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鉄塔から指令を受けているとタカハシくんが話したので、その場は一瞬凍り付いたようになった。ヤナギサワカズヨさんはなんだか怒ったように黙り込み、コバヤシくんは少し間を置いて、へぇー、それはどのタイプですか? と聞いた。どのタイプ? そう、標準鉄塔とか、懸垂鉄塔、耐張鉄塔とか、引留鉄塔とか、いろいろあるじゃないですか。あ、鉄塔マニアのサイトとかあるんですよね、タカハシさんて、そっち系ですか?タカハシさんはぼんやりとして、いや、そういうんじゃないんだ、といい、それきり黙り込んだ。ハチロウくんはなにもできなかった。結局、その場の空気を変えてくれたのはコバヤシくんということになるのだけれど、ヤナギサワカズヨさんは、次の約束がありますので、とおもむろに立ち上がり、コバヤシくんを急き立てるようにして席を離れた。コバヤシくんは伝票をつかむとタカハシくんとハチロウくんに笑いかけ、あわててヤナギサワカズヨさんの後を追う。後に残されたタカハシくんは、ハチロウくんなどそこには存在しないようにして、ただ座っていた。もう少し話を聞くべきだろうか、うん、本当はそのほうがいい。だけどハチロウくんにもその日、行くべきところがあった。いずれにしてもトモコさんに連絡するべきなんだろうな。トモコさんというのはタカハシくんの元カノだ。結婚して子供がいるけれど、タカハシくんと別れた後もなにやかやとタカハシくんの世話を焼いている。どういう関係なのかよくわからないけれど。タカハシくん? ぼく、もう行くよ、これからお通夜なんだ、タカハシくんはお通夜ということばに反応するようにしてハチロウくんのほうを見た。タカハシくん、君にこそ話したかったんだ、亡くなった人のことを。その人はハチロウくんの近所の人で、カワサキさんという。昨日88歳で自死した。亡くなった前日、カワサキさんはいつものように庭の草取りをしていたという。もともとカワサキさんちの庭はみっしりと敷き詰めたような芝生がきれいに刈り込まれ、雑草一つ生えていないようだった。けして広い庭ではなかったけれど、すみからすみまで、見事に管理されていた。少し息苦しいくらいに。カワサキさんは遺書をしたためていて、そこにはひとりで住んでいたそのすまいを土地ごと市に提供すると書かれていたという。それだけしかわからない。ほんとうはお通夜なのかどうかもわからない。その人は密葬を望んでいた。ハチロウくんは町内の役員をしていたので、亡くなったその人の家にとにかく駆けつけるようにと連絡を受けていた。タカハシくんは閉じこもるようにしてそこにいる。ハチロウくんは結局、なにも話さなかった。じゃあね、ハチロウくんが小さく手をあげると、タカハシくんもかすかに頷いた。またね、タカハシくん。
2008年04月29日
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タカハシくん、お元気ですか。ここのところ連絡が途絶えているので、ちょっと心配しています、たぶん。昨日、タカハシくんも知っている熊本の人からメールをもらったんです。その人はもともと鹿児島の出ということらしく、鹿児島の話をよくしてくれます。ほら、先日、東上線のとある駅、タカハシくんと別れた後、私たちはあの駅前の喫茶店でお茶をしたんです。そのとき、その人は壁に飾られた油絵の前にしばらく佇んで、これは桜島ですね、この方向から桜島を描くのはめずらしいですね、と店の主人に話しかけたのでした。店のご主人ははにかむようにうなづいて、ふたりはしばらく私たちにはわからない地名をあげて語り合っていました。どうも同郷の人だったらしいです。あ、メールをくださったのは、その人の娘さんなんだけれど。それで、メールには、泣こよかひっとべ(^^*て、書いてありました。鹿児島弁で、くよくよ泣いてとどまるよりも行動をおこしなさい! という意味らしいです。泣こよかひっとべ。わかるけどさ、私たちにはちょっとまぶしいね、見る前に跳べって小説があったね、そう言えばさ、タカハシくん、昔、そんな話をしたこともあったよね。て、思わずここにはいないタカハシくんに語りかけてもいたのです。まあ、それだけです。気が向いたら連絡ください。写真は、このまえおさんぽしていてとりました。
2008年04月08日
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