2003.02.22
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首に絡まるミミミを振りほどく方に力を入れながらテルに助けを求める視線を送った。
テルは肩をすくめて首を傾げた。カラコは頬杖をついてオレとミミミを見ている。
オレは困ったような表情を繕って、頭を指した指をくるくると回した。
ミミミに気付かれないように。こいつアタマいかれてるのか?というメッセージだ。
テルは、しょうがないなという風に下を向いて立ち上がり近づいてきた。
そして無言のままミミミの背後に立ち、彼女の肩をポンポン、と叩き振り向かせた。
テルがミミミに目だけで合図を送ると、ほどなくミミミはオレから離れて後ろを向いた。
そこからは、もうオレには興味がなくなったというように、バッグから取り出した荷物を
しまい、代わりにセーラムライトを取り出して火を点け、窓の外を眺めていた。

オレから離れてからミミミは、オレの方を一つも見ようとはしなかった。
オレはミミミに、ブランド物のバッグを買ってやりたくなったが、ミミミがブランド物に、
興味を示すとは到底思えなかった。ミミミの気を惹くために何をしたらいいか、
というようなことを考えた。ミミミはオレに背を向けて、窓の外を眺めながらタバコを
吸っている。

4人が帰った後、オレはパラダイム・フロートによる浮遊体験と、ミミミのことを考えて
いた。テルもカラコも、クスリのことも、ミミミのことも説明してはくれなかった。むしろ
意図して避けていたといっていい。
テルがオレに女を紹介したのは初めてだった。なぜテルたちとカラコが一緒にいるの
かもわからない。カラコはクスリを使わなかった。ミミミが、本当に気が狂っているとは
思えない。

今、いいか。
「ちょっと待て」
電話を持って移動する気配がした。
「いいぞ」
ミミミ、まだいるのか?

いつから?
「5日前から。俺の、彼女ってことになってる。」
彼女ってことになってるってどういうことだよ。
「そういうことだ。最初は、そのつもりだった。ちょっと、状況が変わった」
オレは沈黙し、テルの次の言葉を待った。
「手に負えない」
どういうことだよ。
「おかしいと思ってた。上手く行き過ぎてた。あいつの目的は、俺じゃない」
目的?
「おまえさ、」
なんだ。
「いっちゃ悪いけど、おまえ親、いないだろ」
いない。
「広い家に、その歳で一人暮らししてるって、おまえのことを紹介したら、
 ミミミ、ハンパじゃなくおまえに興味を示した。だから連れていった」
あのさ、ノブ、大丈夫か。
オレは話題を切り替えた。ノブは、目を開けたまま気を失い、テルに担がれて帰った。
「まだ口開けてヨダレ垂らしてるが、大丈夫だ。ノブはいつもああなんだ」
電話を切った。

オレには親どころか、家族も親戚もいなかった。
物心ついたときには、施設にいた。18の時、施設に弁護士を名乗る男がやってきた。
オレを、引き取るのだといった。神奈川の施設から、長野のこの家に移された。
自動車の部品を作る仕事をあてがわれた。贅沢をしなければ、生活に困ることはない。
親や家族が必要だと思ったことはなかった。
テルとノブとは、酒場で知り合った。ノブが酔って前後不覚になったとき、テルと一緒に
担いで帰った。家が隣同士だと知り、付き合いが始まった。この2人以外、男友達は
いない。
オレはテレビを見ながら焼酎を飲んでいたが、テレビが何を言っているかほとんど
わからない。いつもテレビは流れているだけだが、点けていないと視点をどこへ
やったらいいか迷う。
今日オレの周辺で起こったことがあまりにも強烈で、そのイメージに囚われて眠れな
くなることを怖れたオレは、いつもより酔うため一晩で焼酎のボトルを2本空けていた。
音がした。
玄関のチャイムでもなく部屋の扉でもなく、窓ガラスがコツコツと鈍く鳴った。
窓に近づいてカーテンを開け、目を細めた。
ミミミがいた。
首には毛皮が巻かれていたが、口に手をあて寒そうにしていた。
オレと目が合うと、小さく左手を振って顔をほころばせた。





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最終更新日  2003.02.23 21:41:38
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