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死んだ母親代わりに家事を任されたスウ姉さんはピアニストになる夢を諦めきれないまま自分を犠牲にして長年家族の世話をするものの、人に必要とされるのが人間らしい生活だと気づいて夢を諦める話。●あらすじ20歳のスザナ・ギルモア(スウ姉さん)はピアノの才能があったものの、14歳のときに母親が死んでから6年間、父親のジョン・ギルモアや2歳年下の妹のメーベル(メイ)や4歳年下の弟のゴルドンに頼られて自分の時間がもてず、家を出てピアニストになろうと決意するものの、婚約者の小説家志望のマルチン・ケントに説得されてあきらめた矢先、父親が経営する銀行が破産して父親が心労で倒れてアホになり、世話を頼んだアベイ婆さんにも裏切られたのでボストンから田舎のギルモアビルに引っ越すものの、家政婦のケテイがいなくなって家事に苦労してプレストン小母さんに相談にのってもらい、メイやゴルドンを大学に行かせるための金が必要なのでスウ姉さんは田舎者相手にピアノを教えることにして、ケントは創作講座を開きつつメイに創作指導をする。ギルモアビルの「帰郷週間」イベントでスウ姉さんが客寄せのために地元出身の名士を呼ぶと、幼馴染のドナルド・ケンダルは有名なバイオリニストになっていて、スウ姉さんは急遽ピアノの伴奏を頼まれてケンダルに気に入られて伴奏係として雇いたいと言われるものの、家事があるので断る。ケントは長編小説を出版して人気作家になるもののメイと浮気して結婚して、メイはマーシャを産むもののケントの小説は売れなくなり、ゴルドンは大学をやめてメーベルと結婚して乾物屋で働くと言い出していろいろ問題が起きる中、ケンダルが手をくじいてスウ姉さんが見舞いにいって仲良くなる。ケンダルはスウ姉さんを伴奏相手でなく伴侶にしたいものの、音楽家の夢をあきらめさせて結婚を申し込むことはできないと別れることにする。父親が死ぬと、27歳のスウ姉さんはメイやゴルドンの誘いを断ってピアニストを目指して修行するべく一人でボストンに行ってバルトニ教授を訪ねて一流のピアニストと知り合うと、そのピアニストは画家を目指した友人メリイが親の看病のために夢をあきらめた話をして、犠牲を払ったのではなく人から必要とされて本当の生きがいのある生活をするための機会をつかんだのだと言い、スウは方針転換をして自分を必要とするメイかゴルドンの役に立つためにギルモアビルに帰ることにする。バルトニ教授はもうスウ姉さんの指が硬くてピアニストとしては無理だと思っていた。ケンダルがプレストン小母さんのところを訪ねて事情を知ると、ギルモアビルに戻ってきたスウ姉さんに求婚する。●感想主にスウ姉さん視点の三人称。描写の欠点としては、いつの時代の話なのか時代背景が不明で、顔立ちや髪型や服装の描写が省かれているので人物像がわかりにくい。自動車はあるけれど電話はそれほど普及していなかったという生活状況からして20世紀前半の話だと思って読み進めると、106ページでフラッパーという単語が出てきてようやく1920年代の話だとわかる。フラッパーというのは奔放な若い女性のことで、日本で言うところの大正時代のモダンガールのようなものだけれど、欧米の文化を知らない人だとわからないかもしれない。冒頭は父親の失業、中盤はケントとメイの浮気といった他人の出来事にスウ姉さんが巻き込まれて物語が進む形式で、メイの浮気以降は大きな出来事が起こらずにゴルドンの結婚だののちまちまとしたエピソードが断片的に展開して、物語展開が速くなって数ヶ月の時間がばしばし飛んで急に読み応えがなくなり、終盤にようやく盛り返すものの、最後のケンダルの求愛の場面は蛇足気味。エンタメとしては求愛部分を最後に持ってきてハッピーエンドにしたほうがウケるのだろうけれど、バルトニ教授に見放されたところでケンダルとの結婚をほのめかして終わるほうが文学としてはおしゃれな終わり方だろう。みなまで言ってしまうのは野暮なのだ。「アンコール! スザナ・ギルモア嬢!」のフレーズを繰り返し多用して、家事のために自分を犠牲にする生活とピアニストの夢を対比して強調するあたりは技巧的。しかしスウ姉さんのピアニストの夢を強調しすぎたせいで、逆に終盤にピアニストの夢を諦める心変わりが唐突すぎて、中盤以降のスウ姉さんの心理描写もはしょられているので余計に不自然に見えてしまう。女性の自立の物語かと思いきや、女性が男性に必要とされて結婚して、夢を諦めるものの自分を必要とする人がいてハッピーエンドというあたりはステレオタイプでご都合主義的な終わり方になってしまった。ブルジョワから貧乏になったからといって悲壮感はあまりなく、姉妹で喧嘩をしたりしつつも牧歌的でNHKの朝ドラのような万人向けの家族と恋愛がテーマの物語になっていて、小説としては読みやすいものの現代人の読み物としては刺激が足りない。いろいろ損な役回りを押し付けられたり、諸事情で才能を発揮できないまま夢を諦めたりした読者ならスウ姉さんに共感しつつ面白く読めるかもしれない。★★★☆☆【楽天ブックスならいつでも送料無料】スウ姉さん [ エレナ・ポーター ]価格:799円(税込、送料込)
2015.11.30
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むずかしい愛の状況を書いた短編集。「ある兵士の冒険」はトマーグラ歩兵が汽車で隣に座った未亡人と体があたり、相手が受け入れているのか嫌がっているのかよくわからないまま徐々に痴漢する話。「ある悪党の冒険」は警官に追われているジムが娼婦アルマンダのところに逃げ込み、そこに憲兵准尉アンジェロがやってきて泊まる話。「ある海水浴客の冒険」は、海水浴中に水着が脱げたことに気づいたイゾッタ・バルバリーノ夫人が男に助けられるのを嫌がって逃げる話。「ある会社員の冒険」は、会社員エンリコ・ニェーイが徹夜で情事した名残を留めつつすてきな朝に出社しようとしたら、床屋と会話がかみ合わなかったり、十年ぶりに会った級友が結婚して老け込んだり、いろいろあって気がめいる話。「ある写真家の冒険」は写真を撮らないアントニーオ・パラッジが旧式の写真機を買い、写真をとる行為について哲学的な探求をしながら女友達のビーチェをモデルにして写真を撮りまくるものの振られる話。「ある旅行者の冒険」はフェデリーコ・Vがローマの恋人を訪ねるために列車に乗り、コンパートメントで苦労して寝ようとしたりする話。「ある読者の冒険」は海岸で読書していたアメーデオ・オリーヴァが日光浴していた女と知り合い、女と読書の両方が気になって両方ともこなそうとする話。「ある近視男の冒険」は近視のアミルカーレ・カッルーガが眼鏡をかけたことで新しい世界が見えるようになり、仕事で故郷に帰った際に知人たちに挨拶しようとするものの、イーザ=マリーア・ビエッティは彼が眼鏡をかけているせいで気づかなくて、眼鏡をはずして再び彼女を探すものの、煙草屋のジジーナとイーザ=マリアを見間違えてそっけなく挨拶してしまったかもしれず、すべてが無駄になってしまったかもしれない話。「ある妻の冒険」はステファーニア・R夫人はフォルネーロ青年と夜遊びして朝帰りしたものの鍵をもっておらず、門が閉まっていたのでカフェで時間をつぶしていろんな男と話して、ひとりで男たちと肩を並べることが不倫だと思う話。「ある夫婦の冒険」は工場で夜間勤務するアルトゥーロ・マッソラーリが朝に工場で働く妻のエルデを見送ってから眠り、夜にはエルデが夫を見送ってからベッドに入ると夫の場所でなく自分の場所のほうに温もりがあって夫がいとおしくなる話。「ある詩人の冒険」はウズネッリがゴムボートでデーリアと小島に行って太陽の中心のような裸で泳ぐ彼女を眺めるものの、彼女とはそりが合わず、頭の中は言葉で埋まっていく話。「あるスキーヤーの冒険」は緑色のサングラスの若者がスキーがべらぼうにうまいブロンド娘を必死で追いかけるもののついていけない話。どれも三人称で、ある状況での主人公の心境の変化を書くという短編らしい短編。各短編が10-20ページほどで、それぞれの短編にユーモアとか哀愁とか違った面白さがあってよい。イタロ・カルヴィーノというと奇抜で実験的なアンチ・ネオレアリズモ小説が多い印象だけれど、この短編集ではリアリティを損なわない程度に非日常的な恋愛の状況を書いていて、文章もページにみっしり詰まっているのに読みやすくてよい。平易な日常語で小説を書いたネオレアリズモの短編なのだろう。カルヴィーノに奇抜さを期待する読者は普通すぎて刺激がたりなくてがっかりするかもしれないものの、基本的な文章がうまくてどの短編も小ぶりながらもよくできている。「ある近視男の冒険」と「ある夫婦の冒険」はオチが効いていてよく、「ある兵士の冒険」と「ある海水浴客の冒険」はユーモラスな状況設定がよい。欠点としては時代背景がわかりにくい点で、これは書かれた当時の1950年代のイタリアが舞台なのだろうけれども、短編ということもあって描写や説明が簡潔なので、イタリアに行った事もなく、ましてや50年代のイタリアの状況など知る由もない日本人読者としては状況を想像しにくい。当時のイタリア人読者のために書かれた小説だから現代の日本人にわかりにくくてもしょうがないのだけれども。あとタイトルは「L'avventura di ○○」が「ある○○の冒険」と翻訳されているけれども、冒険という言葉がしっくりこない。フランス語でいうところのアバンチュールで恋の冒険という意味なんだろうけど、日本語で冒険というと探検隊が秘境に財宝を探しに行ったり勇者が魔王を倒しに旅をしたりするようなイメージになってしまう。『L'avventura』というイタリア映画は『情事』という邦題なので、冒険というよりは情事のほうが翻訳としてしっくりくるような気がする。★★★☆☆【楽天ブックスならいつでも送料無料】むずかしい愛 [ イタロ・カルヴィ-ノ ]価格:648円(税込、送料込)
2015.11.23
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若オカミが死んだことで影響を受けた井上の手記をきっかけにして心中事件が相次ぐものの、いろはとモクレンは山荘にこもって世間と戦う話。●あらすじ第一部 静かの海若オカミが死んで若者たちが無気力になる(カミ隠し)現象が起きている中、井上昭次は写真専門学校で一緒に卒業制作を作ったいろはに連絡をとると、いろはは恋人ミコトの介護をしてその様子をビデオに撮っていた。ビデオではミコトが誰も彼もオカミだといい、井上は黄砂の嵐の中でミコトと会って話をすると、ミコトはオカミのメッセージはこの世は死んでいるから死ねということだといい、共感した井上はウェブサイトで二人で死ねというメッセージを広めて手記を残す。第二部 心中時代井上とミコトが心中してから5年後、水が枯渇して貴重になり、モクレンが買った森の昇天峠の山荘でいろは、モクレン、きさらぎ、うづきたちが生活していて、いろはは井上の手記に井上の死後の出来事をつづった自分の手記を付け加えて公開する。カミ隠しにあった人が井上のウェブサイトを見て心中をする事件が相次ぎ、暗殺心中、無差別心中などが起きて世間の人は疑心暗鬼になる中でオカミの喪が明けるものの、人々は新オカミに失望して、モクレンは「私は殺しません」と新聞に広告を出したことで世間の反感を買って襲撃されるものの、新オカミが人真似で死ぬなと言った事で心中時代は終わる。第三部 昇天峠いろはが手記をアップロードして自首するものの、起訴猶予となって釈放されると、二人は昇天峠で若オカミと新オカミと思しき人物を見かけて、モクレンは飛び降りようといろはに言う。●感想各章ごとに語り手が変わる形式で、第一部は井上昭次(俺)の手記、第二部はいろは(私)の手記、第三部はモクレンの日記形式。複数の登場人物に違う口調で語らせるのはエンタメによくある安易な素人だましの手法で、たいていは語り手に語るべき動機がなくナラトロジー的に矛盾するので、芸術としては悪手となる。この小説では手記形式にして整合性をつけているぶんまだましだけれど、手記形式のわりに「俺は鼻で笑い気味に言った」とかフィクションじみた説明過剰の言い回しで書かれていて、手記としてのリアリティがなくなっていてやることが中途半端。語り手たちはやたら説明的な口調な一方で、諸問題の根源になっているオカミという存在や制度については説明も考察もせずにはぐらかしている。この作為的で不誠実でリアリティのない語りのせいで物語がつまらない。語り手を背後から操る作者の存在が見えてしまうと語り手のリアリティはなくなり、語られる物語世界のリアリティもなくなってしまい、一人称の語りとしては失敗してしまう。三人の語り手がどれも若者で物語世界に対する洞察がないのもリアリティをなくしているし、黄砂だの水不足だのという異常気象も意味不明でオカミの存在感を誇張するためだけに用意された演出に見えていっそう物語世界のリアリティをなくしている。社会に参加せずに生きる価値がないから誰かと心中するという井上のテーゼに対して、他人を信用して誰も殺さないというモクレンのアンチテーゼをぶつけて、最後に人真似しないで表現をして生きるといういろはのジンテーゼを提出するのがこの小説の狙いなのかもしれないけれど、リアリティがない世界でやっても生きるか死ぬかの論理が飛躍してうそ臭さがいっそう際立ってしまい、誰が心中しようが若オカミが生きてようがどうでもよくなってきて、第二部の途中から読む気をなくしてしまった。井上がこの物語の世界を「ニセの世界」と呼ぶとおり、この物語の世界はリアリティがなく死んでいる。私はこの死んだ世界の小説を読むよりも、本を閉じて純文学がない生きた世界に行きたくなる。日本の純文学を読むのは時間の無駄だからもう日本の純文学を読むのはやめようかなという思いがいっそう強くなったむなしい読書だった。私に読書をあきらめさせたくなるほどのリアリティのなさゆえに、小説全体がリアリティがなく人間が生きていない世界の無意味さを体現していて、メタフィクションとしてはよくできている。読書の無意味さを体感させてくれるという点では『きことわ』と似た読後感で、こういうのは完成度の高い駄作とでもいうんだろうか。精巧なゴミを作るというのも現代芸術ならありなんだろう。物語以外で気になる点としては、井上がカメラマン志望というのは先日読んだ『俺俺』とキャラ設定がかぶっていて、誰も彼もオカミという状況も『俺俺』の誰も彼も俺という状況と似ている。『ロンリー・ハーツ・キラー』は『俺俺』より先に書かれたようなので、『俺俺』でアイデアを使いまわしたのだろうか。登場人物や着想に既視感があるのはよくない。★★☆☆☆【楽天ブックスならいつでも送料無料】ロンリー・ハーツ・キラー [ 星野智幸 ]価格:864円(税込、送料込)
2015.11.04
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