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母の病状が思わしくないため、急遽福岡に来ています。 新刊の更新、コメントへの返信等、しばらくできないと思います。申し訳ありません。
2006年01月27日
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最初の100ページまでがなかなか進まなくて、久々にくじけそうになりました。ところがその後、事件が起こる頃からは読みやすくなったので、投げ出さなくて良かったというところでしょうか。そうなると、逆にじっくり読みたい、と言う気分になりました。大邸宅に名士が集まり、シェークスピアの劇を上演しようとするところまでが、頑張りどころ。なぜならば、やたら登場人物が多いからです。軽く30人以上はいます。登場人物表にポストイットを貼って、名前が出てくるたびに確かめること数十回、そのおかげで今はほんの端役まで完璧に把握できています。田園にたたずむ英国有数の貴族ホートン公の邸宅、スカムナム館にて「ハムレット」が上演されることになりました。ハムレット役の俳優をのぞいては、各界の名士が参加する素人芝居です。上演前からおかしな文書が送られてきたため、出演者たちは不安をかかえていましたが、ついに『ハムレット』上演中に、ボローニアス役の大法官が銃で撃たれて死亡するという事件が起こります。被害者は国家機密に関わる文書を常に持ち歩いていたため、首相直々の要請があり、スコットランド・ヤードのアプルビイ警部が現場に急行します。これは1937年に書かれた作品で、アプルビイ警部シリーズの2作目です。1作目の『学長の死』は絶版となっています。作者のマイクル・イネスはシェイクスピア研究など学究生活の傍ら、アプルビイ警部シリーズを中心に、40冊以上のミステリを発表しました。どうやら、アプルビイ警部は順調に出世して、後々かなり偉くなるようです。ところが、日本での扱いは不遇でした。この作品の旧訳は、「翻訳が悪い。」ので有名だったらしく、読者に敬遠されしまったようです。そのためか、江戸川乱歩が絶賛したことで幻の名作として名高かった「ある詩人への挽歌」が日本語で読めるようになるまでには五十年以上かかりました。今回読んだものは、1997年に国書刊行会より探偵小説全集の一冊として読みやすい新訳で出版されたもの。その後同じ全集で、『ストップ・プレス』が出されています。奇想、奇抜な動機、奇人変人たち、莫迦ばかしさと紙一重のユーモア、ドタバタ騒ぎなど、イネスの独自性が発揮される後期の作品らしいので、それも読んでみたいものです。さてこの作品、芝居の最中に事件が起こります。なぜ芝居の最中でなければいけなかったのか、というのは大きなポイントです。その芝居がシェークスピアの「ハムレット」。有名なセリフもでてきます。全編通じて、シェークスピアの戯曲がかなり重要な要素となっているので、シェークスピアに興味のある方はさらに楽しめるでしょう。序盤で紹介される個性的な登場人物ですが、初めに頑張ったおかげで、容疑者が二転三転する場面でも、ちゃんとついていくことができました。捜査は意外に地味ですが、アプルビイ警部とその友人でエリザベス朝学者兼探偵作家ジャイルズ・ゴットのコンビはなかなかいい雰囲気です。二人の掛け合いも愉しい。最後には何とドタバタな展開になり、ユーモラスなシーンも見られます。ミステリ黄金時代に書かれたにふさわしい、英国の正統派探偵小説でした。教養と、ユーモアがうまくミックスされている、という感じでした。原題は「Hamlet,Revenge!」口に出して言ってみると、何だかおかしくありませんか?※登場人物にジャーヴァス・クリスピンという名前があります。ピンと来る方もおられるでしょう。解説によると、作家エドマンド・クリスピンと、その探偵ジャーバス・フェンの起源はここにあるようです。ハムレット復讐せよ :マイクル・イネス 楽天ブックスでは在庫なしです。
2006年01月25日
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3巻目まで読み進めてますます面白い鬼平であります。鬼平自身にも、周りの人たちにも少しずつ近づいている気がします。この巻では、平蔵は火付盗賊改方を一時解任され、亡き父の眠る京都へ旅に出ます。お供は木村忠吾一人ですが、剣友の岸井左馬之助も、追って出立する様子。命をかけて江戸の町を守ってきたということで、やや疲れ気味の平蔵たちには、骨休めの休暇の意味もあったようですが、道中でも京都でも、思いがけない事件に遭遇することになります。麻布ねずみ坂/盗法秘伝/艶婦の毒/兇剣/駿州・宇津谷峠/むかしの男盗人に見込まれたり、命を狙われ危ない目にあったりと、とんでもない目に合う平蔵ですが、左馬之助のおかげで九死に一生を得ます。もはやこれまでという場面で、平蔵が見せる笑みが印象的でした。絶望や悲嘆に直面した時には、できるかどうかわかりませんが、まず無理やりにでも笑ってみるといいそうです。まず行動することで、それが心に反応するという逆療法、ためしてみる価値はありそうです。左馬之助の幼なじみや妻・久栄の過去にまつわる事件もありますが、そこには平蔵の人柄が表れていてほっとします。そしてまた、この人を忘れてはいけません。げっそりするほど遊びすぎたすえに、失態をおかしてしまった木村忠吾。もう平蔵には頭があがらなくなり、神妙に付き従う様子が妙におかしい。平蔵にもからかわれて散々です。 鬼平犯科帳(3)新装版 :池波正太郎木村忠吾のあだなである「うさぎ饅頭」、かわいいです。(ちょっと季節はずれですが…)
2006年01月23日
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東野さんの作品は、数年前にマイブームが来て怒涛のごとく読んだものです。ここ最近間隔が空くようになっていましたが、やはり、読み出したらページをめくる手が止められませんでした。昨日は家族それぞれにやるべきことがある静かな夜だったので、心を鷲づかみにされたまま一気に読んでしまいました。本書は物理学者の湯川学を探偵役にした「ガリレオ探偵」シリーズの第3作で、初の長編です。とは言っても、『探偵ガリレオ』や『予知夢』のように理系の知識を生かした謎解き連作短編集とは趣が異なります。この作品を単独で読んでも問題はありません。天才的な頭脳を持ちながら、高校教師をしている石神。数学にしか興味のない冴えない風貌の男は、隣に越してきた靖子にほのかな想いを寄せていました。ある晩、靖子はしつこく追いかけてきて金をせびる元夫を、娘と一緒に殺害してしまいます。それを知った石神は、天才数学者の頭脳を生かして、靖子たちを守ろうとします。しかし、そこには草薙刑事の友人で物理学者の湯川が関わってきました。男はめったに居ない位の数学の天才で、湯川とは大学の同期。この二人は静かに対決することになります。「自分で考えて答えを出すのと、他人から聞いた答えが正しいかを確かめるのとでは、どちらが簡単か。」そんな命題を掛けた知恵比べ。たどりついた真相は、予想をはるかに超えたものでした。緻密に張り巡らされた伏線に、ところどころひっかかりは覚えていたのですが、このトリックには驚かされました。湯川は答えを出したものの、苦渋の決断をせまられます。天才同士にしか理解できないきらめきの時を学生時代に共有した二人の男にとって、行き着く先はもっと別の世界があったかもしれないのに…。そして、無償の愛というものがあります。初めのうち、無償の愛なんてそんなものかと甘く見ていましたが、ついには「どうしてそこまでできるの?」と叫びたくなり…。それだけの価値があったのか、という思いもあります。けれども、軽い出会いがその人にとって運命的なものになることもある。彼にとってはそうだったのかも知れない。不器用な男の精一杯の愛情表現は、それが許されることではないだけに、尚更胸が痛くなりました。無表情に隠された思いが、切なくて切なくてたまりません。素晴らしいミステリであり、深く胸を打つ物語でした。 容疑者Xの献身 :東野圭吾 *東野さん、直木賞受賞おめでとうございます!2008年文庫化
2006年01月21日
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第15回メフィスト賞受賞作品メフィスト賞をとった作品だから読もうと思ったわけではありません。理由は忘れましたが、しばらく前から読みたいと思っていました。色んなところに張り巡らしているアンテナにひっかかったのでしょう。なぜならこの作者は初めてなのに、とても面白かったからです。学生時代のバンド仲間が久しぶりにに集まった飲み会。メンバーはドラムの和泉とその同僚の藤、ヴォーカルの冴子、サックスの久我と婚約者の果寿美、ギターの松原、ベースの池上、シンセサイザーの詩緒理、そしてピアノの氷川。音楽の話を中心に盛り上がったが宴もお開きとなり、近所に住む和泉と藤以外は地下鉄の駅で終電を待った。ところが改札口で別れたはずの和泉がトイレの中で死体となって発見される。何故か駅構内にあるブロンズ像の丸い台座で撲殺されていた。現場の状況からは、仲間たちの中に犯人がいるとしか考えられない……。ポイントは二つ。1、青春小説風であること。2、ロジックに重点を置いている。青春小説が結構好きなのです。だからどうしても点が甘くなりますね。大学を卒業して社会人になったけれど、まだ今一つ学生の気分も残っていて大人になりきれないという感じが良く出ています。就職してないのは推理小説作家志望の氷川透だけで、ライブハウスでピアノを弾いたりしながら生活しています。彼が探偵役となり謎解きをしますが、仲間を疑うということは自分も傷つくということでもあります。わかりにくい冗談でまぎらわせていますが。そして、とことんロジックに満ちています。これがまた好みなのです。特に、なぜ凶器がブロンズ像ではなく台座なのか、という問題はなかなか読みごたえがありました。仮説をたて、壊していくという作業が、ねちっこいと言っていいくらい繰り返し行われます。この点では読者を選ぶでしょう。本格ミステリが好きな人でないと、ちょっときついかも知れませんね。そして途中に挿入された「読者へ」という一文には本格らしさがあふれていますが、そこで「この物語は、基本的にフィクションではない」と明言する意図は今一つわかりませんでした。 真っ暗な夜明け :氷川透 楽天ブックスでは在庫なし
2006年01月19日
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久し振りの猫丸先輩との再会。相変わらず小柄で童顔で神出鬼没、そして人が悪いです。でもなぜか人望はあるらしい。読んでよかった、楽しかったと思える作品です。唐沢なをき氏による一言解説入りのイラストも、いい味出していました。「だから知っているんじゃなくて見当つけただけなんだってば。あくまでも僕の想像だから、本当に当たってるかどうか保証の限りじゃないーその程度の推測だよ。それでもいいんなら話してあげよう。」今回は先輩の「推測」でさえなく「空論」です。だから、先輩の推理が当たっているかどうかはわからないまま。「水のそとの何か」毎朝、ベランダの手すりに置かれた水入りペットボトルの意味とは?先輩の推理にハラハラする八木沢君と同じく、真相はどうあれ、いい結果を願うだけです。「とむらい自動車」交通事故の現場に呼び集められたタクシーの目的は?お人が悪いのは先輩より倉知さんかもw「子ねこを救え」虐待されている子猫を救おうとした高校生たちに示された意外な推理とは?笑いながら路地裏まで追いかけてくる猫丸先輩の姿がここにw「な、なつのこ」(このタイトルは最高!)密室のテントでスイカはなぜ割れていたのか?スイカ割りの講釈に天然理心流まで出て来るのがおかしいです。「魚か肉か食い物」友人が大食いチャレンジ直前に突然姿を消した理由は?女性でもなかなかそこまでは、という微妙なところに気がつく先輩。やっぱり色んな珍しいバイト経験者ならでは?「夜の猫丸」一人で残業している会社に次々と掛かる無言電話に隠された真相は?これを読んで一人で残業ができなくなった人もいるかもしれません。最後は意外に怖い話です。空論だからこそなおさら怖い。前作と同じように、各編のタイトルが他作家の作品のもじりになっています。それぞれ、「水の中の何か」「とむらい機関車」「???」「ななつのこ」「煙か土か食い物」「夜のフロスト」がもとの作品。「子ねこを救え」の元は島田雅彦さんの「子供を救え」でしょうか?これだけミステリではないというのも不自然な気がするのですが……。 猫丸先輩の空論 :倉知淳
2006年01月17日
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60年もハリウッドで過ごした女性が、晩年をムース郡で過ごすために帰ってくる……最初はエイプリルフールの冗談かと思ったクィラランでしたが、彼女は実際にやってきました。81歳のセルマ・サッカレーはエネルギッシュで陽気な女性です。最近事故で兄を亡くし、残された甥にやりがいと責任をもたらすために、オペラ座を買い取って新しい事業を起こすつもりのようです。セルマの歓迎会に参加したり、彼女を父親のお墓に案内したり、一緒に食事をしたりするうちに、クィラランはセルマの周りに不穏な気配を感じます。さらに彼女の兄の死にも関心を覚え、自分なりに調査を始めるのでした。今回ミステリーとしてはちょっと物足りないかな。読んでいれば誰が悪者かすぐにわかるし、結果もだいたい読めます。驚くのは最後の数ページのみ。あとは「猫と私とムース郡の暮らし」みたいな、楽しい読み物でした。登場人物は結構多いのですが、感心なことに私はほぼ把握していました。このシリーズは25作目ですが、舞台がここムース郡に移ってから長いので、クィラランも重要人物としてみんなに認められたことだし、すっかり落ち着いてきましたね。相変わらず、美味しいレストラン、美味しい食事の描写が幾つも出てきます。バタースカッチソースのかかった大きなシナモンプディングを食べてみたい!ウィットに富んだ会話と、読者に人気のコラムも魅力的です。「ブルーベリーパイにホイップクリームをちょこっと。」という会話から思いついたのは“クィララン式重さと長さ”というテーマ。色々書き連ねた中で「ボタンをつける時間は、子羊の尻尾ふた振りぐらいのあいだに」というような表現が出てくるのが面白いところです。題名と裏表紙のあらすじから、ココが映画に出演する話かと思っていましたが、そうではありません。原題はどうかというと「THE CAT BROUGHT DOWN THE HOUSE」よくわからなかったので辞書で調べてみたら、bring down the house 聴衆{ちょうしゅう}の大かっさいを博す◆【語源】劇場(house)を崩壊させるほどの拍手・喝さいを得る[博す]映画には出ませんが、ココが劇場を崩壊させるかのような動きを見せる場面はあったので、そこからきているようです。 猫は銀幕にデビューする :リリアン・J・ブラウン☆これまでの作品(オリジナル発表順)はこちらに書いています。
2006年01月15日
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呉服屋の手代・政次、船頭の彦四郎、岡っ引の手先の亮吉、酒問屋の豊島屋で働くしほ。幼なじみ四人組が活躍する鎌倉河岸捕物控第2弾です。前作ではしほが主人公でしたが、今回は、タイトルにある通り、政次が話の中心です。正月の二日、政次は呉服屋松坂屋の隠居松六の供をして年始挨拶回りに同行しますが、その帰り道、松六が立ち寄ったさびれた屋敷で、剣客に襲われます。政次は六尺棒1本で立ち向かい、松六を救うのですが、頭を打った松六は呆けの症状が出てしまいます。主人のそばを片時も離れようとしない政次、そんな政次を心配するしほ達三人。事件の陰に始末が終わったはずの田沼意知暗殺事件の影を見た金座裏の宗五郎親分は、現在と過去を結ぶ謎の解明に乗り出します。これが全体を通じて解明されていく大きな事件ですが、その間にも、誘拐や殺しといった事件が一つ一つ解決されていくという前作同様の構成になっています。今回お目見え以上ということがわかる(将軍にお目通りがかなうというのは結構すごいことですよね。)宗五郎親分の捜査力はなかなかのものです。親分以外に詳しいことは話せない政次は、主人に大けがをさせたとして冷たい目で見られてしまうのがつらいところですが、事情を知るしほが政次を心配する様子には微笑ましいものがあります。優しくて力持ちの彦四郎と、元気でお調子者の亮吉も、政次とは、しほをめぐってのライバルながらお互いを思いやります。青春ですね。しほが働く豊島屋は主人も捕り物の話が好きな気のいい人なので、みんながたびたび顔を出すことができるのが幸いであります。やっぱり青少年にとってはたむろできる場というのは大事なんですね。宗五郎親分は真相にたどりつけるのか?一人でひそかに事件について調べようとする政次はどうなるのか?面白かったですね。早く次が読みたくなりました。 政次、奔る :佐伯泰英
2006年01月13日
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仕事が休みだという友人の誘いで図書館へ行きました。私はちょっとした用事をすませるために20分ほど遅れて到着。図書館の中は暑かったです。夏に暑いのは省エネのためしょうがないと思ったけれど、冬も暑いというのはどういうことでしょう。友人を待たせるのは悪いと思いながらちょっと焦り気味だったからか、借りたいと思っていた本がみつかりません。結局漫画を借りることにしました。「おいしい関係」6冊。ドラマになったことがあるそうだけど知りません。そこから20分ほど歩いた通りで、安くておいしいランチを探しました。オフィス街の近くで、紺色のサラリーマン軍団の行方を見極める。入りたいけど満席だからどうしよう、みたいに3~4人グループが入り口で覗き込んでいるお店。これで間違いありませんでした。スープ、サラダ、ワタリガニとトマトのパスタ、コーヒーで750円。家庭的な雰囲気の、ご夫婦二人でやっているようなこじんまりしたお店なので、少し時間がかかりましたが、味はバッチリでした。その後大型書店に行くのも、いつもの私達のコースです。このミス○位の帯を幾つも見ました。新しい本はきれいですね。いつも古い本ばかり見ているので特にそう思います。高里椎奈さんの薬屋探偵シリーズが文庫化されていますが、2作目『黄色い目をした猫の幸せ』の帯に書かれた「美男探偵3人組」という言葉は何なんですか?かなりファンタジーっぽいミステリーで、雰囲気が好きだけれど、この表現はしっくりきません。ミステリ中心にチェックしながら店内をめぐり、疲れたところで休憩。いつものカフェへ。どうも行動パターンが決まってきたようです。あっという間に過ぎた一日でした。最近万歩計を身につけているのですが(実はポケットサクラですが)、目標の1万歩をはるかに越える、1万5千歩という結果にも満足できました。
2006年01月12日
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主人公の照代は15歳。本当ならば、頑張って合格した第一志望の高校で、新しい生活にちょっと緊張しながらも楽しい学園生活を送っているはずでした。両親は共に浪費家で、先のことは考えずに享楽的な生活を送っています。父は新車が、美人の母は洋服やアクセサリーや友人との豪華なランチが何よりも大切な様子。それでもまさか入学金を払ってくれていなかったとは……。さらに追い討ちをかけるように多大な借金のため、夜逃げすることになります。しかも両親とは別々に、遠縁の親戚の「鈴木久代」さんを頼るよう言われ、一人で訪ねてきたのが「佐々良」の町でした。この作品は「ささらさや」の姉妹編です。読んでいなくても大丈夫ですが、先に「ささらさや」を読んでいた方がさらにいいと思います。サヤとユースケ、エリカとダイヤ、夏・珠子・久代の三婆も登場し、懐かしい「ささらさや」の雰囲気に再び出会うことができます。そしてやっぱり不思議なこともおこります。生意気でひねくれた照代は、この町も人も何もかも気に入りません。「何で私だけがこんな不幸な目にあわなければいけないの?」と自分を哀れむことで精一杯です。感情に揺さぶられて、人を嫌いだと思ったことはあります。でもそんな時は、とても嫌な気持ちになるものです。人に向けたとげは確実に自分にも刺さるから。でもどうしようもないときだってあります。自分は誰かに必要とされなかったし、これからも必要とされないのではないか、という照代の思いに胸が痛くなります。そんな彼女でしたが、痩せて気難しそうな老女で、しかもかなり厳しい久代と暮らしながら、周りの人たちのことを知るにつれて、少しずつ変わっていきます。どこからか届くメールや、ほんの少し透き通った少女に出会うという不思議な体験もしながら……。少しずつちりばめられた謎は最後にきれいにときほぐされます。まさに、ファンタジーとミステリは美しく融合したと言えるでしょう。さすがに加納さんだな、と思います。成長していく照代の姿に胸が熱くなり、最後の章では、やはり文字は涙でにじんでしまいました。 てるてるあした :加納朋子
2006年01月10日
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石垣島にダイビングに行き、大時化の海で遭難した六人は、お互いの身体をつかんでひとつの輪になって生き延びます。荒れ狂う海で死と隣あわせの体験をした彼らは、この上ない信頼感で結ばれた仲間になったはずでした。ところがその後、仲間の一人、米村美月が青酸カリを飲んで自殺してしまいます。残された五人は四十九日に集まって彼女の死の意味をもう一度見つめ直すうちに、一枚の写真に不審を覚えます。青酸カリの入っていた褐色の小瓶のキャップは、なぜ閉められていたのでしょうか?彼女の自殺に、協力者はいなかったのでしょうか?まるで嵐の海に飲み込まれたかのように一気に読んでしまいました。これまでの作品同様、途中でやめられなくなるような牽引力がありました。けれども、読んでいる途中に感じていた違和感が、だんだん大きくなっていったのも確かです。そもそも、生死を共にする体験をした者は、絶対的な信頼感で結びつくものだという事から、自分の中では素直に肯定しきれません。そういう体験をしたことがないから、と言ってしまったら話は終わってしまいますが。その設定を受け入れるとしても、次第に矛盾が出てくるんですよね。彼女は本当に自殺だったのか、協力者はいたのか、と彼らはビールを飲みながら議論します。一見どうでもいいようなことから、ああでもないこうでもないと議論を展開させるタックシリーズのような話は好きですが、これは少し様子が違います。それは彼らがメロスを待つセリヌンティウスだから。信頼がキーワード。「美月がそれを考えないはずはない」死んだ人の気持ちを決め付ける自信があるほど、信頼していたということでしょうか。ではなぜ彼女は人に迷惑をかける方法を選んだのか?矛盾です。最後のシーンは印象的ですが、残された者たちはますますつらい目に合うと思います。美月の行動に怒りを覚えて、否定的なことを書きましたが、裏表紙の著者のことばを読むと、ああ、そういうことを意図していたんだと、わかるような気がします。「友人の不審な死を目の当りにしたとき、関係者の間には疑心暗鬼と敵対心しか存在し得ないのか。この本に描かれているのは、そのようなことに懊悩する、普通の、けれど気高い人たちです。この本を手に取ったすべての方が、登場人物の一人であると信じています。 」信じることから始まるミステリというのは、これまでにない新しい試みだと思います。常に疑うことから始まるようなミステリの読み方しかできない私は、登場人物にはなれなかったということのようです。セリヌンティウスの舟 : 石持浅海
2006年01月08日
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サム・ホーソーンとは、アメリカを代表する短編の名手エドワード・D・ホックの数多いシリーズ・キャラクターの中の一人です。老境に達した医師、サム・ホーソーンが、訪ねてきた友人をお神酒で歓迎しながら、自分が過去に遭遇した奇妙な事件の思い出を語るという連作短編集です。(最後にノンシリーズの短編「長い墜落」も収録。)一つ一つの話が短いので、寝る前に一つとか、ちょっとしたあき時間に少しずつ読みました。彼が語るのはすべてノースモントの町でおきた不可能犯罪です。たとえば『有栖川有栖の密室大図鑑』で紹介されていた「投票ブースの謎」三方が壁、残る一方はカーテンが引かれ足から下が見えている投票ブースで、ある人物が刺し殺される。ブースに近づいた者は誰もいない上に、凶器も見つからなかったという事件。私が気に入ったのは、ジャック・フットレルの名作「十三号独房の問題」に挑戦した(?)「十六号独房の謎」どんな留置所からも脱獄してみせると豪語する詐欺師が逮捕される。だが、十六号独房に閉じ込められたはずなのに、彼は真夜中に姿を消していた。独房にも留置所の入口も鍵がかけられ、入口を保安官が見張っているという状況下で。他にも、土に埋められたタイムカプセルの中にいつの間にか死体が入っているという事件や、飛行機の上で手を振ってパラシュートで降下した男が、地上におりたときには絞殺されていたという事件など、よくネタ切れにならないと思うくらいのバリエーションです。しかも、サム・ホーソーンの事件簿は4作目まで刊行されているようです。(訂正……4作目、『サム・ホーソーンの事件簿〈4〉』は創元推理文庫から、1月22日発売予定です。)毎回、前振りから本題、さらに次の話の予告というパターンで話が展開します。都会は性に合わないと、マサチューセッツ州とコネティカット州の州境にあるノースモントという小さな町に診療所を開業したサム・ホーソーンですが、回が進むにつれ、時間も少しずつ経過しているので、新参者だった彼が、次第に町になじんでいくところがよくわかります。読み手もだんだんこの町や住む人になじんで愛着を感じるようになります。えらく不可能犯罪の多い町ではありますがwまた、1920年当時の、禁酒法が施行された頃の風俗も描かれていて、その当時ののどかな雰囲気も魅力です。ところで、つまらないことですが、毎回サム老医師が客に薦めるお酒を、「お神酒(おみき)」と言うのが気になりました。原作ではどういうお酒なのでしょう。 サム・ホーソーンの事件簿(1) :エドワード・D.ホック
2006年01月06日
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2巻目を読みました。今回は盗賊が続々登場します。蛇の平十郎、墓火の秀五郎、女掏摸お富、妖盗葵小僧、乙坂の庄五郎、鈴鹿の又兵衛、小金井の万五郎。鬼平に腕を折られたものあり、逃走拠点に先回りされて捕まったものあり、心臓麻痺を起して死んでしまうものあり。長谷川平蔵は悪い奴らに対しては、気持ちいいくらい情け容赦ありません。しかし今回は同心の木村忠吾が目立っていました。平蔵を初めとして火付け盗賊改め方は、あるときは変装を凝らし、足を棒にして江戸市中を見回って盗賊の手がかりを探しています。それなのに、谷中のいろは茶屋で遊蕩を続けていた木村忠吾が、役目をさぼって遊びに行く途中で、お寺に急ぎ働きをした墓火の秀五郎一味を見たことから大手柄をあげてしまいます。お松という妓にいれ込んで、親の残したお金も使い果たすという情けない彼に救いの手を差し伸べた人がいました。「人間という生きものは、悪いことをしながら善いこともするし、人にきらわれることをしながら、いつもいつも人に好かれたいとおもっている……」名言をはくこの人は意外な人物だったのですが、期せずして平蔵も同じような意味合いのことを言うのが面白いところです。その同じ木村忠吾が女房にしたいと思いつめたお雪という娘が、実は老盗賊の娘だったという話もあります。身を固めたいと打ち明けられていた平蔵が、その娘の話と、密偵の小房の粂八から聞かされた盗賊の話を結びつけた時の困った様子もおかしいです。色白でぽっちゃりして、うさぎ饅頭に似てるとかで、口の悪い同心からは「兎忠(うさちゅう)」と呼ばれて馬鹿にされている木村忠吾。酒好き、女好き、さぼりぐせと、人間の弱さを集めたようなキャラクターだからこそ、どこかに身近に感じられるのかもしれません。 鬼平犯科帳(2)新装版 :池波正太郎
2006年01月05日
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角川スニーカー文庫は、角川書店から刊行されている文庫のレーベル名の一つです。1988年3月に公募で選ばれた「スニーカー文庫」という名前で少年少女向け小説として創刊されました。現在は、角川文庫のライトノベル部門と言う位置づけです。私はライトノベルを余り読んだことがないので、それほどなじみがないのですが、今まで5冊出されているミステリ・アンソロジーは幾つか読みました。今回の「殺意の時間割」はミステリ・アンソロジー(4)で、いわゆる「アリバイもの」がテーマです。先日読んだ「僕と先輩のマジカルライフ」の主人公である快人と春奈の子供の頃のエピソードだという「天狗と宿題、幼なじみ」が以前から読みたかったのです。命の恩人(赤川次郎)/Bは爆弾のB(鯨統一郎)/水仙の季節(近藤史恵)/アリバイ・ジ・アンビバレンス(西沢保彦)/天狗と宿題、幼なじみ(はやみねかおる)の5編 「命の恩人」(赤川次郎)娘を助けた男の、奇妙な頼みごとの話。きれいにまとまっているのはさすがです。「Bは爆弾のB」(鯨統一郎)究極の安楽椅子探偵がテロリストと対決するという特殊な設定。ミステリアンソロジー(1)における「Aは安楽椅子のA」の続編なのに、唐突な展開に驚きます。水仙の季節(近藤史恵)お人好しカメラマンが巻き込まれた、せつない事件。美人双子姉妹に気を取られているうちに、最後のオチにどきっとさせられます。「アリバイ・ジ・アンビバレンス」(西澤保彦)完全なアリバイのある少女が殺人を認めたのはなぜ?アリバイのロジックについて検討していくうちに、ここまでするかという、人の心の恐ろしさが見えてきます。「天狗と宿題、幼なじみ」(はやみねかおる)肝だめしに挑んだ少年は誰に襲われたか。なんだか懐かしい雰囲気。小さい頃から変わらない快人の姿が微笑ましく、後味のいい作品でした。軽くあっという間に読むことができますが、それぞれ持ち味が違っているので楽しめました。 殺意の時間割 楽天ブックスでは品切れです。
2006年01月03日
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明けましておめでとうございます。今年もミステリを読み、その面白さを少しでも伝えられるよう、つたない日記を書き続けられたら、と思います。よろしくお願いします。今年1冊目は落語とミステリの話です。これまで生で落語を聴いたことが一度だけあります。その時はオチがわからなかったのですが、一緒に行ったサークルの先輩に、「今のわかった?」と聞かれ、思わず「はい」と答えてしまいました。その後居心地が悪かったことを今も覚えています。そんな苦い思い出はありますが、落語は好きです。最近は飛行機に乗った時ぐらいしか聴くことはないのですが……。さてこの作品の主人公は金髪の鶏冠頭、フリーターの竜二です。手がつけられないやんちゃな彼の行く末を心配した高校の元担任が、上方落語の大御所・笑酔亭梅寿に竜二を弟子入りさせてくれるよう、本人の意思を無視して頼み込むところから物語は始まります。ちょっとだけテレビドラマ「タイガー&ドラゴン」を思いださせる設定です。梅寿というのが大酒のみで、乱暴で、下品で、はちゃめちゃです。酒瓶で頭がへこむほど殴るんですから。さらにいつもヤクザの借金取りから逃げ回っています。ところが、八方破れながら一本すじが通っているし、芸はピカイチなのです。後には浪花節的な一面もあることがわかり、しんみりさせられます。連作短編ですが、それぞれ「たちきり線香」、「らくだ」、「時うどん」、「平林」、「住吉駕籠」、「子は鎹」、「千両みかん」 という落語の噺のタイトルが付けられています。その落語の内容にそった事件が起こり、笑酔亭梅寿が(竜二が)謎を解くというパターンです。冒頭にはそれぞれの噺に関する月亭八天の解説もつけられています。最初はいやいや内弟子となった竜二が、反発しながらも師匠の芸に魅せられていき、古典落語というものを理解していく成長物語にもなっています。ミステリが主役ではありませんが、登場人物も生き生きと描かれ、読んだ後には、いい人情噺を聞かせてもらったという気持ちになります。 笑酔亭梅寿謎解噺 :田中啓文 ハナシがちがう!: 田中啓文 2006年8月文庫化されました。
2006年01月01日
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