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2014.05.17
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カテゴリ: 読書案内
【吉川英治/新書太閤記 七巻】
20140517

◆敗軍の将をもてなす前田利家父子の情
昨年の夏のことだ。
もう20年以上もの付き合いになるK美さんが実家を離れ、関西に引っ越すこととなった。
40歳を過ぎてからの女性の転職がどれほど過酷なものかは、おおよその想像がつく。
だが、友人としてあたたかく見守ってやるぐらいしか、他に術はなかった。

「一泊させてもらっていい?」
という連絡を受け、私もこれがしばしの別れになるだろうと、快く承諾した。(引っ越し前夜のことである。)
久しぶりに会ったK美さんは、こざっぱりとしたチュニックに、色褪せたジーンズ、旅行カバンとギターケースを抱え、落ち着いた物腰だった。
意外だったのは、耳にピアスを開け、指にファッションリングをつけていることだった。
これまでのK美さんは、そういう外見的な装飾は皆無に等しく、心境の変化どころの騒ぎではなかった。

言葉には出さずとも、そういう意思みたいなものを全身から発散させているのだった。
新たな門出というよりは、まるで背水の陣にかける女の意気込みのようなものを感じた。
「本当に申し訳ないけど、アパートの身元保証人になってもらえない?」
私は小さく頷いて、書類に押印した。
この先、どんな苦難が待ち受けているとも知れない未知の世界で、人知れず年を取っていこうとしているK美さんのために、せめてもの餞だと思ったからだ。
彼女がなぜ安定した仕事を捨て、家族を捨て、たった一人関西に逃れるようにして引っ越すまでに至ったのかは、ここには書かない。
ただ、地元を離れる際に、我が家に一泊し、私の用意したお粗末なそうめんとポテトサラダを、「ああ、おいしい」と言って残さず食べてくれたことが、友情の証のようにも思えた。

『新書太閤記(七)』では、賤ヶ岳において秀吉が柴田勢と決戦。
結果、柴田勝家は自刃して果てる場面が山場となっている。
こうして織田家旧臣筆頭である柴田勝家を滅ぼすことで、秀吉は天下人たらんとする。
涙を誘うのは、“途上一別”のくだりである。

利家は息子の利長ともども、血にまみれた勝家をねんごろにもてなした。
「湯漬を一椀、馳走して賜るまいか」という勝家の望みを快諾し、利家の給仕で、サラサラと湯漬を食べ終えるのだ。
「生涯の馳走、きょうの湯漬に如くものはなかった。」
鬼の柴田と恐れられた人も、今は凄愴の気にまみれていた。
かかるときの人の温情が、これほどまで胸に沁みるものだとは知らなかった。


「城門を出る勝家の影を、夕陽の赤さは特に濃く浮かせてゆく。馬上の供八騎、歩卒十数名という微々たる残軍の列はこうして北ノ庄へ落ちて行った。」

人はそれぞれ事情を抱えて生きている。
無責任な慰めや、むやみやたらな励ましは、反ってあだとなってしまう。
傷ついた友が自分を頼ってやって来た時、一体どうすることがベストなのだろうか?
さしあたり、前田利家は、相手のささやかな望みである一椀の湯漬をご馳走した。
私もシンプルに、そういう優しさを持ちたいと思った。
なかなか難しいことではあるが。

『新書太閤記(七)』吉川英治・著

~ご参考~
・新書太閤記 一巻は コチラ
・新書太閤記 二巻は コチラ
・新書太閤記 三巻は コチラ
・新書太閤記 四巻は コチラ
・新書太閤記 五巻は コチラ
・新書太閤記 六巻は コチラ

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.126)は吉川英治の「新書太閤記 八巻(完結)」を予定しています。


コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から





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最終更新日  2014.05.17 05:54:33
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