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グリーンランドの西側から出発して、凍った海を通ってカナダ北部を通ってアラスカまで犬橇で一万二千キロ旅行した手記。1974年の出発当時33歳で、3年の計画を立てて1年半で達成したそうな。日記形式で、時系列順にその日の出来事が書いてある。そのせいか構成があまりよくなくて、次はどこの村に寄るとかという情報はその都度出てくるもの、計画の全体像がわかりにくい。予算が600万で300万は途中で送ってもらう予定だったとか、準備に関する情報が小出しになっている。どういう計画でどの程度協力者がいてどれくらい過酷なルートなのか等をある程度まとめて説明してほしいところ。でないと旅の困難さがあまり伝わらない。日記の内容については面白い。私は一生北極圏に行くことはないだろうから普通の話を聞くだけでも面白いけれど、死と隣り合わせの冒険旅行となるとなおさら面白い。犬の選び方、各地で立ち寄ったエスキモーの村の様子、犬の餌にするオヒョウ釣りやアザラシ狩りやカリブー狩りの様子、犬に逃げられたり氷が割れて橇が海に落ちたりする失敗談の一つ一つが興味深く読める。しかし犬を酷使して役に立たなくなると捨てたり、犬を非常食扱いしたりしているので、愛犬家の人は胸糞悪くなるかもしれない。リーダー犬のアンナと仔犬のコンノットとボス犬のイグルー以外は名前さえついておらず、犬の管理が旅の成否を決めるにもかかわらず犬の扱いがぞんざいな感じがする。263ページではコンノットの死について犬を家畜扱いするエスキモーと違って家族のような感じだというものの、その割には役立たずの弱い犬の扱いはひどい。手記以外の部分では、地図に通ったルートが書いてあるのはよい。しかしカメラを持っていったのに掲載されている写真が少ないのが残念なところ。ひとつ気になった点は、植村直己が犬が雪にもぐって暖を取ることを知らなかったらしく、68ページで地吹雪に埋まった犬を急いで掘り出していること。しかし私は犬を飼ったこともないのに植村直己さえ知らなかった犬の習性を知っていた。というのもジャック・ロンドンの『野性の呼び声』に犬が雪にもぐって暖をとることが書いてあったとなんとなく覚えていたのである。『野性の呼び声』は酷使されるそり犬側の視点の物語なので、対比させて読むと面白いかもしれない。★★★★☆【楽天ブックスならいつでも送料無料】北極圏一万二千キロ [ 植村直己 ]価格:514円(税込、送料込)
2015.09.24
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戦争カメラマンのロバート・キャパ(アンドレ・フリードマン)のスペイン内戦の取材の様子、恋人のゲルダ・タローの死、日中戦争時の中国旅行、第二次世界大戦のスペインの取材の様子、ニューヨークに住むための偽装結婚、メキシコでのトロツキーの火葬の様子、北アフリカの取材の様子を書いた伝記。もともとは二冊の単行本『キャパ その青春』と『キャパ その死』を三冊の文庫本に分けたらしい。そんな事情を知らずに古本屋で『キャパ その戦い』を買ったら、いきなりキャパがマドリード入りした場面から話が始まり、キャパやゲルダが何人で何歳なのか、二人がいつ知り合ったのかという伝記として最も重要な基本情報がまったく書かれていなかったので面食らう。フリードマンが架空のアメリカ人ロバート・キャパと名乗って写真を売ることにしたという背景事情はたぶん『キャパ その青春』に書かれているのだろうけど、一冊の本として刊行したからにはその本だけで内容が理解できるようにするべきだろう。漫画だって前巻までのあらすじと主要キャラクター紹介が載ってるんだから、その程度の手間くらいかけるべきだろう。キャパがヘミングウェイを養父扱いして交流したことに触れているものの、具体的にどの程度親密でどういう会話をしていたのかという詳細は書かれておらず、情報が中途半端。キャパの足取りは丁寧に追っているものの、作家との交流や恋人の死に対するキャパの心理が書かれておらず、キャパの思想が見えないのは物足りない。キャパシリーズをまとめて読むなら面白いのかもしれないけれど、一続きの話だとわからないような紛らわしいタイトルをつけるべきでない。目次の裏側とかあとがきとかわかりにくいところに分冊だと書いたところで気づかないし、三巻中の二巻部分だけばら売りされていると気づいたらそもそも買わなかった。★★☆☆☆【楽天ブックスならいつでも送料無料】キャパその戦い [ リチャ-ド・ホイ-ラン ]価格:637円(税込、送料込)
2015.09.19
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表題作とその他の1840-60頃に書かれた短編集。シュトルムはドイツの弁護士で、判事や知事をやりつつ創作したらしい。「みずうみ」は詩作が好きなラインハルトが幼馴染のエリーザベトと恋仲だったものの、ラインハルトが大学に行っている間にエリーザベトはエーリッヒと婚約し、失恋したラインハルトは二度とエリーザベトとは会わずに歳をとってエリーザベトを回想する話。三人称。現在(老人)-過去(少年-青年時代)-現在(老人)という入れ子構造で、青年期の回想から老人となった現在へと時間を飛ばすことで、最後にラインハルトの一途な思いを強調するという手法。ラインハルトのエーリッヒに対する感情は直接かかれていないものの、エーリッヒがエリーザベトに送った鳥を嫌いだと言う認知不協和によってラインハルトがエーリッヒを嫌いだということを間接的にほのめかしている。また少年時代に二人でイチゴを探したことを青年時代にもう一度話題に出すことで、時間経過による感情の変化を対比させている。オーソドックスな失恋小説だけれど、古い小説にしては様々なテクニックを短編の中に詰め込んでいる。物語がどの時代のどの場所の話なのか説明不足で、当時のドイツならではの生活感がないのが欠点。イムメン湖(インメン湖)という具体名がでてくるものの、その湖とエーリッヒの別邸の位置関係がよくわからない。エーリッヒが父親の湖畔の別邸を相続して金持ちになったからエリーザベトが惹かれたのか、あるいは家が近所だから親しくなったのか、エーリッヒとエリーザベトが付き合う動機がいまいちわからない。タイトルになっている湖周辺の地理や友人との関係は詳しく書いてほしい。物語に二回乞食の少女が出てくるものの、プロット上の存在意義はなさそうで脱線気味。乞食の少女がラインハルトに惚れて後にラインハルトの家政婦になって老後の世話をしているとか、何かしらもうひと工夫ほしいところ。脇役をうまく活かして中篇くらいにすればもうちょい読み応えがあったかもしれない。「マルテと彼女の時計」は私が住む下宿の大家のマルテばあさんの時計は彼女の人生を見てきたという話。語り手の私の一人称でありながら三人称的にマルテの生活を書くという語りの手法。老人と古い時計を組み合わせて感傷を書くパターンは既視感があるので特に面白いというわけでもない。「広間にて」は祖母バルバラが古い広間で幼年時代の回想を孫の青年に話す話。三人称。老人の回想と家族愛を書いた小ぶりな短編で、また老人の回想ネタかと飽きてくる。「林檎の熟するとき」は、青年が少女と逢引しようとしているところを林檎の木に登った少年が邪魔をする話。三人称で、出来事を作者が直接見ているという体裁で書いている。登場人物に具体性がなく少年、少女、猟人と書かれていて、寓話的だけれども寓話的なオチやひねりがあるわけでもなく、ただの少年のいたずらを書いただけの話で特に見所はない。「遅咲きの薔薇」は私が友人の家を訪ねたら、友人は妻の少女時代の肖像画と現実の妻とのギャップに萎えていたけど、かつてこうだった彼女は今も生きていると遅まきながら気づいたのだと打ち明けられる話。私が友人の独白を延々と聞かされる形式。実体験を書いた私小説のようなものなのかもしれない。おお、青春よおお、うるわしの薔薇咲く頃よ!とリア充に惚気られたところで、読者もおお、青春よと共感できるわけでもなく、物語としてはつまらない。全体の感想としては、失恋や死別といった個人の感傷に焦点を当てた小さな物語で、人間の普遍的感情の一端はとらえているものの、書かれた時代の社会情勢やら経済状態やらが反映されておらず、プロットもなく、物語世界の広がりが乏しいあたりは物足りない。この作者にしか書けない何か独自の特徴があるかというとそうでもない。★★★☆☆【楽天ブックスならいつでも送料無料】みずうみ改版 [ テーオドール・シュトルム ]価格:518円(税込、送料込)
2015.09.15
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表題作とその他の1924-31年に書かれた20編の短編集。「檸檬」は貧乏な青年が焦燥して街を浮浪して歩き疲れたけど、気詰まりな丸善で美術本を積み重ねて檸檬を置いたままにして出て行く話。疲れを忘れて創作に没頭して、檸檬を爆弾に見立てて丸善の気詰まりな雰囲気を破壊して去っていくという爽やかさがタイトルの檸檬と合っていて、芸術的行為が憂鬱な心理を変えた瞬間をよくかけている。これが檸檬でなかったらこの小説は成立しない。他の小説はある場面での心境を書くという心境小説で、この作者は長い小説が苦手なのか、後年の作品は「檸檬」ほどはよく出来ていない。風景描写に主人公の心理を重ね合わせるあたりはいかにも日本の純文学といった特徴があってよいものの、複数の登場人物が出てくると人間関係が説明不足で場面展開が下手で、何のためにその場面や人物が書かれているのか、その場面や人物が他の場面とどう繋がるのかが不明瞭で、読者がメンタルモデルを形成できない。結果として短編なのに焦点が定まっていなくて何を書きたいのかよくわからない仕上がりになっている。「檸檬」は主人公以外に登場人物が出てこないがゆえに下手な部分が出ずにうまくいったのだろう。梶井基次郎は退廃的な生活をしているある種の典型的な作家像だけれど、長くても30ページほどしかない短編・掌編ゆえに思想を展開できるほどの文章量がなく、長編小説に慣れた現代の読者にとっては読み応えが乏しい。せめて中篇くらいの分量で自身の病気の不安を掘り下げるなり、社会批判としての退廃思想を展開するなりしたら坂口安吾のような面白さはあったかもしれない。★★★☆☆【楽天ブックスならいつでも送料無料】檸檬改版 [ 梶井基次郎 ]価格:464円(税込、送料込)
2015.09.08
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