三角猫の巣窟
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チェコの詩人のヤロミルが共産革命に傾倒したりブス相手に童貞を捨てたりするうちに死んでしまう話。三人称で作者から読者に説明する文体。この文体は日本の作家ではやる人が少ないので多少の珍しさはあるものの、描写でなく説明で物語が進められると臨場感がなくて、一見してつまらない文体にみえる。しかし小説全体を見ると楽しめるような純文学的仕掛けがしてある。作者自身が登場人物だったり自伝やノンフィクションなどでない限り、物語世界の外側にいる作者が直接読者に顔を見せることで物語がフィクションであることが読者に意識されてしまってリアリティが薄れるので、他に狙いがないままこういう書き方をするのは文体としては悪手になりかねないものの、第5章では作者が作品や文体について自ら解説しだすという大胆なやり方で物語のセオリーから脱線していき、下手すればつまらなくなりかねない文体を作品の面白さにうまく転化していてよい。クンデラの筆力があればこそなせる業だろう。構成はヤロミルの誕生から時系列順に展開していくオーソドックスな展開と思いきや、なかなかそうはいかない。第2章をクサヴェルという第1章にまったく登場しない人物の話にして、なおかつクサヴェルの夢まで描くというはずし方をする。この時点ではクサヴェルが何者なのか、どういう状況を書いているのかはっきりしないものの、第5章になってようやくクサヴェルの物語はヤロミルが書いた散文詩だということが判明し、ヤロミルとクサヴェルがオーバーラップする仕掛けが作動し、作者が用意周到で手が込んだ物語構成をしているのがわかる。章ごとに文体とリズムを変化させていくあたりは作家の技巧がでていてよい。第3章からは革命の話が出てくるものの、これは1948年のクーデターの事らしい。チェコの歴史に詳しくない人はチェコの革命といえば1968年の「プラハの春」くらいしか知らないと思うけど、この小説では年代に直接言及する箇所が少なくて、第4章になってようやく1948年の出来事だとわかるので、説明不足の不親切な書き方。チェコ人の読者ならいちいち説明されなくても時代背景がわかるんだろうけど、普通の日本人の読者は脚注でもないと時代背景がわからないだろう。チェコの歴史や共産革命に興味がない人が読んで興味をもつような書かれ方もしていないので、その点はあまり面白くない。とはいえ作者の小説の技巧はふんだんに発揮されているし、ヤロミルが童貞を捨てた赤毛のブスが処女でないことに嫉妬したり、ヤロミルの母親が息子の愛情を独占したがったりする人間の普遍的な心理はうまく書かれているので、共産革命云々のよくわからなくてつまらない部分を差し引いても、純文学やクンデラが好きな人なら面白く読める。★★★★☆【送料無料】生は彼方に改訂版 [ ミラン・クンデラ ]価格:2,752円(税込、送料込)
2013.07.09
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