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2021.05.04
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第22話「祖国再建を目指して」

覃川(タンセン)は復讐すべき相手を間違えていた。
しかも奪われた霊灯が傅九雲(フキュウウン)にとって師匠から託された大切な物だと知る。
「私のせいね…」
罪悪感に苛まれる覃川、しかし九雲は気にするなと優しかった。
「霊灯は失ったが得た物もある、これを…」
実は九雲は靂渊(レキエン)の魂を瓶に閉じ込めていた。
「今夜はここで休もう、明日、驪(ラ)国人が集う場所へ連れて行くよ」


屋敷を追い出された秋華(シュウカ)夫人は最後まで官兵相手にごねていたが、すでに馬車に乗っていた玄珠(ゲンシュ)にたしなめられてしまう。
「もうたくさん、天原(テンゲン)国に用はないの!…私はもうあなたの人形じゃないのよ?」
秋華夫人は初めて娘に反発され、慌てて馬車に乗り込んだ。

驪国の民が集まっていたのは香取(コウシュ)山だった。
「またここに戻って来るなんてね…」
九雲は覃川の手をつないで歩き出そうとしたが、その時、馬車が続けて到着するのが見える。
一台からは玄珠と秋華夫人が降りてきたが、もう一台から降りてきたのは左紫辰(サシシン)と左相国(サショウコク)だった。



覃川は自分が殺した左相国が偽物だったと知った。
左相国が驪国の民を前に国を再建すると誓う姿を見ながら、覃川は居たたまれなくなってしまう。
すると左相国は湧き上がる民たちの輪から寂しそうに離れていく娘の姿に気づいた。

覃川は無力感に苛まれながらひとり歩いていた。

そんな2人の様子を紫辰が遠目から見ていた。
「家族はいるのかい?」
「おりません」
「驪国の民は皆、家族だと思っている、安心して頼ってくれていいんだ」
しかし覃川はかえって己の不甲斐なさを思い知り、辛くなって早々に話を切り上げた。


「燕燕(エンエン)!…燕燕、なぜ真実を言わなかった?復讐はしないのか?
 私では力になれなかったが、父上ならきっと助けてくれる」
「紫辰…ごめんなさい」
「謝るなよ、殺されたのは父ではなかったんだ」
「…謝ったのは全ての驪国人に対してなの」
すると紫辰は燕燕からもらった玉のかんざしを返し、過去は水に流して前に進む時だと励ました。

覃川も前に進みたかったが、なかなか立ち直れなかった。
居所に戻った覃川は子供からもらった折り紙でふと白虎を思い出し、涙があふれ出す。
その姿をちょうど好物を持って来た九雲が戸の隙間から見ていた。
そこで代わりに白(ハク)公子を送り込むことにする。
小白は相変わらず遠慮ない物言いで酥油餅(スーユービン)を差し入れると、覃川は泣きながらも少しは以前のような顔をのぞかせ、好物を頬張った。

九雲は眉山(ビザン)君のもとへ向かった。
しかし覃川が気になって上の空、眉山からしばらく覃川に関わるなと釘を刺される。
九雲は確かに自分の存在が今は覃川の後悔を募らせるだけだと分かっていたが、どうしても放っておけなかった。
そんな情けない九雲の顔を見た眉山は思わず、何の悩みもない頃が懐かしいと漏らす。
「自由気ままで楽しかったな~」
「人間だったら愚痴を言って眠れば悩みもすぐに忘れる、だが我ら仙人は?
 虚しさだけが残る、それも永遠に…
 どんな人間にも悩みはあるが、いつか終わりが来る、でも仙人は?
 終わらない苦しみを抱えて何千年も生きるんだぞ?!」
「じゃあ俺が霊灯をともしてやんよ、楽になれるぞ?!」
思わず眉山が口を滑らせると、九雲が怒って机を蹴った。
気まずくなって黙り込む2人、すると眉山が沈黙を破る。
「…霊灯が妖王に渡れば7つの力が集まって世界に危険が及ぶ、ここの結界だって耐えられないぞ」
「鎖霊釘(サレイテイ)の効力も長くはもたない、奴はじきに動くだろう
 霊灯を破壊したいなら私を探すはず…」
その時、九雲は清瑩石(セイエイセキ)を思い出し、師匠が見つけていれば霊灯を使う必要もなく死なずに済んだと言った。
「妖魔も人間には手を出さなかった…」
「ぁぁ~それを言ってどうする?」
眉山は歯牙にも掛けなかったが、九雲は何やら考え込んでいた。



翌日、紫辰がひとり瓊花(ケイカ)海を眺めていると、九雲がやって来た。
九雲は偶然を装っていたが、紫辰は自分に話があるとすぐ見抜く。
「彼女の様子は?」
「良くなっている、彼女のことなら私の方が詳しい…」
「幼なじみの私より知っていると?」
「私は千年、見て来たんでね…って、冗談だ」
すると何とか覃川の肩の荷を降ろしてやりたい九雲は柄にもなく口数が多くなった。
「この世には大それた望みを抱く者がいる
 全て自分の責任だと思い、人々の願いを一身に背負おうとする者が…
 君たち驪国人とって彼女は神も同然、国を救い、妖魔を追い払ってくれる希望だ」
「彼女自身が望み、決めたことだ、私に何ができる?」
「その通りだ、だが君たちの前では神であっても、彼女に普通の女子としての幸せはないと?
 彼女が自分の負けを認め、諦めない限り、君たちにとって彼女は希望の神だ
 だが私にとっては違う、神は私だけで十分だろう?彼女の幸せは誰にも奪わせはしない」
「だから彼女を霊灯から遠ざけようとしたのか?」
「守ることが愛だと思っていたが、やっと分かった、受け入れるのが愛だと…」

九雲は眠っている覃川の顔を愛おしそうにながめていた。
すると外から香取山主の声が聞こえて来る。
「九雲?九雲?!」
九雲は覃川を起こさないよう外へ出ると、山主が力を回復して欲しいと頼んだ。
驪国人たちはあろうことか自分のお宝で漬物を漬けている始末、この惨状にとても我慢できない。
九雲は妖王との戦いでそんな力がないと断ったが、山主はならば霊灯があれば自力で取り戻せると言った。
仕方なく九雲は今の山主では霊灯の力に耐えられないため、もう少し修練するよう勧める。
「それに霊灯を失くしてしまって…」
「まさか!隠すのはあの女のためか?」
「ないものはないんでね…」
「分かった、ならせめて驪国人を追い出してくれ、山はめちゃくちゃだ!」
しかし九雲はこれも山主のためだとごまかして追い返した。

紫辰は燕燕への想いにケジメをつけ、玄珠と生きて行こうと決めた。
そんな矢先、左相国は息子に自分の命が残りわずかだと明かし、もしもの時は紫辰に国の復活を託したいという。
帝女の燕燕が亡くなり、今や玄珠だけが皇族の生き残りだと誤解している父、しかし紫辰は何も言えなかった。

一方、玄珠は自分の後をついてくる蛇に気づき、隙を見ていきなり蛇を捕まえて地面に叩きつけた。
すると蛇は山主の姿に戻り、自分の山を好き勝手に荒らす驪国人への不満を漏らす。
「九雲が霊灯を渡せば私は力を取り戻せるのに…その時は驪国人どもを追い出してやる」
「霊灯?霊灯にそんな力が?」
「当然だ、だから白河(ハクガ)龍王もお前に盗めと命じたんだ」
山主は他にも霊灯をともせば妖魔を封じることができると教えた。
しかし霊灯をともすには血の契約が必要だという。

↓本気出すと怖い玄珠w


つづく





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最終更新日  2021.05.04 13:35:34
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