やっぱり読書  おいのこぶみ

やっぱり読書 おいのこぶみ

2009年03月29日
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 コンラッド『ロード・ジム』(1900年)だけを読了。日常が忙しい中選択本が間違っていたような、本はハンディだがずしりと複雑な内容だった。

 映画もあるそうだが、海洋冒険譚として映像に変化がありおもしろいのだろう、しかしこころの深淵を探り出すのは小説にかなわないかもしれない。

 時代は19世紀後半、ヨーロッパの国々がアジア進出にしのぎを削っていた時代に高級船員なったジム青年がたどった道(わたしは「ロード」をそういう風に理解して読みはじめたのだが、「ロード」はジム「卿」とかジム「さま」との尊敬?の意味らしい 笑)

 だが、ジェームスがジムとなって白人社会から隠れて、アジアでさ迷うのがなんで尊敬に値するものか。

 牧師の家に生まれた何人かの子供たちのうち、船員が一人いてもいいかもと家を出された少年は夢見がちだった。英雄的な行動を望み、しかし現実は臆病な自分を発見、なさけなさをかみしめた船員教育時代。

 あろうことか、あるまいか三つ子の魂百までも、ひとり立ちになってで何度目かの航海することになった時、事件が起こってしまった。

 そのおんぼろな船はアジアのある国から800人の信者(イスラム教らしい)を聖地まで乗せる船。船を動かす船長、船員にとって貧しい信者たちは「はこぶ荷物」と意識しているに過ぎない。

 さて、定員過剰であろう老朽船が座礁してしまい、船に穴が開く。いざ!

 ふとっちょのドイツ人船長以下機関士、船員が真っ先に逃げたのである。

 ジムはどうしたか?

 英雄好みだもの800人のあわれな人たちと残る、はず、だった。

 が、逃走のボートに乗っている自分を見つけた。

 船は偶然助かったので800人は無事だった。けれども逃げた船長、船員たちは当然裁判で罪に、しかし服したのはジムひとり。そこだけ英雄的行動。

 船員資格剥奪された後、マーロウという船長職の人に興味関心を持たれ、最後まで身の振り方、生活手段を助けられる。このマーロウが語り手。この人が同情しているんだか揶揄しているんだか。

 臆病なのに英雄好み(とわたしは決め付ける)。過去の罪(乗船客を遺棄した)を振り捨てて生きたいのだ。バレそうになると白人社会から隠れて南洋アジアの現地人社会に逃げ込む。

 スマトラ島らしい「パトサン」という架空の地での英雄的活躍が第二部。

 この小説はなかなか凝った多重構造がわかりにくいが、人間の心の多重性を思うと合っているかな。また「逃げ出すということの苦しみ」がキーワードみたいになっているが、作家がポーランド人、ポーランドという国の不幸が(わたしでも知っている)ひととなり、思想に反映している。解説にはもっと難しいことが書いてある(笑)

 さて第二部で「ジムさま」は英雄となったか?悲恋もありで映像的には美しいのだけれども、あまりにもロマンチック過ぎる行動。

 人間はそんなに「えらく」はないのに自分を飾るものなんだ。ああ、やっぱり自分もそうだなー。

  読み易い口当たりのいい小説ばやりだが、こんな本ももっと読まれたほうがいい。英語で書かれた「20世紀の100冊選」に入っている。

本(講談社文芸文庫)

映画はいつか観たい。



ロード・ジム【字幕】  【17】






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最終更新日  2015年11月01日 20時07分07秒
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