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2018年04月05日
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1 I. B. Singer―作品にみられる宇宙論的夢想の一特色—A Young Man in Search of Love を中心に— その1    三國隆志

抜粋



既に少年時代に味わった歓喜はない。世界の矛盾に引き裂かれている「私」は、やがて次のような結論に導かれていく。

    God was omnipotent, but He suffered from restlessness _ He was a restless God. At first glance, this seems a contradiction. How can the omnipotence be restless? ”Is anything too hard for the Lord?” How can an all-powerful suffer? The answer is that the contradictions are also a part of God. God is both harmony and disharmony. God contradicts Himself, which is the reason for so many contradictions in the Torah, in man, and in all nature. If God did not contradict Himself, He would be a congealed God, a once-and-for-all perfect being as Spinoza described Him. But God is not finished. His the beginning stage. God is eternally Genesis.
    神は全能であるが、不安に苛まれていた。これは一見矛盾しているように思われる。全能者がどうして苦しむことがあるというのか。答は、矛盾もまた、神の一部ということだ。神は調和であると同時に不調和である。神は自己矛盾を冒す。それが、律法、人間、全ての自然の中にある矛盾の理由なのである。もし神が矛盾を冒さなければ、神はスピノザが述べたような凝結した神となり、れっきとした完全な生き物となるだろう。しかし、神は未完成である。神の最も聖なる属性は、神の創造性であり、その創造性は常に最初の段階にある。神は永久に『創世記』にいるのだ。

 矛盾を神の一部と見做すことによって、またしても二元的対立関係は一元論的構造に解消されていく。ここまできて、I. B. Singerの物語世界を支え、強化しているものは、一種の神秘主義の存在に違いないと思われてくる。具体的に述べるならば、ハシディズムおよびカバラーの影響が作家自身の宇宙論の構造に大きな影響を与えていると考えられる。例えばこの物語で特徴的な事実は、劇的な事件の展開や登場人物の面白さもさりながら、「私」と隠れたる神との関係を巡って青年が絶え間なく思念を展開し続けることであろう。自己との対話は全篇にわたり途切れることがない。この作品にみられる、主人公の様々な経験や省察にかかる比重の大きさは、教養小説の伝統と言うよりは、作家が抱く一種の宗教的確信にその根拠を持っているのではなかろうか。

(二)

   “Father, what does God want?”

“He wants us to serve Him and love Him with all our hearts and souls.”
“How does He deserve this love?” I asked.
Father thought it over a moment.
“Everything man loves was created by the Almighty. Even the heretics love God, If a fruit is good and you love it, then you love the Creator of this fruit since He invested it with all its flavor.”
   「お父さん、神は何を望んでおられるのでしょう?」
   父は立ち止まった。
   「神は私たちが神に仕え、全身全霊をもって神を愛することを望んでおられる。」
   「どうして、神はそのような愛を受ける価値があるのでしょうか?」
   父はしばし思いを巡らしていた。
   「人の愛するものは全て神によって創られたんだ。異端者たちでさえ、自分たちの神を愛する。もし果実が美味で、人がその果実を愛するなら、神がすべての風味を与えて下さったのだから、人はその果実の創造者を愛するのは当然ではないかね?」

 このSingerの父親のような敬虔なラビは当時のポーランドの都会といわず田舎といわず多数いたに違いない。彼らの多くは、ナチの収容所に連行され命を奪われたのである。「私」がステファに語っているように、ラビたちはキリスト教徒たちがただ口で説教していることを二千年間にわたって実践してきた人々なのである。第二次世界大戦の勃発、ナチによるユダヤ人大量虐殺を経た現在、この父子の会話の一節を前にして、我々はしばし言葉を失う。「私」と父親との距離は信仰者と懐疑家の距離である。息子の懐疑主義は父親からみれば弱さであり、父親の敬虔さは息子からみれば自分が決して持ち得ない強さである。だが、息子はその距離のために父親の世界に背を向けるのではない。矛盾に満ちた世界の背後にあるかもしれない神の絶対的統一性の秘密を彼はなおも探し求めているのである。「悪」と「苦しみ」の存在をどのように考えるべきか「私」はラビである父に尋ねる。





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最終更新日  2018年04月05日 00時46分06秒
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