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2015.11.04
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カテゴリ: 小説
若オカミが死んだことで影響を受けた井上の手記をきっかけにして心中事件が相次ぐものの、いろはとモクレンは山荘にこもって世間と戦う話。

●あらすじ
第一部 静かの海
若オカミが死んで若者たちが無気力になる(カミ隠し)現象が起きている中、井上昭次は写真専門学校で一緒に卒業制作を作ったいろはに連絡をとると、いろはは恋人ミコトの介護をしてその様子をビデオに撮っていた。ビデオではミコトが誰も彼もオカミだといい、井上は黄砂の嵐の中でミコトと会って話をすると、ミコトはオカミのメッセージはこの世は死んでいるから死ねということだといい、共感した井上はウェブサイトで二人で死ねというメッセージを広めて手記を残す。

第二部 心中時代
井上とミコトが心中してから5年後、水が枯渇して貴重になり、モクレンが買った森の昇天峠の山荘でいろは、モクレン、きさらぎ、うづきたちが生活していて、いろはは井上の手記に井上の死後の出来事をつづった自分の手記を付け加えて公開する。カミ隠しにあった人が井上のウェブサイトを見て心中をする事件が相次ぎ、暗殺心中、無差別心中などが起きて世間の人は疑心暗鬼になる中でオカミの喪が明けるものの、人々は新オカミに失望して、モクレンは「私は殺しません」と新聞に広告を出したことで世間の反感を買って襲撃されるものの、新オカミが人真似で死ぬなと言った事で心中時代は終わる。

第三部 昇天峠
いろはが手記をアップロードして自首するものの、起訴猶予となって釈放されると、二人は昇天峠で若オカミと新オカミと思しき人物を見かけて、モクレンは飛び降りようといろはに言う。

●感想

語り手たちはやたら説明的な口調な一方で、諸問題の根源になっているオカミという存在や制度については説明も考察もせずにはぐらかしている。この作為的で不誠実でリアリティのない語りのせいで物語がつまらない。語り手を背後から操る作者の存在が見えてしまうと語り手のリアリティはなくなり、語られる物語世界のリアリティもなくなってしまい、一人称の語りとしては失敗してしまう。三人の語り手がどれも若者で物語世界に対する洞察がないのもリアリティをなくしているし、黄砂だの水不足だのという異常気象も意味不明でオカミの存在感を誇張するためだけに用意された演出に見えていっそう物語世界のリアリティをなくしている。
社会に参加せずに生きる価値がないから誰かと心中するという井上のテーゼに対して、他人を信用して誰も殺さないというモクレンのアンチテーゼをぶつけて、最後に人真似しないで表現をして生きるといういろはのジンテーゼを提出するのがこの小説の狙いなのかもしれないけれど、リアリティがない世界でやっても生きるか死ぬかの論理が飛躍してうそ臭さがいっそう際立ってしまい、誰が心中しようが若オカミが生きてようがどうでもよくなってきて、第二部の途中から読む気をなくしてしまった。井上がこの物語の世界を「ニセの世界」と呼ぶとおり、この物語の世界はリアリティがなく死んでいる。私はこの死んだ世界の小説を読むよりも、本を閉じて純文学がない生きた世界に行きたくなる。日本の純文学を読むのは時間の無駄だからもう日本の純文学を読むのはやめようかなという思いがいっそう強くなったむなしい読書だった。私に読書をあきらめさせたくなるほどのリアリティのなさゆえに、小説全体がリアリティがなく人間が生きていない世界の無意味さを体現していて、メタフィクションとしてはよくできている。読書の無意味さを体感させてくれるという点では『きことわ』と似た読後感で、こういうのは完成度の高い駄作とでもいうんだろうか。精巧なゴミを作るというのも現代芸術ならありなんだろう。

物語以外で気になる点としては、井上がカメラマン志望というのは先日読んだ『俺俺』とキャラ設定がかぶっていて、誰も彼もオカミという状況も『俺俺』の誰も彼も俺という状況と似ている。『ロンリー・ハーツ・キラー』は『俺俺』より先に書かれたようなので、『俺俺』でアイデアを使いまわしたのだろうか。登場人物や着想に既視感があるのはよくない。

★★☆☆☆






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最終更新日  2015.11.04 22:29:38
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