それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

それゆけ!派遣社員! ~研究所編~

Jun 20, 2005
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改めてメニューを、見てみると

なかなかおいしそうだった。

しかも安い!


(350円のA定食にしよ~っと。)


私はA定食。

山中さんはC定食に決めた。


食券を買う機械に、350円を入れて、

A定食のボタンを押そうと思った。





(やだ~。故障してるの?)


と思っていたら、後ろから山中さんが

申し訳なさそうに言った。


「350円はね、社員用の値段なんだよ。

 磯野さんは、その他だから700円だよ。」


(えええええっっっ。だって値札に書いてあったのに!!)


小走りでもう一度、A定食のサンプルを見に行くと

 『 社員:350円/その他:700円 』

と書いてあった…。


(げ~っっっ!!ホントだ!!!)


私にとっては、かなりショックだったが



と、さわやかな笑顔をつくり、700円で

A定食の食券を買った。


(に…2倍~!!差別だ~っっ!!!)


さわやかな笑顔の心の中で、

不平不満の言葉が止まらない…。




せいぜい、プラス100円程度だった。


(く~っっ。なんか腹たつ~っっ。)


「磯野さん。」

山中さんの声で、我に帰った。

「あ。はい。」


「ここは、C定食のところだからダメだよ。

 A定食はね、あそこに並ぶんだよ。」


私は、値段のことで頭がいっぱいで

自分でも気付かないうちに

山中さんの後ろにならんでいたのだ。


「あ。わかりました。ありがとうございます。」

再び、私は、さわやかな笑顔をつくった。


この、さわやかな笑顔をつくる…という特技(!?)は、

派遣として働きはじめてから、身についた。


派遣として、社員の中で働いていくのは、意外と大変なのだ。

気に入られないと、すぐに他の派遣社員と変えられてしまう。


ひどいときは、派遣会社そのものを、変えられてしまう。

だから、私はいつも、派遣会社の看板を背負っているつもりで

働いている。


機嫌が悪くても、体調が悪くても、理不尽な仕事を押し付けられても

笑顔で、快く対応する。

それが私のモットーだった。


私は、A定食を受け取り

山中さんと同じテーブルに座った。


見学の時は、中まで入れなかったので

わからなかったが、とても、大きな食堂だった。


それに、窓も大きく、キレイな山も見えた。

「いい眺めでしょう。」

「はい。」


(眺めはいいけどさぁ、2倍だよ。2倍っ!!!)


私は、まだ心の中で不機嫌だった。


「山中さん、ここ、座ってもいいですか?」

私は、その声の持ち主を、見上げた。

そして思わず、椅子から落ちそうになった。


そこには、なんと今朝見かけたおじさんが立っていたのだ。


倒れちゃうんじゃないか…っていうぐらい、

前かがみの姿勢で、ものすごい早足で歩きながら

ぶつぶつ…と言っていた、あのおじさんだ。


(げっ。同じ部の人だったんだぁ…。)


「どうぞ。どうぞ。」

山中さんは、笑顔で勧める。


おじさんは、山中さんが「どうぞ」の、「ど…

を行った時点で、既に私の隣に座っていた…。


「君、名前は?」と、おじさんが聞いてきた。


(自己紹介したでしょーに!!)と思いながら

「磯野と申します。よろしくお願いします。」

と、丁寧にお辞儀をした。


「僕は川村。この研究所は変な人、多いでしょう?」


あまりにも図星な質問に、心臓が飛び出そうだったが

「あ。いえ。まだよくわかりません…。」

と答えた。


そして…


(あなたのことを、1番最初に変だと思いました。)


と、心の中で、答えていた。


そのおじさんは、それ以上何も聞かず、山中さんに

話しかけた。


「山中さん、特許の件なんですけど、*○%×!だけじゃ

 だめですか?」


(ふ~ん。話すときは普通なんだぁ…。)


と、感心しながら、私は、さっさとA定食を食べ始める。


「やっぱり、+☆*@# も入れないと

 難しいかもしれないね。」 と山中さん。


*○%×! や +☆*@# の部分は

専門用語らしく、私にはさっぱり意味がわからなかった。


それから、2人だけの会話が始まった。


「そういえば、○&#*$ なんですけど

 何度か △#‘*□ したんですけど

 上手くいかないですね~。 」


「$%@○△ は、してみたの?」


「はい。それから一応 &%$”@ もしました。」


(つまんな~い。話題が変わらないかなぁ…。)


私が、A定食を食べ終わっても、とうとう

何ひとつ話しかけられることはなかった。


「山中さん、私、お先に失礼します。」

たまりかねて私は、立ち上がった。


「ああ。それじゃぁ。また午後ね。

 1時まで時間があるから、庭でも散歩してきて。」


(ええええええっっっっ!!! 昼休み1時間じゃないの?

 11時20分から休憩したんだから、12時20分から

 仕事じゃないの~?)


と、驚いたが、驚くのにも疲れていたので

そのまま食堂を後にした。


時計を見ると、1時まで、まだ1時間近くもあった。


(仕事もまだわからないのに

 1人で、あの席にいるのもなぁ…)


と思い、とりあえず山中さんの言うとおり

建物の外に出てみた。


確かに、建物の周りは、緑や花が咲いて

とてもキレイだった。

春の風がとても心地よい。


歩いていると、グラウンドやテニスコートがあり

側に、キレイな木のベンチがあった。


私は、自動販売機でコーヒーを買い

そのベンチに座った。


(あんな、つまんない昼食は、初めてだなぁ。)


さっきの食堂での出来事を思い出していた。


45分間、私が話した言葉といえば、

「磯野と申します。よろしくお願いします。」

「あ。いえ。まだよくわかりません…。」

だけだ。


メニューの金額の件、つまらない食事時間

そして、今朝からのいろいろな出来事…


まだ働いてもいないのに、私はなぜか

半日でヘトヘトだった…。


(辞めないで。って先手を打たれたのは

 キツイなぁ…。)


私は、青芝が生えたグラウンドを見つめながら

朝からの出来事を、いろいろ思い出していた…



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Last updated  Jun 21, 2005 11:25:05 PM
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