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2022年07月06日
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2022年7月14日(木)

報徳記巻の2

現代語訳「報徳記」巻の2

【3】物井村岸右衛門を導き善に帰せしむ
 物井村に岸右衛門という者があった。少し才知があり、その性は吝嗇(りんしょく)で剛気であった。先生は桜町陣屋に来てから、日夜艱難苦行を尽し、衰村を興し、百姓を安んじようとされたが、これをあざけったりそしったりして、村人を先生の徳に帰せないようにした。自から大言を吐いて三味線をひき謡曲をうたって、再復の仕法に反する行いをなして歳月を送ること七年に及んだ。先生は寛大を主としこれを戒しめられなかったのは、自然に自分の非を知って、自ら後悔する時を待たれたのであろう。
しかし先生の丹誠実業が、月を重ね年を経るに及んでますます厚く、功績は次第に顕われ、良法の良法たる理由が明白になったために、岸右衛門はこう思った。以前小田原からこの地を再復するために出張してきた役人は幾人もいるが、一年を待たないで退いたり、逃げ去ったりした。二宮氏が命令を受けて来ても、必ず前轍を踏むに違いない。たとえどのような仕法を下しても、この地の再興を成就できる方法などあるはずがないと思っていた。ところが七年に及んで、その丹誠はますます厚く、功験は日々に著しい。私がこのように仕法に敵対し、年を経るならば三村の再興は近年にも成り、罪人に陥るのも眼前である。今すぐ前非を謝り、一緒に復興事業に力を尽し、後の繁栄を取ったほうがよいと。そこで人を先生のところにやって、岸右衛門は仕法に感じ入って、力を尽そうと願っております、と言わせた。
先生はその旧悪を咎めることなく喜んでその要請を許した。岸右衛門は陣屋に来て、先生の指揮に随って、丹精を尽しますと言った。先生は仕法の大意、人倫の大道をもって教えられた。岸右衛門は始めて広大の道理を聞いて大変感激し、これから日々村に出て指揮に随い、土功の率先となって、専ら力を尽した。しかし村人は岸右衛門の人となりをいやしんでその言葉を信じない。岸右衛門はとても憤悶した。先生は岸右衛門にこうさとされた。お前が前非を改めて上下のために尽力したとしても、人々がどうしてお前の本心を知ろうか。そもそも人の難しいとするところは私欲を去ることである。お前が私欲を去らなければ、人はこれを信じまい。
岸右衛門は、教えに随って欲を捨てるには何を先にしたらよいでしょうかと尋ねた。
先生は言われた。お前の貯えてきた金銀や器財を出し、貧乏で苦しむ人々を救助する資金としなさい、また田畑をすべて売払ってその代金を救助のために差し出しなさい。私欲を去り私財を譲り、村人のために力を尽す、人としての善行はこれより大きいものはない。人の人たる道は、己れを棄てて人を恵むことより尊いものはない。しかしお前の旧来の所行は、ただ自分を利そうとするだけであった。自分を利して他を顧みないのは、けだものの道である。人と生れて一生鳥獣と行いを等しくすることは、なんと悲むべき至りではないか。今、私の言葉に随って、けだものの行いを去り、人道の至善を行う時は、お前の心は私欲の汚れを去って清浄に帰し、諸民もまたこれを見てその行いに感じいって、お前を信ずることは何の疑いもない、と教えた。

先生は教えられた。お前の心が決することができないわけは、一家を失い、父母や妻子を養う道がなくなるのを憂慮するからではないか。お前がひたむきにこの善道を踏もうとし、一家田畑ともになげうって、非常の行いを立てるに及んで、私がどうしてその飢渇を見て、お前が倒れるのを黙って待っていようか。お前はお前の道があり、私には私の道がある、三村の興廃は私の一身に関することだ。定職を持たず素行の悪い者が自分の行いで一家を失うのでさえ、教え育ててこれを再復し、安らかにしている。そうであるのに今お前が上は殿様のため、下には民のために昔からの家財をなげうって、かわいがり大事に育てる道を行う。このような感心な行いの者を道路に飢えさせれば、私は三村の復興する任務をどうして達成できよう。ただお前の一心が私欲を去ることができず、生涯鳥獣とレベルを同じくして、空しく腐ちていくことを歎くだけであると、愁いに沈んでかわいそうに思う心が顔つきに溢れた。
岸右衛門はこの一言に感じて、意を決して、こう答えた。先生は私を憐んで、教えるに君子の行いをもってされました。恩義の大きいことは譬えようがありません。すぐに教えに随って、この人道を踏みましょうと。直ちに家へ帰って、この道を父母妻子に説いた。家族は大変に驚いて、なす所を知らず、あるいは悲泣した。岸右衛門は疑念が生じて、婦女子を諭すことができず、人を先生のもとにやって告げさせた。
先生は歎じて言われた。これは岸右衛門の一心にあって婦女子にあるのではない。岸右衛門の心が、目前の欲におおわれているだけだ、ああ小人はもともと君子の行いを踏むことはできない、私がこのような者に教えたことは私の過ちである、と大息された。その人は帰って岸右衛門にその旨を告げた。
岸右衛門はむすっとして言った。実に私の心が定らないからであって、家族にはないと。
きっぱりと田畑や器財を売払って、百余両を持って、陣屋に来て言った。不肖の私がどうして百姓をかわいがり大事に育てる大道を行うことができましょう。願わくはこれをあなた様の慈しみあわれむ事業の財産に加え人々をかわいがり大事に育ててくださいと言った。
先生はその志を賞賛して、この要請に応じられた。そこで岸右衛門にこう言われた。お前は今日から力を尽して荒れ地を起こすがよいと命じ、開墾させた。先生もまた人夫使って開発させ、たちまち数町の田を開いて、これを岸右衛門に与えて言われた。
この開田はお前がこれまで保有していた田に勝っている。今年からこの田を耕すがよい。もとの田は五公五民で収穫した米が百俵であれば租税が高く掛って五十俵を出したであろう、この開田は百俵を生ずれば百俵ともにお前のものとなる。七、八年を経なければ貢税を出す必要がない。お前が貢税の田を売払って貧窮の人々を救助し、無税の田を得てこれを耕すならば、一家の生産は以前に倍しよう。これをこれ両全の道というのだと教えられた。
岸右衛門は始めて先生の処置の深遠であること驚いて、大変に喜んで力を尽した。
外には村人の信用を得て、内には富が以前に倍する幸いを得たのは皆先生の良法によるという。

※「岸右衛門は熱心な不二孝の仲間で、文政六年仕法着手の時から度々表彰を受け、年末には年貢一年間免除・領主直書の褒賞も得ている。文政十二年、先生行方不明の際は、有志一三名と共に出府して仕法継続を嘆願した。以後仕法世話係として活躍、天保五年には一代名主格を申し付けられた。」(「補注報徳記」p.84)
【4】凶年に当り先生厚く救荒の道を行ふ

先生がある時、ナスを食べたところその味が常と異っていて、あたかも秋の末のナスのようであった。先生は箸を投げられて言われた。今、時は初夏に当っている、それなのにこのナスが既に秋の末の味をしているのはただごとではない。これを考えるに陽の気が薄く、陰の気が既に盛んである。どうして米が豊熟することができよう。予め非常に備えなければ百姓は飢渇の憂えにかかろう。そこで三村の民に命令して言った。今年は五穀はよく実ることはできない、予め凶荒の備えを行え。一戸ごとに畑一反歩の貢税を免除するから、すぐにヒエを蒔いて飢渇を免れる種とせよ、ゆるがせにしてはならないと。
諸民はこれを聞いて笑った。先生が明知あるといって、どうして予め年の豊凶が知りえよう。戸ごとに一反歩のヒエを作れば、三村では膨大なヒエとなろう。どこにこれを貯えるのか。それにヒエなど昔から貧苦に迫られても、まだ食べたことがない。今これを作ったとしても食べることはあるまい。そうであれば無用のものというべきだ。たとえ人に与えても誰がこれを受けよう。しようもないことを命令するものかなと嘲った。しかし貢税を免除して作らせる。これに背けば必ず命令を用いない咎めがあろうと、やむを得ずすぐにヒエを作り、無益の事をさせるものだと恨みを抱く者があった。しかし盛夏になっても降雨が多く冷気が続き、遂に凶歳となり、関東奥羽の飢民は数えることができないほどだった。この時に当って三村の民はヒエで食の不足を補い、一人の民も飢えに及ぶ者はなかった。始めて先生のすぐれた智恵で予め凶荒を計って、しもじもの民を安らかにさせようとする深意を知って、自分たちの知の浅さを悟り、かつて無益の事とし、命を生かす命令を嘲笑したことを後悔し、大いにその徳を称揚した。
翌年になって、先生は再び命令を下して言われた。「天運には数があり饑饉となること、遅くして五〇年から六〇年、早くて三〇年から四〇年に必ず凶荒がくる。天明の時以来を考えるに、飢饉が来る時期である。去年の凶荒はそれほどひどくはなかった。まだその数に当るに足りない。必ず今一度大飢饉が来ること、近年にあろう。お前たちは謹んでこれ備えよ、今年より三年の間、畑の貢税を免除すること去年のようにするから、家々心を用いて、ヒエを植えて、予め飢渇の憂いを免れるがよい。もし怠る者があれば庄屋はこれを察し、私に告げよと命じた。
三村は去年の予見が明らかなことに驚き、また飢渇の害を免れていたから、謹んで命令に従って、肥料をほどこして作った。このようにして三年で三村のヒエは数千石の備蓄ができた。
天保七年になって、五月から八月まで冷気・雨天が続き、盛夏でも北風の寒さは皮膚を切るようであった。常に着物を重ね着した。この年大飢饉になった。実に天明の大飢饉の年をはるかにこえているところがあった。関八州・奥羽は飢えた人々がおびただしく、飢え死にした人が道路に横たわり、行く人はしめやかに顔をおおって通り過ぎた。この時に当って桜町三村の民だけがこの憂いを免れた。先生は三村を一戸ごとに回って、無難の者、中難の者、極難の者と、三段階に分けて、老少男女を選ばず、一人に雑穀を交えて、五俵ずつとし、その数に満たない者は補ったり、与えて、一戸五人であれば二五俵、十人であれば五十俵、一五人であれば七五俵を備えた。貧者は豊年でもこのように豊かなことはなかった。先生はこう諭された。今年は飢饉のために飢え死にすることを免れない者が幾万人もいる。誠に悲痛のきわみに堪えないところだ。ところがお前達はこのように処置していたために、一人の民も飢渇の憂いがなく、平年と同じようである。これに安んじ、安座して食べる時は、冥罰の程が恐ろしい。お前達は世間の人の飢渇を察し、朝は未明に起きて縄をない、日々田畑に力を尽し、来年の田畑の培養の備えを厚くし、夜はまた縄をない、ムシロを打って、来年十分の作物を得たならば、家ごとにいよいよ永続の根本となり、天災が変じて大きな幸せとなることであろう、必ず怠ってはならないと教えられた。




令和4年5月8日現在
「報徳記を読む」第二集ー報徳は精神改革であるー
全ルビ付原文、現代語訳、参考資料 (2014年11月28日発行)

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最終更新日  2022年07月06日 18時42分38秒


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