5月8日(水)
現代俳句(抜粋:後藤)(38)
著者:山本健吉(角川書店)
発行:昭和39年5月30日
渡辺水巴(5)
寂寞 と 湯 婆 に足をそろへけり
老いの感慨がしっとりと打ち出されている。湯たんぽの大きさが想像される。次いでじっとそろえた行儀のよい足が…。昭和二十年の早春の作。誰しも死の間近にあるのを感じていた時。老いの命が、小さな湯たんぽから足の裏へ伝わるほのかなぬくみに取りすがっている。そのささやかな恵みへの感謝の気持ち、さらに寂しい諦観の気持ちが、この句を成した。
四阿 や此処に春ゆく 木瓜 二輪
前書き:「矢野氏邸園」
四阿のほとりにゆくりなく見つけた可憐な二輪の木瓜に、行く春の寂しい姿をはっきりと見とめたのである。「此処に春ゆく」の表現に、発見の驚きが打ち出されている。木瓜はとくに草木瓜ならずとも可憐な灌木であり、地に咲くものであるから、「此処に」と言って、大地を匂わしすぎて行った春の名残を二輪の花にとどめている場所の感じがよく打ち出されている。
(つづく)
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