全241件 (241件中 1-50件目)
(1月3日(水) 本庄 千鶴)あたしは織姫が大好きだ。好きすぎる。これほど実感したことはない。片思いだとは分かっていたけれど。これほど落差を感じたことはない。あたしがここに生きていることすら、彼女にとっては大した意味がない。
2010年05月20日
コメント(1)
(1月3日(水) 小川 みちる)「ヒメえぇぇぇぇっ!」千鶴が織姫に抱きついた。それは何時ものことなんだけど、号泣しているのを見て、たつきが殴るのを自粛していた。今日は手芸部有志の初詣なんだけど、結局何時もの面子も一緒。だって織姫が、せっかく帰って来たのに昨日は連絡つかなかったんだもの!石田さんもつかなかったけど、まさか一緒だったとは言わないよね……?たつきは町中走り回ってたんだから。「ごめん、手芸部の皆も井上さんと話したがってるから」石田さんが気まずそうに言っても千鶴は中々織姫から離れようとしなかった。参拝を終えて、みんなでお昼を食べる際になってやっと雰囲気が普通になった。千鶴の両腕を、たつきと鈴が押さえてるせいもあるだろうけど。「……先輩、出席日数大丈夫ですか?」「うーん、どうかなあ。先生に相談してみる」次期部長の長田さんはさすがに度胸がいい。あたしだって織姫が一緒に3年生になれるかどうか気になるけど、ちょっと聞けないよそんなの。「いいんですかそんないい加減な態度で」「うん、まあね」本当にいい加減な態度で、でも織姫は何処か余裕たっぷりだ。元々よくわからない子ではあったけど。「先輩って将来のこととか考えてます?」「ううん。全然」平然と答える織姫の隣で、石田さんが何か考え込んでいる。
2010年05月16日
コメント(0)
(1月3日(水) 小島 水色)世の中に無駄は沢山あるけど、チャドと携帯で話すより無駄なことはあまりないと思う。彼は言葉に重きを置いてないので、自分からかけてくることは殆どない。メールもあまりこない。正月早々連絡をとってくるなんて珍しいな、と思ったら「井上が戻った」成る程それは大ニュースだ。チャドと井上さんはわりと仲がいい。一年のとき、一護を挟んで親しくなったらしい。どちらも周囲から浮くタイプだから、というのは僻みかな。チャドはそれきり何も話さない。詳しい事情を知らないのか、話すほどのことじゃないのか、言いづらいのか、一体どれだろう。判断材料がないから、突っ込んで聞きだすことも出来ない。「彼女、元気だった?」「ム」元気なのか。それはよかった。僕が知りたいのは、最終的にはそれだけだ。「変な心配かけないでよね。チャドが自分から電話とか、何があったとかおもうじゃないか」チャドは答えなかった。彼に又会う日はあるんだろうか。ふとそう思ったが、僕はただこういった。「じゃあ、新学期に」彼は何も言わない。僕は何も聞かない。実に淡白な関係だと自分で思う。まあ、僕たち四人って、何時も啓吾が一人で喋っているようなもんだけど。携帯をきってからなんとなく、石田さんについて聞けばよかったような気がして、それからすぐ打ち消した。一護ならともかく、一護の彼女のことなんて気にしてどうなるんだか。しかも別の女の人との旅行中に。彼女を好きになる可能性があったりしたのかな、いやまさか。だったら二年も待たずとっくに何とかしてる。正月そうそう何血迷ってるんだよ、お屠蘇で酔っ払った?僕は考えるのをやめた。
2010年05月14日
コメント(0)
(1月3日(水) 浅野 啓吾)結局オレってなんなわけ?ぶっちゃけオレは頭が悪い。頭が悪いってのは勉強ができないとかそれだけじゃなくて、空気が読めないとか危機管理が出来てないとか、オレがツレだと思ってる奴は皆そういうから。一番ひでーと思ったのはあれかな、石田さんの「ドクジをほいほい食う馬鹿」って奴かな?「ドクジって何?」って聞き返したら、毒入りの餌だとわかりやすく教えてくれて、ちょっとそりゃないわと思ったのに石田さんが妙に優しい顔でオレを見ていたのが不思議な気分だった。石田さんは一護のカノジョだけど、多分オレのこともそこそこ好きだと思う。なのにオレが石田さんのことを特別好きじゃないのがなんだか不思議だ。オレってよく勘違いするってよく言われてんのに。青春まっさかりのオレが何故正月早々ダチのカノジョのことを考えているのかといえば、チャドが自分から押しかけておいて全く喋らないからだ。えっと、井上さんの話をしに来たんだっけ?皆、結構オレのこと構ってくれているよな。でもノリが子供に対するものっぽいと思うのはオレの僻みなの?お前は危ないからこっちにくるな、みたいなさあ。オレ、お前らと同じ高校二年生なんですけど?「で、井上さんはどうしてんの?」「初詣だ」「え、お前一緒にいかなかったの?つかオレが一緒にいきたかったのに!」「……手芸部らしい」「あー」じゃあ石田さんも一緒なんだ。「一護は?」「風邪」「マジ?正月から何やってんのあいつ」オレは遠慮なく笑い飛ばす。オレの優先順位は多分わりと高い。でもこいつらはオレを仲間に入れる気が全くない、オレがどんなに馬鹿でもそれだけはわかった。オレは一体何。体のどこかが斬られたみたいに痛かった。
2010年05月13日
コメント(0)
(1月3日(水) 黒崎 夏梨)全く何をやってるんだろうねこの馬鹿兄貴は。あたしはいいけどさ。あたしは兄貴が、「何か」していることくらいは気づいているから。だけど遊子はどうなるんだろうね。あたしは兄貴が成仏するまでは会えるし話すことも出来るけど、遊子はどうすればいいんだろうか。なあ、兄貴。兄貴にも色々大事なものがあるんだろうけどさ、少しはあたしらのことも考えてよ。その頼りない脳みその片隅でいいから。「……じゃあ、さ、もう一つききてーんだけど、もし」兄貴の次の質問に、あたしたちは唖然とし、次に噴出した。そして超OK!と請合ってやった。
2010年05月12日
コメント(0)
(1月3日(水) 黒崎 遊子)「なあお前ら、オレが死んだらどうする?」お兄ちゃんは正月早々風邪を引いた。しかもどうして友達んちで?せっかくうちは病院なのに。治るまで泊めてもらうというので、お見舞いに行ったあたしと夏梨ちゃんの前で、お兄ちゃんは随分弱気になっていた。「馬鹿じゃないの。これくらいで死ぬわけないじゃん」そうだよね。夏梨ちゃんの言い方は酷いと思うけど、これで死ぬはないよ。あたしたちこれくらいの患者さんよく見てるもん。「いや、風邪じゃなくてもさ。人間何時死んでもおかしくないじゃねーか。……ちょっと考えちまっただけだ」「正月から何言ってんの」夏梨ちゃんはばっさりぶった切りながら、お兄ちゃんの手を握ったりしてやっている。……お兄ちゃんが死んだら、か。「やっぱり泣くよね」「ま、泣くね」「そうだね」「うん」「そっか。悪いな」「え?」お兄ちゃんは寝たまま、変な笑顔を浮かべた。「オレが死んだらお前らがどう思うかとか、これまで考えたことなかった」
2010年05月11日
コメント(0)
(1月3日(水) 黒崎 一護)正月早々風邪をひいた。何故かオレだけ。「情けない奴だな」「喧しいわ!」夕べは結局チャドの家で雑魚寝した。布団は一組。奴は当然井上と石田に譲ろうとしたのだが、二人は断固辞退した。まさかオレに寄越せともいえない。壮絶な譲り合いの結果、結局石油ストーブ一つの部屋で、コートを着たまま寝たわけだが、何でぴんぴんしてんだこいつら……。オレが虚弱なのか?「しょーがないよ。基本雄より雌のほうが丈夫に出来てるんだから」「僕は小学生の頃から山篭りをしてるからね。鍛え方が違うんだよ」「……気にするな」気にするわ!何がかなしゅーて正月から寝ていなきゃならねーんだ。石田が有り合わせで雑煮を作ってくれたが、オレだけ雑炊。誰も使わなかった布団に突っ込まれて、かっこ悪いったらありゃしねえ。「そういえば今日は手芸部で初詣に行く予定だったっけ」「そうなの?あたしも行く!」「ま……待て……」ちょっと待て。まさかオレたちを置いていくつもりなのか。なんのためにダマってたんだ?「心配しなくても、いきなり死神に襲撃されたりしやしないさ」石田が肩を竦めた。「僕が浦原さんなら、死神代行以下3名がコントロール不全になったなんて、ぎりぎりまでばらすものか」
2010年02月02日
コメント(0)
(1月2日(月) 茶渡 泰虎)「石田君の体を治そうと決心してね」井上は茶をぐびりと一服すると切り出した。「独学じゃもう伸びないだろうな、と思ったの」「そうだな」「……まあね」一護と石田が、渋々といった顔でそれを認める。オレも同感だ。独学では、行き着けるところに限度がある。しかしオレや井上の能力はいわゆるワンオフで、誰かに「教わる」ことが出来るものではないはずだが、「だから石田君のお父さんに弟子入りしてみた」「えええっ?」おとなしく茶を飲んでいた石田が立ち上がった。「どうしてそんな、「だってあたし、前に夜一さんに教わったじゃない。夜一さんは元死神でしょう?だから今度は滅却師方面で攻めてみようと思って」……井上にしてはわかりやすい。「それなら僕に言ってくれれば……」「それじゃ意味ないじゃない。石田君のためなんだよ?一応」「それはそうだけど、何もあいつに」「事情を話したら、喜んで助けてくれたよ。親ってのは有難いね」さらりとした口調だった。一護の眉がちょっと上がった。「他所の子を三ヶ月も休学させるとか、いい親とは言えないけどな」「だって石田君の人生がかかってるんだよ?放課後限定だと何年かかるかわからないし、浦原さんにばれたら困るし。あたし、出来るだけこっそりと、急いでカタをつけたほうがいいと思った」「君がそう考えるのはわかるよ。だけどね……」この日は結局何も決まらなかった。
2010年01月20日
コメント(0)
(1月2日(月) 茶渡 泰虎)「はい、この通り!種もしかけもありません!」井上がひらりと手を翻す。築20年の錆びの浮いたステンレスの流し台が、あっという間に新品となった。「井上さん、あまりその能力を使わないほうがいい」「嫌だなあ石田君、茶渡君ちの流しが綺麗で状況がどう変わるの?」石田は言い負かされたようにぐっと黙り込む。タイムパラドックスを扱った作品などでよく「葉っぱ一枚動かしただけでも歴史が変わる」と言われるが、具体的にどう変わるのかこの場の誰にも説明できないんだから仕方ない。「風が吹けば桶屋が儲かる」も少し強引に過ぎるような気がするし……。「便利だな、これ。便利だからこそなんか気になるんだけどな……」「うんうん、わかってるわかってる」井上は本当に分かっているんだろうか。去年の夏も躁鬱の気があったが、今はより酷くなったように思える。「いや、しかし凄い能力だよね」「士別れて三日なれば刮目して相待すべしって奴ですよ!」 「うんそうだな、そうなんだがな」一護がぎろりと井上を睨んだ。「そろそろこの三ヶ月何処でどうしていたか、聞かせて貰おうじゃねえか」
2010年01月18日
コメント(0)
(1月2日(月) 石田 雨竜)……だけどどうしたらいいんだろう。このままだと尸魂界ともめることになる。僕一人ならいいが、皆も道連れだ。かといって、ここで引くわけには……。「出直そうよ、石田君」井上さんがあっさりと言った。「あたし以外は初耳のわけだし、すぐにどうするかなんて決められないでしょ。浦原さんの前で話し合うのもなんだし、続きは誰かのアパートでしない?」「まあ……そうだね……」黒崎も茶渡君もずっとノーコメントだ。このまま勢いで押し切るわけにはいかない。「いえ、今此処で」「ごめんなさい浦原さん、動かないで」井上さんがひたりと浦原さんを見つめながら言った。「あたしの能力で何処までやれるか、ここで確かめたくはないでしょう?」「……黒崎、茶渡君、帰るよ」「あ、ああ」「……」井上さんは実に落ち着いて見えた。浦原さんは何処となく苦々しげだったが、僕たちを引きとめようとはしなかった。この瞬間は僕たちが優位なのかもしれないが、これが長く続かないのははっきりしていた。
2009年12月29日
コメント(0)
(1月2日(月) 茶渡 泰虎)石田が吼えた。まあ当然だろう。井上の話によれば、浦原さんは俺たちの行動の自由と引き換えに、将来子供が出来ないよう細工するタイミングを計っていたということだからだ。武力介入はしないが、緩やかに滅びに向かうよう誘導されたともいえる。特に石田は、「最後の滅却師」をキャッチフレーズにするくらいだから、子孫が残せないのは困るだろう。「あのですね石田さん、私はこれが一番角がたたなくていいと思ったわけで」「それはわかりますよ!だからと言って、僕にそれを有難がれというのは無理ですよ!」「前にも言いましたが、あたしも古巣と揉めるのは避けたいわけで」「知りませんよそれは貴方の都合でしょう」「いや、貴方たちだって……」……どうすればいい?浦原さんと石田は延々と平行線の言い争いを続けている。井上は言いたいことを言って落ち着いたのかのんびりと構え、一護はぼのぼののようにあたふたしていた。
2009年12月23日
コメント(0)
(1月2日(月) 井上 織姫)もしあたしが石田君の立場だったら、どうなっていただろう?何もかも諦めて、男子高校生ライフをエンジョイしていただろうか。「一言で言えばね、子供を作れないんだよ。その義骸」「え?そういや……オレってどうなんだ?」「作れるらしいよ」やっぱり男の子ってそういうこと考えないんだ。……あたしもだけど。「え?でもそれだと、僕の、その」「石田君は作れないよ」「だけど、その……」「うん、生理はあるけどね」はっきり言ったら、黒崎君が茶を噴出した。石田君は顔を赤くしたり青くしたり、チャド君はひたすらポーカーフェイスを決め込んでいる。「悪いけど、こっそり調べさせて貰ったから」「どうやって!」「うんまあその」流石のあたしもちょっと言いづらいな。「性別を変えた義骸で、生殖可能に出来るかどうかは浦原さんに聞いてみないとわからないけど、とにかくそれが目的なのよ。石田君はもう子孫を残せない。黒崎君かチャド君と結婚したらそっちも絶えさせることができる。もしあたしが黒崎君と結婚したりしたら、滅茶苦茶霊圧が高い子供が出来ちゃうかもしれないでしょ?」「…………つまりその……今の代だけは我慢するから、次世代は勘弁してくれ、と……」「そう、そういうこと!」よかった、うまく説明できた。あたし、話がわからないとよく言われるから内心不安だったんだよね。無事任務を果たしたあたしはほっとしたが、「それって断種政策じゃないか!」石田君がちゃぶ台をひっくり返した。
2009年12月15日
コメント(2)
(1月2日(月) 黒崎 一護)「……それは貴方が考えたことじゃありませんね」とうとう浦原さんの顔から笑顔が消えた。「段々、貴方がこの3ヶ月、どうしていたかわかってきましたよ」井上はぐっと背を伸ばした。「じゃあいいよ。全部浦原さんが話してくれても」「……そうですねえ……」浦原さんはあっさりと、「井上さんにお任せしますよ」と話を投げた。オレにはまだ、どういうことなのかさっぱりわからない。「じゃあ言っちゃうけど、その義骸が女の子の体なのは、別に浦原さんの趣味でも、実験でもないんだよ」「女性の体であることに意味がある、ということかな……」「ちょっと違う」石田に向かい、井上は大真面目な顔でぴょこっと人差し指を立てて見せた。「あたしだったら男の子の体に容れられてたよ」
2009年12月02日
コメント(0)
(1月2日(月) 石田 雨竜)「……え?」いや、それは。幾らなんでも。僕たちは呆然と浦原さんを見つめ、その浦原さんは困ったように笑いながら扇子を扇いだ。「あのですね、そんな人聞きの悪い……」「石田君、死神と滅却師は敵同士だって言ったよね?」「あ、ああ、うん」「じゃああたしたちが、勝手に虚退治するのって、本当は駄目じゃない?死神は、自分たちで死者を管理したいんだから」「そりゃ、オレが……」「死神代行だから?朽木さんの件で功績があったから?それだけだと思う?」「いや、その」黒崎はなんとも言えない顔で視線を宙に飛ばした。茶渡君も、まあ大差ない。それはそうだ。まさか井上さんは、浦原さんがわざと僕を死なせるよう工作することを請合ったとでも、「そうじゃないよ、石田君。浦原さんは、あたしたちの味方だから、一応……」「一応は酷いですね」「だってあたしからすればそんな感じだし」確かに酷い言い草だ。井上さんらしくない。「よく考えてみて、石田君。その義骸、重大な欠陥が一つあるでしょう?」
2009年12月01日
コメント(0)
(1月2日(月) 茶渡 泰虎)「石田君、体の在り処わかる?」「わかるけど……」井上が早々に腰を上げ、テッサイさんが(何時移動したのか)その肩を押し戻す。そんな押し問答が暫く続き、とうとう井上がヒステリーを起した。「だったらはっきり言えばいいじゃない!そんなことされたら困るって!」「いや、ずっと言ってますけど」苦笑交じりに答える浦原さんに井上は食い下がった。「そうじゃなくて……浦原さんは、どうしてそうして欲しくないのか、ずっと言ってない……」「はい?」のほほんと答えられ、井上の顔が逆に強張る。「お、おい」一護が焦ったように声をかけたが、多分耳に入っていない。井上は自分の考えに浸っているようで、引き攣った顔でオレたちをぐるぐると見渡している。どうみてもまともではなかった。能力を披露したときの、あの自信は何処にも感じられない。どうしていいのかわからないという顔だった。「……浦原さん」このままではいけないと思ったのか、石田が落ち着いた口調で切り出した。「僕の体を出してください。井上さんの能力は直ちに消滅させるべきだという考えには同意します。しかし彼女だって、このまま何もせずに追われませんよ。確かに危険ですが……」「ですから、それは」「駄目だよ、石田君。直しちゃ駄目なの。浦原さんは初めから、直すつもりなんてなかったんだから」
2009年11月24日
コメント(0)
(1月2日(月) 井上 織姫)ああ、やっぱりこうなるのか。浦原さんがこういう人だって、分かる人にはわかるんだね。あたしたちが気がつかなかっただけで。あたしたちはなんだかんだとこの人のお世話になってきたけど、こういう何も言わない人のことをそのまま信じるのは危険だわ。でもあたしたち、この人と縁を切ってもやっていけるかな。
2009年11月14日
コメント(0)
(1月2日(月) 黒崎 一護)えーとあーと。……どうすりゃいいんだろうな。井上が石田を元に戻す力を身につけた、だけではすまないらしい。石田の体はもう使い物にならないくらいぶっこわれてるんだから、当人が承知なら一か八か治してみりゃあいいような気がする。しかし浦原さんがこれほど抵抗するってことは、瀞霊廷にばれたらそれこそただじゃすまないってことか?
2009年11月13日
コメント(0)
(1月2日(月) 石田 雨竜)「駄目です。出せません」浦原さんは僕の体を出すことを真っ向拒否した。「浦原さん、試すだけでも」「駄目です」「失敗しても僕は構わないから」「駄目です」浦原さんの言いたいことでもわからないではない。井上さんの言葉を信じるなら、彼女の能力は治癒でも時間の逆回しでもなく、「あったことをなかったことにする」というものだ。受けた傷をなかったことにする。虚を、いなかったことにする。目の前にない僕の体をどうこうすることはできない。この義骸を、僕の本物の体にすることはできない。それにしたって物質、事象に対する影響力は非常に大きなものだ。まさに絶対の「拒絶」だ。滅却師の能力がどうというレベルではない。死神たちにこれが知られれば、恐ろしいことになるだろう。「石田君の体さえ直せたら、あたしの能力は封じてくれていい」というか、それしかない。この能力こそ「なかったこと」にするしかないし、井上さんは僕を絶対治すと心に決めている。僕としてもそう願いたい。しかし浦原さんは、「その力でそんな大きな事をされては困りますよ!」と言って僕たちのいうことを全く聞いてくれなかった。
2009年11月12日
コメント(0)
(1月2日(月) 茶渡 泰虎)「……」皆、なんともいいようがないようで、黙って顔を見合わせあう。確かに井上は大分修行を積んだようだ。オレにも何処となく分かる。「……ちょっと待ってくれ井上さん」何か考えていた石田が突っ込みを入れる。「治癒の方面に進んだって言ったよね?でも君は大晦日の晩に虚を倒していた。しかも、僕の感触だとかなりの強敵だと思うけど」「ああ、うん、それなんだけどね」井上は何故かおりがみを取り出すと、かぶとを折った。そして、「えい」ぴしりと、霊圧が放たれた感覚とともに、かぶとがただの紙に戻る。折れ線も残っていない。……なんだ?これは。時間を戻した……のか?そんな馬鹿な。第一、それでは虚を倒せることの説明にはならない。「……ちょっと、やめてくださいよ井上さん。貴方、何をやっているかわかっていますか?」浦原さんの声は、地の底から響きわたるようだった。
2009年11月11日
コメント(2)
(1月2日(月) 井上 織姫)「ええとね、修行しようと思ったの。あたしの能力ってよくいえば万能型だけど、実用を考えるとどれもたいしたことないじゃない?だから治癒の方向で纏めて伸ばしてみようかと思って。……性格的に、攻撃力が高くったって駄目なのは自分でもわかってるし。あたしが褒められるのって大体そっち方面だったし。うまくいけば石田君が元に戻せると思って……修行して……戻って来ました!」
2009年11月10日
コメント(0)
(1月2日(月) 黒崎 一護)井上が帰ってきた。それを聞いたときは、そりゃ嬉しかったんだが……正直、結構微妙な気分だった。なにがどう、と言われるとうまく言えねえんだが……。「あのう……井上さん、これはどういうことなんでしょうか?」そういう浦原さんの顔も、なんとなく引き攣っている。一生懸命普通に振舞おうとしてるんだろうが、オレにもわかるくらいで、石田はちらちらとその様子を窺っている。井上はそんな微妙な空気など全く気づかない様子で、ひたすらにこにこしていた。
2009年11月09日
コメント(0)
(1月1日(日) 石田 雨竜)「あ、石田君久しぶり!じゃなくてあけましておめでとう!」だから嫌なんだよ年末年始は!虚も整もぞろぞろと出歩いて、忙しくて困る。年始なんて数年ぶりに来たのに、結局こうなるのか……。人が多いから飛廉脚も使えない。襦袢が下着だということを無視して、駆け込んだ先にいたのは、井上さんだった。着物じゃなくて、普通にコートを着て、虚と向かい合っている。4ヶ月ぶりにあったのに、不思議なほど普通だった。虚の気配が濃かったとはいえ、僕は彼女がいることに気づかなかった。そしてもう一人。「織姫?」僕を追ってきたらしいたつきちゃんが叫ぶ。僕が思わずそちらを振り返ったとき、虚の気配が消えた。何がなんだかよくわからない。たつきちゃんが僕を突き飛ばさんばかりに井上さんに駆け寄り、それから一騒ぎあって、僕が黒崎たちに連絡を入れたのは朝になってからだった。
2009年11月08日
コメント(0)
(1月1日(日) 有沢 たつき)「ごめん、ちょっと電話をかけてくる」そう言って雨竜が席をたった。皆、男どもをこきおろすのに夢中で、殆ど気にしていない。あたしが雨竜を追ったのは、……自分でもよくわからないが、なんとなく外にいやな雰囲気があったからだ。雨竜は携帯をかけることも電話ボックスを探すこともしなかった。周囲をちょっと見渡すと、裾をからげて下駄を脱いで、それを持って走り出す。周りの人が呆気にとられるほどの猛スピードだった。あたしが着物を着ていたら、絶対追いつけなかったと思う。いやな感覚がどんどん強くなる。あたしはわりと霊感が強いほうだけど、こんな禍々しい気配は感じたことがない。雨竜は明らかに、その気配があるほうに向かっていた。この角の先に、気配の「元」がある。石田がそこに駆け込み、そして
2009年11月07日
コメント(0)
(1月1日(日) 小川 みちる)「そういえばね、男どもが学校の女子のランキングをやってんのよ」初詣の後に入ったファミレスで、千鶴が待ちわびたように口を開いた。「まあ、いいんじゃないの?女子だってやってるんだから」「ベストテンだけならね……あたしにも見せろよって感じなんだけど。ワーストもなのよ!」「ええ?」それは嫌だな、確かに。千鶴は怒ってるんだか面白がってるんだか微妙な顔で、「見せて貰ったんだけどさ、ベストテンとワーストテンが半分被ってるあたり、単に目立つというか話題になった子ってトコね」成る程……ってことは。「鈴と石田」真花がずばり言ってのけた。「織姫もね」思わず付け加えたのはあたし。「あたしと千鶴はワーストだけ入ってるんじゃないの?」たつきがつまらなそうに付け加える。でもそうなると、「ワーストの半分はあたしたちか」鈴もさすがに嫌そう。鈴は生徒会長で石田さんは副会長で織姫は不登校?でたつきは空手部の女子部長で千鶴は女の子が好きなのを隠そうともしてなくて……。そんなのがダマってたら目立つね。うん。「確か鈴がベスト8でワースト9」「地味ね」確かに。「うりがベスト6でワースト3」「え?僕も地味じゃないのか?というかそんなに嫌われてるのか!」「高校生にもなって僕女は痛いってさ」石田さんはテーブルに突っ伏した。「いや……別にキャラ作ってるわけでは……」「あと、一見おとなしそうなのに実は威張ってるのが怖いって」「……よく言われるけど……全校生徒からそう思われているなんて……」「そこがいいです!踏みつけにされたいって意見も」「嬉しくない!」プロフィールだけなら良妻賢母タイプなんだけどなあ。
2009年11月06日
コメント(0)
(12月31日(土) 石田 雨竜)「石田ってお嬢様だったんだ」「違う!」「いや、違うといわれても……」うん、本当はわかってる。そういわれても仕方ないと!友禅の着物に毛皮のショール。寒いし危ないからと車を出してくれたのは有難いが、なんで我が家にこんな大きな車があるんだよ。どうせ誰も乗せないくせに。おまけに(これはばれてないけど)着付けと化粧が終わったとたんにプロを呼んでの写真撮影会とはどれだけこのイベントに気合入れてるんだ竜弦!「たつきちゃんは着物じゃないし……」「悪い、寒さに負けたわ」着物でなきゃ連れて行ってくれないというから家に帰ったのに、と思っても国枝さんは知らん顔だ。皆上機嫌なのに僕が空気を悪くなるのも申し訳ないし。僕が内心どういう気分だろうと、除夜の鐘が鳴り響く中、意外と込んでいる神社は意外といい雰囲気だった。屋台で重い物を食べ(真夜中なのに……)、お酒を飲み(僕らは駄目だけど)寒さにもめげず粘っている。やがて年が開け、僕たちは互いに挨拶をすると参拝の列に並ぶ。自宅に帰るのは癪だな、一端アパートに戻るか。流石にこの格好で虚と戦うのは無理だ。そんなことを考えていた僕は、誰かの「織姫が早く帰ってくるように」との一言に思わず階段から落ちかけた。「ちょっと、大丈夫?」「ああ……」暗くて助かった。僕は呆けていたか引き攣っていたか、どちらにも様にならない顔をしていただろう。皆井上さんの心配をしてわざわざ真夜中に出てきたのに、僕だけは自分のことを願うつもりでいた。井上さんが無事でありますように、と一生懸命手を合わせたが、多分僕のような人間の言葉は役に立たないだろう。
2009年11月05日
コメント(0)
(12月31日(土) 国枝 鈴)「え?何処に居るって?」「だから小島君の家」けろりとした返答に、あたしは正直頭痛を覚えた。「実はこの間、父と喧嘩して……アパートにも実家にもいられないんだ」「で?」そんな理由で男の部屋に転がり込むなよ。確かに小島は女日照りとは正反対のキャラだから安心といえば安心だけど、それでも学校にばれれば十分まずいのよ!「じゃあ今晩の除夜詣には参加しないの?」「いや、行くよ。小島君と彼女とでかけるそうだしね」「だったら11時に駅前に集合よ。着物厳守。覚えているわね?」「その、実は着物が」「あるんでしょう?着物。美容院も予約してあるって聞いたわよ」「だから父と」「詫びを入れなさい」本当は着物なんてどうでもいいけど。年末年始を男の所で迎えるなんてとんでもない。あたしはまるで子供を言い含めるようだと思いながら、石田に家に帰れと説得した。
2009年11月04日
コメント(0)
(12月30日(金) 小島 水色)「小島君、済まないが暫く泊めてくれないか?」「は?」僕は思わずまじまじと石田さんの顔を見つめた。えーと、家賃滞納でアパートを追い出された?それとも水道管が破裂したとか電信柱が折れたとか。それにしたって女子の家に行ってくれないかな。「何で僕のうち?」「だってまさか黒崎の家にはいけないじゃないか」石田さんはふて腐れたような顔で答えた。「茶渡君はバイトで年明けまで戻ってこないし、浅野君だと誤解されそうだし。君ならがっついた真似はしないだろう?」「それって信頼してくれてる?」それとも舐められているのかな。「炊事洗濯掃除に裁縫、全てやらせてもらうし留守番もするし無論君のプライバシーに口を挟みはしない。住み込みのメイドを実費で雇ったと思ってくれればいい」「生活費は出さないって意味?」「見たところ大掃除はしていないな。プロに頼むより安くあがるよ」「いやそういう問題じゃなくってさ……」僕、人に面倒見てもらうのになれているんだよね。君も知ってると思うけど。あまりありがたみはないなあ……。さすがに僕に全く気がない女の子にいきなり押しかけれたのは初めてで、どう追い払ったものか考えているうちに、石田さんはさっそく冷蔵庫を漁り始めた。
2009年11月03日
コメント(0)
(12月29日(木) 黒崎 一護)「まあ要するに、ツンドラがデレモードに入ったわけだな」「いい年してオタくさい言い方すんなよ」なんとなくわかるのが……いやスラングってそういうもんだけどさ。石田はどうも親父さんと仲直りしたっぽい。いいことだなんだろう、一般的には。しかしオレが望んでいたのは、あのおっかない院長先生が子離れすることで、年頃の「娘」を持つ親父らしくして欲しいってことじゃねえ!石田の気の強いのもプライドが高いのもどうやら親譲りで、相変わらず顔を合わせればガンガン喧嘩しているようだが。元が元だけに、ちょっと素直になられただけでも超こええ……「まあ頑張れ青少年!どうせ一度は振られた身!」「うるせええ!」こういう親父も困るけどな。
2009年11月02日
コメント(0)
(12月22日(木) 石田 雨竜)「でも部長、来るだけは来てくださいよ」次期部長の長田さんが引っ張る。しつこいな。僕だって暇じゃないんだよ。生徒会もあるし自活してるし浅野君の勉強もみてやらなきゃならないし自分の受験もあるし。正直君にもう部長の座を引き渡そうかと思ってるんだ。「部長が一番着物にあう体型してるんですから。練習台にちょうどいいんですよ」「それが理由か!」
2009年11月01日
コメント(0)
(12月22日(木) 小川 みちる)「え、部長って着付けできないんですか?」久々に部活に出てきた石田さんが大きくため息をついた。「僕だってなんでもできるわけじゃないよ。あわせるくらいならできるけど、帯はちょっと無理」「期待してたのにー」一年の子たちが口を膨らませる。石田さんはもう一度ため息をつくと、それでも立ち上がった。「この中で、誰か着物の着付けができるのは?」あたしは無理。でもさすが手芸部、ちらほらと手が上がった。「これくらいいればいいか……着付け教室に参加したい人は?」「はーい!」半数くらい手が上がる。あたしも出ようかな、振袖着たいし。「よし、じゃあやるか……尾高さん、大久保さん、長田さん、講師役をよろしく。僕は部室の使用許可を取ってくるから」「部長は出ないんですか?」「僕はいいよ」「正月に振袖着ないんですか?みんなで3日に空座神社に行く約束したじゃないですか!」ブーイングに、石田さんは視線を宙に飛ばした。「いやその……僕は美容院に予約してあるから」えーっという声が上がる。清貧主義の石田さんが正月から美容院か。なんか変な感じ。
2009年08月11日
コメント(0)
(12月15日(木) 石田 雨竜)「り……竜弦……」「なんだ?」「これ、一体幾らしたんだ?」僕は眩暈を堪えながら訊ねた。「お前はどうして物事をすぐ金で換算するんだ。さもしいにも程がある」「金にあかして買い物をしておいて言うな!」白地に(多分)手塗りで青い花を散らした総絞り友禅の振袖。専門外だから確証は無いが、100万はまず下らないだろう。美しい。実に素晴らしい造形だ。しかし。「そんなに娘がよかったのなら、作ればよかったのに……」確かに今は男の子より女の子を求める親が多いらしいけど。竜弦もその口だったのか。「勿体無いから受け取ってもいいが、正月この家に戻る予定はない」「ほう、持ち帰るつもりか。だがそれは無理だ」「へえ?何か術でもかけてあるのか」「……そういう問題ではない」竜弦はすっと眼鏡を持ち上げた。「振袖も帯も下駄も小物も道行も買った。しかし着物バックは買っていない」「買えよそれくらい!」なんて地味な嫌がらせだ。
2009年07月29日
コメント(0)
(12月1日(木) 浅野 啓吾)「もう幾つ寝ると……」「期末だな」「ああっ気分を壊さないで!」いや、一々突っ込みを入れてくれる石田さんって結構好きかもしれない。他の女子は呆れたようにちらりとこちらをみただけで、すぐ自分達の話に戻ってる。やだなー冷たいなー、確かに誘ってくれたのは石田さんだけどさ……。図書館の中はいい感じにあったかい。これで女子に囲まれて勉強会って、オレって超勝ち組?「何処から見ても負け組予備軍よね」……生徒会長様、地獄耳っすか……。2学期に入って、何故か有沢グループの勉強会に(時々)呼んでもらえるようになった。人生初のモテ期……じゃなくて、石田さんが「このままじゃ留年する」とメンバーを説得してくれた結果。おかげで時々一護が煩いけど、やっぱり助かる。このまんまだと、二学期の通知表はわりとみられるかもしれない。なんたって学年主席の生徒会副会長様が首っ引きで教えてくれるんだもんな。なんで一護をほったらかしてオレの面倒を見てくれるのかよくわかんないけど。
2009年07月22日
コメント(0)
(11月1日(火) 茶渡 泰虎)「なあ、石田……そろそろ言葉遣いなんとかしたほうがいいんじゃねえの?」苺が(おずおずと)そう言った途端、石田の拳がその顔にめり込んだ。井上がいない、ということを除けば俺たちは普通に暮らしている。井上のことについては、浦原さんに任せた格好だ。有沢たちも探しているようだが、どうにもならないだろう。井上のことも気になるが、もう一つの問題が石田の今後だ。石田は4月以降、ほとんど口調を変えていない。「元の体に戻ったときにおかしな癖がついたら困る」からだったが、もうその「心配」だけはなくなった。この「体」で生きていくしかない以上、普通に女言葉を使ったほうがいい。それでも石田は、言葉遣いを変えることを断固拒否した。「とりあえずですます調はどうか」という妥協案も拒んだ。俺としては、高校生の間はこれでもいいと思う。だが石田が何時まで突っ張る気なのかは気にかかる。石田は現状を認識してはいても、受け入れてはいないようだった。
2009年07月14日
コメント(0)
(10月1日(土) 朽木 ルキア)井上がいなくなってから、あっという間に一月がたった。一護は私が匿ったと思い込んで大騒ぎしていたが、匿っているのならそう言うぞ、私は。誰にも事情を話さず姿を隠すとは、人騒がせにも程がある。まあ、元々よくわからん奴ではあったが……。これまでは、「井上 織姫」という人間自体がいないということにしていたが、今回は正直に「行方不明」ということにしている。すぐに戻ってくるだろう、と思われたし、いい加減関係者が嘘をつくのに疲れた、ということもある。特に元の体に戻れなくなった石田はピリピリしており、井上の名前を聞くたびに毛を逆立てているそうだ。「……頼ってくれれば良かったのだが」井上が何故いなくなったのかはわからない。石田絡みなのか、そうでないのか。結局、井上 織姫の考えていることは、井上 織姫当人にしかわからないのだろう。人間というのはそういうものかもしれない。しかし空座町にいられない理由があるなら私に頼ってくれれば良かったのに、何処か特定の場所に行かなくてはならないにしても相談くらいしてくれれば良かったのに、と思わずにいられない。石田も恋次には色々話しているようだし、この程度距離が取れていれば、かえって腹をわれるのではないだろうか。少なくとも、一護や石田に話してまずいことは喋らないぞ……うん。後から考えてみれば、井上の身を案じると同時に拗ねていたのだろう。まだ、「そのうち帰ってくるだろう」と高を括っていた。だが、二月たっても、三月たっても、井上は戻ってこなかった。
2009年07月08日
コメント(0)
(9月1日(木) 石田 雨竜)机の上に手紙が一通。 -暫く旅に出ます。探さないで下さい-「無茶いうなぁぁぁぁぁ!」黒崎が一言叫んでそれを裂いた。2学期が始まったのに、井上さんは学校に来なかった。彼女の記憶が復活したたつきちゃんたちが騒いでいたので、僕が飛廉脚で一足先に井上さんの家に行き、無事この手紙を回収したわけだが、その中身はたった一言だけ。これで「おとなしく待っててね☆」は無理だよ井上さん……。「で、あいつどこに行ったんだ?」「僕が知るわけないだろ」井上さんはあまりお金を持ってない。お金がないと行動に差し支える。いわゆる援助……という手段もあるが、それは考えたくない。「朽木だな」茶渡君があっさり片付け、僕も黒埼も大きく頷いた。しかし朽木さんからの返答は「知らぬ(きっぱり)」だった。
2009年02月27日
コメント(0)
(8月31日 茶渡 泰虎)「いやあ、いい個体ですよ。人間よりやや緩やかに老化、寿命は50年の予定です。まあ実際の数値は使ってみないとわかりませんが……」「そういう問題かよ!」「実はもう親御さんの許可を得ていまして。後は戸籍を書き換えるだけでOK!」「当人の意志は何処行ったんだよ!」一護が浦原さんと掛け合っている横で、当の石田は黙ってちゃぶ台に突っ伏し、井上がその背中をぽんぽんと叩いている。石田は本来、4月3日(だったか?)に死んでいる。浦原さんのおかげで中身だけでも無事に済んだのだから、オレたちはこの人に感謝すべきだろう。すべきだが。「この5ヶ月、特に問題なく生活できたじゃないですか」「どこかだよ!どこがだ!問題山積みだったじゃねえか」「……まあそれは置いといて」「置くなよ!拾えよ!」確かに色々あった。オレはつい井上に目を滑らせ、そして何か違和感を覚えた。井上は石田にぴったりくっついて、お茶を飲ませたり声をかけたり甲斐甲斐しく世話を焼いている。そうしながら笑っている。いや、笑っているように見える。心配げな表情を浮かべているのだが、ここ暫く井上に纏わりついていた、強張ったような厳しい雰囲気がなくなっている。「……?」まあいい、と思ったのが失敗だった。翌日、井上は学校に来なかった。
2009年02月26日
コメント(0)
「凄いことって……」「うーん、はっきりとはいえない。でも、織姫の能力ってとにかくよくわかんないでしょ?そのよくわかんないところに可能性を感じたりするのですよ、うん」「あー……」わかる……ような気がする。あたしは自分の能力を全く理解できない。わかってるのは、茶渡君みたいに特化した能力じゃなくて、なんか各方面に色々ばらけてその分弱いってことだけ。それを「治癒」方面に束ねてみたりしたら、石田君を治すことができちゃったりするんだろうか。それが出来るなら。そう出来たなら、あたしはこれまでの罪を清算できるんじゃないだろうか。あたしは、なんだか体が熱くなるのを感じた。
2009年02月24日
コメント(0)
(8月30日(火) 井上 織姫)「貴方……貴方は…」まさか。「芍薬、じゃないよね……?」「違うよ」もう一人のあたしは困ったように笑った。「あたしは福寿草」福寿草、ということは。「あたし……本来のあたし?」「うーん、なんというか「他の人から見た井上織姫」を織姫がイメージしたって感じ」「わ、わかりにくい……!」今年の春だったか、朽木さんがあたしのことを福寿草のようだって言ってくれた。それで、この名前がついたってことは。「芍薬の姉妹?」「うーん、どうなんだろ。あんまり考えたことないなあ」福寿草はへらっと笑った。良かった、少なくとも芍薬のような悪意は感じない。「福寿草ってあたしと性格一緒だよね」「うん、織姫って意外と自分の性格よくわかってるよ」福寿草はけろりとして言った。「織姫以上のスペックはないから、織姫を助けてはあげられない。でも相談相手くらいならできるよ」「あー……設定間違えたかも」あたしのイメージで出来てるんだもんね。もっと優秀にしとけばよかった。「織姫は気が弱いし、自己評価低いから無理」「酷っ!」前言撤回。あたしこんなに意地悪くないぞ。「多分、そんなに強い力なんて欲しくなかったんだよ」「……そうかな」「うん、自分の性格があまり好きじゃないだけ」軽く言われて。あたしは絶句した。「織姫は、力が欲しかったけど、でも多分怖かったんじゃないかな。強い力って、人を傷つけたり、下手すると殺しちゃうこともあるから。だから、何かでっかいことが出来る力じゃなくって、ちょっとづついろんなことが出来る六花を作った」「そう……かも」あたしの能力はどこか半端で宙ぶらりんだ。でもそれは、あたしの選んだことだったのかもしれない。「あたし、織姫の力ってそう捨てたもんじゃないと思うよ。少なくとも可能性はある。たとえば」福寿草は、あたしと同じ顔であっけらかんといった。「全てまとめちゃったら、凄いことが出来るかもしれない」
2009年02月24日
コメント(0)
(8月30日(火) 井上 織姫)「どーだって、どーなったって、どーでもいいさ常識みたいな夢なんていらなーいどーだって、どーなったって、どーでもいいさ嫌でも自分を辞められないし、どーだって、どーなったって、どーでもいいさいいわけみたいな愛なんかいらなーい……」何このいい加減な歌。絶対間違ってる。あたしやっぱり壊れてるのかな。……あたし?何で寝てるはずのあたしが歌ってるのよ、と布団を引っかぶって寝てたあたしはそれを跳ね除けて飛び起きた。「あ、おはよう」「芍薬……」歌を歌っていたあたしは投げやりな歌に反して朗らかで、昨日のダメージは全く感じられなかった。相変わらずあたしにしか見なかったが、あたしじゃないことはあたしにはよくわかった。(注):織姫が歌っていたのは中西 圭三さんの「Bug」、サブタイトルもそちらから借りております。「タンポポ食べて」同様歌詞少し違います。
2009年02月24日
コメント(0)
(8月30日(火) 茶渡 泰虎)「石田はもう元に戻れないのか」思わず呟くと、ちゃぶ台に突っ伏していた一護ががばっと起き上がった。「いけませんよ黒崎さん、石田さんに撃たれます」それは確実だ。「一応普通の義骸も用意してあるんですけどね。……実のところ、5ヶ月も一般人を容れっぱなしで、ちゃんと移動させられるかはやってみてのお楽しみで」「なにそのいい加減な話!」浦原さんは全く誠意の感じられない顔で、ぱたぱたと扇子をあおいだ。「いやですねえ、ちゃんと最初に言ったでしょ?実験を兼ねてますって」そういえばそうだった。
2009年02月20日
コメント(0)
(8月30日(火) 国枝 鈴)「ただいま~、うり、生きてる?」「……」「へんじがない。ただのしかばねようだ」つまらないギャグを飛ばした千鶴の首に、たつきの延髄切りが入った。今日は8月30日。日本中の小中高校生が、泣きながら宿題に励む日。あたしは7月中にちゃんと終えているので、追い込みに参加しないつもりだったが、結局石田の家まで来てしまった。何故か部活は休み出し、たつきに「雨竜の面倒だけでも見て欲しい」と拝み倒されたからだ。石田は北海道旅行をすっぽかした詫びに全員の宿題の面倒を見る予定だったが、暑気あたりなのか青い顔で寝込んでいる。あたしたちは勝手にやってきて、容態がこれ以上悪くならないよう様子を見ながら隣で宿題をやっているが、ひょっとして存在を認められていないんじゃないだろうか。「鈴、あんた最初に選んでいいよ」「そう?どれにしようかな」暑いからあまり食欲がないけれど。「そういえば、織姫ちゃんはどうしてるかな」「井上?結局あれ以来会ってないけど」「たつき、呼んでやったら」「いや、あの子携帯持ってないらしいんだ。茶渡を通して連絡してる」「え?一人暮らしって言ってなかった?」固定電話はあるんだろうか。ないといざという時困ると思うけど……。別になにもなければそれでいいけれど。それでもあたしたちはなんとなく顔を見合わせた。
2009年02月19日
コメント(0)
(8月30日(火) 黒崎 一護)「私はアナタ方の味方ですよ。それだけは信じてください」「……」初っ端からそう言われて、身構えない人間が果たしているだろうか。いや、ない!つかオレもチャドも殆ど瀕死なのにどうしてそんなこと言えるんだこの人は……。要するに失敗したんだろう。真っ二つになって虚に侵食されてえらいことになってた石田の体を元に戻そうとして、結局できなかったわけだ。でも、せめてそれならそれと言えよ!自分の体が「こう」なってるのをいきなり見ちまったわけか、石田……。逃げるな、これは。オレだって逃げる。なんか昔、啓吾にこれと似たようなのを見せられたような気がするが、正直そっちの記憶は吹っ飛んだ。所詮2次元だったしな。よく知った顔が……石田の場合自分の顔が、蜂の巣というかなんといいましょうか。カンベンシテクダサイ。「んじゃまあ、これまでの経過とか、これからの予定とか、色々お話しときたいんですけど」なんか変な臭いのするお茶が出てきたが、とても飲む気にはなれなかったし、話を理解する自信もなかった。ただ、もうちょっと申し訳ないふりだけでもしてくれねーかな、とだけ考えてた。
2009年02月18日
コメント(0)
(8月30日(火) 茶渡 泰虎)○画像というものがある。正直口にするのも嫌だが……人の体に……まあその、悪趣味なコラージュのことだ。啓吾がわざわざそれを披露したときは、一護より先に石田が拳を入れたという、いろいろな意味で衝撃的な結果となった。しかしそんなのは、「女」という記号が蹂躙されただけで。ああ、石田が吐くわけだ、とオレは気が遠くなりつつ考えた。
2009年02月18日
コメント(2)
(8月30日(火) 黒崎 一護)医者の息子だからといって、柩を見慣れているわけじゃない。死神だからって、死体を見慣れているわけじゃない。ただ、死者(整)は見慣れているから、大概の「酷い有様」には動じないつもりだった。んだが……。石田の体が何故か白木の柩に入って出てきて、その状態を見た途端、オレはみっともなくもえずいてしまった。
2009年01月03日
コメント(0)
(8月29日(月) 黒崎 一護)「石田と井上が逃げた」「あ?どういうことだ?」「わからん」こいつの話は、何時も高い確率でわからない。井上のようにぶっとんでるからでも石田のようにみょーに私情が入り込んでいるからでもなく、単に言葉が足りないからだ。「浦原さんはオレたちに何かを隠している」「あー……それは何時ものことだろ」「そうだ。それはわかっている」「……」石田も井上も、浦原さん絡みじゃかなり耐性ができている。それでも逃げた、か。「で、オレにどうしろっつーんだ?」「事情を聞いてくれ」「石田たちに?」「……ム」「んな嫌そうな顔すんな!わかってるよ」浦原さんに聞けってんだろう。……かなり気がすすまねえけどな。
2008年12月24日
コメント(0)
(8月29日(月) 茶渡 泰虎)「いやあ、正直助かりましたよ。このまま期限になったら、どう説明しようって……意外と頑張りましたね、石田さん」「……」石田は言い返さず、黙ってそのまま帰ろうとした。「ちょっとその顔のまま帰るつもりですか?美人が台無しですよ?」「……あ」しゃがみ込んでいた井上が飛び上がると、ぶんぶんと周囲を見回した。多分石田の顔を拭くものを探しているんだろうが、視線が店に向かない。オレが商品棚のティッシュを渡すと、「ありがとう」とだけいって石田に駆け寄っていく。どうやらそのまま帰るつもりらしい。となると、「何があったのか」はオレが聞くことになるのだろうか。「いえ、貴方も帰ってください」浦原さんは不気味なほどにこやかに言った。「貴方じゃ他の人に説明できないでしょうからね、あはははは」
2008年12月23日
コメント(0)
(8月29日(月) 茶渡 泰虎)「痛あっ!」必死の形相で駆けて来た井上が、思い切り転んで頭からひっくり返った。石田はそっちを見もせずに店を突っ切り、庭に出て、……ひょっとして吐いているんだろうか。どう考えてもまともじゃない。オレはとりあえず井上を起こそうと近づいたが、井上はゼンマイ式の玩具みたいに起き上がると、やっぱり店から飛び出した。が、そこで気力が尽きたらしくしゃがみ込んでいる。「……」声をかけるのも憚られ、オレは奥に様子を見に行くことを決めた。二人の様子は明らかに、「この店にいることが耐えられない」と継げている。何があるのか知らないが、心の準備が出来ている分、ましなはずだ。が。「いやあ、わざわざトラップを踏みに行く必要ないでしょう?」何故か、その奥から出てきた家主の顔は、ぞっとするほど普段どおりだった。
2008年12月22日
コメント(0)
(8月29日(月) 茶渡 泰虎)……客が来ない。夏休みが終わる直前だからだろうか、それとも何時もこんなものなのだろうか。普段「客」としてこないオレにはよくわからない。ただ、「人間」相手に売るものは所詮カモフラージュに過ぎないことはわかる。石田は妙に確信ある足取りで、井上を引っ張っていった。あいつはオレたちの中で一番探索能力が高いし、自分の体の在り処くらい簡単にわかるんだろう。浦原さんたちは、すぐにオレ達のやっていることに気づき、早めに帰ってくる可能性が高い。それまでに、これからどうするか決めなくてはならない。……間違っているんだろうか。石田は、直接自分の体を確認してからどうするか決めると言った。無理を通してでもとは言わなかったから、オレと井上は話に乗った。仁義破りかもしれないが、元々オレ達のことなのだから、それほどおかしくないはずだ。しかし何かが引っかかる。よくわからないが、「そんなことはしないほうがいい」という予感がヒシヒシとする。まあ、オレの勘なんて対してあてにはならないが……。箒片手に、オレはガラにもなくため息をついた。そこに、物凄い悲鳴が奥から聞こえてきて、石田と井上が飛び出してきて、オレが最初に思ったことは、……オレたちは、結局浦原さんを信用していたんだな。ということだった。
2008年12月19日
コメント(2)
(8月29日(月) 井上 織姫)やっぱりよくない……と思う。あたしと石田君は、これから浦原さんちに忍び込む。しかも、わざわざ無人になるよう仕組んでだ。持ち出そうとしているのは石田君の私物?だが、これはれっきとした犯罪だ。あたしたちと、店番兼見張りを引き受けてくれたチャド君はともかく、誘い出された雨ちゃんとジン太君はこってり叱られるに違いない。でもあたしは断れなかった。断れる立場になかった。それがわかっていて、石田君があたしにこんなことに巻き込んだのがなんだか納得いかない。石田君は男の人には全く遠慮がないが、女の人には殆ど無条件で甘い。あたしにだって、これまではずっと優しかった。あのことの後も、色々してくれたからあたしに愛想尽かしをしたわけじゃないと思うんだけど、じゃあなんなんだろう、これ。絶対まずいよね、これ。でも断らなかった以上あたしも同罪なんだよな、とあたしは石田君の後をとことこ歩いていきながら、そんなことをつらつらと考えていた。
2008年12月17日
コメント(0)
(8月29日 井上 織姫)裏原さんとテッサイさんは月一度の仕入れの日。雨ちゃんとジン太君は映画。「ちょっと気が咎めるよねえ……?」「この際気にしない」「うわ石田君ストロング!」あたしは大げさに驚いてみせたが、石田君はにこりともしなかった。「ちょ、ちょっと傷ついた……」「え?」「なんでもないよ」
2008年12月16日
コメント(0)
全241件 (241件中 1-50件目)