アオイネイロ
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じわりと額に汗が滲んで、普段からこんなに歩いたことのない私の息が切れてきた頃、ようやく新しい街についた。勿論テンもソラも、体力の無い私を気遣ってゆっくりと進んでくれたのだろう。それでも私は初めての慣れない旅にへとへとだった。『まずは宿だな』そんな私の状態を慮ってか、テンがそう言う。「そうだねー。ご飯食べれる宿がいいなぁ」『アホか。いいか、いつも通り一番安い宿をそこらの奴に聞け。最低二人以上には聞けよ』ソラの言葉に、テンが強い口調でそう言いながら、ソラの真後ろに立った。『おい楓。このアホ頼むぞ』振り返ったテンがそんな風に言ってきたのに対し、私は思わず首を傾げた。「テンは一緒じゃないの?」『俺の体躯見てみろ。人里なんか行ったら大騒ぎになるだろ』私の言葉にテンは不機嫌そうにそう返すと、尻尾を一振りしてするりと、ソラの影の中に溶けて消えていった。「っ!?」「あはは。テンも“虚人”だからね、人じゃあないけど。僕等と同じ、妖の力を持つ存在さ」驚いて目を白黒させる私に、ソラは楽しそうに笑ってそう説明する。「ひ、人じゃない“虚人”もいるのね。だから、喋れるの?」「そうだよ。それにテンはとびきり強いからね。僕は大体テンのお世話になっているんだ」テンが聞いたら目を向いて「俺はテメェの世話係じゃねぇっ!」と怒鳴りそうなセリフを、ソラはさらりと口にした。「さ、そろそろ行こうか。かえで」「うんっ」ソラの言葉に、私の心臓は高鳴った。はじめて、生まれた場所以外の村に踏み込むのだ。「じゃあ、まずは宿だね」隣で言ったソラの言葉さえ、殆ど聞えていない程。私は新しい世界に、焦がれていたのだろう。
April 12, 2013
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