柳 助 、 勘右衛門 村民 を 率 ゐて 桜町 に 到 り、一 邑 再興 の 方法 を 請 ふ。 時 に 天保 三 年 なり。 先生 暇 なきを 以 て 之 を 辞 す。 邑 民 屡 請 ひて 止 まず。 先生 曰 く、 汝 の 邑 衰廃 極 るもの、 独 り 田 水 を 失 ひ、 農事 を 勤 むること 能 はざるのみに 非 ず。 何 ぞ 用水 なくんば 従前 の 田 を 畑 と 為 し、 多 く 雑穀 を 得 て 活計 をなさゞるや。 豈 人命 を 養 ふもの、 独 り 稲梁 耳 ならん。百 穀 皆 生命 を 養 ふもの 也 。 而 して 田 水 乏 しきを 口実 となし、 良田 を 蕪没 に 帰 して 顧 みず、 博奕 を 事 とし、 他 の 財 を 借 り、一 時 の 窮 を 補 はんとす。 是 家々 絶窮 、 遂 に 離散 する 所以 にあらずや。 抑々 博奕 なるもの 富家 と 雖 も 祖先 伝来 の
家 株 傾覆 するに 至 る。 況 や 貧人 にして 此 の 悪業 を 為 す、 其 の 亡滅 迅速 ならざるを 得 ず。 且 田 水 なきを 以 て 良田 を 荒 し、 衣食 なきを 憂 ふ。 夫 れ 田圃 は 衣食 の 本 也 。 其 の 根本 を 棄 てゝ 以 て 他 に 求 む。 猶 井 を 塞 ぎて 水 を 求 るが 如 し。 何 れの 時 か 之 を 得 んや。 農力 勧 み、 糞培 怠 らざる 時 は、 圃 の 有 益 たる 田 に 勝 れり。 何 ぞや 田 は一 作 に 止 まり、 圃 は 両毛作 なればなり。 汝等 農 を 以 て 業 とす、 素 より 畑 の 有益 を 知 らざるには 非 ず。 知 りて 而 して 耕耘 せざるは 他 無 し、 其 の 労苦 を 厭 ひ、 怠惰 を 旨 とし 労 せずして 米 財 を 貪 らんとするが 為 め 也 。