が奏でる月琴の音に耳を傾けていた。にほんブログ村
2014年02月23日
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