うたのおけいこ 短歌の領分

うたのおけいこ 短歌の領分

2021年06月16日
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カテゴリ: シネマ/ドラマ


私はといえば、ここ数年は仕事があまりにも忙しく、課せられた責任も重くなるばかりで、心身共にへとへとの毎日を過ごしております。帰宅すれば、飯食って風呂入ってテレビでも見ながら一杯やってバタンギューの有様で、ブログの方に注ぐエネルギーすらもはやなく、ずいぶんご無沙汰してしまっていますが、本人はまずまず元気で生きてはおります。

いずれリタイアしたあかつきには、思いっきり好きなことをやりまくり書きまくり三昧となるのが、ささやかな夢の今日この頃であります。



〔なお、以下の駄文は酒を飲みながら書いたので、さまざまな表現がやや過剰というか大げさになっておりまして、しらふで読み返すとちょっと気恥ずかしいのですが、・・・まあ、これはこれでいいか~

さて閑話休題、15日に終了したテレビドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系全国ネット・関西テレビ制作)は素晴らしかった。
具体的な内容については、すみませんがめいめいググってみていただきたい。

番組が終わってから書くのも、証文の出し遅れというか間が抜けた話だが、とにかく久しぶりに一筆書きたくなる代物だった。

視聴率的にはかなり苦戦した模様で、一般視聴者の評判は「面白い/つまらない」の真っ二つに分かれているらしいが、私はテレビドラマのひとつの到達地点といってもいい出来だったのではないかと、陰ながら高く評価している。

「つまらない」という感想も、実は全く分からないでもない。現代社会を生きる知的な大人の日常が、緻密な観察眼に支えられたリアリティと絶妙な演技で微苦笑的なコミカルさの中で淡々・延々・黙々と表現されていた。地味といえばやや地味である。連続テレビドラマならではの一種のたっぷりとした時間の余裕もこれに相俟っていた。

芸術・芸能表現においては、高度で本物になればなるほど、ある種の「退屈さ」と紙一重になってくることは、どの分野でも多少齧ってみれば誰にでもわかる事実である。神に近づくことは、宇内の静謐に近づくことだからだ。1300年の伝統を有する短歌・俳句などその好例だろう。表現者は、そうした中で勝負する。鑑賞者もそれに準ずる。

このドラマは、受け手の側の一定の研ぎ澄まされた感性も要求される、驚くべき自由闊達さと完成度の、小さな奇跡だった。

メディアやネット上の見巧者の評価もきわめて高く、我が意を得たりである。
歴史の評価に堪えるということは得てしてこういうことだと思う。
同時代では案外と見過ごされてしまう。

宮沢賢治は、東北・岩手の農学校の無名の一教師として死んだ。ゴッホも、悲惨というべきほどの無名かつ赤貧だった。・・・その他芸術家・文学者の実例、大勢すぎる。
芸能芸術を志す者であれば、無縁仏で野垂れ死にする覚悟がどこかにあるべきだろう。知る人ぞ知る。分かる人は分かってくれる。宝くじは誰かに当たる。

くだんのこの作品は、私の最も好きな作家・保坂和志の作風に近いことは指摘してもいいだろうか。
純文学の目指しているひとつの方向性・目標である、大したこと(いわゆる波乱万丈の「ストーリー」とか)はほとんど何も起こらない日常のリアル感と同時に、限定されたシチュエーションにおける人生の桃源郷ともいえる幸福感が満ち満ちていた。

私ごときがいうのはおこがましいのは重々承知しているが、文学などの鑑賞眼はそれなりにあるつもりである。偉そうにいえば、表現行為に関心がある者はぜひ見ておいた方がいいというレベルの達成だったと思う。

しかも楽しみながら勉強できる。
松たか子演ずるタイトルロールの女性が、きわめて魅力的でキュートなのは言うまでもない。演出・演技の驚くべきナチュラルさは、今や大女優となりつつある彼女の中期代表作のひとつになったと思う。チャーミングでコケティッシュであると同時に、現代社会で働く・戦う女ならではの一種のガサツさ・豪快さ・男前な性急さなども含めて十全に表現された。

・・・が、にもかかわらず、この作品の表現のツボはそこではなかろう。
松たか子は、半ば狂言回しといってもいい存在であり、ツボは「三人の元夫」の振舞いにある。

ゴールデンタイムのテレビドラマとあって、状況設定はやや奇抜でケレン味があるが、それも大したことではなく、この3人の元夫たちの掛け合い漫才的なじゃれ合いこそが作者(脚本家・演出家)の本懐であろう。
いずれ達者な演技派俳優の「間」も見事な芸の奔流が本当に楽しかった。

彼らは、お互いに寛容である。大豆田とわ子という女性への思慕・渇望、女神への崇拝めいた志向を秘めた、一種の盟友である。たまに対立することもあるが、さほど深刻な葛藤には至らない。
かといって、微温的なぬるま湯ともまた違う、真剣で緊張感のある応酬があり、引いた目線で客観的に見るとコミカルでもある。そしてその状況を作中人物(キャラクター)たちは限りある唯一無二の人生の貴重な一部として存分に楽しんでいる。
この楽しさが、見ているわれわれにも伝わってくる。

この雰囲気・表現の境地は、わが駄文では説明できない。野心的な脚本家と演出家によって創造され、生身の俳優によって演じられたドラマ(テキスト)そのものを見てもらうしかない、というほかはない。

フジテレビの午後の再放送枠で、うまくすれば一回ぐらいOAされるような気もするし、いずれDVDも発売されるであろう。

そんなこんなで、見て損はないと思う。





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最終更新日  2021年07月05日 01時49分19秒
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