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2013.03.13
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カテゴリ: 読書案内
【藤沢周平/蝉しぐれ】
20130313

◆若き藩士の成長過程を鮮やかに描く

亡くなった母が時代劇の好きな人で、それはもう毎週欠かさず見ていた番組がある。それは、NHKで放送されていたのだが、『三屋清左衛門残日録』という時代劇だ。
とある武家のご隠居さんのつれづれを物語にした番組で、主演を仲代達矢が好演。脇を固める役者さんも錚々たる顔ぶれだったような気がする。
母といっしょになって見ていた私も、時代劇でありながらその枠に囚われず、舅と嫁のささいな気の使い合いやら竹馬の友とのざっくばらんなお喋り、老いたりといえども胸をときめかすご婦人との出会いなど、充分に楽しめる内容だった。
そんな『三屋清左衛門残日録』の原作は、他でもない藤沢周平であり、『蝉しぐれ』の著者でもある。
『蝉しぐれ』は映画化もされているが、個人的には小説の中の世界観の方が、圧倒的に好きだ。
『蝉しぐれ』の何がそんなに魅力的なのか考えてみたところ、時代劇なのに青春小説でもあるところかもしれない。
殺伐とした緊迫感というより、爽やかな友情、淡い恋、若き藩士の成長過程を、それは見事な筆致で鮮やかに描写しているのだ。

物語はこうだ。
海坂藩普請組の城下組屋敷は、三十石以下の軽輩が固まっている。その一角に住む牧文四郎は15歳。隣家の娘・ふくは、まだ12歳。最近、どうもふくがよそよそしいので気になって仕方がない。

仲良し3人組は、昼前は居駒塾で経書を学び、昼過ぎからは石栗道場で剣術の稽古に励む。
3人組の一人、島崎与之助は剣術はからっきしダメだったが、学問に秀で、後に江戸遊学に旅立つ。
また、文四郎が秘かに気にかけていたふくは、後に、江戸屋敷に奉公に上がり、殿様のお手つきとなったのだ。

山場となるのは二箇所ある。
一つは、文四郎の父がやむをえない事情で切腹となるシーン。文四郎はその亡骸を荷車に乗せ、炎天下の中したたる汗をものともせず、唇をかみしめて車を曳くのだが、私はもう涙なしには読めなかった。
そしてもう一つの山場が、“ふく”が“お福”となり、藩主の子を授かったことで派閥抗争に巻き込まれるくだりだ。
お福とその赤子の命が狙われるのだが、文四郎が身を挺して二人を守り抜くのだ。
私は、この小説のラストに深い感動を覚えた。
皆が皆、己の道を歩み、精一杯生きている。それは、精進というに相応しい生き様だ。

15歳の若き藩士が父の死を乗り越え、様々な試練と忍耐とつかの間の喜びをかみしめて、やがて大人へと成長する。その過程は、名状しがたい味わいで読者を感動の渦に巻き込むのだ。

『蝉しぐれ』藤沢周平・著

コチラ まで♪
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☆次回(読書案内No.51)は城山三郎の『男子の本懐』を予定しています。


コチラ





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最終更新日  2013.03.13 06:37:06
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