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戦後の旭川で、妻の夏枝が医者の村井と浮気している間に娘のルリ子を殺された病院長の辻口が夏枝への復讐のために犯人の子供の陽子を養子にして育てさせたら夏枝にばれてしまい、夏枝が陽子をいじめたあげくに陽子の恋人の前で陽子が犯人の子供だと言ったら陽子が自殺してしまう話。三人称で時系列順に短い章が展開する。古い小説だけあって文体も野暮ったく、()に心理描写するあたりはひねりがなくて心理描写を物語の面白さとして活かせていない。汝の敵を愛せよ、という言葉とは逆に夏枝への復讐のために辻口は犯人の子供を引き取ることにしたのだけれど、もう一人の敵の村井へは何も復讐をしていない。村井は夏枝に惚れてて執拗に絡んできたくせにあっさり結婚して物語から消えてしまい、村井の存在は何だったのか意味不明。また物語のあらゆる点で恋愛が絡んでいて、強引に恋愛で物語を展開するのはよくない。登場人物が片思いしていたり三角関係だったりという人間関係ばかりで物語が構成されていて、犯罪者の娘にどう向き合うかという当初のテーマからどんどん物語がそれていく。辻口に片思いした挙句に行方不明になる看護婦の由香子の話はそれがメインストーリーの伏線にもなってなく、辻口の思想を掘り下げるわけでもなく、ただドラマのための場面という感じで無駄なエピソードに見える。必然性もなく伏線にもならない脇役の恋愛をだらだら書いてしまうのは女性作家が陥る悪いやり方だろう。---------------ネタバレ----------------陽子が高校生になって恋愛悲劇小説風の展開になったところで、実は陽子は犯人の子供ではなかったと明かされるのが最後のどんでん返しになっているものの、伏線もなくいきなり関係ない人間を登場させて読者をだます形で物語をひっくり返すので、そりゃ反則だろうという感じになる。高木は辻口の人格を信用して犯人の子供でなくてもかわいがるだろうということで陽子を辻口に預けることにしたというけれど、物語のはじめのほうから辻口はロリコンの復讐者として書かれていて、読者にとっては辻口の悪い面だけ見せられていて高木が辻口が人格者だと言う説得力がまるでない。自分は自殺しないと言っていた陽子があっさり自殺するあたりもリアリティがない。殺人犯の娘と判明したから自殺するというのは道理が通らない考え方で、その考え方に信憑性をもたせるような物語の展開も心理描写もされていない。戦後の1946年が舞台で、戦争で人を殺してきた兵隊やその子供がそこらじゅうにいることくらい高校生にもなれば気づくだろうし、殺人犯の娘と判明して自分が罪人の子供だから自分も罪を犯す可能性があるからというあいまいな理由で自殺するのには無理がある。このあたりの物語の核心部分の設定が矛盾しているように見える。結局は殺人、罪、愛、自殺といったあらゆるテーマにおいて思想の掘り下げが浅くて登場人物の表面的な心理描写にとどまっているからあちこちに不自然な箇所がでてきて、プロットが収束して必然的にその結末に至ったというのではなく、無垢な少女が犠牲になる悲劇的な結末を演出するために場当たり的に無理やり自殺させているように見えてしまう。---------------------------------------辻口が主人公かと思いきや、途中から陽子が主人公の物語になってしまって辻口の愛と復讐というテーマはほったらかしにされて、継子いじめをする継母とけなげに純愛する少女、血のつながってない兄と妹の恋愛感情、という安易な方向へ逃げてしまった。書き下ろしでなく新聞の連載小説だったのも原因だろうけれど、センセーショナルなテーマを取り上げておきながらテーマを掘り下げきれずに安易な恋愛小説として物語を終わらせてしまうあたりは所詮大衆文学という感じ。この小説でほめられる点は新人なのに長編を書ききったということくらい。辻口の思想やキリスト教的テーマを一貫して掘り下げていたらもっと読み応えのある小説になっていたかもしれない。あるいは設定をちょっと変えて、実は陽子は辰子の子供だったという展開にすれば辻口が辰子に惚れていたり陽子が辰子になついていたりするエピソードが伏線として活かせてエンタメとしては面白かったんじゃなかろうか。★★★☆☆【送料無料】氷点(上) [ 三浦綾子 ]価格:660円(税込、送料込)
2013.10.22
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フリースクールで出会って友人になった俊と大輔が仕事をほったらかして昔行ってたフリースクールまでとぼとぼ歩くうちになんやかやの出来事が起きるロードムービー風の話。三人称で俊と大輔の視点から物語が展開するものの、構成がよくない。冒頭の大輔が俊の家で食事する場面が終わると、一行あけて俊と大輔がフリースクールで出会った過去のエピソードが展開するけれど、このやり方は素人臭い悪手。冒頭の場面も短く、まだ人物像が固まらないうちにいきなり過去に話が飛んで人間関係を説明されても、場面が途切れて読者はおいてけぼりになる。その後はスプレーで落書きしに外出する場面になるのだけれど、ひとつながりの時系列にある物語をわざわざ中断して伏線にもならない猿がどうのこうのという過去のエピソードを持ち出すメリットがない。「お前みたいにクリーニング屋で働けってことか?」という説明的な会話でお互いの職業を明らかにするのもリアリティを損ねていてよくない。さらに話が進むと2年前に大輔がクリーニング屋で働き始めたころのエピソードにさかのぼり、また過去編かよ、ナルトかよ、と短編の中で何度も時間を行ったり来たりさせられるのにうんざりする。何年前に何歳だったときに何してたというエピソードよりも、今何歳なのか、これから何をするのかをはっきりさせてほしい。読者が関心を持ってるのは過去に何が起きたかではなく、物語世界における現在で何が起きているのか、これから何が起きるのかということなので、過去の話を小出しにされると物語の続きを読もうという気がそがれていく。過去の話をするにしても、わざわざ一行あきで区切ってエピソードを展開しなくても、説明や回想に織り込んだりするやり方もあるのに、作者の技術の引き出しが少なくてできないんだろうか。せっかくロードムービー風にしたのなら、過去のエピソードを一行空きで区切って現在の物語を中断させることはしないで、過去のエピソードを説明に留めてめまぐるしく現在進行形で出来事が展開していくというやり方のほうが場面の緊迫感を維持できるんじゃないかと思う。大輔がクリーニング屋で働いているエピソードは出てくるものの、主人公と思われる俊のIT系の仕事の具体的な内容が出てこないのもよくない。俊はいつの間にか仕事をやめてるし、その心理も十分にかかれていないし、俊が主人公なら大輔のクリーニング屋の話よりも俊の仕事の話を書けばいいのにと思う。どっちが主人公なのか、どっちの心理を書きたいのか中途半端なのはよくない。二人の友情を書きたいという作家の心意気はわかるものの、一人の心理をちゃんと描けないうちに二人の心理を描くのも無理な話。ましてや長編でなく短編なのだから、中途半端にするくらいならせめて主人公だけでもちゃんと書いてほしかった。何をしたいのか何を考えているのかよくわからない人間の物語を展開されても、読者としては登場人物に共感も反感も持てず、物語に引き込まれることもなく傍観するしかない。さらにオチはフリースクールに到着して終わりというだけで、警官を蹴って逃げただの、殴られたばあさんを助けるためにスプレーでSOSを描いただのといったエピソードを回収することもなく投げっぱなしで終わる。結局は中途半端な不良少年が社会の厳しさを知って甘えられる場所に帰ったというだけの話なの?それのどこが面白いの?とあきれてしまった。登場人物の心理描写が乏しく、グラフィティという小道具の掘り下げが浅く、構成が素人臭く、伏線もなく、プロットも投げっぱなしとなると、まったく見所がない。特にリアリティと物語の構成技術は作家の腕がはっきり現れる部分なので、純文学作家ならたとえ新人でも純文学らしい完成度を期待したいのだけれど、これじゃ純文学としては落第点でエンタメを読んだほうがましなレベル。本棚を整理していて2010年の文学界6月号が出てきたので捨てる前にまだ読んでないやつを読んでから捨てようという貧乏性でこれを読んだのだけれど、読まないで捨ててもよかったと思う。自分は知人が大麻と覚せい剤で逮捕されたり、やくざに脅迫されたり拉致されたりという話を実生活で見聞きしているので、リアリティのない甘えん坊の不良少年のフィクションを読んだところで何の刺激もなく、時間の無駄だった。★★☆☆☆
2013.10.10
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