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2021.01.31
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第43話「母との決別」

アドゥは顧剣(コケン)のおかげで峠を越し、翌朝には目を覚ました。
小楓(ショウフウ)は安堵したが、そこへ大理寺の汪束(オウソク)が現れ、刺客と戦ったアドゥから話を聞きたいという。
刺客の顔を見たアドゥは皇后の側近侍女・容霜(ヨウソウ)だったと証言、こうして容霜は収監された。

一方、李承鄞(リショウギン)は未だ意識が戻らず、小楓は焦っていた。
実は王太医は皇太子妃から西域の劇薬を受け取ったものの、薬効が強すぎるため使用できなかったという。
小楓はこのまま手をこまねいていられず、万一の時は自分が責任を取ると約束して李承鄞に自ら薬を飲ませた。

容霜は大理寺で尋問されたが、身に覚えがないとしらばくれた。

その頃、皇后・張玫娘(チョウバイジョウ)も皇帝に容霜の無実を訴えていた。
そもそも息子の李承鄞を殺める理由がない。
しかし皇帝は李承鄞の目が覚めればはっきりすると告げ、結論が出るまで謹慎を申し渡した。

高坤(コウコン)は皇太子暗殺未遂事件を父・高于明(コウウメイ)に報告した。
しかし箝口令が敷かれているため詳しく探れず、身重の妹・如意(ニョイ)に余計な心配もかけたくないという。
「我々が皇后を守らなくて良いのでしょうか?」
「もはや我らは一枚岩ではない、太子暗殺は死罪だ、関わらぬのが賢明だろう
 それに如意が皇帝の子を宿している、不要な駒は捨てれば良い」

小楓が飲ませた薬は弱っていた李承鄞にはやはり強すぎた。
李承鄞は薬を吐き出し、熱も下がらず、王太医はもはやなす術ないと報告する。
落胆した小楓は覚悟を決め、死ぬ時は自分も一緒だと李承鄞に声をかけた。


小楓は青鸞(セイラン)殿にやって来た。
すると固く閉ざされた門の向こうから、趙瑟瑟(チョウシツシツ)の悲痛な叫び声が聞こえて来る。
「ここから出して!お願いだから殿下に会わせて!…お願いよ…一目だけでいいの…
皇太子が重傷だと知った瑟瑟は、李承鄞に万一のことがあれば生きていけないと泣き叫んだ。
その時、急に門が開き、皇太子妃が現れる。

小楓は瑟瑟の乱れた髪を直し、李承鄞が会いたがっていると伝えた。

裴照(ハイショウ)が寝殿の前で控えていると、小楓が瑟瑟を連れて戻って来た。
「入って…でも泣いては駄目よ」
瑟瑟は気が急いていたが、ふと門前で立ち止まり、皇太子妃に感謝してから寝殿へ入って行く。
すると小楓はそのまま石段に腰掛け、瑟瑟がいれば李承鄞も元気になるだろうと安堵した。
裴照は寒空の下で李承鄞の無事を祈る小楓を見守りながら、愛する人に側にいてもらえない皇太子を思うとやるせない。
その頃、瑟瑟は意識のない李承鄞に涙ながらに声をかけていた。
「どうしたのですか?目を開けてください…殿下が必要なのです、瑟瑟はどうすれば…」

小楓が手を合わせて天に祈りを捧げていると、やがて永娘(エイジョウ)が寝殿から出て来た。
「太子妃、そろそろ趙庶人にお帰りいただいてはどうですか?」
「…今行くわ」
小楓が立ち上がると、裴照も下がることにした。
「では私はこれで…」
すると急に突風が東宮を吹き抜けて行く。
その風はまるで小楓と裴照に西域の砂漠を思い出させるような強い風だった。

瑟瑟が帰ると、小楓は再び李承鄞に付き添った。
李承鄞の命は今や風前の灯となり、太皇太后や皇帝が最後に顔を見にやって来る。
やがて寝所には小楓と李承鄞だけになった。
「リーチョンイン…人って不思議なものね、前は顔を合わせれば喧嘩ばかり、あなたに腹を立ててた
 でも今となっては良い思い出しか浮かばない」
小楓は意識のない李承鄞の手を握りしめ、本音を語り始めた。

「最初から嫌っていたわけじゃない
 よく覚えているわ、あなたが太子になると聞いてすごく嬉しかった
 あなたの意中の人は趙姑娘(グーニャン)だと知っていたのにね…ぐすん
 しばらくしてあなたが丹蚩(タンシ)を滅ぼしたと聞いた、本気で殺そうと思ったわ…(はあ~)」
小楓は李承鄞の手に息を吹きかけて温めながら、両手で大事そうに包み込んだ。
「新婚初夜のこと覚えている?
 目の前にいるあなたを見ながら考えたのよ?ひと思いに殺すべきか
 あなたを恨んだわ、でも自分も恨めしかった
 手を下せないばかりか、あなたを好きになっていたんだもの…ぐすん
 早く目を覚まして、ね?…あなたの言う通り寡婦になるのが怖い
 だって西州では夫に先立たれた女は義弟に嫁ぐのよ?
 もしあなたが死んだら、私は誰に嫁げばいいの?他の人なんて嫌よ…
 ふっ、なら一生、私は寡婦なのかしら?
 実はあなたに隠していたことがあるの
 小さい頃に明遠(メイエン)娘娘に中原の字を教わったけど、未だに覚えられない
 手本を真似て一筆ずつ書いているだけなの…
 例えばあなたの名前、李承鄞の″鄞″を最初は″勤″だと思ってた
 中原の名には全て意味があるそうね?あなたの″鄞″はどういう意味なの?」
<″鄞州″だ… (-ω-。` )<鄞州ねえ…
「…太祖皇帝が鄞州の領主だった…中州の東…梁州(リョウシュウ)の南…豊朝(レイチョウ)発祥の地…
 だから…私の名は承鄞…」
(´-ω-。` )<へえ~…って(≧ꇴ≦`ノ)ノ<ええーっ!
李承鄞は息を吹き返した。

翌朝、李承鄞が再び目を覚ますと、側にいたのは瑟瑟だった。
「…なせここに?」
「太子妃が殿下に付き添うようにと…」

すると知らせを受けた皇帝が駆けつけた。
人払いした皇帝はアドゥの証言で李承鄞を襲ったのが皇后の侍女・容霜だと教えたが、なぜか李承鄞は驚く様子がない。
そこで李承鄞は生母の形見である玉佩を差し出した。
「明遠姑姑(グーグー)が死に際に言われたのです、私の生母を殺めたのは皇后だと…」

皇帝は大理寺で自ら容霜を審問することにした。
御前に引っ立てられた容霜は濡れ衣だと訴え、実は殺したかったのは皇太子ではなく小楓だったとごまかす。
「朕を欺かぬと?ならば1つ聞く…皇后の差し金なのか?」
「皇后娘娘は関係ありません!長年、連れ添った皇后娘娘を信じて差し上げてください!」
「…太子が目を覚ましたぞ?」
容霜は動揺を隠せず、目を泳がせた。

清寧宮に皇帝が現れた。
張玫娘は容霜の無実が証明されたと期待したが、皇帝の口から思わぬ言葉が飛び出す。
「答えてくれ、淑妃が命を落としたのは猛毒が原因だと判明した…そなたが毒を盛ったのか?」
「違います!信じてください!」
「そなたは玉瑶(ギョクヨウ)と姉妹同然で承鄞を立派に育て上げた
 朕もそなたは国母にふさわしいと思っていた、だが明遠が承鄞に真相を告げていた
 今ようやく気づいたのだ、朕が傍で毒蛇を飼っていたことに…
 玉瑶を殺め、承鄞まで手に掛けるとは!何と恐ろしい女だっ!」
皇帝の逆鱗に触れた張玫娘は恐怖のあまりその場にへたり込んだ。

皇帝は張玫娘が自衛のために数々の策を弄していることなど知っていた。
しかし李承鄞がそれに対処できぬようでは皇帝の器ではないと考えて来たという。
「夢にも思わなかった…かくもおぞましい女だったとは…己の息子すら亡き者にしようとした!」
「陛下!事実無根です!私が承鄞を殺めるはずありません!誰よりも愛しています!」
張玫娘は徹底的に調べて冤罪を晴らしたいと嘆願したが、皇帝から一蹴されてしまう。
「芝居はたくさんだ!…三十余年の夫婦の情に免じて命だけは助けてやる
 すでに廃妃の勅書を書いた、明日の朝議の場で公布する」
追い詰められた張玫娘は高于明が黙っていないと反発したが、皇帝はまだ叔父を当てにしているのかと呆れた。
高婕妤(ショウヨ)が懐妊し、まもなく貴妃に封じられる。
皇子を産んでいない姪と皇帝の子を身ごもった娘、高于明がどちらを選ぶか一目瞭然だ。
追い詰められた張玫娘は皇帝を一途に思って来たと情に訴えたが、皇帝に足蹴にされてしまう。
今や叔父も身内も離れ、後宮で慕う者もなく、寝宮の宮女も皆、処刑されていた。
皇帝は妻であることを考慮して選択肢を与えることにしたが、張玫娘が急に高笑いして話を遮り、姿勢を正す。
「私は幼い頃、陛下の許嫁となりました…初めてお会いした時から私の心の中には陛下だけだった
 顧淑妃を愛しておられたのは知っています、でも時には陛下もこの私に優しくしてくださった
 玫娘に1つだけ教えてください、陛下のお心に私はいましたか?」
「…己の胸に聞いてみればよい、朕に聞くな!」
すると皇帝は憤慨して清寧宮を出て行ってしまう。
「びーしゃあぁぁぁぁーっ!」

廃皇后の勅書が下された。
皇后張氏は恨みを抱いて後宮を乱し、掟に背いて異腹の子を教え諭せず、短気にして凶暴であり、妻の徳に欠け、母国としてもふさわしくないという。
そして皇后の印は収奪され、長年の伺候(シコウ)により死罪は免じられたが、生涯、清寧宮にて禁足となった。

その夜、李承鄞は閑散とした清寧宮にやって来た。
しかし寝殿は門も窓も全て開かないように板を打ちつけられている。 
その時、薄暗い殿内にいた張玫娘が物音に気付き、急いで門へ駆けつけた。
「チョンイン…あなたなの?」
「そうです、私です」
すると張玫娘は正直に嫉妬心から李承鄞の生母の命を奪ったと認め、しかし李承鄞を我が子同然に育てて来たと訴えた。
これまで李承鄞に心血を注ぎ、将来は天下に君臨する明君になって欲しかったという。
「その通り、あなたには育ててもらった恩がある…でもそれは本来、生母から受けるべきものだった
 あなたは母の命を奪い、私の幸せさえも奪ったんです…
 黒幕は他にいると信じたかった、本当の母子になりたかった…でも甘かった、大間違いでした
 あの一刺しで目が覚めたのです、私は皇后の座を守るための駒に過ぎなかった…
 父皇の心をつなぎ止めるだけの道具でしかなかったんだ!この命もあなたには何の価値もない!
 結局、私は一度もあなたの″息子″にはなれなかった…」

李承鄞は門の前で叩頭し、これまでの養育の恩に感謝を伝えた。
…あの一刺しで育ての恩は帳消し、貸し借りなしだ
…これで我らの母子の縁は切れた
張玫娘は門のわずかな隙間から李承鄞が去って行く姿を見た。
「チョンイン!私の息子よ!戻って来て!私の息子よ!」

皇帝は清寧宮で張玫娘が自害したと聞いた。
そこで玉瑶が使っていた当時のまま保存してある拾翠(シュウスイ)殿を訪ねる。
一方、生母の敵を討った李承鄞は東宮にこもり、玉佩を握りしめたまま泣いていた。
時恩(ジオン)は承恩(ショウオン)殿に駆けつけ皇太子妃に助けを求めたが、小楓は今は誰が行っても無駄だと諭す。
「独りにしてあげましょう…あの人なら心配ないわ、思い切り泣けば気も晴れるはずよ」

李承鄞は瑟瑟の幽閉を解き、良娣(リョウテイ)に復位させた。
喜んだ瑟瑟は早朝から内殿に駆けつけ、愛する李承鄞の胸に飛び込む。
「殿下が心配で夜も眠れませんでした!これからは死ぬまでおそばにいます、決して離れません!」
しかし李承鄞の心はもはや別のところにあった。

つづく


※門というのは寝殿の入り口のことです





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最終更新日  2021.01.31 11:50:47
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