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一日に平均すると12人程の人間が、交通事故で亡くなるらしい。そう。彼もそうして死んでいった。スピード違反の車が、パトカーに追いかけられて逃走。その末信号無視をして横断歩道に突っ込み、その事故で三人が怪我を負い、一人が死亡した。その一人が彼だった。たまたま横断歩道を渡っていた児女をかばい、死亡。はあっと吐き出したため息は、夜の空に白くけぶって消えてゆく。なくなってしまった。彼が死んだ痕跡は跡片も無く片付けられて、彼が通っていた教室の机も、最初は花が飾られてあったのに何時の間にかなくなっていてなんにもなくなってしまった。16年も生きていたはずの彼の痕跡が、たった数カ月で何一つなくなってしまった。「なあ………、俺は」どうしたらいい?震える声がそう吐き出した時ざわりと風が不自然に舞い上がった。目の前にあるのは桜の花びら。今は冬で、この近くに桜の木なんて無くてああ、でも彼が好きだった花だ。なんて思った。「そこに、いるのか?」ふわりふわり舞う不自然な花びらは、しかし決して応えてはくれない。「ッ、いるんだろ!? そこに!!」思わず追いかけた。必死に足を動かして、桜を追う。花びらは、俺が追いつけるようにゆらゆらと揺れながらけれど止まることは許さないスピードで進んでいく。建物の中に入っても、桜の花びらはありもしない風にひらひらと舞っていた。階段をのぼって、のぼって、のぼって屋上に出た。彼と最後に語らった、彼のお気に入りの場所。天気の良い日は日向ぼっこをして、俺はいっつもここで学校をさぼっていた。そして授業を終えた彼がきて、俺を見つけて呆れたように笑うんだ。屋上のふちに、桜がふわふわと浮いていた。ゆっくりとそちらに向かう。「なんだよ。数か月も経ってから現れやがって、何を伝えたいんだ?」なあ、言いながら伸ばした手が桜の花びらに触れる。瞬間ひと際強い風が俺の背を押した。古ぼけたフェンスが、俺の重みに耐えきれずに嫌な音をたてて外れる。あとはもう、どうしようもない。落ちていく俺の周りを、桜の花びらがひらりひらりと舞う。「なんだよ。寂しかったんだな。……ったく、素直じゃねーの」俺は笑って、指先だけを伸ばして花びらに触れた。彼のひんやりと冷たい肌を、思い出すようだった。昨晩未明、男子高校生一名が立ち入り禁止のビルへ侵入し、屋上から落ちて死亡するという事件が発生しました。警察は、自殺によるものであると考えて捜査を進めている模様。男子高校生は、三ヶ月前トラックの暴走事故で死亡した少年と同じ高校に通っており、仲も良かったと………ブツッ………………………………………………………………心配すんなよ。お前の元に行くくらい、お安い御用だ。俺だって、寂しかったよ。
February 26, 2013
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目が覚めてから、私は今日やるべきことを頭の中で反芻した。書類を出しに行って、図書館に本を返しに行ってそう、あと夕飯を作ろう。やるべきことの順序を決めて、着替えを済ませると外へと出た。ここ最近使われることが増えた自転車をこぎながら、まずは図書館へと向かう。空は晴天、けれど風は冷たく、自転車で移動すると耳がじんじんと痛くなってくる。また返しに来なくてはならないことを考えると、今日は本を借りる気にはなれず、返却ポストに数冊の絵本を押し込んで再び自転車にまたがった。さあ、書類だ。いそいそと目的の場所に向かい、軽い挨拶を済ませ書類を手渡す。やっと終わったと肩の力を抜きながら、再び私は自転車を走らせた。最近できたパン屋の前を通り過ぎれば焼き立ての小麦の香りが鼻孔をくすぐる。そんな時、ふと目に入ったのは「あいすくりーむ工房」の文字が踊る看板。さあどうしようかと束の間考えて、けれどたまには良いかなんて自分に甘い私が自転車を止めた。丁度同じように店内に入っていく女性二人を尻目に、私もいそいそと中へ入る。店内は静かで、女性客と私しかいない。フレーバーの並ぶボックスを覗きこみ、少し考えた後レジに向かう。そう種類が多くなければ、決めるのは早い。カウンターで目当てのものを注文してお金を渡す。「コーンでよろしいですか?」という店員の問いに「カップで」と返した。さくさくのワッフルコーンなら好きだが、それ以外のものならアイスの味だけで楽しみたい。少しして出てきたのは、カップに入ったイチゴミルクとブルーベリーのジェラート。それを受け取って、店内をぐるりと見渡した後外へ出る。少し寒そうだけれど、日向ぼっこでもしながら食べたい気分だった。真っ青な空とぽかぽかした日差しに目を細めながら、私は木でできた古っぽいイスに腰掛ける。時折ひゅうっと吹きぬけていく風が冬の寂しさを匂わせて、なのに振り注いでくる日差しはうららかで春を感じさせる暖かさだった。ゆったりと微睡みながら、ジェラートを口に運ぶ。冷たい甘みが口いっぱいに広がって、思わず笑みを浮かべた。ここの店は、隣に牧場がある。ちょいと覗けば牛の姿を見ることだってできるのだ。そんな新鮮なミルクを使ったここのアイスは、勿論美味しい。滅多に入ることはないが、たまにはこうしてのんびりするのも悪くないなんて思いながら、空になったカップをゴミ箱に入れて私は再び自転車にまたがった。さあ、次は買い物だ。と、気合いを入れて近くのスーパへ行く。日向に自転車を止めて、中に入れば真っ赤な苺が真っ先に目に入った。誘惑にかられながらも、カゴを持ってその横を通り過ぎる。作るものはもう決まっている。昨日小説の中で食べているシーンを見かけて、思わず食べたくなってしまったピザだ。パプリカを手に取って慎重に吟味しながら、形のよさそうなものをカゴへと投げる。あとはスイートバジルとイタリアンパセリ。やっぱりこれは生のものがいいな。なんて考えながら次々とカゴに入れていく。そして真っ赤なトマト。次に乳製品のコーナーに向かって、モッツァレラチーズを手に取る。いくつかあるうちの二種類を目にとめる。モッツァレラは、まんまるのあの状態が好きだ。けれどピザ用の薄いものも売っているし、どうしようかなんて考えて、結局、二つともカゴに放り込んだ。仕方ない、ひとつはカプレーゼにしよう。そんな風に考えて、会計を済ます。家に帰って早速生地を作りにかかった。パリパリのクリスピーも嫌いじゃないけど、今日はもっちりした生地がいい。強力粉と薄力粉、牛乳とドライイーストを混ぜて丹念に練って、しばらく置く。発酵させている間に、今度は近くの酒屋さんへ向かった。ピザはイタリアンだから、やっぱり赤ワインが一番合いそうだ。けれど甘めのカクテルなんかも飲みたい気分で、リキュールを取り扱っているか不安に思いながらも酒屋さんへと向かう。少し小洒落た趣ながらも、落ち着きのある酒屋。看板には大辛口純米や大吟醸の文字。良いものが揃えられているが、滅多に敷居をまたぐことはない店だった。お目当てのものは、『ディサローノ アマレット』というリキュール。有名どころだと、ゴットファザーなんかのカクテルに使われているものだ。私が飲みたいのは、イタリアン・アイスティーやコットンフラワーなんかだが。とにかく、目当てのものは入り口をすぐ入ったところにあった。大分古いもののようで、少しほこり被っている。店員のおばさんに声をかけると「ああ、それねぇ。古いから、いくらだか分からないの。お父さん帰ってくる頃に、また来てくれないかしら」困ったようにそう返された。それなら仕方無いと、再び家へとって返す。今度はソース作りだ。作るソースは二種類。一つはマヨネーズと醤油と七味を混ぜたもの。もう一つはトマトソース。オリーブ油とニンニクを鍋で温め、香りが立ってきた所にみじん切りにした玉ねぎを投入する。白ワインやホールトマト等も入れて丹念に混ぜ合わせ、味付けの確認をして、火からおろす。発酵した生地を薄く伸ばせば、段々とピザの形になってくる。その上に作ったばかりのトマトソースを乗せ、ベーコンと、薄く切ったトマト、モッツァレラチーズを乗せてオーブンに入れる。時計を確認して、再び酒屋へと向かう。戻ってきた店主から、目当てだったリキュールを買って外へ出るとぽっかりとほの暗く蒼い空に浮かぶ月。家につくと、香ばしい香りが部屋に漂っていた。お気に入りのジャズを流して、夕飯の準備を整える。買ってきたばかりのお酒をグラスに注いで今日一日を終わりにする。劇的の無い小説。一日の流れを書いた日記。煩雑な自分史。
February 25, 2013
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