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最近は巷で人気のイラストレーターの古塔つみの作品に写真からのトレースが疑惑が出て、一部の作品については「権利者の許諾を得ずに投稿・販売してしまったことは事実です」と謝罪したものの、「引用・オマージュ・再構築として制作した」「写真そのものをトレースしたことはございません。模写についても盗用の意図はございません」と主張したことでネットの検証班が元ネタ探しをやりだして、作品のトレパクが検証されて次々に元ネタが掘り返されて炎上しているようである。これについて考えることにした。
●トレースとは何か
トレース(trace)は英語で追跡する、線を描くという意味で、美術だと原画の上に薄紙を置いて描き写す意味で使われる。
私が子供の頃に文房具屋でトレーシングペーパーという下絵が透けて見える薄紙が売られていて、漫画にトレーシングペーパーを載せて鉛筆で輪郭をなぞって描き写して、それをひっくり返して裏から輪郭をなぞると他の紙に漫画を反転トレースすることができた。こうしてトレースすると絵が下手な子供でもドラゴンボールのかっこいい絵を描けたのである。
プロのアニメーターとかはトレース台というライトがついた台の上に下書きの原画を置いて、下からライトを当てて原画を透かして清書用の紙にきれいな線で描き写す。画像加工ソフトのレイヤー機能をアナログでやるわけである。
今では創作がほとんどデジタル化したので、ソフトを使って簡単にコピーしてトレースできる。例えば雑誌から画像をスキャンして画像加工ソフトで輪郭の線を抽出して、レイヤーを重ねて下絵を透かしてデジタルで塗り絵をすれば手軽におしゃれなイラストが出来上がる。デジタルなので反転したり角度を変えたり拡大縮小したり他の画像とつぎはぎしたりすることも簡単にできて、著作権を無視すれば世界中のあらゆる画像が加工素材になる。
古塔つみは写真のトレースを否定しているものの、模写としては線が一致しすぎているイラストがあるし、模写ならわざわざ反転させる必要がないし、1年に400点も製作したという制作スピードも常人離れしているので、私はトレースしてるんじゃないかと思う。
●トレースの何が駄目なのか
・他人の労力にタダ乗りする
自分で写真を撮ってそれをトレースして絵に仕上げるならよいけれど、他人の写真の構図も小道具もそのままトレースして流用するのでは写真家の才能にタダ乗りして作品を底上げしたことになる。これは創作のモラルとしてだめである。写真家はカメラや照明の角度を若干変えたり、衣装や小道具を変えたり、被写体にイイヨイイヨと声をかけて感情や表情を引き出したりして、何百枚も写真を撮った中で決定的な一瞬をとらえたベストの一枚を雑誌や写真集に掲載する。そうやって被写体の魅力を最大限に引き出すのが写真家の技術であり才能である。その最高の一枚を元ネタにしてイラスト化したならいい構図や絶妙な表情が出来上がっていて当然で、それはイラストレーターが褒められる部分でなくて元ネタを撮った写真家が褒められるべきである。
・表現でない
古塔つみのイラストは単品で見たら良さげに見えるけれど、他人が表現した写真のイラスト化加工に過ぎなくて、古塔つみ自身の表現ではない。イラスト加工屋として活動するならそれでもよいけれど、元ネタがないと創作できないならプロのイラストレーターと名乗るべきではない。原作者に許可を取って元ネタを明記して二次創作イラストとして発表するべきだろう。
・オマージュでない
オマージュは名作に対してわかりやすい形で模倣が行われるし、自分の作風が主でオマージュの部分は従で主従がはっきりしている。例えば週刊少年ジャンプの漫画家たちが他の漫画家の連載〇周年を祝って自分の画風で他の漫画のキャラを描くのはオマージュといえる。自分の作風を確立していなくてトレースの元ネタに応じて作風をころころ変えて元ネタの影響に引きずられるのでは主従が逆転しているし、あっちこっちからネタをつぎはぎして改変するのは元ネタに敬意がないのでオマージュでない。
・ソフト頼みで実力がない
Photoshopとかの写真加工ソフトを使いこなすのも一種の能力だけれど、それはソフトの性能がすごいだけで絵描きの能力として評価できない。古塔つみは写真と同じ構図でイラストを描いていて、人物の顔の角度やポーズが変わったら描けないのでは基本的な人体デッサンすら練習してこなかったのだろうし、立体を把握する能力が欠けているといえる。
盗作について考える
という記事で勝海麻衣について考えたのだけれど、勝海麻衣は元ネタの模写が中心で独自性が乏しかったもののトレースではなくて自分で絵を描く能力はそれなりにあったのに対して、古塔つみの場合は主に写真からのトレースのようで独自性だけでなく描写力も乏しいと思われる。写真のトレースをすれば絵が下手な私でも似たようなイラストを作れるし、個人の能力に依らずにソフトの能力で誰でも作れるようなものには芸術的な価値が乏しい。
・訓練にならない
トレースは答えを見ながらテストを解くようなもので、デッサンと違って立体の重心や光や影を自分の頭の中で組み立てる訓練にならない。芸術家は日々の地道な努力の積み重ねで基礎的な能力を底上げして、その上に独自の技術や発想を付け加えて自分のスタイルを完成させるもので、才能を伸ばす近道はない。トレースして楽にうわべだけいい作品が作れるようになってしまうと、かえって基礎的な能力が伸びなくなる。
●トレースのアウトとセーフの線引き
どういうトレースが法的にアウトになるのかを考えると、無断でトレースをしているか否か、作品内で無断トレースが占める割合がどのくらいか、権利を侵害しているかが問題になりそうである。
漫画の『ジョジョの奇妙な冒険』の奇妙なポーズがファッション雑誌とかのトレースと言われているけれど、ポーズは同じでも人物や服装はまったく違うので肖像権は侵害していないし、作品全体に占める模倣の割合が小さくて変なポーズがないとしてもストーリには影響がないし、ポーズ自体には著作権がなくて同じポーズをしたところで権利を侵害しているわけではないので特に問題視されていない。
一方で古塔つみのように一点物のイラストで写真から無断でトレースをして、構図や服装や人物などの作品に占めるトレースの割合が大きいと著作権や肖像権の侵害になりうる。
グラフィックデザイナーの高橋証が過去の少女ヌード写真集を参考にしたCG児童ポルノを作って児童ポルノ禁止法違反の裁判になって、弁護側は架空の人物を描いた創作だとして無罪を訴えたけれど、検察側は実在した少女のヌードをトレースしていると主張して、裁判長は一般人から見て実在の児童を描いたと見られる場合は同一とみると判断して2016年に有罪判決になった。この判決を基準にして考えると、一般人から見て実在のモデルを描いたように見える古塔つみのイラストは写真を参考資料にして架空の人物を描いたのではなくて無断で実在のモデルを描いた肖像権の侵害といえそうである。
日本写真家協会の 写真著作権と肖像権
の解説によると写真を元ネタにしたイラストは二次的著作物に該当するので原作者の許可が必要で、古塔つみが「引用・オマージュ・再構築として制作した」「写真そのものをトレースしたことはございません。模写についても盗用の意図はございません」と主張したところで原作者の許可なしに二次的著作物を高値で売っていたのだから、写真そのもののトレースでなくて模写だとしても結局は著作権の侵害になりそうだし、意図してなかろうが原作に酷似した模写に値段をつけてオリジナル作品として売ったらそれは盗用である。
もし古塔つみに制作を依頼した企業側が古塔つみをかばうために著作権侵害を黙認するなら、同様の手法で企業の著作物が二次的著作物の素材としてちょっと改変して利用されるのも受け入れる姿勢だということになるし、企業の出方次第では大海賊時代の幕開けになってあらゆる写真やイラストの権利が無視されて素材として略奪されてしまいかねない。それゆえに古塔つみの対応だけでなくて発注した企業側の対応も重要で、ネット住民を怒らせたら企業のブランドイメージを損なう形で著作物を無断利用されてトレースやコラージュをやりまくられる危険もある。芸術新聞社は事実関係の精査のために『古塔つみ作品集 赤盤』をいったん出荷停止すると声明を発表したけれど、これが普通のまっとうな企業の対応だろう。
●古塔つみを救いたい
古塔つみは女性のアイコンを使ってサイン会には女性の影武者を用意して入念に女性のふりをしていたけれど、実際は妻子持ちの中年のおっさんがネカマして若い女性に写真を送らせているとばれて、作品もトレース中心で芸術性が乏しいとなると、ファンや企業が離れて今後はイラストレーターとして創作活動するのは難しいのではなかろうか。ではどうすれば古塔つみを救えるのか考えてみる。
まずはトレースを認めて開き直って炎上も知名度として活用して、なぞり師として写真のイラスト化を専門にやる職人になってクライアントに写真を用意してもらう受注案件だけやればそれなりに需要があるかもしれない。あるいは反省を示すためにかわいい女子を描くのをやめて、漫☆画太郎みたいに婆専門になって絵画修行をやり直すとよい。岸田劉生がグロテスクな「デロリ」という美的感覚を見出したように、古塔つみが婆を見つめればかわいい以外の女性の魅力を開拓できるかもしれないし、世間から忘れ去れてほとぼりが冷めたころに復帰できるかもしれない。
あるいはVTuberになってバーチャル美少女受肉おじさんのミッツ塔子として生まれ変わって、女装した自分をイラスト化すればLGBTアートとして別の需要を開拓できるかもしれない。
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