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2025.12.09
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カテゴリ: 小説
19世紀のイギリスの諜報員が屍兵を調査する話。

●あらすじ

・プロローグ
わたし(ジョン・ワトソン)はロンドン大学医学部の講義でヴァン・ヘルシング教授が死体に疑似霊素をインストールして「フランケン」を作る様子を観察して、ヴァン・ヘルシング教授とセワード教授に連れられて貿易会社を装った政府機関を訪ねてMを紹介される。

・第一部
1878年、わたしは3カ月かけてQ部門から貸与されたフライデーというクリーチャーを調整して翻訳機能をつけてわたしの行動記録をつけさせて、ボンベイに行って副王のリットンに会って、心臓に杭を打たれた女のクリーチャーが『屍者の帝国』の構成員だと紹介される。
バーナビー大尉と会ってインダス川を遡って、ロシア帝国の協力者のクラソートキンと会ってアレクセイ・カラマーゾフが100体の屍兵を盗んでアフガニスタンに逃げたと聞いて、アフガニスタン国境のカイバル峠でイギリス軍とアフガニスタン軍の戦闘を見物して相手の動きを先読みする青色の屍兵「完璧な人形」を眺める。アフガニスタンに入国してカラマーゾフ兄弟と会うと、兄のドミートリイは新型の屍者になっていた。アレクセイはフランケンシュタインが最初に作った怪物「ザ・ワン」の痕跡を追っていたが、阿片を吸って死ぬ。

・第二部
1879年、わたしとフライデーとバーナビーはロシア帝国の新型屍兵の技術要件が日本に流出した可能性があるのでフランケンシュタイン査察団(リットン調査団)として日本に行って、ザ・ワンの秘密が記されているというヴィクターの手記を探しに大里化学を訪ねると、既に屍兵に襲撃されて職員が殺されていて、バーナビーが新型屍兵を倒す。大里化学から持ち出したヴィクターの手記のパンチカードをフライデーに読み込ませていると、わたしは屍兵からコレラに感染して倒れる。
コレラから回復するとカイバル峠で会ったハダリーがいて、ハダリーは前アメリカ大統領のグラントのお供をして各国の屍者事情を調査していると言うのでグラントに合うと、グラントが自身と日本皇帝が囮になってテロ組織をおびき出して一網打尽にする計画を立てたら屍兵が暴走する。わたしはハダリーが屍者を暴走させる方法を知っていてわたしをグラント暗殺犯に仕立てようとしたのだと推測して、バトラーはハダリーの暗殺計画からグラントを守ってきたと言って、ハダリーと取引して屍者暴走事件の原因は不明と公表する。

・第三部
わたしはサンフランシスコでミリリオン社を設立したバロウズとオペレーターとして配置された最新の屍者を見物して、大陸横断鉄道に乗ってフライデー、ハダリー、バトラー、バーナビーたちとザ・ワンを追っていると、Mの指令で襲撃をうけるもののバーナビーが撃退する。教会でピンカートンの手下から襲撃されるもののハダリーが屍者を操って倒して、教会の中で屍者を操るザ・ワン(チャールズ・ダーウィン)と戦闘になって降伏する。フライデーを通じてMに情報が筒抜けで、わたしが拘束されて潜水艦ノーチラス号でイギリスに行く途中、バーナビーが潜水艦を制圧して、ザ・ワンは屍者化を受け入れている拡大波をなんとかしないと生者も上書きされた屍者になるという。潜水艦でロンドン塔に突っ込んで礼拝堂に行くとヴァン・ヘルシングが現れてザ・ワンと対決して、ザ・ワンは花嫁を復元して行方不明になる。

・エピローグ
わたしが経歴を偽装して旧友と会った後、ハダリーが口封じに来たので取引して、自分を屍者化してフライデーに隠していた十字架を自分に埋め込むことにする。

●感想

わたし(ワトソン)の一人称だけれど、いつの時点で誰に対してなぜ語っているのか不明で、一人称なのに現在進行形で書いているありえない語りの構図になっていて、ナラトロジー的な語りの体裁が整っていない。152ページに「国家によるフランケンシュタイン三原則違反。そんなものなど、公式ルートで発表することも、非公式ルートで伝達することもできはしない」と書いてあるけれど、諜報員がそんな機密をわざわざ小説として書いて読者に公表しているのはおかしい。もともとリアリティがない世界設定だけれど、語りの設定が不自然なのでますますリアリティがなくなる。フライデーが行動記録をしていることになっているけれど、フライデー自身が見聞きしたワトソンの言動を記録しているのか、ワトソンの認知や思考をテレパシーかなんかで読み取って記録しているのか、ワトソンが記録しろと指示したことだけ記録しているのか、フライデーの仕組みが不明なのもよくない。フライデーを通してワトソンの行動がMに筒抜けだという設定なのに、エピローグでフライデーの傷の中に大事な十字架を隠していたことがMにばれていなくてMに十字架を回収されなかったのはプロットが矛盾していると思う。私が需要な箇所を読み落として誤読しているのかもしれないけれど、つまらないし面倒くさいので読み返して確認する気も起きないし、読書に慣れた私でさえ誤読するのであればそんなわかりにくい書き方をするほうが悪い。
構成としては、プロローグは大学の講義という体裁で世界設定を読者に説明していて、長編なら地の文で説明するよりもエピソード形式にするほうが読者が物語世界に入り込みやすくてよい。しかしその後の展開がだめで、医学部生のワトソンがなんでいきなり政府機関で働くようになったのか目的や動機が不明で、ワトソンの人物像を掘り下げないまま登場人物が増えていってワトソンが主人公というよりただ視点を提供する傍観者的な存在になっていてつまらない。一人称の小説は読者が語り手に共感しやすいところにメリットがあるのに、ワトソンの感情や思考をあまり書かないので共感できないし、一人称にする必然性がないので三人称で書く方がましである。戦闘シーンで活躍するのはほとんどバーナビーで、バーナビーが主人公を勝利に導くご都合主義的な存在になっている一方で、ワトソンに主人公らしい見所がない。
第一部は誰かと会って会話して移動して、別の誰かと会って会話して移動して、別の誰かと会って会話して移動する繰り返しで、ワトソンが主人公として主体的に行動する場面がないし、400ページのうち160ページ読んでも面白い箇所がないので読書をやめたくなった。外国が舞台でカタカナの固有名詞が頻出して登場人物を覚えにくいのに加えて、外面描写もほとんどなくて人物像が想像できなくて印象に残らないし、そのうえ人物一覧表もないのでいったん退場した人物が再登場してもこいつ誰だっけとなってページを遡って人物像を把握しなおさないといけなくて面倒くさい。説明はやたら衒学的で情報量が多いけれど、重要でない枝葉末節の無駄な情報が多くて重要な情報がわかりにくくて物語の面白さにつながっていなくて作者の自己満足になっているし、場面が断片的で読者が知りたいことを書いていない。第二部でグラントを「暗殺」と言っているので死んだのかと思ったら第三部で普通に生きていたりして話がわかりにくい。
帯に「早逝の天才・伊藤計劃の未完の絶筆が、盟友・円城塔に引き継がれ遂に完成」と煽り文句が書いてあったのでどんなもんじゃろうと思って読んでみたら期待外れで、伊藤計劃が天才でないか、円城塔が下手なのか、どっちかまたは両方なのだろう。円城が未完の作品に勝手に大幅に手を入れるわけにもいかなくて完成度が低いのは仕方がないとはいえ、小説の基礎的な技術を理解していなまま衒学的にうわべを取り繕ってごまかしたような書き方で、技術的な未熟さがそのまま物語のつまらなさになっている。ストーリーを楽しむ小説というよりはカラマーゾフの兄弟やフランケンシュタインとかの小説上の存在が登場する二次創作的な偽19世紀のスチームパンクゴシックホラースパイ風の蘊蓄まみれの雰囲気を楽しむ感じで、このジャンルに興味がない人はわざわざ読むほどの作品ではない。

★★☆☆☆

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最終更新日  2025.12.09 11:52:53
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