草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2026年02月25日
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その費えは甚だ多い。

 輿に乗せて路次を過ぎる日は、道を急ぐ行人も馬から下りてこれに跪き、農を勤める里民も夫に

取られてこれを舁き、かくの如く賞玩が軽くなかったので、肉に飽き錦を着た奇犬が鎌倉中に充満

して、四五千匹に及んだ。

 月に十二度を犬合わせの日とて定められしかば、一族大名御内外様の人々、或いは堂上に坐を連

ね、或いは庭前に膝を屈して見物する。

 時に両陣の犬共を一二百疋(ひき)づつ放して合わせたりければ、入り違い、追い合わせて、上に

なり下になって、噛み合う声が天にまで響き、地を動かす。

 心なきひとはこれを見て、あら面白や、ただ戦いに雌雄を決する事ならずと思い、智ある人はこ



む。

 見聞の准える所、耳目が異なると言えども、(今見たり聞いたりすることは、事実上の人間の闘

争死亡とは違うが、見聞の似たものを例に取って考えれば、悉く人間の闘争と死亡とを前兆するも

のであって、呆れた行為である。

         時政 参籠 榎嶋の事
           北条氏が九代を保った理由

 時は既にさんずいの堯季(ぎょうき、人情の薄い末世)に及んで、武家が天下の権を執ること源平

両家の間に落ちて度々に及んでいる。

 然れども、天道は必ず盈(みちる)を缺く故に、或いは一代にして滅び、或いは一世をも待たずに

失せてしまう。

 今、相模入道の一家は天下を保つことは既に九代に及んでいる。この事には故がある。



 昔、鎌倉草創の始めに、北條四郎時政が榎嶋に参籠して子孫の繁昌を祈願した。三七日(二十一

日目」に当たる夜に、赤い袴に柳裏(柳色・青くて白ばんだ色の裏地を付けた衣)を着た女房で、

端厳美麗なるが時政の前に来て、告げて言うには、汝の前生は箱根法師(箱根権現に仕える僧)であ

った。六十六部の法華経を書写して、全国六十六か国の霊地に奉納したる善根により、再びこの地

に生まれる事を得た。



を過ぎる事はないだろう。吾の言う所に不審があるならば、国々に納めた霊地を見よ、と言い捨て

て帰り給う。その姿を見れば、あれほどに厳めしくあった女房が忽ちに伏し長二十丈ばかりの大蛇

となって海中に入ったのだ。

 その跡を見ると、大きな鱗を三っつ残していた。時政は所願が成就したと悦んで、則その鱗を取

って旗の文(もん)に押したのだ。今の三鱗形の文がこれである。

 その後、弁財天の御示現に任せて国々の霊地に人を遣わして法華経奉納の所を見させたところ、

俗名の時政を法師の名に替えて奉納筒の上に大法師時政と書いてあるのが不思議である。

 されば、相模入道が七代を過ぎて天下を保っているのも江嶋の弁財天が御利生(ごりしょう)、又

は過去の善因(善根と同じ)に感じられたものあるよ。

 今の高塒禅門は既に七代を過ぎて、九代に及んでいる。されば滅びる時が到来して、かかる不思

議の振る舞いをもなされるのかと覚えける。

         大塔宮 熊野落ちの事
      按察法眼好専 宮を般若寺に攻める 経箱に隠れ 危難を遁れさせらる

 大塔二品親王は笠置の城の安否を聞き召されん為に暫く南都の般若寺に忍びで御座有りけるが、

笠置の城は既に落ちて、主上は囚われさせ給いぬと聞こえしかば、虎の尾を踏む恐れ(危険を冒す

譬え)が御身の上に迫り、天地は広いとは言え御身を隠すべきところはない。

 日月は明らかではあるが長夜(冥途の闇)に迷っている心地がして、昼は野原の草に隠れ、露に

臥して鶉の床(すなわち、叢・くさむら)に御涙を爭う。

 夜は、孤村(人里離れた村)の辻に佇み、人を咎める里の犬に御心を悩まされ、何処であっても

御心が安かるべき所がないので、暫しの間だけでも安心できる場所があればよいと思し召されてい

る所に、一乗院(奈良の興福寺の内にある)の候人(そうろうびち、門迹家に仕えた僧形妻帯の侍

者)按察法眼好専(こうせん)がどのようにして聞いたのか、五百余騎を率っして未明に般若寺に

ぞ寄せたりける。

 折節、宮についていた人が一人もなかったので、一防ぎ防いで落ちさせ給うべき様もない上に、

隙間もなく兵が寺内に既に打ち入っているので、紛れて御出でなさるべき方法もない。

 さらばよし自害をしようと思召して、すでに推し膚を脱ぎなされたが、事が叶わなかった期(ご)

に臨んで、腹を切ることは非常に簡単だ。

 もしやと思し召し返して、仏殿の方を御覧なさると人が読みかけて置いた大般若経の唐櫃が三つ

ある。二つの櫃はいまだ蓋を開けず、一つは御経を半分ほど取り出して、蓋をもしていない。この

蓋を開いた櫃の中に御身を縮めて臥せさせたまいて、その上にお経を引きかずいて隠形(いんぎょ

う、身を隠す呪文。摩利支天経にある、真言秘密修法の一つとして行う)の呪(じゅ)を御心の中で

唱えてぞ坐(おわ)しける。もしも探し出せれたならば、直ぐに突き立てようと氷のような刀を抜い

て御腹にさし当てて、兵がこの中であると言う一言をお待ちなさる御心の中は、推量するのも猶浅

かるべし。

 さる程に兵は仏殿に乱れ入って、仏壇の下、天上の上まで余すところもなく探したが、余りに求

め兼ねて、この様な物が怪しいぞと、あの大般若経の櫃を開いて見よとて、蓋をした櫃を二つ開い

て御経を取り出し、底を翻して見たのだが、いない。

 蓋を開いてある櫃は見るまでもないとて兵が皆寺中を出で去った。

 宮は不思議の御命を継がせ給い、夢に道を行く心地がして、猶も櫃の中におわしましけるが、も

し兵が再び立ち帰り委しく探す事も有るかも知れないと、御思案あって、前に兵が探した櫃に移り

変わっておわしましけり。

 案の如く兵共が仏殿に立ち帰り、前には蓋が開いていたのを見なかったが、覚束ないぞ。そう言

ってお経を皆引き移して見たのだが、からからと打ち笑って、大般若経の唐櫃の中をよくよく探し

たれば、大塔の宮はいらせらないで大唐の玄奘三蔵がおわしたぞ、と戯れければ皆一同に笑って、

門外へと出てしまった。

 これは偏に、摩利支天の冥應(みょうおう、神仏が祈願に応じて守護すること)、又は十六善神

の擁護(おうご)に依る命であると、信心肝に銘じ、感涙はお袖を潤したのだ。





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最終更新日  2026年02月25日 15時28分36秒
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