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更新、滞っててすみません。(汗) 正直、行き詰ってまして。 かき始めればかけてしまうのでしょうけど、なぜか手が進みません。 試験勉強も迫ってますし……。(給料にからんでくるんだな、これが) 失敗しても、マイナスにはなりません。 受かったらプラスになる試験です。 ちょっと、話の展開も考えたいところがあるので。 けど、近々更新しますので。 それが明日だったり、一週間内だったり。 はっきりしませんけれど。 いつも、記事を書く画面で、文字を打ったり消したりを続けてます。 ブログで小説をかき始めて。 ここまで苦しく思えるは久しぶりです。
2008年10月29日
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◇◇ ◇◇ 本橋の家から戻って。 数日の休暇を終えてから。 日常業務をこなしながらも、気がつくと、本橋の家や和之のことに、意識がいっていた。 胸の奥に罪悪感が巣くっていて、それがジリジリと急いた想いをかりたたせる。 和之の連絡先を知っているのに、知らないフリをして。 会っているのに、知らないと答えて。 雅則君の心配した顔が。 理央ちゃんの、気落ちした顔が。 ふと脳裏をよぎるたびに、胸をキリ、と締め付けた。 おじさんは「気にしなくていい」と言ったけど。 ……そんなこと、できない。 知ってて知らないフリなんて、続けられない。 ……覚悟を決めたのは。 本橋の家から戻って一週間後。 金曜日、就業時間終了後に、アパート近くの喫茶店で、和之と待ち合わせた。 彼の今の携帯番号は知らないけれど。 連絡のつけようは、あったから。 一足先に到着して、先に飲み物を頼んで、カップをぼんやりと眺めながら、口をつけていると。 カタン、と、向かい側の席が動いて、人影が席についたのが視界の隅に見えた。 その影につられて顔をあげると。 和之が、席についたところだった。 先に飲み物を頼んでからしばらく、私をじっと見ていて。 値踏みするような……真意を探るような。 そんな不躾な視線で私を見た後。 その口元を、皮肉げにゆがめた。「……まさか、そっちから連絡がくるとは思ってなかった」 小さく息をついて「私も……」と小声でつぶやいた。「もう、こうして話すことは、ないと思ってた」 ぽつぽつとつぶやく私を、和之はじっと見ている。 さぐるように、私の言動のかけらも、見逃さないように。 しばらくそうした後、おもむろに、和之は口を開いた。「……どうして、わかった?」 その声は、かすれを帯びていた。
2008年10月18日
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すぐに否定しなかった私を。 あからさまに驚いた、私の表情を見て、おじさんは「やっぱり」とつぶやいて、確信を深めたようだった。 私が見舞いに行くとの話を聞いて、うすうす「もしかしたら、和之の所在を知っているのでは」と思ったらしい。 この時、おじさんは何も言わなかったけど。 ……多分、本橋家の誰もが、そんな期待を抱いたはず。 知っていた連絡先を、雅則君に、本橋の家族に話さないのは、和之の意志を尊重してのこと。 私の性格から考えて、雅則君と会って、彼の話を聞いたとき、和之の連絡先を知っていれば、何かしらの接触をしただろう。 それでも。 和之から実家に連絡がないのは。 それが本人の意志だから。 雅則君と、会った後。 私が和之からの連絡がないと知ったから。 おじさんの様子を見に、こうして来たのだろうと。 その様子如何で、和之の連絡先を教えるかどうか考えているのだろうと。 ……そこまで、見透かされていた。 私は、何もいえなくて、口をつぐむしかなかった。 体を強張らせて、うつむく私に、おじさんは苦笑した。「和之から連絡がないのは、あいつの考えがあってのことだろう。 志穂ちゃんが、気にすることじゃない」 と、そう告げて。「……でも……」 思わず、そう言ってしまった私を、おじさんは「いいんだ」と、この話は終わりとばかりに、遮るように告げた。 一度、そうして話を打ち切ったあと。 何も言えなくて口をつぐんでいる私に、おじさんは「……それで……」と、少し話しにくそうに、聞いてきた。「その……和之は、元気か……?」 うなずく私を見て。 おじさんは「そうか」と安堵したように頬を緩めた。「元気なら、いいんだ。元気なら……」 そう呟きながら、その場をあとにしたおじさんを。 私は申し訳ない気持ちを抱えて、おじさんの背を見ていた。
2008年10月18日
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保管庫更新しました。「背中あわせにつなぐ手を。」です。
2008年10月17日
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小説更新に関して、少し。 最近は「冷えた指」と「背中あわせ~」の番外編「はす向かい~」を並行進行していますが。 これからは「冷えた指」更新一本にしぼろうと考えてます。 理由は、並行進行すると、やっぱり、雰囲気が引っ張られてしまうので。 シリアスはかきやすいんですが、コミカルタッチを書こうとすると「冷えた指」に引っ張られるんですよね……。「冷えた指」も、先が見えてきました。
2008年10月17日
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「何をいまさら……」「……は?」「これまでも一人でこなしてたでしょう?」「……………………。 ……………………。 ……………はい?」 梶さんの言ってることがわかんなくて、私は首をかしげた。 私がこなしてるの、デスクワークだけだけど?「けど、梶さん、タカ――、社長について、いろんなとこ行ってるじゃないですか」「あれは商談の補佐ですよ。 秘書の仕事ではありません」「……え。 けど、平沢主任のときも、前社長と出かけること、多かったですよ?」「それはそれ。 前社長の時は、確かにそうでした。 スケジュールの管理から、通訳から。 実際してましたから」「だったら――」「確かに。前社長のときは、私も同じことをしていました。 ……が。 今の社長、孝一さんには必要ありません。 自分で予定を把握されていますから」「……だったら……」「いえ、ですから。 孝一さんが社長についてから、秘書としての仕事を、私がする余地、ないんですよ。 いくら孝一さんが幅広く手なずけられるスキルを持っていても、全てまかなえるわけではありませんから。 そこはやはり、松井さんの管理能力が必要なんです。 ちなみに、私はそうした細かいことが苦手で……」「え。でも、おじさんのときは……」「それは決まっていることを、ただ覚えて、求められれば答えるだけでしたから。 予定組みなり、その他のこまごまとしたことは、松井さんが担当していたでしょう?」 ……言われてみれば。 そんなふうに話を聞くと、確かに。いわれるとおりなんだけど。 けど、これまでそんなふうに思ってなかったから。 なんだか狐につままれたような心地で「……あれ?」と首をかしげてしまう。 そんな私の心情を察したのか、梶さんは小さな苦笑を、口元に浮かべていた。「私としては、別なことが心配ですけれど」「え……」 ぎくりと、ほんのわずかだけれど、体が萎縮してしまう。 そんな心配されるようなこと。 秘書の仕事以外で……何かあった? 心配されるようなミス、したっけ?「な……なんでしょう……?」 おそるおそる聞いてみると。 梶さんはじっと私を見た後。 目を伏せてついでにフッと、息をついた。「社長のことですよ」「社長の……?」「現、社長です」「……はあ……」「あなたは、いいのですか?」「……何が、でしょうか……?」「ずっと、このままでも。 はたから見ていると、久坂の親子に振り回されてるようにしか、見えないのですが」「……それは」「もっと、自分の思ってることを言ったらどうなんです。 あなたの場合、あの親子とは単なる雇用主と雇用者との関係ではないでしょう? 普段の関係が、雇用関係まで及んでいるんです。 それも、久坂側からの要求で」 ……私は。 途中から、梶さんが何を言いたいのか、わからなくて口をつぐんでいた。 非難を、受けているようにも、思えるけど。 なんだよく、わかんない。 口の中が乾いて、手にしていたチューハイで湿りをもたらそうと口をつけたとき。 梶さんが。 思いもよらないことを、口にした。「あの人に想いを寄せたまま。 今の仕事を続けられるのですか?」
2008年10月13日
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◇◇ ◇◇ 梶さんに連れられて来たのは。 社に近い居酒屋だった。 私がこうしたところが気楽で好きだと、以前話したのを、覚えていたのだろう。「誘ったのは自分だから」と勘定はもつと、最初に言った梶さんに、私も「では、遠慮なく」と素直に申し出を受けた。 時々、叔父さんが連れて行ってくれた、メニューに値段も書かれていない、格式ばったお店だと、肩がこって、気をつかってしまったけど。 こういうところだと、値段も自分でわかるから、あまり気兼ねしなくてすんだ。 値段のわからないところだと「……これって、いくら?」って。 そんなことを気にしながらの食事になるから。 そんなのだと、食べた気になれないし。 梶さんとグラスを合わせて乾杯をして。 それから、互いに料理を注文しつつ。「遠慮しないで。 これが最初で最後のことでしょうから」 と。 梶さんは言った。 ……梶さんは。 今月末には、異動の内示が出ている。 先月、タカ兄の社長就任が決まって。 その余波に巻き込まれないようにとの、タカ兄の配慮だった。 タカ兄は、おじさんの後を継ぐのを消極的だったと、それは周知の事実となっていた。 なのに、急に方向転換をして。 真の事情を知らない人から見たら、誰かが入れ知恵をしたのでは。 ……と、思われてもおかしくない。 実際、そういう噂も、ささやかれている。 と、なると。 急にタカ兄が意向を変えたのは。 これまでに接触がなくて、最近、タカ兄の側にいた人――。 梶さんに、その疑いが、向けられていた。 タカ兄は、社長職に就こうと決めたときから、こうなる可能性を考えていた。 だから実際、ちらほらとだけれど、そんな噂を耳にすると、すぐに梶さんに意向を問うた。 そんな噂を……疑いをもたれたまま、今の仕事を続けるか。 それとも、波風が立つのを避けて、異動するか。 その話を聞いて、梶さんは即座に、後者を選んだ。 そして、こう付け加えた。「あなたが私を側にと望むのなら。 私はあなたの意志に従います」 タカ兄は梶さんの言葉を聞いて、考え込んだけど。 ……ゆっくりと、首を横に振った。「これ以上、迷惑はかけられません」 そんなタカ兄の言葉に、梶さんは苦笑する。「あなたに迷惑をかけらたことなど、あまりないのですが」 むしろ、前社長の方が、困った方でした。 そう、梶さんは茶目っ気を含めてつぶやいた。 その梶さんの言葉に、タカ兄も頬を緩めて、薄い笑みを浮かべる。 そんなタカ兄を確認してから、梶さんは続けた。「あなた一人では無理だと思ったら、たとえ反対されようと側に張り付くつもりでしたが。 ……そんな必要はありませんし、心配も、する必要ないようですし」 タカ兄一人でも職務をこなせると、梶さんは判断していた。 困ったことがあったら、いつでも遠慮なく、相談してください。 そう、タカ兄に含めて言っていた。 梶さんはもともと、争いごとを好まないから。 タカ兄もそれを知っているから、そして本人も承知しているから、今回の話はすんなりと進んで。 ……そうして。 私が、タカ兄の側に、残ることになった。 秘書二人が一度に変わるっていうのは、実務上も体裁も、よくないから。 そうした事情も、タカ兄も梶さんも私も。 心得ていた。 梶さんとしても、事情が事情だから仕方ないけど。 私一人を秘書として残すのは、心もとないだろうなぁ。 私も。 これからは一人でこなさなきゃいけないっていうのは。 覚悟はしてるけど、不安がつきない。 そんな不安が表情に出ていたようで。「どうしました。 浮かない顔して……」 って、言われてしまった。 そのころには、アルコールがほんのり回り始めていたから、「……はあ」とつぶやいて、正直に、不安を口にした。「私一人でやってけるのかって、自信がなくて……」 そうつぶやくと。 梶さんが、ポカンとした顔をしていた。 ……あれ? 予想していなかったその反応に、私の方が戸惑ってしまう。「そうですねぇ」って。 同意されるとばかり思っていたのに。
2008年10月12日
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保管庫更新しました。「背中あわせにつなぐ手を。」です。
2008年10月12日
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とある試験の勉強中です。 あと一ヶ月です、試験日まで。 で、ずっと手元が暗いの、悩んでました。 スタンド買うのがいいんだろうけど、試験勉強のために、お金出すのもなぁ……。(金欠中) 一ヶ月のために、買うのもなぁ……。 と、悩んでまして。 そんなとき、ふと、実家に使ってないスタンドがあったことを思い出して、あわてて持ってきました。(略奪。苦笑) さっそく使って「感動!」しましたね。 手元が明るい!(当たり前だけど) なにより!! 目がラク~!! もともと視力はいいんですけど、アパートに移ってから、がくんと下がってるのが、自分でも感じました。 パソコンを12時間ぶっとおしで使っても、その時は目がぼんやりしてるけど、翌日には回復しているっていう、頑丈な目だったっていうのに。 アパートの天井が高いので、明かりを最大にしても、手元はくらいんですよね。 普段の生活には、なんにも支障はないんですけど、書き物したりするときとかは暗いのがつらいです。 これで解消できるかな? あとは。 やっぱり、星を見てたのが、目によかったのだと思います。 実家は、母屋と私の部屋がつながってなくて。 歩いて数歩なんですけど、一度外に出なくてはならなくて。 夜にはその時に、よく星を見てました。「あ、オリオン座」 とか「さそり座……」とか。 天の川もよく見てました。「……あー。あの辺かな~?」 って感じで。 今は夜空を見ることもありません。 星は見るの好きです。 見ていて、飽きないんですよね。
2008年10月11日
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そうして見舞いに、ここまで来てくれたのだからと、おじさんは話した。 私としては、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 おじさんが気になったのは本当だけれど。 ……本橋家とつながりがない今。 こうして私がこの家をたずねるのは、私の自己満足にすぎない。 ……それに。 本橋家の現状を、知りたいという気持ちも、あったから。 和之の、ことがあったから。 連絡先を教えるかどうか、状況を見て判断しようと、思ってた。 それから話を途絶えたのを機に、居間を後にして。 今日はもう寝ようと思っていたとき「志穂さん」と呼ばれた。 客間に続く廊下でだ。 振り向くと、おじさんがこちらに歩みを進めている。 側に来てから「……すまないねぇ」と声をかけた。「いいえ」と首を振ると、廊下に面した庭に目を向けて、ぽつりとつぶやいた。「気に病むことは、ないから」「……え?」 前後の繋がりのない会話に、私は首をかしげた。 そんな私に、おじさんは申し訳なさそうな目を向けた。「和之の所在を……知ってるんだろう?」 ……私は。 目を見張って、息を、飲んでしまって。 すぐに声が、出せなかった。
2008年10月11日
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タカ兄は。 何も言わずに、口をつぐんでいる。 その沈黙が「……長くなりそうかも」と思ったときに、ドアをノックする音が聞こえてきた。 タカ兄が返事をすると「失礼します」と梶さんが顔をのぞかせた。「……終わりましたか?」 私とタカ兄を、交互に見て聞いてくる。 タカ兄は私を見て「……ああ」と答えた。 そうしながら席を立って「何かあるのか」と梶さんに聞いている。「用はありますが――」 言って、視線を私に向けた。 つられて、タカ兄も私に眼を向けている。「松井さん。このあと、予定は何かありますか」「……へ?」 予想外のことに、思わずそんな声が漏れてしまう。「……ありますか?」「え……。い、いいえ! 今日は帰って寝るだけです!……けど……」「そうですか。 でしたら、一緒に食事はどうですか」「……え?」 梶さんが……私と……? ってか、私を、誘ってる……? 梶さんの性格からいって、その裏にある想いとかはないと思うけど。 だって、これまで一緒に仕事をしてたときだって、一度なりともそんなこと、言われたことないもの。 おじさんが社長の時は、おじさんが私と梶さんを誘って、3人で食事や飲みに行ったりしたけど。 タカ兄が臨時を務めてからは、そんな時間はなかった。 だから、梶さんの誘いが、意外でならなかった。「用はない」と言った手前。 私は「イエス」としかいえなくて、ぎこちなくうなずいていた。「そうですか」 それを見た梶さんは、ほんの少しだけれど、顔をほころばせて。「では、さっそく」とばかりに私を手招いている。 なんだか、タカ兄との話が中途半端で終わった気がしてならなかったけど。 ちらりとタカ兄を見ても、少し驚いた表情をのぞかせるだけで、止める素振りもなかったから。 私は「……お先に、失礼します……」と、頭を下げて、部屋を退出し。 待っていた梶さんにつられて、社をあとにした。
2008年10月11日
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それから時間を置いて居間へ戻ったけれど、理央ちゃんが言っていた話はまだ続いていたようだった。 渋面のおじさんが受話器を手にしていて。 おばさんも雅則君も理央ちゃんも。 おじさんのやりとりを、固唾を飲んでみている。 近寄りがたい雰囲気を感じて、私はふと目が合ったおばさんに、先に休むと、手振り身振りで説明した。 おばさんは、すまなそうな表情を浮かべて、軽く頭を下げて了承を示した。「……とにかく。 何度言われても、うちはそのつもりはないから」 じゃあ、失礼するよ。 そう続けざま、おじさんは告げて。 最後はおそらく、相手の返事を聞かなかったのだろう。 告げてから間髪いれずに、受話器を置いていた。 それから固唾をのんで見守る家族の視線を受けつつ、おじさんは「ふう」と息をついた。「……なんて?」 恐る恐るたずねる雅則君に、おじさんはやや大げさに肩をすくめた。「いつもと同じだ。『条件はいいはずだ。意地をはらずに、受け入れたらどうだ』 ……てな」「よく言うよ。 自分のしたことを、棚にあげて……」 苦く、はき捨てるようにつぶやく雅則君に、おじさんはため息をおとしただけだった。 その表情のすみに、申し訳ないって感情がのぞいている。 騙されたにしろ、それに気付かなかったことを、気に病んでいるようだった。「まあ、そのうち、諦めるだろ。 うちは応じるつもりは、さらさらないんだから」 そういったところで、おじさんはふと顔をあげて。 廊下にいた私に気付いて「志穂さん」と声をかけてくる。 こっちに。 と、おじさんに呼ばれて、私は迷って、おばさんに目を向けた。 おばさんも、どうしたものかと、迷っている。 そんな私とおばさんにかまわず、おじさんは私を呼んだ。 断るのも悪い気がして、居間にあがって。 それからおばさんが出してくれたお茶を飲みながら「見苦しいところを、見せてすまないね」とおじさんは苦笑交じりにつぶやいた。「……いえ……」「本当に……志穂さんには、みっともないところを見せてばかりだ」 なんだかしんみりした雰囲気になって、私は何も言えなくなってしまった。 それから理央ちゃんがお風呂に入ることになって。 その合間に、おじさんがぽつりぽつりと、話し始めた。 それは工場に関することだった。 ……さっきの電話についても、含まれている。 最初は雅則君が「そんな話、聞かされても困るだけだろ」って、おじさんをとめたけれど。 だけど、おじさんは話を続けた。 おばさんも雅則君も、戸惑っていたけれど、それ以上、止めようとはしなかった。 理央ちゃんには、まだ細部まで話していないから、席をはずしたときに、こうして話しているのだとも言っていた。 そんなことを言われると、わけがわからなくなる。 家族である理央ちゃんには教えなくて、何のつながりもない私に、なぜ事情を話すのか。 戸惑いは、顔にも出てたのだろう。「……あれは、まだ子供だから。 説明しても……理解はできないだろう」 それが、理央ちゃんに話さない理由で。 そして。「……本当に。志穂さんには感謝してるんだよ」 と、おじさんは私をじっとみて、そう告げた。「……そんな」「和之とも……関係がないっていうのに……こうして心配して来てくれて。 本当に、ありがたいと、思ってる」
2008年10月10日
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保管庫更新しました。「背中あわせにつなぐ手を。」です。
2008年10月10日
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保管庫更新しました。「背中あわせにつなぐ手を。」です。
2008年10月09日
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◇◇ ◇◇ タカ兄が社長の席について、半年がすぎた。 慣れないことづくめで慌しかった日々も、その頃になると落ち着いて、日々のペースもつかんでいた。 タカ兄が社長となって、私が正式に社長担当の秘書となってから、二人の間で決めたことがある。 一つは、互いの関係を口外しないこと。 実家がご近所同士であること、年の離れた幼なじみであることを、隠すまではしなくても、必要以上、人に話さないように。 仕事とプライベートを、公私混同しないように、きちんと分けたい。 そう提案した私に、タカ兄は二つ返事で了承した。 私がおじさんの態度に困っていたことを知っていたから、すぐにのんでくれた。 それに。 古くからの知り合いだと周囲に知られているのは、変な誤解(縁故の件)をささやかれて、うっとおしくてならかったから。 それに増して。 仕事は仕事できちんと区別したいと、ずっと思っていたから。 それからいくつか、タカ兄と私の間で、取り決めを交わした。 それらは日常に関わる、些細なことだったけれど、決めておかないと、いつのまにか曖昧になって、おじさんのときと同じ結果になりかねないから。 そう言って、タカ兄の了承を得た。 タカ兄と私の取り決めは、私からの提案ばかりだった。 タカ兄は、そんな提案の数々を、納得ずくで了承してくれたけれど。 ……だけど。「互いの名を、きちんと呼ぶようにしよう」 ……これだけには難色を示した。 仕事中は、当然のことだからそうするが。……と、言った後。「……仕事、以外のときも?」 眉をひそめて渋面をつくっている。「もちろんです」「……それらの条件は、もう始まってるのか?」「当然です。 ここがどこだとお思いですか?」「……社長室だが」「仕事中ですから、当然でしょう?」 そう告げる私に、タカ兄は、腕時計に目を落とした。「……就業時間は、終わってるけど?」「『残業』って、仕事中なると、思っていましたが。 私の勘違いでしょうか?」「……残業って……。さっき、タイムカード押してなかったか?」「サービス。『残業』です」 にっこりと言い切る私に、タカ兄は渋面をさらに深めた。「ソラには、会社にいる間は『仕事中』ってこと?」「松井です。 ついでにその返事に関しては『イエス』です」 にっこり笑ってキッパリ言い切ると、タカ兄はさらに渋い顔をした。「……まだ、オレは約束してない」「してください」 と。 またニッコリきっぱり言い切る。 いつものタカ兄なら「……仕方ない」って、引き下がってるところだけど。 今回はそうはいかなかった。「なんで」「私が。 イヤなんです」 反射的にそう告げると。 タカ兄が息をのんで、目を見開いた。 ……え。 と、そのタカ兄の表情に、こっちが驚いてしまう。 傷ついたような色を、のぞかせていたから。「……イヤ、だったのか……?」 そのタカ兄の態度に、戸惑いつつも、私は毅然として「はい」と言い切った。 いま、ここでハッキリ言っておかないと、またいつの間にか、うやむやにされてしまいそうだから。 おじさんのような状態は、避けたかった。「会社では。 仕事時間に関係なく、その名で呼んでほしくありませんでした。 ……私を、そう呼ぶのは……社長、あなただけです。 それだけで私たちの関係が、仕事の関係をこえたものだとの誤解を、されることもあります。 そうなりたくないんです」 それからタカ兄は、じっと私を見ていた。 私も「目をそらしちゃ、負け!」と思って、その目を見つめ返していた。 ……タカ兄の側にいると、覚悟を決めた今。 それが、私の、最低条件だったから。 タカ兄への想いを抱えて。 その想いを風化させようとしながら、彼の側で仕事を続けるには。 幼なじみの関係を、少しずつでも仕事だけの関係にしていこうと、そう考えていた。 その最たるものが、互いの呼び名だ。 タカ兄はしばらくすると、目を伏せて、細く息をついた。「……わかった」「……ありがとうございます」 その返事に、ほっと、安堵する。 そんな私を、タカ兄はつと見て。 何か言いたげな、目を向けてくる。 ……何だろう? 待っていたけど、口を開く気配がなくて。 気まずい沈黙に耐え切れなくて「私も」と気がついたときには、声が出ていた。「……名で、呼びますから」「……『名』?」「……、『孝一さん』と。 いつまでも『タカ兄』というわけにも、いかないでしょう? 子供の頃とは……違いますから。 いい加減、兄離れしないと……」
2008年10月08日
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保管庫更新しました。 久々に「冷えた指」です。 ……考えたら、これもストックたまってるんですよね……。(汗)
2008年10月08日
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保管庫更新しました。「背中あわせにつなぐ手を。」です。 「はす向かい~」は、番外編と見ずに、独立した物語と見たほうがいいのかも……。
2008年10月08日
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和之と連絡がとれなくなった、その理由について心当たりはないのかと、雅則君に聞いたけど。 雅則君はうつむいて、小さく首を振るだけだった。 だからこそ。 わけがわからなくて。 不安でならないのだと、そうつぶやいた。 そんな話を聞きながら、私は再会してからの和之を、思い返していた。 以前と変わったと思うことは、たびたびあったけど。 家族と音信不通になってるような印象は、受けなかった。 それから雅則君に「何かわかったら、すぐ連絡するから」と話して、その場を、後にしようとしたとき。 理央ちゃんが、慌てたように「雅君、雅君!」と駆けてきた。 そして私を見て、驚きに目を見開いている。 私と雅則君が一緒だとは思ってなかったのだろう。 その顔に「……まずったな」と感情がのぞいている。「どうした?」 そうたずねる雅則君に、理央ちゃんは、気まずそうに私をチラチラと見ている。「……えっと……」 言いながら、またチラリと視線をおくって。 私はわけがわからず、きょとんとしていた。 ……後で考えたら。 私がいると、話しにくい内容だったのだと、わかったけれど。 その時の私は気付かなかった。 それは雅則君も一緒だった。 もごもごと、言いにくそうに口ごもる理央ちゃんに、イラだった声をあげる。「何だよ、はっきり言えよ」 それでも理央ちゃんは、言いにくそうにしながら、端的な言葉を紡いでいた。「木島さんから、電話が……きてる」 その言葉に。 雅則君の体が強張るのが、端から見てもはっきりとわかった。 顔も険しく強張らせ、大きく目を見張っている。 そうした雅則君の変化に驚いていると、彼はすぐに、電話の置いてある居間へと駆け出した。「ちょ……っ! 雅君!」 驚いた理央ちゃんが声をあげて、雅則君の背を目で追って。 そうして置き去りにされた私に、困ったような、申し訳なさそうな目を向けると、小さく頭を下げて、雅則君の後に続いた。 私は、呆然として、そんな二人を見ていることしかできなかった。 ……同時に、別のことにも、驚いていた。 理央ちゃんが告げた「木島」という名。 名を聞いただけで、理央ちゃんも雅則君も、嫌悪をあらわにしていた。 そうした感情を、抱かせる相手なのだから、これまでにこの家の家族と、なにかあったのだろう。 そう、思うと同時に。 その名に、聞き覚えが、あった。 お昼に、ぽつりと理央ちゃんがつぶやいたときには、特に何も思わなかったけど。 ……今になって。 ふと、気付いてしまった。「木島」という姓が。 佳奈美さんの姓と、同じだと、いうことに。
2008年10月07日
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保管庫更新しました。「背中あわせにつなぐ手を。」です。
2008年10月07日
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下記はネタバレです。「はす向かい~」についての。 まだ読んでない方は、スルーを。------------------------------- 思いのほか、長くなっている「はす向かいの、君と距離」。 昨日更新した「78」を書きたくて、ここまで話が長くなってしまいました。 心情を織り込むために、そのバックラウンドとか、書いたほうがいいかなぁ。 ……と、思ったので。 初め番外編を書こうと思ったときは「背中あわせ~」の時間帯で書こうと思ってました。 過去はかる~く流す形で。 けど「78」のシーンがふと浮かんでからは、そこが書きたくてなりませんでした。 あと、いくつかかきたいシーンはあります。 今回の「78」は、ランクで言えば2番目。 1番目は、山場ですね。 これからは「背中あわせ~」の時間帯と重ねながら、補足事項を書きこんで。 そして「背中あわせ~」ではあえて書かなかったことを書いていきます。 番外編を書くから、はぶいたところあるので。「背中あわせ~」では正直、久坂と空美の関係を書ききれなかったくすぶりを感じています。 書きたいシーンが、いくつかあったんですけど。 恋愛もので。 私としては「幼なじみの関係」&「片思いの関係」っていうのは、書きにくいです。 心情の変化をきちんと描ききらないと、私自身が「……うーん……」と納得できないので。 番外編かき始めた当初も、正直、久坂の変化が手探り状態でしたが。 いまでは目処がたちました。 ……長く、なりそうですが……。(汗)
2008年10月07日
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※ 10/6 更新その2 ※ 私を呆然と見ていたタカ兄は、しばらくすると、深く息をついて、イスに深く腰掛けてた。 そうして疲れた様相を色濃くしながら、肘置きに立て肘をつき、左手で両目を覆っている。 額に添えた手で、目を隠していた。「……いつから……?」 知っていたのかと、暗に問う声に「……気付いたのは、最近です」と、答えて。「どこまで、知っている……?」との声に「……おそらく……大まかなことしか……」とこたえることしか、できなかった。「具体的には?」 タカ兄は、慎重で、用心深かった。 自身が話すより、私に話させることで、どこまで把握しているのかを、探っている。「勘違いをしていたら……間違っていたら、すみません」 そう、前置きをして、私は感じたことを話した。「推測の域からでませんが……おそらく……横領が……行われてるのではないかと……」 緊張で体が強張るのを感じながら、私はギュッと手を握り締めた。 確信がない限り――「もしかして」の段階では、決して口にできないことを、私は覚悟を決めて、タカ兄に聞いていた。 ……確信はないけれど。 予感は、あったから。 タカ兄はそれから長い間。 口を、閉ざしていた。 返事は、なかった。 額を覆う手で、目も隠して。 顔半分が見えないから、表情もわからなかった。 口元だけでは、どうにも判断が難しい。 沈黙が続いた。 その長い沈黙に耐え切れなくなって、一度「突然、失礼なこと、言ってすみません」と謝って退出しようかと考えたとき。 タカ兄は再び深い息をついて、額につけていた手をはずした。 けれどすぐに、顔をうつむかせて、座っていたイスをキイィ、と音をたてて回転させる。 私に背を向けた格好で回転は止まり、タカ兄はイスに深く、体を預けていた。「……どんな理由があろうと。 やってることは同じだ」 理由なんて、いいわけにならないと、そう言っているのだ。 私はたまらず、反射的に言っていた。「けど――っ!」「いいんだ。それで」 淡々とした、タカ兄の声を聞いて。 私はたまらくなって。 胸が、締め付けられるように、苦しくて。 考えるより先に、体が、動いていた。 イスに体を預けるタカ兄を。 深く、腰掛けているタカ兄を。 そのイスごと、背後から。 腕をまわして、抱きしめていた。 かすかに、タカ兄が息をのむのと。 驚いたように、体を強張らせるのが。 触れた腕の部位から、伝わってくる。「……ソラ……?」 戸惑いを宿す声にもかまわず、私は抱きしめる腕の力を強くした。 タカ兄はもう一度「ソラ……?」と。 どうしたのかと尋ねるように声をかけた。 かまわず「私は……っ!」と。 タカ兄の声を遮って、話していた。「今回の行為が、間違ってるとは、思いません」「………………」「誰が何と言おうと、私はあなたについていきます」「…………ソラ……」「……ずっと、側にいます……」 だから。 一人じゃ、ないから。 一人で全てを、抱え込まないで……。 タカ兄はそのあともしばらく、じっとしてた。 言葉も、音もない。 静寂の時が流れて。 やがて、タカ兄の手が。 おそるおそるといった感じで、私の手に、伸ばされて。 私はタカ兄をイスごと背後から抱きしめたまま、その手を強く、握り締めた。 戸惑い気味だった、タカ兄の手も。 強く、私の手を握り締めて。 震えるように吐き出される、細い息を感じながら。 ……長い間。 そうして二人で、寄り添っていた。
2008年10月06日
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タカ兄が、叔父である副社長を慕っていると、知っているから。 ……尊敬していると、知っているから。 だから。 タカ兄の今回の行動は、身につまるものがあった。 信じていた人がとった行為が、どれだけタカ兄の失望させたか。 ……傷つけたか。 ……考えただけで、胸の奥が苦しくて、ならかった。 副社長への思いは。 私もタカ兄と……似ているところが、ある。 仕事のときの副社長も、仕事から離れた副社長も、どちらも知っているから。 だからどうしても、他人事には、思えなかった。 書類を見て「もしかして」と思ったときから、副社長への疑惑は感じていたけれど。 確かめようとは、思わなかった。 真実を知るのが怖くて、聞けなかった。 だけど。 今日のタカ兄の行動を見て。 叔父である、副社長を出し抜いて、社長職のおさまったタカ兄を。 冷たく言う人もいて。「身内相手に、よくやるものだ」と、蔑む人もいた。 ……そんな声も、タカ兄には届いている。 それがたまらなくつらくて、ならなかった。 タカ兄が望んだことじゃ、ないのに。 本当は、タカ兄が一番、つらいはずなのに。 なのに、事情を知らない人たちからの誹謗中傷を耳にすると。 ……聞かずには、いられなかった。 確かめずには、いられなかった。
2008年10月06日
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それまで、会社の経営状態と、置かれた現状について、雅則君も理央ちゃんも、まったく知らなかった。 おじさんが以前に比べて、仕事時間を増やしていることや、疲れをにじませているのは感じていたけれど。 ことがそこまで深刻とは、思ってなかった。 実家から離れていた和之なら、なおさらのこと。 おじさんの様子も工場の経営状態も内情も、何も知らないまま、おじさんが倒れたとの知らせを聞いて、かけつけて。 ……そこで。 おばさんから、事情を聞いたのだろうと、雅則君は告げた。 おばさんは、全てではないけれど、だいたいの事情を知っていたから。 そうして。 唐突に和之は。 責任と負担を背おうことになった。 おじさんが進めていた話の後をついで、どうにかとりまとめて。 同時に、経営状態を調べて、現状を把握して。 自分の会社との二束わらじができそうになかったから、休業を頼んだという。 それから和之の立ち回りのおかげもあって。 工場は経営の危機を脱し、以前ほどではないけれど、どうにか、安定した日々を送れるようになった。 おじさんが倒れた当初も、雅則君と理央ちゃんは「工場の経営があぶない」とまでしか聞いていなくって、製品の権利について聞いたのは、それからずいぶんあとのことだった。 ……製品の、権利に関しては。 理央ちゃんは、まったく知らない。 彼女は、工場には幼い頃から無関心だったから。 子供の頃から、和之と雅則君は、工場に頻繁に出入りしていたけれど、理央ちゃんは「音が怖い」と言って近寄らなかった。 ……雅則君が。 製品の権利等の話を知ったのは。 工場を手伝ううちに、その製品の種類に、違和感を持ったから。 これまでの工場内部と、どうも様相が違うと、勘付いたから。 それまで、和之のおばさんも、雅則君と理央ちゃんに、製品の権利に関する話を明かすつもりはなかった。 だけど、勘付いてしまったらしかたないと、雅則君に、かいつまんだ話をしたのだという。 それから和之は、工場や本橋の家が落ち着くと、自分の会社に戻った。 一度軌道ができてしまえば、おばさんでもこなせていけたから。 やがておじさんが退院して、現場は無理だけれど、工場の方針とか、事務方とか。 そうした面で関わるようになった。 雅則君も理央ちゃんも、工場を手伝うようになっていた。 そうした日々が定着しだした頃。 ……和之と連絡が、とれなくなっていた。
2008年10月06日
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保管庫更新しました。「背中あわせにつなぐ手を。」です。
2008年10月06日
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……こんな日記を書くのも何ですが。 マジに。 折れました。 差し歯が。 取れたんじゃないんです。 折れたんです、土台から。 差し歯をしてる人はおわかりでしょうが。 差し歯というのは、歯の根元に金属の棒のような土台をつくって、その土台に差し歯をかぶせます。 この差し歯が「はずれた~」……って話はよく聞くのですが。 私の場合。 マジでおれました。 金属の土台から。 はずれた歯の形ごと。 ことは、昨日の朝おきました。 朝、目が覚めてボーっとしていて。 何かの拍子にポロッと、口の中に違和感感じて。「……え゛?!」 と、思ったら、口の中にコロコロしたものが。 とってみると、かけた歯でした。 ……ぼうぜんとしましたよ、その時は。 ……歯軋りのせいかなぁ。 寝てるときに、無意識でしてるやつ。 この差し歯も、歯軋りで折れちゃったものだし。 いや、本当に。 かみ合わせが悪いっていう、相乗効果もあって、バッキリと、自分で折ったから。 寝てるときに。 さすがにこの時は、ぱっちり目があいて。「……え?????」 と、状況がわからなかったです。 ……二の舞だろうなぁ。今回のも。 そんなわけで、仮の歯ははいってますが、もの食べるのが、噛むのがこわくて、しばらく、おかゆ生活しようかなぁ……。と、思ってます。 あ。 おかゆといっても、雑炊風。 具材を細かく切って食べようかな。……と。考えてるところです。
2008年10月05日
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そんなタカ兄を直視できなくて、私は少しうつむいて視線をはずした。「書類を……見たので……」 タカ兄が息をのむ音が、私のもとにも届いていた。 それだけでわかったのかと、タカ兄が驚いているのが、見えなくてもわかった。 タカ兄が驚くのも、当然のことだった。 私だって、あの日、偶然落とした書類を目にしなければ、勘付きはしなかったろう。 ……封筒に、入っていたのは。 限りなく確信に近いものだった。 順序だてた成り行きは、おそらくこうだろう。 まず、副社長に誰かが疑念を持った。 それが、社長であるおじさん自身か、他の人なのか、それはわからない。 多分、その段階で、社長独自に調べたのだろうけど。 事は誰よりも近しい身内のこと。 下手に動けば変な噂が生じるだろうし、副社長に警戒されかねない。 それは避けたかった。 避けたかったけど、結果を早くと求めもしていた。 けれど。 どうにも確信がつけなくて。 白とも黒ともはっきりしなくて。 そうして、話はタカ兄に及んだ。 ……多分、この段階で、経理部長も疑惑について知ってるはず。 そうでなければ、私を介した書類の受け渡しなんて、できるはずなかったもの。「昨日の今日」で準備できる書類じゃ、なかったから。 事情を知ったタカ兄は、事の深刻さを考えて、ずいぶん先の予定として組んでいた、自身が父の会社に就く手段を講じた。 周囲には「予定が早まっただけ」と言っていたけれど。 ……内情を。 さぐる意図が、あったんだろう。 だからあんな風変わりな研修をしたんだ。 タカ兄もおじさんも経理部長も。 どこが副社長の隠れ蓑になっているか、わからなかったから。 それを探すために、同時に社の内情を把握するために、タカ兄はいろんな部署を、研修と称して渡り歩いた。 社長であるおじさんにも、死角はあるから。 そこを、探していた。 ……本当は、もっとゆっくり、事を運ぶつもりだったんだろうけど。 だけど。 おじさんが倒れて。 悠長に構えるわけには、いかなくて。 とにかく、副社長に社長の権限を渡すわけには、いかなかったから。 渡してしまうと、もうどうにも、手のうちようがないから。 ……だから。 タカ兄は、近しい身内をだまし討ちするようなことを、するしか……なかった。 私が、社長の秘書に。と抜擢されたのは、おじさんの意向よりも、経理部長の秘書だからだろう。 経理部長との文書のやりとりを、私の引き継ぎ事項に紛れ込ませれば、誰の目にもとまらないから。 不信感を、もたれることもないから。 封書にいれずに書類を渡したのも、そうした手段の一つだった。 私に疑念をもたれないように。 あやうい文書は、封筒に入れて。 ……ホントに。 あの偶然がなければ。 私が。 書類を取り落として、封書の中を見ることがなければ。 何も知らないまま、勘付かないままでいただろう。 ……だけど。 見て、しまって。 わかって、しまって。 ……タカ兄の気持ちも……わかって、しまって。 それが自分のことのように。 つらくて、ならかなった。
2008年10月05日
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全ての要因は、取引会社との契約のやりとりに、端を発していた。 本橋の工場と、個人的に契約を結んでいる会社が、いくつかあって。 卸元の会社もあったけれど、中には直接取引をしている会社もある。 言ってしまえば。 生産者と消費者が、直に取引をしている形式だ。 本橋の工場では、少し変わった製品をいくつか作っている。 他では見受けない独自のものだったから、その生産を軸に、経営が成り立っていた。 その製品自体、特殊なものだから、求める会社もそう多くない。 だけれど、他に競争相手がいないこともあって、頼まれた数は確実に売れる確信があった。 その、数少ない需要の会社の一つが。 ある日突然、製品の権利を主張してきた。 もちろん本橋は、その製品を法的に製品登録していた。 急な話に、困惑する本橋のおじさんに、その会社は書類を示して「自社が製造の権利を持っている」と主張してきた。 もし、その商品をこれからあとも作るというのなら、それなりの使用料をよこせというのだ。 それが無理なら、これまでどおりの取引は続けよう。 しかし支払いの中から、その使用料分を差し引いた料金となる。 ……と。 そう、言い出してきた。「権利って……特許って、こと……?」「……似たようなものだと、思います。 俺も、その辺はよくわからなくて……」 私に説明しているのも、雅則君がわかったいる範囲のことで、正しい語句や詳しい内容までは、わかっていない。「けど、どうしてそんなことに……」「騙されたんだって、親父は言ってました」 商品売買の契約と思ってサインした書類が、実は権利を譲渡するものだったのではないかと。 そうとしか考えられないと、おじさんは言っている。 もちろん「そんなつもりはなかった」と、おじさんは食い下がった。 だけど相手も、簡単に引くわけがなかった。 契約は交わされたのだからと、書類を盾にその一点張り。「そんなの、無視すれば……」「……先に、言われました。 それでも製造を続けるのなら。 それなりの手段に出る、と」 法的な手段をとられれば、正式な権利の所有者である、向こうに適うわけがない。 それで……本橋の工場では、その製品の製造を断念せざる終えなかった。 他にも製品を扱っていたけれど、売上げの大部分を占めていたその製品がなくなると、工場の経営は一気に厳しくなった。 それでおじさんが、どうにか経営を立て直そうと奔走して。 ようやく、目処が立ちそうになった矢先。 おじさんは……倒れてしまった。
2008年10月05日
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保管庫更新しました。「背中あわせにつなぐ手を。」です。
2008年10月05日
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2008年10月04日
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「松井です。失礼します」 名をつげて、入室して。 タカ兄は、以前おじさんが座っていた中央の席で、椅子に背をあずけながら、肘置きに片肘をついて、その手に頭部を乗せている。 億劫そうだった声と同様、その顔も、疲れをにじませていた。「なんだ、ソラか……」 私を見たタカ兄が、緊張を緩めたように息をついて、一度目を伏せた。 それから子供を諭すように「今日は帰るように、言っただろ?」と声をかけてくる。「聞きました。 ……けど、どうしても確かめたいことが、あったので」 言いながら、タカ兄の側へ足を進める。 机の側でたちどまった私に、タカ兄は再度、息をついた。「敬語使わなくてもいいよ。 他に誰もいないんだから」 ……その言葉に。 私はゆるく、首を横に振った。「……仕事として、聞きたいことがあるので」 そんな私に、タカ兄は怪訝な眼差しをむけている。「今日の、ことですが――」「呆れただろ?」 私の言葉の途中で、タカ兄は自嘲的な笑みを口元に浮かべた。「自分の叔父をおいやって、社長職についたんだ。 非難は、覚悟の上だ。 ……ああ、それとも、叔父から何か言われたか? だったら、気にしなくていい。 ソラには関係ないんだ。 俺が独断で――親父を無理やり説得してしたことだから」 そう、話すタカ兄は。 ……ひどく、つらそうだった。 だったらって、思う。 そうまでして、無理に手にした役職なのに。 なぜ、嬉しくないんだろうって。 奪うように、スキをついて、かすめとるようなことをしたんだから、社長職をタカ兄が望んだはずだ。 ……なのに。 今のタカ兄は、満足した様子も何もない。 感じるのは、強い後悔と、自らを蔑む態度。 していることと、タカ兄の態度は、ひどく矛盾していた。 ……その、理由を。 私は、勘付いて、いた。 一度唇をひき締めて、拳を握り締めて、覚悟を決めると、つと、タカ兄をまっすぐに見つめた。「今は『ソラ』でなく『松井空美』として話をしています。 あなたの秘書の松井として、うかがいたいことがあるのですが」「……あくまで仕事でって、ことか。 いいよ。何?」「……副社長の、なさっていたことです」「……叔父の?」「私が――前社長の秘書に抜擢されたのは、確かに、平沢主任のこともあったからでしょうが。 本当は、経理部長の担当をしていたからでは、ないんですか? あなたが急遽、この社に就くことになったのも、副社長のことがあったからでは――」 言葉は。 そこまでしか、声にならなかった。 がたんと、今にも立ち上がりそうな気配をまとって、タカ兄が体をのりだしたから。 その顔は。 これまでに見たこともないほど、こわばっていた。「――どこで……それを……」 うめくように紡がれた声は、ひどいかすれを帯びていた。
2008年10月04日
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それからは、タカ兄の独壇場だった。 あらかじめ用意していた資料をもとに、これからの社のありかたや方向性について話して。 そうした話が、タカ兄を若輩者として軽んじていた役員の人たちの興味を引いて、説得をはたした。 突然の成り行きに、泡くったのは副社長だった。 慣れないタカ兄には無理だと、引き下がったけれど、結局、役員会ではタカ兄が次期社長にと決まった。 ……その時の、副社長の顔は。 今でも忘れられない。 激しい怒りを隠しもせず、タカ兄を睨みつけていた。 役員会を終えて、散会して。 タカ兄は早々に、社長室に引き込んだ。 私にも梶さんにも、今日の仕事は終わりだと、すぐ帰るようにといい渡して。 的中した不安に、梶さんに目を向けたけれど、彼は無言で首を横に振るだけだった。 今日は帰ったほうがいいと、タカ兄と同じ事を、私に告げた。 予感は。 梶さんも感じていたのかもしれない。 ……もしかしたら。 相談を受けていたのかもと、梶さんの落ち着きぶりから、そうも思ったけれど。 結局、そのあたりのことは後になっても、確かめられないままになっていた。 タカ兄に言われても、梶さんに言われても。 その時はどうしようもなく、胸がざわめいて、不安が胸にすくっていた。 話したいことが、たくさんあった。 ……どうしても。 確かめたいことが、あった。 一度、秘書課の控え室を後にしたけれど。 それからきびすを返して、社長室に足をむけて。 社長室の前に立つと、そのドアをノックした。 何度かノックしても、返事はなくて。 タカ兄が中にいるのは確かだから、私はあきらめずにしつこく、ノックをしつづけた。 やがて、中から諦めの吐息と共に、入室を許す声が聞こえた。 居留守を使おうとしたのだろう。 中から聞こえた声は、ひどく億劫な響きを含んでいた。
2008年10月03日
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その後も。 同じような書類を、何度か目にしていた。 のぞいたわけじゃなくて、タカ兄にと、封筒にいれずにそのまま手渡されたりしたから。 見ようとしなくても、見えてしまった。 ……不安はその頃から、胸の奥に生じていた。 だけどタカ兄も梶さんも、普段と変わりない日々を過ごしていたから、私の思いすごしだろうと、自分自身に思い込ませていた。 そうして、副社長の仕事にも一応の目処がついたころ。 おじさんの仕事復帰が無理だと、知られるようになって。 誰が後を継ぐのか、そうした話がささやかれるようになった。 そんな噂が広がり始めた頃。 役員会で、次期社長を決めることになって。 それまで、誰もが、副社長が後を継ぐとものと考えていた。 年齢的にも副社長の方が妥当だったし、息子であるタカ兄では若すぎたから。 それに。 社長であるおじさんが、副社長を指名していたから。 役員会で、副社長が社長に就任すると、決まるはずだったけれど。 ……誰も予想していなかったことが、その会議で起きた。 ……うんん。 タカ兄は、こうなるとわかっていて。 私は。 ……予感めいたものを、ずっと感じていて。 会議が始まる前からずっと、胸の奥がざわめいていた。 話が誰が社長となるのかとの核心に移ったとき。 静かに、タカ兄が手を上げて。 社長職に就くと。 おじさんからの推薦も受けていると。 そう、切り出した。
2008年10月03日
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久々に。 保管庫更新しました。「背中あわせにつなぐ手を。」です。
2008年10月03日
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その日はお手伝いで一日が終わった。 本橋の人たちは「観光なり市内に買い物なり、行っておいで」と言ってくれたけれど、私としてはお手伝いをしていたほうが、気がまぎれた。「ごめんなさいね。 お客さんに、手伝ってもらって」 夕食の支度をしながら、おばさんがすまなそうに何度もそうつぶやいた。 気にしないでと私は言ったけれど、おばさんはずっと気にしていた。 それから先にお風呂をいただいて、あがったところで、雅則君とばったり出くわした。 雅則君は縁側で、携帯を手にため息を落としていた。「……和之から?」 その落胆の様子から和之からの連絡を待っているのだと感じて、声をかけると、雅則君は驚いた表情を浮かべたあと、首を横に振った。「兄からは……何も……」「……そう」 それ以外、何を言っていいかわからない。 うつむく私に、雅則君は「気にしないでください」と慌てたように、告げてきた。「志穂さんが気にすることじゃないんだから。 ……こうして、俺たちのこと、気にかけてくれるだけでも、ありがたいのに。 親父も、志穂さんが来てくれて、張り切ってるんですよ」「そんな、私は何も……」「来てくれただけでも、嬉しいんです。 ……いろんなことが、あったから。 親父も……俺たちにはわからなかいところで、悩んでたようだから。 ……和兄も、多分、同じだと、思うんです。 親父が倒れてから、いきなり肩に責任がかかってきて。 俺たちには弱音とか、一切口にしなくて。 ……できなかったんですよね。 俺たちが、頼りなかったから」 自嘲気味につぶやく雅則君に、私は反射的に「ちがう」と言っていた。 目を見張る雅則君に、自分自身でも自分の行動に驚きながら「……そうじゃないと、思うけど……」とぼそぼそとつぶやいた。「……たぶん……余計な心配、かけたくなかったのよ」 和之なら、そう考えるだろうから。「……俺も、そう思います」 雅則君はそうつぶやいたあと「でも」とぽつぽつと話を続けた。「こうして連絡が取れなくなるくらい悩んでたんなら、グチでもなんでも、言ってほしかったって、思うんです」 そうつぶやいた雅則君は、携帯電話をぎゅっと握り締めた。「……理央ちゃんから、少し聞いたけど……」 それから私は、失礼かもしれないけれどと前置きをしてから、現状をたずねた。 工場の経営内容によっては、和之と連絡をとろうと思っていたから。 それでも和之が動かないのなら。 彼の意思など関係なく、連絡先を教えようとも考えていた。 雅則君は少し考えたけれど、おおまかなことを教えてくれた。
2008年10月03日
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結局。 おじさんの頼みを断れなくて、私は小さくうなずいていた。 それからしばらくして、タカ兄とおばさんが戻ってきた。 その二人と入れ替わりで、私は病室をあとにして、アパートに戻った。 ……おじさんの話を、思い出しながら。 なんとも言えない、複雑な思いを、胸に抱えて。 ◇◇ ◇◇ 翌日から、おじさんの代役を、タカ兄がこなした。 副社長も、社長の入院に驚いて、仕方のない状況だからと、タカ兄の代理を受け入れてくれた。 副社長本人も、はずせない会談や会議が入っていたから。 タカ兄が代役となるのが、現段階では最善の策だった。 おじさんのときと同じように、タカ兄と梶さんが行動を共にして、私はデスクワークに徹していた。 仕事的にはそう変わりないけれど。 梶さんはその役割が、少し違ってきていた。 タカ兄は英語が得意で、通訳を介さなくても、充分通用する。 梶さんは通訳より、商談や会談に不慣れなタカ兄の、サポートに徹することとなった。 その梶さんも、タカ兄の飲み込みの速さには舌を巻いている。「この分だと、私はおはらいばこですね」 なんて、言うほどだ。 そんな梶さんに、タカ兄は苦笑した。「親父が復帰するまでの短期間だから、どうにかこなせているんです。 長期は無理ですよ。 それ以上に、梶さんのサポートがなければ、どうにも立ち行かない状態になってましたよ」 ……その時は。 私も梶さんもタカ兄も。 数ヶ月すれば、おじさんが復帰するものとばかり思っていた。 ……それが難しいとわかったのは、おじさんが倒れてから2週間ほどたってから。 そのことをタカ兄は知っていたけど、私にも梶さんにも、明かしてはくれなかった。 それにも、理由があってのことだけど。 水面下に進む話があるなか、私も梶さんもタカ兄も、普段どおりの仕事をこなしていた。 その、私の仕事の中に。 以前の担当である経理部長との文書のやりとりがあった。 前任者である私に、現担当者からの質問、経理部長から直接の質問を受けていた。 それに私は答えていて。 時々。 その文書の中に、社長宛の書類も混じっていた。 ついでだからと、頼まれたものだった。 最初は、何も考えていなかったけど。 ……あるとき。 その文書を落として。 封をした中の書類が外にでて、慌ててそれを拾って回収したとき。 ふと目に付いた書類に、驚いてしまった。 経理部長の担当をしていたから、関わる書類の内容がどういったものか、ある程度判別できる。 社長宛ての文書には。 社長には関係ない経理のものが含まれていた。 その時は、違和感を感じただけだったけれど。 ……後になって。 その文書がどういったものなのか。 わかって……しまった。
2008年10月02日
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それは。 私が留学していた頃のタカ兄と……今のタカ兄のことだった。 おじさんがいうには、私が留学していたころのタカ兄は、どこか沈んだ様相をまとっていたという。 うまくいえないけれど、口数も少なく、笑うこともこれまでに増して、少なくなったのだと。 けれどそれも、私が留学から戻ってくると、以前と変わりない様子に戻った。 そして、今。 何かにつけて私を気づかうタカ兄は、私が側にいることで、逆に自分を律していると、おじさんはいう。 気心の知れた人間がいるという安堵感と、模範として振舞おうとするほどよい緊張感。 それが今のタカ兄には、いい影響を与えていると、おじさんは話した。 ……信じられない、思いもあったけれど。 おじさんの話を聞いて、思い出したのは。 いつかの、タカ兄の言葉。 仕事から離れた、プライベートな面では、必要以上に距離をとらないでほしいと、切実に話したタカ兄のあのときの顔が、ふと脳裏をよぎった。「空美ちゃんには……酷な話だが……。 せめて、次の社長が決まるまで……もう少しだけ……孝一のそばで……支えてくれないか……?」
2008年10月02日
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自分の部屋に戻って、朝の時間をやりすごし。 家の中に、人の動く気配を感じ始めてから、私は居間におもむいた。 おばさんも雅則君も理央ちゃんも起きていて、それぞれ朝の準備をしている。 理央ちゃんは朝食の準備をするおばさんを手伝って、雅則君は新聞に目を落として。 朝食の準備が整った頃、おじさんも居間に現れた。「おはよう」と互いにあいさつを交わすだけで、どこに行っていたのか、とりたてて聞くこともない。 おじさんの行動を、みんな知っているのか、知らないのか。 朝の様子を見ているだけでは、わからなかった。 その日は一日、本橋の家ですごした。 2泊3日、お世話になる予定だったから。 2日目は、理央ちゃんやおばさんの仕事を手伝った。 手伝うと言っても、雑用しかできなくて、たいしたことはできなかったけど。 そうして本橋の人たちと過ごすうちに、彼等の現状が少しずつ垣間見えてきた。 おじさんが倒れる少し前に、工場の経営が危うくなったのだという。 それをどうにかしようと、おじさんが奔走して、無理をして。 その無茶がたたって、倒れてしまったのだそうだ。「それまでは……順調だったんだけどね」 ぽつぽつとだけど、話してくれたのは、理央ちゃんだった。 工場で作る製品は、ちょっと変わったものがいくつかあって、他では入手できないから、工場には固定客がついていた。 工場の規模を大きくすることはなかったけれど、安定した経営を続けていた。 それが。 お得意先である、ある一社が取引先から離れたことから、坂道を転がるように、経営難に陥ったのだという。 私は狐につままれた心地だった。 理央ちゃんの話だと、その取引先の一社が離れたこと以外、他に変わったことはないように思えた。 その一社が、取引の大部分を占めていたわけではないのに。 単純な疑問として理央ちゃんに聞くと、理央ちゃんは困ったように首をすくめた。「私も……そういうとこは、よくわからないんだ」 話しながら、私も理央ちゃんも作業を続けていた。 一度その会社の話から話がそれたけれど。 おばさんが休憩をしようと声をかけたときに、理央ちゃんがぽつりとつぶやいた声が、私の耳にも届いていた。「木島さん……どうしてなんだろ」 独り言としてつぶやいた言葉は、その時は意味がわからくて、聞き返しもしなかったけど。 ……あとになって。 その本当の意味を、知ることになる。
2008年10月02日
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そうしたタカ兄の行動は、そのあとも何度か目にしていたと、おじさんは話した。 小動物を粗雑に扱ったり、水槽の中の魚をつかもうとしたり。 それが無邪気な好奇心からくれば「子供のしたこと」と苦笑いの出来事になるのだろうけど……タカ兄は違っていた。 はしゃぐ様子もなく、平然としていて。 怒られても、謝りはするけれど、反省したようには見えなかった。 そうしたタカ兄の行動に、おじさんは違和感と不安を感じていたけれど……。 子供だからと、そう自分自身に思い込ませていた。 そんなころだった。 タカ兄が、私と小太郎に会ったのは。「あの日の孝一のことは……今でもよく覚えているよ。 それまでからは考えられないほど、生き生きとしていた。 それからなんだ。 孝一が変わっていったのは。 初めは孝一の変化に、驚くばかりだったが……。 孝一が空美ちゃんを家に連れてきたときに、わかったんだ」 タカ兄が、私の家に遊びに来るようになって。 小太郎も私も、タカ兄になついてからしばらくして。 タカ兄が、久坂の家に私を遊びに連れて行ってくれた。 私は、そのころのことは覚えていないけれど。 私の手を引いて、タカ兄はおじさんとおばさんに紹介した。 私は、見知らぬ場所と人に驚いて、怖がっていた。 幼いころの私は、人見知りしたらしい。 唯一、知っているタカ兄の側から離れず、足元にしがみついて、その影に隠れていた。 そんな私に、タカ兄は困ったような、けれどどこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。 それから、久坂の家で遊ぶ間、タカ兄は私を気遣ってくれていたという。 タカ兄を頼りきる私に、タカ兄も嬉しそうで。 ……そうして私と小太郎と。 松井の家ですごすうちに、タカ兄は変わっていったのだと、おじさんは話した。 おじさんは、私と接するうちにタカ兄が変わったように言うけれど。 私はそうは思えなかった。「それは小太郎がいたからじゃ……」「それも……あるだろうが……わしはそれだけじゃないと、思ってる」「けど――」「空美ちゃんがいなかったら。 たとえ小太郎がいても、今の孝一はありえなかったと思うんだ」 そういわれても、私は信じられなくて、うつむくしかなかった。 おじさんは、何かと私を私を取り立ててくれるから。 なぜか、気にってくれてるから。 そう話すのも、その延長だと、思っていた。 そんな私の様子を見て、おじさんは小さく息をついて。 ……もう一つの話を、切り出した。
2008年10月01日
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