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「おおお!!痛てててて~~~~~~!!」またもやデブリンバトと呼ばれたトットさんが怒り心頭で駆け寄り飛び乗った足の上。思い鉄球を落とされたような激痛に、今までジョンピーたちを脅していた僧兵の大男は足を抱えてしゃがみ込んだ。そしてあろうことか、怒りくるかと思いきやあっさり土下座してトットさんに家来にしてくれと頼みこむ始末。 話しを聞いてみればこの男、かの有名な武蔵坊弁慶の末裔という。それなのに何だこの意気地なし。彼の言うには、あまりにも有名な祖先のようになりたいと思いつつ、生来の意気地なしのせいで、ちょっとでも痛い事、怖いことがあるとすぐに謝って「家来にしてくれ」と許しを請うのだそうだ。 そもそも弁平(ベンペイ)という名前、あまりにも間抜けではないか? 「この人、さっきの勢いどうしちゃったの?」今までデブリンバトたちを守ろうと必死に立ち向かっていたジョンピーも拍子抜けして言った。「ねえ、ねえ、弁慶ってあの牛若丸と五条の大橋で戦ったていうあの弁慶だよね?」三猫の末っ子連は目を丸くした。「そうあの義経に従って、生涯を伴にしたあの弁慶だ。」次男坊の千代坊も頷いた。「おいおい、ご先祖様は英雄でもこの弁平はお世辞にも勇敢とは言えないぞ。」長男格の雷は二人をたしなめた。 その時、毎度お邪魔虫の益比仙人が突然こんなことを言い出した。「義経か?弁慶か?わしは会うたぞ。鎌倉に入る前の山の中じゃった。聞くところによる、兄貴の頼朝に足止めを食らわされて鎌倉に入れてもらえんそうじゃった。そう言えばカミさんのしずかさん、別嬪さんじゃったのお。」 まったくこの仙人は、ほんとに仙人なんだろうか?八百年生きて来たそうだから、義経たちに会っていても不思議はないけど。 これはみんなの共通した感想だった。 その時、五条の大橋の下から陽気な歓声が聞こえて来た。橋の上から見下ろすと、いつのまにかデブリンバトたちが川で水浴びして大はしゃぎ。まったくこのデブリンバトってやつらは、いつも呑気で、無邪気で、能天気なんだから。 だがこのデブリンバトを早く短気で爆発しそうなタンキ―の元に連れて行き、短気を中和しないと、タンキ―は爆発して日本中、世界中が大変なことになってしまう。 だがトットさんと三猫の一行、すでにタンキ―のげっぷを吸いこんで尾張のおおうつけ、甲斐の猛将、足利将軍の家臣、遠くは中国の三本の矢を握る三兄弟と、既に戦国への歯車が回り始めているのをまだ知らない。 急げトットさんたち!!
2023.04.23
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100年近くに及ぶ血で血を洗う下克上の戦乱の世が、デブリンバトのげっぷが原因だとは歴史学者もびっくりの真実が明らかになったころ、我らがトットさんと三猫たちと事の発端である困った仙人の益比仙人は、ジョンピーとの待ち合わせの場所である京の五条の橋のたもとまでやって来た。 京の五条の橋の上と言えば、安土桃山時代から遡ること400年前に弁慶が後の義経となる牛若丸と戦ったところだ。今はもうそんなことがあったなど想像もできないほど平和な光景・・・・でもない。 「あっ!!あれは何だ?」 一行の行く手の橋のまん真ん中に巨体になぎなたを構えた僧が仁王立ちで立っているではないか。 「んっ!!あれはもしや?」 その僧の向こうの足元に黒い塊が蠢いていた。そしてその先頭には懐かしきジョンピーの姿が!! 「お前達!ここを通りたかったら食い物を置いて行け。」その僧はわめきたてている。僧には似つかわしくない不逞の輩だ。 「そんなもの持っていません!」ジョンピーは気丈に言い返した。「じゃそこのまるまると太ったハトみたいなやつらを置いて行け!」僧はデブリンバトたちを指さして怒鳴った。「このデブリンバトを早くタンキ―の所に連れて行かないと日本順が大変なことになるんだ。あんたにあげるわけにはいかない。」ジョンピーは一歩も引かずに言い返した。 「おお、ジョンピーそうした?」そこにやって来たトットさんが声を掛けてきた。その声を聞いたそうはくるりと振り向いて驚きの声を発した。「おお!こっちにもデブリンバトとやらがいるではないか?」それを聞いたトットさんはいつもの様に怒りまくった。「なに~~!!俺はデブリンバトじゃねえ!ドバトのトットさんだ。」トットさんは自分をデブリンバトと呼ばれると、今やプッツンと切れてしまう。彼はその僧にずんずん近づくと全体重をかけて足の上に飛び乗った。 「うおー!あ痛いたたたた!」大男の僧は意気地なくその場にしゃがみ込んで、トットさんに踏まれた足を抱え込んだ。「俺をデブリンバトというからだ。」トットさんは巨体を揺らして、怒った勢いで思いもよらない素早さで僧に駆け上りピョンピョン飛び跳ねた。重たいトットさんが何度も何度も上から飛びかかるものだから、さすがの暴れん坊の僧も降参した。それはそうだろう、あの重さじゃ痛いに決まっている。「ん?何?マスP何か言ったか?」「いえ、べ別に何も。」マスPもトットさんのデブデブ攻撃を恐れて黙り込んだ。 「申し訳ござらぬ。あなた様には負けました。どうぞお名前をお聞かせください。」あなた様と呼ばれたトットさんは上機嫌で言った。「我こそはトットさんなり~」「どうぞあなた様の家来にしてくださりませ~。」 なんか話がおかしなことになりそうな予感。
2023.03.04
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尾張の国の大うつけと鼻つまみの若者が、深呼吸をしたとき吸い込んだ苦いような熱いような空気を吸い込んだ途端、彼の目つきが急に険しくなったそのころ、 げ~っぷげ~っぷげ~っぷ とデブリンバトの能天気を吸い取ることによって、自らの体に宿る怒りや悪意を中和していたタンキ―は、今やカナイドを飛び出しデブリンバトの能天気を得ることが出来ず、体に充満したその気を立て続けに吐き続けていた。 げっぷは空を漂い、今度は今の静岡県辺りにやって来た。 「そーれっ、それそれ、ほいほいほーい!!あーっ、愉快じゃ愉快じゃ。」武士でありながら、和歌や蹴鞠に興ずる貴族趣味の男は、どっかと屋敷の縁に腰を下ろして、眩しい太陽を見上げて大きく息を吸い込んだ。 「うんっ?」その途彼は顔をしかめた。 その途端急に彼はわめき始めた。「予は京へ行くぞ。上洛して天子様にお目通りして天下を我が手におさめるのじゃ。兵を集めよ、戦の支度じゃあ!!」 「この馬鹿者が!!折角手に入れた城をやすやす返してしまうとは。」富士の麓に領国を持ち清和源氏の流れを持つ当主の男は先ほどから長男を怒鳴りつけていた。その息子、何をしたかというと、 城攻めにてこずった挙句、兵を一旦引いたのだが、この息子だけが数人の手下とともに引き返して、安心して敵兵たちが我が家に引き上げた後の城を乗っ取ってしまったのだ。しかし、彼は自分の考えが正しかった満足して早々と城を捨てて父の父のもとへと駆け戻ったのだ。父の剣幕に首を垂れながら、畳に額を押し付けニヤニヤ笑っていた。その時、「うんっ?」その時吸い込んだ苦い空気がもとでやがて彼は、父を同盟国に追放してしまい自ら当主となり、当時最強と言われた軍隊を率いることになった。 「うんっ?」「うんっ?」「うんっ?」 新潟の毘沙門天の化身と言われた若き領主も、急に京を目指して世を治めると言い始めた。 その京でも将軍に従うある国の大名が、突如将軍を暗殺してしまった。 タンキ―のげっぷはさらに遠く西国までやって来た。そこである大大名が三人の息子に一人ずつ一本の矢をそれぞれ折らせた。息子たちはいともたやすく折ったが、三本の矢ともなると四苦八苦し始めた。 「うんっ?」 その老齢の父親は顔をしかめながら息子たちに告げた。「三本の矢は一人では折ることが出来ないが、そなたたちが力を合わせれば折ることもできる。力を合わせて九州を一統し、畿内を攻め、坂東を落とし、奥州へ兵を進め日ノ本を手中に収めるのじゃ!」
2023.02.19
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山中で山賊に襲われている喜利に出会った三猫とトットさんたちが昔ばなしに話を咲かせているころデブリンバトのノンキーは困り果てていた。 「うんしょ、うんしょ、うんしょ」いつも呑気で楽天的なデブリンバトにしては真剣な顔でノンキーは叫んでいた。デブリンバトのストレスの発散相手となっていたタンキ―がカナイド村を飛び出してはるばる甲府界隈までやってきたのだが、ストレスを受けることで自分のストレスを発散していたため、ストレスが体にため込むことになってしまい、どんどん膨れて今や小山のような大きさまで膨れ上がってしまったのだ。ノンキーはそのタンキ―の腹の上でピョンピョン跳ねながら、トットさんたちがデブリンバトたちを播磨の国から連れてきてくれるのをひたすら待っていた、、、、、 が・・・・・・? 「ううーん、ううーん」タンキ―は今や爆発寸前。もしこんなにストレスをため込んだタンキ―が耐えきれず爆発したら体中のストレスが日本中にばらまかれて、国中に騒乱が巻き起こり恐ろしい世界になってしまうかも知れないのだ。「ううーん、ううーん」タンキ―はうめいた。「タンキ―、タンキ―、ダメだダメ~。」ノンキーの必死の叫びに、タンキ―も必死に応えていたがついに我慢しきれず遂に「ゲフー・・・」。大きなげっぷをしてしまった。ストレスのたくさん詰まったタンキ―のげっぷだ。そのげっぷは森を抜け、空にたなびき、山を飛び越え国を横切り、ある国にやって来た。 「また来とるで。ほんま困った奴じゃに~。やっぱり噂通りの大うつけだがや。」百姓たちは眉をひそめてその少年を横目で睨みながら野良仕事に励んでいた。「若―っ!若―っ!一大事でござるすぐに城へお戻りくださりませー!!」 若と呼ばれるその少年は振り向いた。尻をからあげ、巾着から取り出した干し柿をかじりながら、頭のてっぺんに突っ立ったまげの先で綿毛のようにゆらゆら毛髪が揺れている。少年はうつけと言われて割には朗らかな顔で、清々し目をしていた。「おお、爺。どうした?なにかあったのか?」爺と呼ばれたその侍は、彼の後見人なのだろう。「殿、殿、殿がお倒れになりました。」その言葉を聞き少年の表情は一変した。「よし分かった。すぐに戻る。」 少年は城までの二里半を走り通すためス~ッと大きく深呼吸をした。 そのとき、何かおかしな匂いの空気が体に流れ込んで来た。少年は「うん?」と顔をしかめた。気持ちの悪いモヤモヤが体中に湧き起こり、心の臓が鷲づかみされたような息苦しさを感じて、うかつにも涙が目に滲みそうになった。彼は喘ぎながらうつむいた。 しばらくして彼は顔を上げた。 その時の彼の目には今までの暖かいやさしい光はなく、どこか冷酷な激しい閃光が閃いていた。
2023.01.22
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山賊たちはひとりの猫族の女性にじわじわと詰め寄った。彼女は徐々に後ずさりながらふと気づくと後ろは断崖が迫っているのに気付いた。「キャー!」その時石に躓いて転び危うく崖から転落するところだった。彼女は正に崖っぷちに身を横たえた。山賊はその様子を見てにたりと舌なめずりした。迫りくる山賊を彼女は見上げ、その途端再び叫んだ。「キャー!」山賊たちの頭上に何か黒く大きなものが落下してくるのが見えたからだ。彼女の視線に気づいて山賊もふと上を見上げた。が、既に遅かった。その何か黒いものは見る見る大きくなり、今まさに山賊たちに悲劇を振り落とそうとしていた。「キャー!」その黒いものは大きな木で、なぜか悲鳴と共に山賊たちの上にド、ド、ドサッ!!お分かりと思うがそれは雷が山賊たちがひとりの女性に詰め寄っているのをよく見よう崖に突き出した木に身を預けた拍子に根元からぽっきり折れて落下した古木だった。木は山賊たちを押し倒し、雷は木をそして更に山賊をクッションに無傷で着地することが出来た。猫族の女性は今起きたことに仰天しながらも、木と共に落ちてきた同じく猫族の男性の方へ駆け寄った。雷は木の茂みの中に埋もれていたが、それを這い上がり這い上がり、差し伸べられた彼女の手をつかんでようやく陽の当たる場所までたどり着いた。二人はようやく顔を合わせた途端、「キャー!」ではなく「あーっ!!」と叫んだ。 「雷!」「喜利姐さん!」 「喜利姐さん、どうしてここに?」「私は薬草を採りにここまで来たの。息子がお腹壊しちゃって。」「喜利姐さんお母さんになったんだ。」「ええ。でもあなたこそ何でこんなところに?しかも空から降って来るなんて?」雷は今まで経緯を紀利に話して聞かせた。 八犬士の犬塚信乃が山賊に捕まったとき、脱出させたのが父五里喜利であり、その手助けをして喜利の姉の蘭のもとに案内したのが雷だった。 その山賊の親分である猪の屯蔵は捕り方の志茂玲央に捕まったが、その残党たちが残っており偶然この山中で喜利を見つけて詰め寄っているところだったのだ。 「おーい、雷―っ、大丈夫か~?」上からトットさんの声が聞こえてきた。「ああ、大丈夫。この木で助かったよ。その下の山賊のお陰もあるしね。」上を見上げて雷は叫んだ。 その頃山賊の頭屯蔵は美味い食事に舌鼓を打ち満足そうに寝転んだ。「う、う、うめ~!!こんなんなら早く取っ捕まっていればよかったなあ。」屯蔵は幸せに暮らしていた。もうすぐ南蛮人がクリスマスと呼ぶ夜に牡丹鍋の材料になるとも知らず。
2022.12.24
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「ああ、そっち行っちゃだめだよ!ああ、そこでなにしてるの?」ジョンピーはさっきから叫び続けていた。超わがままな幼稚園児をひとりで引率する新米保育士のように途方にくれていた。カナイド村からタンキーが癇癪で膨張し続ける嘆きの森まで、30羽のデブリンバトを連れて行かねばならないと思うと気を失いそうになるのだった。だがもしタンキーが爆発して日本の国の隅々まで癇癪を撒き散らしてしまったら日本の国は大混乱になってしまうだろう。それを思うと鳥肌が立ってしまいそうだった。あっ!元々ジョンピーは鳩なので鳥肌は当たり前だ。トットさんたちとは京の五條で落ち合う予定だが、今すぐにでも助けに来て欲しいと思わずにはいられなかった。一方トットさんと三猫と頼りない仙人の益比は約束の地京を目指して険しい山道を進んでいた。デブリンバトのノンキーは少しでもタンキーの癇癪を治めようと、ひとり残って懸命の癇癪中和に励んでいた。「ジョンピー、デブリンバトをひとりで誘導するのはさぞかし大変だろうなあ?なにせデブリンバトのやつらは超気ままで能天気なやつらだからなあ。」そう言ってトットさんは東の空を見つめた。「トットさんと同じなんだ。」連のつぶやきにトットさんはじっと睨んだ。その時・・・「キャー!!!」女性の悲鳴が静かな谷あいにこだました。「俺みてくるよ。」雷はそう言って、すぐさま声のした方向に走り出した。雷が駆けつけた崖の上から下を覗くと、山賊たちがひとりの猫族の女性を取り囲んでいるようだった。もっとよく見ようと近くにあった木の枝に体を預けて乗り出した瞬間、その木は根本からポッキリと折れた。「キャー!!!」今度は雷の悲鳴が谷間にこだました。雷の運命やいかに?
2022.12.10
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「おやジョンピー君、また戻って来たのかね?」カナイド村は播磨の国の六甲山の奥にある。この村は時空がねじれていて様々な動物が融合して、異様な姿をしている。村長のグレゴリーさんは4本の腕を腰に当て、カブトムシのような角をもった狸顔でこやかに微笑みかけた。「ああ、村長さん。そうなんです。でも大変なことが起きようとしているんです。」「ほほ~、それは大変なことだわい。」村長はさっそく頷いた。「あの僕、まだ何も言っていませんが・・・・?」「おお~、そうじゃったな。それは大変。」分かっているのかそうでないのか皆目分からない村長の返事に戸惑いながら、ジョンピーはことの事情を詳しく話した。「なにそういう事か?なぜそれを早く言わん?」まったくこの村長、どことなく仙人の益比に似ているとジョンピーは思った。その時、京都に向かう益比仙人は大きなくしゃみをした。 「デブリンバトの諸君喜んでもらいたい。君らの負の遺伝子の塊タンキ―君が見つかったぞ。」それまで無邪気にはしゃいでいたデブリンバトはきょとんと村長をみやると、「それは良かった」と言ってまた無邪気に戯れだした。ほんとにデブリンバトは何を考えているのやら?いやきっと何も考えていないのだ。デブリンバトは太っちょポッポのトットさんそっくりのブヨブヨのデブなのだ。その時、京都に向かうトットさんは大きなくしゃみをした。 実は地球から30万光年離れたビリノン星が生息地なのだが、平安時代にこのカナイド村にやって来た超ミニブラックホールが引き起こした時空のゆがみで、そこに住む動物たちが融合した。ネズミとヘビが融合してツチノコに、カラスとサルが融合してからす天狗に、カメとカエルが合体してカッパが生まれたのだ。その時できた地球とビリノン星を結ぶ超ミニワームホールを通ってデブリンバトがカナイドにやって来たのだ。 「デブリンバトの皆さん。今タンキ―君は短気が体に充満して巨大化して、三ヶ月後には爆発して、日本全国に短気をまき散らしてしまうんです。そしたら日本の国は人々はみんな喧嘩を始めてしまうでしょう。お願いです皆さんの力を貸してください。」ジョンピーの言葉にデブリンバトたちは一瞬きょとんとしながらすぐにまた遊びだした。「今ノンキー君が必死にタンキ―君の短気を鎮めてくれています。皆さんの力が必要です。」ジョンピーはなおも粘り強く必死に頼んだ。デブリンバトの一人が声を掛けた。「ノンキーか?あいつタンキ―の友達だからな。タンキ―のところに行って何か楽しいことあるのか?」生来真面目一筋のジョンピーは言葉に窮して一瞬たじろいだが、やけくそで口から出まかせでこう言った。「そりゃもうここの100倍以上!!」100倍の言葉にデブリンバトは動きを止めてジョンピーを見つめた。「ここの100倍?100倍だって!?」ある者が叫んだ。「100倍、100倍、100倍」みんな口々にそう言って、ひっくり返るわ、転げまわるわ、羽を羽ばたかせるわで大騒ぎを始めた。でも中には「100倍ってなんだ?」とまたわけの分からないことをいう者もいたが、些細なことなど気にしないデブリンバト小躍りし始めた。 こうしてカナイドから甲府の国のなげきの森に向かうデブリンバトの大移動が始まった。
2022.11.19
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甲府街道沿いにあるなげきの森という薄気味悪い森に嘆鬼という妖怪が出ると聞き寄ってみることにした三猫と渋々くっついて行ったトットさんは、森の中の古木で休んでいると噂に聞く『ううん、ムムム、たんきー、カナイド、帰る~。』といううめき声と共に近くの小山がもぞもぞ動くのに出くわした。 出たー!!妖怪だあ!!!! トットさんは慌てて飛び退いたが、いつも冷静なジョンピーは空に舞い上がえり正体を探った。いつも頼りにならないトットさんと、いつも明晰なジョンピー。同じハトでもこんなに違うものかとマスPは呆れた。「なんかとっても大きな、そう鯨みたいな体だよ。真っ黒で。」ジョンピーは上空から嘆鬼を見下ろし叫んだ。「そもそも『カナイド』って言っているから、これはきっとタンキ―だよ。」「それにしてもでかいぞ。ノンキーと比べてみろよ。」雷の言葉に千代坊は反論した。「これはきっとあれだ。」ノンキ―の言葉に一同の視線は彼に注がれた。ノンキ―はいつもの呑気なノンキーらしくない口調で続けた。「これはタンキ―だ。デブリンバトにない短気な気持ちを寄せ集めて生まれたデブリンバトはその短気さを周りのデブリンバトに発散することで正常を保ているんだ。だけどカナイドを出たタンキ―は短気を発散できず体の中に溜めてしまったんだ。普通のデブリンバトもタンキ―の短気をぶつけられることで正常に保てているんだ。トットさんが僕に怒鳴り散らすみたいな感じさ。」「お、お、俺はデブリンバトじゃ・・・・」急に話を振られたトットさんは短気をぶちまけようとしたが、辛うじて抑えた。今爆発すれば彼自身デブリンバトのタンキ―族になってしまうからだ。「じゃあ、タンキ―はこのままどんどん大きくなってしまうの?更に大きくなったらタンキ―はどうなってしまうの?」連が疑問を口にした。「多分耐えきれなくなって、いつか大爆発してしまうだろう。」「爆発したらどうなるの?」連の疑問にノンキーは恐ろしいことを口にした。「嘆鬼をまき散らしてこの辺りみんなに短気が降り注ぎ、浴びた人たちはきっと喧嘩を始めるだろう。」「この辺りの人?もしタンキ―が山ほど大きくなって爆発したら?」「その時は日本の国全体に降り注ぎ戦が始まるだろうね。」質問していた連はだまりこんでぽつりと言った。「タンキ―はいつまで持つんだろう?」「聞いてみよう。」そう言って雷はノンキーの顔の前に回って尋ねた。「おいタンキ―あとどのくらい持ちそうだ?」タンキ―は苦しそうに答えた。「あと1か月くらいかな?」雷はさらに尋ねた。「君をしぼませるにはどうしたらいいんだ?」「みんなを、みんなを呼んできてくれ。デブリンバトの奴らを。あいつらが短気を吸収してくれる。うううう。」そう言ってタンキ―は苦し気に短気のげっぷを吐いた。それを浴びた雷は急に怒鳴り始め、暴れ出した。「おい雷!しっかりしろ。」千代坊の言葉で我に返った雷は千代坊の顔をぼんやり見つめた。「俺どうした?」雷はその後、暴れまくりどうにか取り押さえられたのだった。もしタンキ―が限りなく大きくなって、大爆発したら日本中に短気がまき散らされたら、日本中で戦が巻き起こってしまうだろう。「なんだかおかしなことになってきたのう。」デブリンバトの呑気が染ったように益比仙人は言ったがみんなの視線に気づいてさすがに黙り込んだ。「こうしちゃいられない。僕さきにカナイドに飛んでデブリンバトをここに来るように説得して来るよ。京都辺りで待ち合わせて、デブリンバトをここに連れて来るのを手伝ってくれればいい。」「よしわかった。ジョンピー頼む。京都の五条大橋で落ち合おう。」「分かった。」トットさんの頼みに、ジョンピーはそう言って再びカナイドへ飛びたって行った。 日本の運命やいかに・・・・
2022.10.30
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「トットさんによく似たデブリンバトを見たという茶屋の爺さんの話では・・・」「ちょっと待てマスP!!トットさんに似たとはなんだ!!デブリンバトはノンキーだぞ!!俺はドバトのトットさんだああ!!」トットさんはビックリマークを二つづつ、四回も続けて怒鳴った。「ああ、そうかあ。最近、トットさんもデブリンバトも区別がつかなくなってえ~。」マスPは言い訳がましく照れ笑いをした。「ノンキーに似たデブリンバトを十日前くらいに見たという話では、ノンキーみたいにブヨブヨだけど遥かに大きく、真っ黒で、どこか具合が悪そうだったということだった。」「タンキ―は確かに黒いけど真っ黒というほどじゃないけどなあ?それに大きさはおいらと同じくらいか、、むしろ小柄なくらいなんだけどなあ。」ノンキ―は呑気に他人事のようにつぶやいた。「いずれにしろ爺さんがこっちの方向に行ったという方向に行ってみるしかないなあ。」そう言って千代坊はため息をついた。一同が甲府街道を北へ向かっていると前から旅人が何やらブツブツ言いながら歩いてきた。「気味が悪いなあ。森の奥から何かウンウン唸る声が聞こえるんだ。」「お前の空耳じゃないのか?」「いや確かに聴いたぞ。」「まああそこはなげきの森と言って「嘆鬼」という妖怪が住んでいるという話だからな。」「そうだなあ。つい十日前くらいから妖怪が棲みついたらしいからな。」「あなたたち、話を詳しく聞かせてくれませんか?」雷が尋ねると年長の男がこんなことを言った。「俺たちがなげきの森と呼ばれる森を通りかかると、森の奥から『ううん、ムムム、たんきー、カナイド、帰る~。』と唸る声が聞こえるんだ。」「間違いない。それはタンキ―だ。」雷は仲間に振り向いて言った。それは疑いようもない同じ気持ちだった。だが、タンキ―がそんな森で、なんで唸っているのか?一同の心に浮かんだ疑問もお同じだった。「とにかく行ってみるしかないな。」トットさんは恐いもの見たさながら渋々言った。「ええ?ここ?なんか暗くて陰気でいやーな雰囲気。」連は森から漂う匂いをクンクン嗅ぎながらつぶやいた。不吉な曇り空の下にそびえる、天狗伝説もあるこの山の麓にその森はあった。森に足を踏み入れた途端、なにか異様な雰囲気が押し寄せて来た。「ううん、なんか土鍋焦玖斎(どなべこげくさい)が住んどる鍋伏山みたいな感じじゃなあ?」益比仙人はつぶやいた。土鍋焦玖斎(どなべこげくさい)は鍋伏山に住む益比の仙人仲間で、三猫たちもその山に住んでいるにも拘わらず、ワライダケと他のキノコとの区別がつかず食べさせられて、一晩中おかしくもないのに笑い転げるというひどい目に遭ったことがある。「ここらでちょっと一休みしないか?」トットさんが手ごろな切り株を見つけて腰掛けて一息ついた。他の者もそれに倣って思い思いの場所に腰を下ろした。しばらくして突然例の唸り声が鳴り響いた。『ううん、ムムム、たんきー、カナイド、帰る~。』そして突然地面が蠢いた。一同は思わず立ち上がり、一か所にかたまって辺りを不安げに見渡した。そのとき、そばの小山がモゾモゾ動いたかと思うともう一度唸った。『ううん、ムムム、たんきー、カナイド、帰る~。』ええええ?これはでかい。こ、こ、これがタンキ―?余りにもでかい!!
2022.10.16
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「お前、なんでこんなところまでやって来たんだ?播磨からじゃとんでもない距離だぞ?」トットさんはデブリンバトのノンキ―に尋ねた。「ううん、分かんない。タンキ―を探してカナイドを出たときに会った人に聞いたらあっちだろうと言ったんでその方向に歩いていたら、ここまで来てこの爺さんに会ったんだ。」「爺さんだと?益比仙人と呼べ!」ノンキ―に爺さんと呼ばれて益比は怒った。どっからどう見ても爺さんだろとマスPは思った。「何?マスPお前だってそうだろ?」益比はマスPにトットさんのように食って掛かった。「こら益比、マスPに絡むのは俺のセリフだぞ!」なんかそんな醜い身内の争いにウンザリしながら雷が割って入った。「もうノンキ―がタンキ―をどうやって見つけるかでしょ?」「で、どうなの?ノンキーさん。」連が訊くとノンキーはいつも呑気なデブリンバトらしく「さあ?」と首を傾げた。「そんなことより俺、腹減ったぞ。何か食いてえ~!!」食いしん坊のトットさんに千代も同意して先の茶屋を指さした。「ちょうどあそこに茶屋が見える、ここらで腹ごしらえしないか?」 駿河の国の峠の茶屋で、満腹になったトットさんはいい気分で一節唸った。「旅ゆけば〜ぁ〜 駿河の〜ぉ 国にぃ〜 茶のかおりぃ〜・・・か?清水と言えば清水の次郎長だよな?」「トットさん、駿河の国は今の清水だけど、東海道の大親分の清水の次郎長は幕末の人だよ。室町幕府のこの時代にいるわけないでしょ?」物知りのジョンピーはそう言ってトットさんをたしなめた。「えっ?そうなの?俺昔の人だからてっきり・・・・」「昔の人なら江戸時代も室町時代もないんだからトットさんは~。」ジョンピーはあきれ顔でトットさんを見つめた。 その時。 「おやお前さんまた来たのかい?」突然茶屋の爺さんがノンキーに向かって言った。「俺かい?おれここに来たことないぞ~?」ノンキ―は呑気に笑いながら呑気に言った。「えっ?お爺さん、ノンキーさんのようなデブリンバトを見たことあるの?」連が気づいて尋ねた。「ああ、そうだ。そういう事か?」雷も気づいて茶屋の爺さんに振り向いた。「ほお、お前さんたちデブリンバトと言うのかい?珍しいんでよく覚えているぞい。十日ばり前じゃったかのお?しかし、デブリンバトとやらが今日は二人も見られるとは。」そう言って爺さんはノンキーからトットさんに目を移した。うまいお茶をすすっていたトットさんは突如自分に視線が向けられてきょとんとしていたが、そのうち烈火のごとく怒り出した。 「何度言ったら分かるんだ!俺はデブリンバトじゃねえ!ドバトのトットさんだ。」 「そんなこと言ったって、この人たちにトットさんは初めてなんだから無理だよ。」 ジョンピーはそう言ってトットさんをなだめた。
2022.09.25
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「ええ?カナイドまで連れてけだと?」トットさんは不満顔で吠えた。ハトのくせに吠えた。「こらマスP!ハトのくせにとはとはなんだ?」とハトのくせにマスPにも吠えた。「まったくお前ってやつは・・・・」「まあいいじゃないか。お主、ここにいても何もすることはないじゃろ?」益比仙人はなだめたが、トットさんの睨みを浴びた。「それはともかくこのデブリンバトはどうして武蔵の国にいるんだ?」雷は不思議そうにデブリンバトを見つめた。「それはね・・・」ノンキ―という名のこのデブリンバトはこんなことを言った。 デブリンバトは将来呑気で、いつも能天気なのだが、時折真逆の短気で怒りっぽいデブリンバトが生まれる。それは普通のデブリンバトから抜け落ちている怒りや、不満といった感情が凝り固まった存在なのだ。ところが、そんな感情の抜け落ちたデブリンバトだけになると、いつしかフニャフニャのふやけた、何も刺激のないただの塊のような状態になってしまうのだ。だからその負の感情の塊のようなデブリンバトが少しずつ子孫を増やして中和して行かないといけなくなるのだ。そのデブリンバトのタンキ―がカナイド村からいなくなってしまったのだ。そこでデブリンバトが話し合って、カナイド村の外へ探しに行くことになった。そうしてノンキ―が選ばれて探しに出かけたのだが、村から出たことのないノンキ―は右も左も、西も東もわからないままさまよって、なんと武蔵の国までやって来てしまったのだった。 「ノンキ―?君どこを探すつもりだったの?」連が訊くと、さあ?と首を傾げるだけだった。「お前、ほんと典型的な呑気なデブリンバトだなあ?」さすがのトットさんも呆れた。「こらマスP!さすがのトットさんとはなんだ!」さすがのマスPもうろたえた。「まったくお前ってやつは・・・・」「でも播磨って兵庫県だろ?そんな遠くまで旅するなんてうんざりだなあ。」ジョンピーのように空を颯爽と飛べないデブのトットさんは眉をしかめた。「こらマスP!・・・・。もういい!!」そんな話をしているとレースバトのスーパースタージョンピーがカナイドから戻って来た。「おお、ジョンピー、カナイド村はどうだった?」トットさんが尋ねると驚くべきことを報告した。 「カナイド村に行ったら僕たちが乗っていた宇宙船があってね、グーとタラさんからメッセージが入っていたんだ。」ジョンピーの話はこうだ。宇宙船がワームホールに入ってまもなく行方がわからなくなった。調べたところビリノン星で消えたワームホールの入り口がそのワームホールの途中に繋がって、どうやらそこに迷い込んでしまったようだという事だった。そこでグーとタラは地球へ二人の無事を確かめに行ったが見つからなかった。グーとタラは600年後の地球を探したのだから見つかるはずもない。だがメッセージにはワームホールへの戻り方も書かれていたので、カナイドに行き宇宙船でワームホールに戻れば600年後の地球に戻ることが出来るはずだ。 「トットさん、こりゃどうしてもノンキ―をカナイドまで送って行くしかないね?」千代坊はニヤニヤしながらトットさんに言った。トットさんは渋い顔をしながらも頷いた。 「じゃ話はきまりじゃ。わしも力になるから。」益比の言葉に今度は三猫が渋い顔をした。
2022.09.17
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「遠い昔、遥かな銀河で・・・」トットさんは雷、連、千代の三猫に今まで宇宙で出会った大冒険を得意げに語った。 「へ~、そう。ジェダイ?ライトセーバー?悪漢ベーダ―?ハイパースペース?ワームホール?」連は熱心に聴いてはいたもののポツリと言った。「全然わかんねえ。」「何!!俺はなあ、宇宙国家で英雄として表彰されたんだぞ!!」結局トットさんはこれを言いたかっただけだった。「遠い昔、間近な地球で、って感じだね。やっと地球に戻って来れたのに六百年前の日本だって。関東管領扇谷とか里見とかが戦っている室町時代の終わりころの時代なんだよね。」ジョンピーは残念そうにつぶやいた。「うう~ん、俺はソーセージが食えると楽しみだったけど、それが一番残念だ。」「トットさんはいつも食べ物の話だね。」ジョンピーはトットさんをあきれ顔で見つめた。 そんな話をしていると、突然藪がゴソゴソざわめいたかと思うと、一人の老人が現れた。老人を見た三猫は思わずあっと叫んだ。「益比仙人!!」 益比仙人、そう三猫珍道中でおなじみのあの困った仙人だ。やることなす事ハチャメチャ、いい加減。「益比仙人。どうして急にこんなところに来たの?」千代は目を丸くして尋ねた。「確か益比仙人は他の仙人さんと、四百年前に自分たちが何の計画を立てたのかこれから百年をかけて思い出すために話し合うとか言っていたよね?」雷は思い出しながら訊いた。益比仙人は頷きながらこんなことを言った。「そう、今も話し合いをしとるよ。まずは議長は誰がやるか、書記は誰がやるかとかを話し合っていたんだが、議長をお前がやるには人の話を聞かなすぎる、書記をお前がやるには字が汚すぎるとか言ってもう半年間話し合っとるよ。」「もう、百年間かけて話し合うとか言っていたけど、仙人さんたちは気が長いねえ?まあ、何百年も生きてきた人たちだから仕方ないのかも知れないけど。で、益比仙人はどうして話し合いに加わらないの?」雷の疑問に益比は答えた。「わしか?わしはなあ、買い出し係兼宴会部長に立候補したからすぐに決まった。だからまずは酒につまみに弁当を買って来ようと出かけて来たのだ。そしたら・・・・」「そしたら?」三猫が声を合わせて言った。「そしたらこいつに出会ったんだ。」そう言って益比が横によけるとなんと、そこにはトットさんがいた。「おい、マスP!俺はここにいるぞ。」トットさんはムッとした顔で怒鳴った。「いや、これはデブリンバトだ。俺が播磨の国で見たと言ったデブのハトだ。なんでデブリンバトがこんなところへ?」雷が聞くと益比は困った顔をして、「わしが買い出しに出るとこいつが道端にいてな、カナイド村はどっちだ?って聞くんじゃが、いくら九百年生きちょるわしもそんなもん知らんわい。だがそのままにできず連れて歩いているとお前さんたちに出ったという訳じゃ。」 「播磨の国でデブリンバトを見たと言ってたけど、カナイド村って言ってる?」千代はそう言って雷を見た。「カナイド村なんて俺だって知らないぞ。」雷は答えた。「俺は知ってるぞ。行ったこともある。」トットさんがそういうと三猫は驚いてトットさんに振り向いた。「おおそうか?じゃあすまんがそこへ案内してもらえんかの?わしも助けになろう。三猫たちも良いな?」急に自分たちもおかしな旅に巻き込まれて、三人は困惑した。トットさんも困り顔だ。「そうなら、僕がひとっ飛びしてカナイドまで行って来るよ。」そう言ってレースバトのスタージョンピーは播磨の国へ飛び立った。「益比仙人は買い出しに出たんでしょ?そんなところまで行っちゃっていいの?」連が訊くと益比は澄ました顔で、「なーに、仙人は霞を食っていればいいのじゃやよ。」と言い続けた、「手伝ってくれたら望みは何でも叶えてやるぞ。」望みは益比こそとっとと消えて欲しいと三猫は思うのだった。
2022.09.05
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トットさんとジョンピーを乗せた宇宙船は静かに扉を閉じると浮き上がり、やがて宇宙に飛び立ち、ハイパースペースルートに飛び込んだ。35万後年先の地球に向けて。と、その時、宇宙船の赤いランプが点滅し。警報が鳴り響いた。「マスピー!今度は俺をどんな目に遭わせるつもりだ!!」悲痛な叫びの末にトットさんはまたもや暗闇の中にいた。しかし、今度は暗闇の中に、2つ、また2つ、少し遅れて2つ、6つの光が現れた。 「おーい千代坊、見ろよこれなんだ?まさかハトじゃないよなあ~?」「おい連馬鹿言うな。こんなデブのハトなんかいるもんか!」「そうだよなあ。ブヨブヨのでかい蹴鞠みたいだなあ。」「おれこんなの見たことがあるぞ。」「えっ?雷兄さんどこで見たんだ?」「俺が播磨国を通ったときだ。そこの奴ら確かデブリンバトって呼んでたな。」その時、いつもの様にトットさんの怒鳴り声が闇に響いた。「何度言ったら分かるんだ~!!俺はデブリンバトじゃねえ。ドバトのトットさんだ。」 トットさんは怒りついでに矢継ぎ早に疑問を投げかけた。「播磨国ってどこだ?東京じゃないのか?母ちゃん何処だ?ソーセージあるか?」「ちょっとトットさん、播磨国って昔の兵庫県の呼び名だよ。」物知り博士のジョンピーはそう言ってトットさんをたしなめた。「昔の名前?何で兵庫県って言わないんだ?こいつらおかしいんじゃないのか?」 喚いている二人を見つめる三対の目はお互いを見つめ合った。この光る目は猫の目だ。 ちょっと待て。三人の猫。名前は雷、連、千代。三人の猫。しかもこの名前どこかで聞いた名前。遠い過去を振り返ると一つの物語が思い浮かぶ。『ニャン騒、シャーとミー八犬伝』に出演した「三猫珍道中」の面々だ。室町時代晩期、つまり六百年前から現代もまだ彼らは旅をしているのか? そんなわけはない!! という事は、ここは正しく六百年前の日本。武蔵の国という事になる。 ということは・・・ 「えーっ!!!」トットさんとジョンピーは叫んだ。「ということは僕たち、ワームホールでハイパースペースジャンプして過去にタイムスリップしちゃったの?」 「マスP、なんてことをしてくれるんだ?どうしてくれる。俺たちを21世紀に戻せ。ソーセージ食わせろ!」またもやトットさんの喚き声が闇夜にこだます。
2022.08.28
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「わあああああ~!!」唸りを上げて飛んでくる光弾をなすすべもなく見つめるしかなく、哀れトットさんは立ちすくみ次の瞬間暗闇に閉ざされた。「んん?ここはどこだ?真っ暗だ。何も見えない。」トットさんは暗闇の中にたたずんでいた。「これが死後の世界ってやつか?俺は死んでしまったのか。もっとソーセージを食べたかった。」死後の世界でもまだなおトットさんは食べ物への執着は人一倍、いや二倍。三倍、やばい状態なのだ・トットさん、最期は何かでもあの人は誰からも愛され、いい人だったとかお世辞にも言われるものだが、なんともかんとも・・・「トットさーん!トットさーん!」誰かの呼ぶ声がする。聞き覚えのあるある声だ。その声は・・・「その声はジョンピー!!ジョンピーじゃないか?お前も死んじまったのか?」トットさんが闇の中に叫ぶとジョンピーは答えた。「トットさん、何言ってんの?目を覚まして!」「目を覚ましてって、俺死んじまっただぞ!」トットさんの言葉にジョンピーは意外なことを言った。「死んじまったって、僕の声聞こえて返事をしているじゃないか!!」「えっ?」トットさんは驚いて目覚めた。眩い光が目に差し込み、周りにはたくさんの人が覗き込んでいた。ジョンピー、マルーク、レイヤン、バン・ソコ、チューバッタ。グーもタラもいる。「ここは天国か?お前らみんな死んだのか?」「まだこんなことを言っているぜ。」そう言ってバン・ソコがトットさんの大きなおなかをポンと叩いた。「ひえ~!!」トットさんは堪らず飛び起きた。「いや~、トットさんお手柄お手柄。」グーが詳しく話してくれた。光弾が飛んで来た時、トットさんは思わず操作パネルのボタンを踏んづけてしまった。それは緊急電源遮断ボタンで、撃ち合いのさなかシールド発生施設は停電になってしまい、シールドは消え、それを機に宇宙国家軍は一斉にデススターデスに総攻撃を開始、悪漢ベーダ―と戦っていたマルークは最後皇帝の手先から発する電光ビームにもだえ苦しんでいるところを、子への愛に目覚めたベーダーが皇帝を反応炉の中に投げ込み救ってくれた。しかしその時ベーダーは皇帝のビームを体に浴びて息絶えてしまった。だが、宇宙国家軍はデススターデスを破壊し、宇宙は救われたのだった。 こうしてトットさんは宇宙国家の平和の最大の功労者として勲章を授けられることになったのだ。 「お、お、俺が功労者?勲章?・・・?」それからトットさんはポツリと言った。「ソーセージじゃなく?」 スターウォーズファンファーレの鳴り響く中トットさんは壇上に上がり、レイヤン姫から勲章を授与され、列席した人々から盛大な拍手を浴びた。 それから一週間して、別れの時が来た。「グー、タラ色々世話になったな。」ビリノン星のワームホールへの入り口が消えてしまい、地球に送ってもら途中、とんだことに巻き込まれてしまったが、今度こそ地球に帰れる。宇宙国家が用意してくれた、特別製の自動操縦宇宙船にジョンピーと二人で乗り込みながら二人と熱い握手をした。トットさんとジョンピーを乗せた宇宙船は静かに扉を閉じると浮き上がり、やがて宇宙に飛び立ち、ハイパースペースルートに飛び込んだ。35万後年先の地球に向けて。と、その時、宇宙船の赤いランプが点滅し。警報が鳴り響いた。「マスピー!今度は俺をどんな目に遭わせるつもりだ!!」悲痛な叫びの末にトットさんはまたもや暗闇の中にいた。しかし、今度は暗闇の中に、2つ、また2つ、少し遅れて2つ、6つの光が現れた。
2022.08.12
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マルークが見つめる皇帝の謁見室の窓の中には、漆黒の真空の中に光が瞬いていた。それは宇宙国家軍の戦艦が反撃もできずただ撃ち落される光だった。マルークは空しく見つめるだけだった。「どうしたマルーク。惑星からシールド守られるデススターデスに、宇宙国家軍どもは手も足も出せず。ただ宇宙の鉄くずととなって行くだけだ。」マルークは唇を噛みながらチラッと皇帝の手元を見た。そこにはマルークのライトセーバーだ。「どうしたマルーク、これが欲しいか?ならば手に取るがよい。そして闇のフォースに身を委ねるのだ。余は丸腰だぞ。」マルークは外の惨劇と自分のライトセーバー交互に見比べる。「地上ではお前の仲間たちは今頃待ち構えている我が兵士たちの手中に落ちているころだ。」マルークは外を見つめていたが、突如身を翻すとフォースでライトセーバーを手元に引き寄せ、皇帝の体に刃を振り下ろしたその瞬間、いち早く悪漢ベーダ―のライトセーバーがそれを受け止めた。二人の緑と赤の光刃に照らされて、皇帝は不気味な笑い顔が浮かび上がった。それから二人の激しい戦いが始まった。打ち込んでは受け、返しては打ち込む。目に留まらない光のぶつかり合いが、激しい火花をまき散らし、部屋の中にこだます。二人の戦いは激しさを増す。 父と子の。 その頃地上では宇宙国家軍と皇帝軍の激しい撃ち合いが繰り広げられていた。ブラスターから放たれる光弾は両者を飛び交い、それは部屋を跳ね返り、壁のあらゆる場所に穴を穿って行った。バン・ソコは次々と相手を倒し、レイヤンも激しく反撃する。チューバッタの強力なボーキャスターが敵の立て籠もる陣を徐々に破壊して行く。 トットさんは・・・ トットさんはただただ逃げ惑う。あっちへこっちへ、右かと思えば左へ。うずくまり、飛び跳ね。コロコロ転がり。「危ないじゃないか。当たったら痛いじゃないか。」トットさんは訳も分からないことを叫びながら逃げ惑う。彼はいったいなぜここにいるのか?ハトの丸焼きにでもなりたいのか?もし丸焼きになっても誰も食べないだろう。脂身のぐにょぐにょの不味い肉など。そんな逃げ惑うトットさんを見てジョンピーが叫んだ。「トットさん、危なーい!!」 「えっ?」 トットさんが振り向いた時、敵の放ったブラスターの光弾がトットさんをめがけて唸りなら飛んで来た。「うわー!!」トットさんは叫び思わずうずくまった。次の瞬間トットさんは暗闇に包まれた。そして突如辺りは静けさに包まれた。 果たして・・・・
2022.08.07
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マルークの暗い気持ちとは裏腹に、漆黒の壁で待受ける不気味なデザインの扉は軽やかに開いた。マルークを従え悪漢ベーダ―は足を踏み入れた。ベーダーと言えど、この部屋に入ることに恐れを感じているようだった。中は暗く、しかし壁に開かれた窓には暗い宇宙空間が広がり、ときより偵察船や輸送船、時にはタイファイターと呼ばれる特有の丸い形状をした戦闘機が行き交う。マルークは窓の傍の薄暗い壁に口元が淡い光で映し出される人影を見つけた。その口元はかすかに不気味に笑っていた。ベーダーはその陰に歩み寄ると膝まづき重々しく首を垂れ告げた。「マルーク・ウシ―ウォーカーを連れて参りました。」影はかすかに頷き、ベーダーの後ろにたたずむマルークに、まるで奴隷にでもするような仕草で手招きした。「ようこそ我がデススターデスへ。ベーダーの息子、我がしもべよ。」 その時、窓から見える宇宙空間に無数の戦艦がハイパースペースから飛び出してくるのが見えた。しかし、その船はそのままそこに留まり、何も動こうとはしなかった。いや動けなかったのだ。デススターデスはまだ惑星エンドから発せられる強力なシールド守られていたからだ。ヱンドアのシールド発生装置はバン・ソコたちが破壊する手はずになっていたが、未だそれはなされていないからだ。 「我が名はダース・シデヤンス。宇宙国家の皇帝を宣言したのだ。宇宙国家のくずどもはこうしてデススターデスの前に身を晒し鉄拳を浴びるのを待ち構えている。この要塞に一閃のビームを浴びせることもなく奴らは宇宙の藻屑となる運命なのだ。この要塞も、そして余がここにいる事を知らしめたのは余自身なのだ。こうするために。」すべては皇帝の思惑だったのだ。マルークはそれを知り身をよじった。その様子を楽しむかのように工程は手元に置いたマルークのライトセーバーを見下ろしささやいた。「これが欲しいか?ならば取るがよい。余は丸腰ぞ。」マルークはシデヤンスのダークサイドへの誘いを辛うじてはね返し、窓の外に続々と集結する宇宙国家群を見つめた。 そのころヱンドアではバン・ソコたち兵士と原住民イオークが皇帝軍と激しい戦闘を繰り広げていた。装備で勝る皇帝軍ではあるが、ヱンドアの小さな戦士イオークたちの機敏な動きや勇敢な戦いぶりにてこずっていた。グライダーからの岩石落とし、坂を埋め尽くす丸太落としなど、あらゆる武器でイオークは戦った。チューバッタも、強力なボーキャスターで次々と敵を倒して行く。 一方、バンたち別動隊はイオークの案内で裏口に忍び寄り通路のドアのロック解除を試みていた。宇宙国家の最先端技術でもてこずっていたが、ようやく解除することに成功した。彼らは中に突入するとさっそく撃ち合いが始まったが、精鋭の宇宙国家軍兵士は善戦し、徐々に奥へ奥へと侵入して行った。 その後にブヨブヨのサッカーボールが転がって行った。 トットさん?なんで?何の役に立つの? マスPの疑問には目もくれず、なぜかトットさんもシールド発生所に転げ込んで行った。 だがこれが思わぬ結果につながるとは・・・・
2022.07.20
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最初地図をアレ・デ=ランのオッカナ議員に届けようとしたことから、それが悪漢ベーダ―の秘密のアジトであることを、宇宙国家を闇から密かに操る影の支配者から知らされたベーダーはマルークたちを捕まえ地図のありかを知ろうとした。しかし、ベン・ケイノービの身をなげうった救いで辛うじて逃げおうせたが、影の支配者が星をも破壊できる恐怖の兵器を作っており、それがこのヱンドアの軌道上に浮かんでいることが分かった。そこでマルークたち一行はトットさんいや、神の化身デブリンと共にこの星に降り立ち、その兵器を地上から守るシールド発生器を破壊しに来たのだ。ジョンピーの説明を自動翻訳機から聞きながらイオークたちは熱心にうなずいた。やがて彼らは長老と中心顔を突き合わせ話し合いを始め、代表のイオークがマルークの前に進み出て言った。 「我々イオークは我が部族を上げてお前たちを助けよう。」 自動翻訳機から聞こえる固い決意にマルークは勇気づけられた。 「はみ出し者のイオーク、デビンがシールド発生装置へ侵入する裏口を知っていると言っている。」「えっ?ホントかい?」マルークは思わぬ言葉に思わず叫んだ。「よし、それなら話が早い。明日になったら俺たちをそこに案内しろ。」舌なめずりしながらバンは言ってニヤリとした。 それがらマルークたちとイオークは明日の計画を練りながら一夜を過ごした。 それを尻目にトットさんはイオーク特性のお手製ソーセージをひたすら食べまくっていた。「ううう、うまい。腹がはちきれそうだ。」(もうはちきれているし・・・・)「なに?マスP何か言ったか?」しかし、マルークは上空に浮かぶデススターデスを見上げなら、ブツブツつぶやいていた。「マルーク、どうしたの?」レイヤンが心配そうに彼の後ろから声を掛けた。「ベーダーがあのデススターデスにいる。彼は、実は・・・」マルークは戸惑いながら言葉を切り、ためらいながら、やがて意を決して言った。「僕の父親なんだ。」「えっ?何ですって?」レイヤンは驚いて聞き返した。マルークあ唇を噛みながら絞り出すように言った。「そうなんだ。ベーダーは僕の父親なんだ。そして、君の父親でもある。」レイヤンは衝撃で目を丸くしてマルークを見つめた。「そんな・・・・。いえ、分かっていたわ。私にもフォースがいつも語り掛けていたの。」「僕はいかねばならない。ベーダーを、僕ら父さんを悪の支配者から取り戻さなきゃいけない。僕は感じるんだ、父さんの中にはまだ善の心が残っている。きっと連れて帰る。」そう言ってマルークはレイヤンに大きく頷きながら背を向け朝もやの中に歩み去って行った。涙を浮かべながら見送るレイヤンの後ろからバンがやって来て声を掛けた。「どうしたんだ?マルークは?」レイヤンは何も言えず振り返るとバンの胸の中に飛び込んで泣いた。 「私の息子があの星にいます。息子を連れて参ります。彼を味方に付ければ大きな力になるでしょう。」ベーダーは玉座に座るシスの暗黒卿ダース・シデヤンスに跪いて言った。「さてできるかな?」「叶わなければ、私が死を与えます。」シデヤンスの懐疑の、そしてベーダーをあおる言葉にきっぱりと答えた。 ヱンドアに降り立ったベーダーは投降としてきたマルークの相まみえると、マルークのライトセーバーを見ながら言った。「ベン・ケイノービに鍛えられたようだな。どうだ、私とお前とでシデヤンスを倒し宇宙の支配者になろうではないか?」だがマルークはそれには耳を貸さずまっすぐ父親を見つめ言った。「父さん、僕にはあなたの心に善の心が見える。帰って来て!」 ベーダーはじっと息子を見つめ、なおも言った。「私とお前なら何でもできる。思いのままだ。」 それを聞きマルークは吐き捨てるように言った。「あなたはもう死んでしまったんですね。」
2022.07.03
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うっそうとした森の奥。巨大なたき火の炎が薄暗い天空を赤々と照らす。何も今からキャンプファイアを始めようという訳ではない。ここは惑星ヱンドアに住むイオークたちの部落。今から食事の準備を始めようというのだ。思わぬ大物が獲れたからだ。人間が十人、ハトが二羽。そのうち一羽は食べ応えのありそうなものすごいデブ。食べ応えのありそうなものすごいデブとはもちろん太っちょポッポのトットさん。食べ応えのありそうとは言っても人間なら普通こんなものは食べない。脂身ばかりで健康に悪いからだ。「俺は蒸し焼きだ好きだ。」「私は刺身にしたいわ。」「バカ者、昔から丸焼きと決まっておるのじゃ。」トットさんの自動翻訳機から漏れて来る彼らの会話が身の毛もよだつ。「おい、客人をお連れしろ。今から食事の用意をしますとな。」一人が藁小屋のなかに入って一人の人間の女性を案内してきた。「レイアン!?」マルークは思わず叫んだ。森の中で行方不明になっていたレイアンが思わぬところに現れたからだ。「レイアン、この縄を解くように言ってくれ。」バン・ソコが怒鳴った。「この人たちは私の仲間です。ほどいてあげて。」レイアンの言葉にイオークたちはみんな顔を見合わせたが、やがて口々に叫んだ。「これは俺たちの晩飯だ。早く食おう。」そのとき一人のイオークが叫んだ。「これは我が偉大なる神の化身、デブリン様じゃないのか?」みんなの視線がトットさんに集まった。「何?俺が神の化身。俺が、デブリン?何度言えば分かるんだ?俺はデブリンバトじゃねえ!」そんな言葉には耳を貸さず、長老の命令でトットさんの縄が解かれた。「ふーっ。まったく。」ようやく自由になったトットさんは体をさすりながら言った。イオークたちは慌ててひれ伏し、神の化身デブリンの前にひれ伏し崇め奉った。「トットさん、神のお告げで僕たちを助けるように言うんだ!」ジョンピーがトットさんに叫んだ。「おおそうだな。よし言ってやろう。俺は神だぞ。こいつらを放してやれ。」およそ神らしくない言いようにジョンピーは首を振りながら言った。「もう少し神らしく言わなくちゃ。」トットさんはしばらく考えて再び神の言葉を口にした。「我は神なり。この者たちを解き放て。」ジョンピーは満足して、うんよしよしと頷いた。しかし。「何をおっしゃいます。これはあなた様への生贄にございます。美味しくお召くださいませ。」長老の言葉に一同は頷いた。イオークたち、何があろうと、誰の言いつけであろうと、マルークたちを一刻も早く食べたいのだ。それを知ったマルークは目を閉じて念じた。するとトットさんの体が浮き上がり、やがてイオークたちの頭の上を威嚇するように飛び回った。トットさんはマルークから送られてくる言葉を口に出して怒鳴った。「我は神の化身デブリン。この者たちを解き放て。さもなくばお前たちの上に千の罰が下るであろう。」さすがに恐れをなしたイオークたちは、今夜の食事をようやくあきらめ、マルークたちの縄を解き始めた。「ああ楽しかった。久しぶりに空を飛んだなあ。俺もまだ空を飛べるんだ?」すべてマルークのフォースの力とも知らず、トットさんは満足そうだった。
2022.06.19
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トットさんはのんびり惑星ヱンドアの森に横たわる倒木に寝そべって空を見上げていた。なぜ彼はこんな星にやって来たかというと、バン・ソコを救出し、ミレニアムボロコムにのって地球に送ってもらう途中、宇宙国家から悪漢ベーダ―が宇宙国家を密かに操る影の支配者と共に、星を一撃で破壊できる秘密兵器に滞在しているという連絡を受けて引き返すことになったからだ。その秘密兵器はまだ建設途中でこのヱンドアの引力圏で、星から送られるシールドに守られて最後の仕上げをしているのだ。トットさんが見上げる空には月のようにその秘密兵器が不気味な姿で浮かんでいた。「でっかいなあ、あれが宇宙船かあ?まるで本物の月じゃねえか?」「あれはデススターデスって名の秘密兵器らしいよ。」傍らでしっかり者の相棒ジョンピーが教えた。 そう、これは『デススターデス』という名の秘密兵器なのだ。デススターだけで死の星という意味で十分なのに、更にデスとつくのは死を強調したいのか?なまじっか日本語を知っている者が、ご丁寧に説明するために後ろにデスをつけたのか理由は分からない。いずれにしてもセンスのかけらもない名前である。そんな名前を付けた奴の顔を見たいものだ。「それはお前じゃないか?」トットさんはマスPをじろりと睨んで皮肉った。 ツン、ツン その時トットさんをつつく何者かがいた。トットさんが振り向くとそこには子熊のような槍を構えた生物が首を傾げながら突っ立っていた。トットさんが慌てて起き上がると、その生物は慌てて後ろずさった。きっと彼はトットさんをバンクしたボールか何かと思ったのだろう。まあ大して変わりはないが。「お前は誰だ?俺に何の用だ?」その生物は叫んだ。 フギャー・ゲロ・ポーポ 「お前は何を言っているんだ?」伝わるはずもないのにトットさんは尋ねた。「トットさん、グーさんたちにもらった自動翻訳機を使うんだよ。」ジョンピーに言われ、おおそうかとトットさんが自動翻訳機のスイッチを入れると、そこから翻訳した声が聞こえて来た。「わあ、ベンコロイノシシのウンチがしゃべった!!」「何?何イノシシ?ウンチ?俺がウンチだと?」トットさんはその言葉に怒りまくって襲い掛かろうとした。その生物は翻訳機によるとイオークというヱンドアに住む原住民だということだった。そこへシールド発生器を調べに行って行方不明になったレイヤンを探しに行っていたバンとマルークが戻って来た。「おや、お前のお友達か?」バンがからかうように言った。「友達だと?こいつ俺のことをイノシシのウンチだとぬかしやがったんだぞ!」そう喚くトットさんにマルークはうなずきながら言った。「ベンコロイノシシのウンチか?なかなかうまいことを言うな。」「何を!!」と叫びかけたトットさんは周りを見て青ざめた。彼らの周りを無数のイオークが槍を構えて取り囲んでした。こんなに多くてはいかに原始的な部族であっても勝ち目はない。両手を上げて歯向かう気はないことを示すと、イオークたちは槍を降ろしたかと思ったら、あっという間に彼らを縛り上げてしまった。 今日の夕食にでもしようと言うのか? 「やめとけ、トットさんだけは!!」マスPは思わず叫んだ。
2022.05.21
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悪徳の限りを尽くし、非道を尽くしてきたジャバザハットは、セールバージから振り落とされ、彼のペットであるサルラックの胃袋の中に飲み込まれて行った。単にそこで死ぬのであれば幸せなのだが、これから千年の間、正気を保ったまま激痛を味わいながら徐々に溶かされ、今までの罪を贖ってゆくのだ。 「ルーク、ありがとよ。お前に借りが出来たな。」バン・ソコは彼には不似合いな感謝のことばをマルークに投げかけた。マルークは戦闘機のコクピットのスピーカーから聞こえて来るバン・ソコの言葉に微笑みながら返した。「バン、僕は寄って行くところがある。ベーダーとの対決が始まるまでには駆けつける。レイヤンをアレ・デ=ランに送って行ってくれ。」「了解。」バンの言葉を合図を待っていたかのように、ミレニアム・ボロコムは船体を揺すったかと思うと、一瞬のうちに光の線となり宇宙のかなたに消えた。 ----------- 相変わらず惑星ゴタゴタは湿気が高く蒸し暑かった。生臭い沼のほとりにある小さなあずまやの窓から細々と頼りなさげに光が漏れていた。マルークの師ヨーダは病の床についていた。「900年も生きていれば老いぼれて来るわ。」ヨーダはめっきり弱った体を床に横たえ、苦し気に咳をした。「ヨーダ様。しっかりしてください。あなたの教えを乞うために戻って来ました。」マルークは悲痛な面持ちで師に訴えた。ヨーダは震える手をマルークに伸ばして喘ぎながら言った。「もう修業は終わっている。もう何も教えることはない。これからはお前自ら学んで行くのだ。」マルークは心に引っ掛かっていることを口にした。「ヨーダ様、ひとつ教えてください。ベーダーは、ベーダーは僕の父なのですか?」ヨーダはしばらく顔をしかめていたが、ようやく僅かに首を縦に振った。 「マルーク、お前はこれから父との対決をせねばならん。お前がフォースにバランスをもたらすのだ。」そのとき、霊体となったベン・ケイノービの声が闇の名から聞こえてきた。「ベン。僕の父さんはベーダーに殺されたって言ったじゃないか。」マルークは怒りを込めてベンの声に向かって抗議した。「最強のジェダイだったお前の父は暗黒のフォースに飲み込まれた。その時点でお前の父親はベーダーに殺されたのだ。」マルークは詭弁ともいえるベンの言葉に身を震わせた。「マルーク、お前はお前の力で運命を乗り越えなければならない。」ヨーダは目をつむったままマルークに告げた。「僕ひとりの力で・・・」マルークの言葉を遮りヨーダは言った。「マルーク、お前はよくやった。ここに来た頃にはあきらめかけたが、今はフォースはお前とともにある。フォースを信じるのじゃ。しかもお前は一人ではない。もう一人おる。」マルークはヨーダの言葉にふと気づいて言った。 「レイヤン?それはレイヤンですね?」 「良い洞察力じゃ。」ヨーダは満足そうに頷いたが、その途端最後の痙攣を起こすと大きな息を吐いて静かに永遠の眠りについた。それから彼の体は次第に消え、霊の世界に旅立ち、体を覆っていた粗末な毛布はベッドの上に落ちた。
2022.05.08
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パン、パン、パーン華々しく花火が上がった。砂漠の惑星タートルインに花火?地球の日本という小さな国の花火だ。しかも、目に眩しい真昼の青空に。これはグーとタラが地球から持ち帰った、地球の花火を昼間でもはっきり見えるように、閃光も色もはっきり見えるように、しかも煙も彩を添えるアイテムとして、彼らのビリノン星で改造されたもので、宇宙国家で流行り始めているアトラクションだった。 今日はマルーク・ウシ―ウォーカーとバン・ソコをサルラックの餌にするめでたい大イベントなのだ。 「ムバーク・ワーララ・ベゾーク・バララーク。」執事のビブフォーチュナは訳さなかったが、悪の黒幕ジャバザハットもいたく気に入った様だ。打ち上げられた先を見るとグーとタラが手を振って応えた。この思いがけない真昼の花火大会に皆釘付けとなった、そこに伝令として活躍するジョンピーがグーとタラに飛びよった。 運搬船から差し出された踏み台の上でその様子を見上げているマルークの元に、ジョンピーが密かに近づいた。その時、最後の締めとなる巨大な花火がタートルインの雲一つない青空を埋め尽くした。 「ダーク・ワ―・チュナーゼ。」「さあ始めよ。」ビブフォーチュナの通訳で皆の意識は処刑の場に戻り、大歓声が沸き起こった。「ジャバ、思い直すなら今の内だぞ。」マルークの言葉をビブフォーチュナから伝え聞いたジャバは嘲笑するように笑い飛ばし、意にも介さず処刑人に合図を送った。 その時マルークの掌から緑の光柱が伸びた。ライトセーバーだ。皆が花火に気を取られているうちに、密かにジョンピーから手渡されたものだった。マルークは踏み台を上下に揺らし、大きな反動を得ると高く空中に舞い上がると、ジャバのセールバージに飛び移った。事態に気づいたジャバの手下から浴びせられる熱光線をことごとく跳ね返し、返りを受けた手下が次々と倒れて行った。それに合わせて今まで鎖に繋がれていたはずのレイヤンが立ち上がり、今までわが身を束縛して鎖を手にジャバの首に巻き付け、全体重をかけて締め上げた。こっそりトットさんがヤスリを使って切断してくれていたおかげだった。そのトットさんはこんな時、何の役にも立たないから柱の上に停まり状況を見下ろしていた。グーとタラも密かに手に入れた武器を手に取り果敢に戦っていた。冷凍保存から解凍されたバン・ソロは目がまだよく見えないながらも、動く者を片っ端から撃ち倒して行った。何しろ自分の周りにいるものはすべて敵なのだから容赦はなかった。そんな様子を見て銃口を向けるのは、マンダロリアンの賞金稼ぎボバフェットだ。それを見つけたトットさんは、バンを救うべく何か落とす物を探したがあいにく周りには何もなく天を仰いだがその時ふと思いついた。その次の瞬間何を思ったか彼は柱から飛び降りた。その落ちる先はボバフェットの装甲ヘルメットの真上。最強の戦士であるボバフェットも、その重さに堪らず床に倒れて気を失ってしまった。 「レイヤン、バン。こっちだ。」マルークに呼ばれ二人はその元に駆け寄った。目の良く見えないバンは、彼を救ったばかりのトットさんを拾いあげ誘導された。そこにチューバッタが操縦するミレニアム・ボロコムがやって来た。マルークは舳先に備え付けられたレーザーキャノンをセールバージの床に向けて連射する様に固定して、ボロコムに乗り移った。ボロコムはグーとタラも拾って空高く舞い上がった。セールバージは破壊され、船体を徐々に傾けて行った。レイヤンに首を絞められ気を失いかけたジャバはようやく意識を取り戻したが、傾いた船体の床を滑り始め、彼の悪事の手下とともに砂漠にぽっかりと開いたサルラックの巨大な口の中に消えて行った。 サルラックは思わず転げ込んできた、無数の餌に喜び体を揺すった。 そして最後にタートルインの砂漠に、地を揺さぶるような大音響のげっぷが鳴り響いた。 グアップ
2022.04.30
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ジャバの帆船型浮遊艇セールバージはタートルインの砂漠の上を滑らかに、そして悠々とある場所に向かっていた。その先に待つのは宇宙最悪の生物と言えるサルラック。今日の餌食となる餌はジェダイナイトのマルークと、冷凍保存から解凍されたばかりのバン・ソロ。彼らはこれから、砂漠に大きな口を開いているサルラックの巨大な口の中に放り込まれ、1000年という悠久の時をかけて、徐々に溶かされながらも、その間常に命も意識も正常に保たれ、そのため常に激烈な苦痛を味わいながら、地獄でさえ安楽の場所と思える永遠の苦難を過ごすことになる。 「マルーク、故郷で死ねてよかったじゃないか?」サルラックの餌運搬船の上でバンは冷凍保存から目覚めたばかりで、まだよく見えない目で照り輝く砂漠の砂の反射を感じながらつぶやいた。「バン、済まない。君を救いに来たのにこんなことになってしまって。」マルークは先ほどから二人の会話に耳を傾けながら、これから待つお楽しみの時間に胸をワクワクさせるジャバの手下たちの様子を目で追いながら返した。 ンゴーッ 居眠りしながら大きないびきを立てるジャバのそばには、相変わらず鎖に繋がれた彼の愛玩ペットのレイヤン・オッカナが憎々し気にナメクジのような巨体のジャバを見上げていた。彼女はトットさんたちが最初に悪漢ベーダ―のアジトの地図を届けようとした、宇宙国家の議員、ベイロ・オッカナの娘だった。さらにその膝先にはトットさんが蹲っていた。彼は何やらもごもご蠢いていた。彼の手には小さなヤスリガ握られ、レイヤンを繋ぐ鎖を削り切ろうとしているのだ。そのヤスリは、伝令としてジャバの宮殿を飛び回るジョンピーが密かにもたらしたものだった。「トットさん、あなたの故郷の星の地球という所は緑と水が美しい星なんですね。私の故郷のオルデランと似た星の様です。」レイヤンはトットさんがこするヤスリの音をかき消すべく、常にしゃべり続けていた。「俺があんたの親父さんに届けようとした地図はグーとタラが届けてくれたはずだから、すぐに親父さんたちは動き始め、じきに奴らは攻撃され壊滅させられるだろうよ。」トットさんの言葉にレイヤンは首を振った。「ベーダ―の後ろには黒幕がいて、密かに宇宙国家を操っているのです。そう簡単にはいかないでしょう。私は特使の任務の傍らその情報を得て、父に伝えるべくオルデランに向かう途中で、ジャバに捕まってしまったの。これも裏でその黒幕が企んだことでしょう。自分が手を下さずにジャバにさせれば、正体がばれることはないのだから。」 やがてセールバージは速度を落とし、サルラックが大きな口を開いた砂漠に開いたすり鉢状の穴のそばに横付けされた。まもなく餌運搬船の側面からスルスルと板が伸ばされた。そしてマルークは後ろから電撃槍に追い立てられて、その先に立たされた。セールバージからは手下たちの喝さいが沸き起こり、その歓声にようやく目覚めたジャバはこの上ない一番の瞬間が訪れたのを知り、見物用の玉座にコンベアで移動した。「マルーク、バン、ベーグーラ、ワーダラ・プアーク。ターナ・チャリアック・ド・シライン・ウム・ベラーラ。」そう言ってジャバはクラトゥイーン・パディ・フロッグを一匹大きな口に放り込んで、うまそうにかみ砕いた。「マルーク、バンお待ちかねの時が来たぞ。これから砂漠の地下で至福の時を過ごすがよい。」ビブフォーチュナの通訳の言葉を合図にマルークに突き付けられた電撃槍の穂先に高電圧の火花が瞬いた。マルークは手下に紛れて見つめる、グーとタラに密かに目配せした。
2022.04.24
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凶暴なランカーを倒したマルークは再びジャバの前に引き立てられた。名ばかりではあるが客人としてではなく、今度は本当の捕虜としてである。「マルーク、貴様私の可愛いペットを殺しよって。許さん。貴様をサルラックの餌にしてやる。永遠の苦痛を味わうがいい。」 砂漠の惑星タートルインに育ったマルークはサルラックの恐ろしさを知っていた。サルラックは砂漠に棲む体長100メートルにもなる巨大な生物である。その体を砂漠の地下深くまで沈め、口だけを砂漠の表面に口だけを出してひたすら獲物を待っているのだ。口の周りにはアリ地獄のようなすり鉢状のじょうごを形成し、そこを滑り落ちた獲物は口の中に飲み込まれて行く。飲み込まれてそれで終わりならかえって幸せなのだ。飲み込まれた獲物はサルラックの特殊な体内に取り込まれて生命と意識を正常に保たれる。これから永遠ともいえる千年の間、ゆっくりと溶かされその間、想像を絶する苦痛を感じ続けることになるのだ。この気の遠くなるような苦痛を考えると。いや、気が遠くなれば幸せなのだ。正気のまま、永遠の時を過ごさねばならない。 マルークはジャバの傍らに鎖でつながれた少女を見つめていた。人間の女性を好むジャバは彼女を鎖につないでいつも傍に置いていた。美しさの中にも強さを滲ませる表情の口元はマルークに語りかけて来る。その口元はこのような言葉に動いた。「私があなたを助けます。きっと。今はジャバに従っていて。」マルークはこの少女が何者なのか知らなかったが、フォースを使って彼女の心に直接語りかけた。「君は誰?なぜここに?」マルークから送られて来て、頭の中に響き渡る声に少女は驚きの表情を浮かべたが、すぐに察して言葉を送り返してきた。「私の名はレイヤン・オッカナ。アレ・デ=ランの元老議員ベイロ・オッカナの娘です。私は特使としての任務を終えアレ・デ=ランに戻る途中、ベーダーに捕まりジャバに売り飛ばされてしまったの。」彼女は言葉を返しながら、マルークの言葉を心の中に感じることを不思議に思っていた。だがベイロ・オッカナの娘と知ってわずかに驚いた表情を浮かべながらうなずくマルークを見て、自分の心の言葉が彼に伝わったことを確信した。 「お前の貢ぎ物は確かにいただいた。ジョンピーとやらは伝令として役に立っている。トットやらは私のペットとしては申し分ない。なんの役にも立たないし、食べてもまずそうだし。」クラトゥイーン・パディ・フロッグというカエルに似た不気味な生物をスナックとして好むジャバにとってもトットさんは不味そうに見えるのだろう。「なに?俺がまずい?食わず嫌いじゃないのか?おまけに役に立たないだと?おれはちゃんと・・・・・」ビブフォーチュナの同時通訳を聞いてトットさんは更に自分が何の役に立つか並べ立てようとしたが、自分でもそれ以上言葉は続かなかった。「トットさん、そんなことを言ったらジャバに味見されちゃうよ。」ジョンピーに注意されたトットさんは慌ててくちばしを押さえたが、地球というへんぴな星の日本という小さな国の言葉など知らないビブフォーチュナが理解できるわけもなく、事なきを得た。 「私の可愛いランカーが殺されたからには、最愛のペットのサルラックの餌にしてやる。千年の後悔を味わうがいい。」ジャバの取り巻きたちからいっせいに歓喜が沸き上がった。 マルークは目をそらし、その中に密かに紛れ込んだグーとタラと視線を交えてかすかにうなずいた。
2022.04.16
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トットさんとジョンピーをハット族の長ジャバに贈り物と称して差し出したマルークも現れた。「マルーク アグーア ケア ヴァラ―ラ!」側近のビブ・フォーチュナがハット語を訳した。『マルーク、お前は何をしに来たのだ?』マルークがソロを取り返しに来たことは承知の上だが、そのようなことなど毛頭聞き入れる気がないことを示す、狡猾なジャバの意思の表れだ。「寛大なる殿下の慈悲に期待して、わが友バン・ソロを迎えに参りました。どうぞ彼をお返しください。」マルークはそう言って一歩足を踏み出した。「マルークさん、そこは・・・」ジョンピーの言葉が終わる前に、ジャバの手が傍のボタンを叩いた途端、マルークの姿は突然足元に開いた穴の中に吸い込まれて行った。 マルークが落下した場所は、岩だらけで生臭い匂いのする薄暗い大きな洞穴のような場所だった。ジェダイの訓練を受けたマルークは危ういところを受け身で交わし、怪我もなくその地面に立ち上がった。上を見上げると、自分が落ちた穴からジャバとその手下たちがやんやの喝さいを上げながら見下ろしていた。トットさんとジョンピーもその片隅で、不安な表情を浮かべて見つめていた。「マオ べドゥーガ ワングワーダ マーラ。」『私の可愛いペットが腹を空かせてお前を待っているぞ。』フォーチュナの通訳が終わるのも待たずに、向かいの壁がドシンと大きな音を立てて、徐々にせり上がり始めた。そしてその奥に暗闇が広がり、暗闇の高い場所に二つの大きな赤い光が不気味に光っていた。やがてその光は左右に大きく揺れ、徐々に近づいて来た。暗闇から突如巨大な足が現れた。そして大腿部、腹、胸、前足、そして最後に巨岩のようにゴツゴツした頭が薄闇の中にそびえた。 ランカーだ。 ランカーは魔女の住む惑星ダソミアに生息する巨大な爬虫類で、その凶暴さで広い宇宙でも有名だった。ランカーは洞窟全体が揺れるほどの大きな唸り声をあげると、ノシノシと足を踏み出して来た。マルークは周りを見回しながら隠れる場所を探したが、そのような場所はどこにもなかった。それを見回すジャバたちは楽しそうに今や遅しと、マルークがランカーに噛み砕かれながら喉の奥に消えて行くのを待ち構えた。そのときジャバの警備役を務める猪に似た種族ガモーリアンが誰かに後ろから蹴落とされてランカーの巣穴に転げ落ちてきた。ランカーは体に似合わない素早い動きで、必死に這い上がろうとするガモーリアンに飛びつき、咥えると不気味な砕ける音を残して、空腹の足しとした。 マルークはランカーが食べ残した餌の動物の丸太のような骨をつかむと、ランカーに向かい合った。ランカーはマルークをデザートにしようと間を詰めてきた。マルークは必死にその骨を振り回して攻撃をかわしたが、とうとう追い詰められて大きな手に捕らえられてしまった。もがくマルークの体は徐々にせり上がり、大きく広げられた、よだれだらけの口に近づいて行った。マルークはもがきながら今や飲み込まれようとするその瞬間、持っていた骨をつっかえ棒としてランカーの口に縦に差し込んだ。ランカーは突然塞がらなくなった口に慌ててマルークを取り落とした。マルークは身軽に地面に降り立つと、開いた壁の奥にある出口へと走ったが、当然扉は固く閉ざされていた。ランカーはようやく口に引っ掛かった骨をかみ砕くとマルークを追いかけてきた。マルークは冷静に見回すと、離れた壁にある開閉のスイッチを見つけ、頃合いを見計らって石を投げつけると、壁はどどっ音を立てて落下し、首を挟むように落ちてきてランカーは激しく悶えながらやがて息絶えた。扉から覗いていた飼育係が我を忘れてドアを開けて飛び込んで来た隙を見て巣穴を飛び出したマルークだが、そこにはたくさんの手下が武器を構えて待ち構えていた。
2022.04.02
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トットさんとジョンピーは巨大な体を玉座に横たえたジャバの前に引き立てられた。ビブ・フォーチュナがジャバの耳元で何事かかささやくと、ジャバはぶるっと体を震わせてようやく目覚めた。ジャバは目の前にちょこんと座る小さな鳥をぎろりと、その大きな目玉で見下ろすと野太い声で何事か唸った。トワイレックのビブ・フォーチュナがそれを訳した。「マルークとかいう若造が私に何か贈り物だと?いったいどんな贈り物だ?それが何かによってはお前たちを食ってしまうから心して伝えよ。」 トットさんは不安そうにジョンピーを見つめた。ジョンピーも内心では動揺していたが、しっかり者の彼のことだ、そんな不安はお首にも見せず胸にぶら下げたペンダントを外して、小さなボタンを押した。すぐにペンダントは眩い光を謁見の間にまき散らし、その光が一点に集中すると、その中心に今やジェダイマスターとなったマルークの姿が現れた。 「親愛なるハット族の長ジャバ殿下。私はマルーク・ウシ―ウォーカー。ジェダイです。」それを聞いて一同は笑い声を立てた。今はもうジェダイは過去のおとぎ話の魔法使いに過ぎなかったからだ。そんな様子を無視するようにマルークの口上は続いた。「あなたに差し出された私の友人バン・ソロをどうかお返し願いたい。その代わり素晴らしい贈り物を差し上げます。それは・・・・・」一同の目がマルークの唇に注がれた。だがジャバはそれが何であろうが、これだけの財宝を持っており今更どんなものをもらおうと嬉しくもなんともなく、ずる賢いジャバは贈り物はもらうが、ソロを返す気は毛頭なかった。「その贈り物は、ここいいる地球という星から来た二人の鳥です。人はジョンピーといい、地球では鳩レースのチャンピオンで、スーパースターです。頭もよく勇敢で何でも知っています。閣下の良き片腕となるでしょう。」ジョンピーは自分自身も知らなかったことに驚いてうろたえた。それにかまわずマルークは続けた。「もうひとりは太っちょポッポのトット。単なるデブのハトで、飛ぶことも、走ることもできず、口は悪く何の取り柄もないですが、漬物石くらいにはなります。閣下が漬物をお食べになるならではありますが。」トットさんはマルークの自分に対する馬事雑言に、ムカッとにらみつけた。だがジャバは自分の体形に似てブヨブヨで普通なら嫌われる性格が尊敬されるハット族の民族性のため、トットさんは事のほか気に入られることになった。 ジョンピーは広い広い宮殿の伝令役として飛び回り、トットさんはジャバの膝の上に座らされ、彼の愛玩ペットになった。 そうしている間、新たな客がジャバ宮殿を訪れた。フードを目深にかぶり、静かな足取りで入って来たフードの男にビブ・フォーチュナが足早に近寄り押しとどめようとした。しかし、その男はこの意志の弱いトワイレックに片手を振ると、いとも簡単に彼の操り人形となってしまった。そうしてジャバの前に案内された男はフードを頭からゆっくり降ろして行った。 それはマルークだった。 それを見たトットさんは激しく怒鳴った。「こら!マルーク!俺たちを贈り物にするとは何事だ!許さねーからな!」 さてマルークに何か策があるのか?
2022.03.26
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とてつもなく巨大な鋼鉄の扉の前に、ちょこんと小さな鳥が二羽。この物語からしてそれは太っちょポッポのトットさんと鳩レースのスーパースターのジョンピーに間違いはない。「おいジョンピー、あの解錠ハンマーを叩いてみろ。」そう言ってトットさんは人間の高さなら届くであろう、重々しい扉のハンマーを指さした。言うまでもトットさんはあまりにもデブで飛べないから、羽が届かないのだ。 「こら、マスP!そんなこと強調しなくていい!!」そう言ってトットさんはマスPを睨んだ。 ドン、ドン ジョンピーがハンマーを扉に打ち付けると、間もなく門番ドロイドが穴から目だけを差し出して言った。「なんの用だ?」「あの、僕たちマルークさんの使いでジャバ・ザ・ハット様にお会いしに来ました。」ジョンピーの言葉に門番ドロイドは怒鳴った。「どこの誰かもわからない者にジャバ様はお会いにならん。とっとと失せろ!」「マルークさんからジャバ様にとても役に立つ贈り物を預かって来ました。」 「とても役に立つ贈り物ってなんだ?」トットさんがジョンピーを見上げて尋ねたが、ジョンピーも知らないとみえ肩をすくめるだけだった。門番ドロイドの目玉は扉の奥に引っ込んだ。 「入れてくれる気はないみたいだな。こんな使いはやめてとっとと帰ろうぜ。」トットさんが言って帰りかけたそのとき、 ズズン、バリバリ、ドドドドド と重々しい轟音が響き宮殿の扉が開き始めた。 トットさんは振り向き、期待しない結果を嘆くように宙を見上げ、ジョンピーを見上げた。ジョンピーは軽くうなずくとドアの向こうに消えた。トットさんは首を振り振り、重たい足取りで後を追った。 重たいのは体重のせいでもある。 「こら、マスP!そんなこと強調しなくていい!!」そう言ってトットさんはマスPをまたもや睨んだ。 このハットの宮殿はマルークの故郷、砂の惑星タートルインの砂漠の真ん中にあった。もっともタートルイン全体が砂漠ではあるが。 ジャバ・ザ・ハットは巨大なナメクジにカエルの顔をつけ、飾りのように胸にはやした両腕を持つ醜悪な容姿のハット族の長であった。ハットとは仲間や兄弟たちをも裏切り、ずる賢く、どんな手を使ってでも人を騙し、欺いて富を築き上げた方が尊敬される種族で、おおよそ宇宙でも極めつけの卑しい者たちだった。トットさんとジョンピーは二つのしっぽのような物を頭から生やしたトワイレック族であるたビブ・フォーチュナに案内されてジャバの待つ謁見室に案内された。謁見室と言ってもそこは、胡散臭い連中がたむろし、バンド演奏が聴きながら、酒を飲み交わし、女たちを侍らす退廃的な場だった。ジャバはその玉座に収まり、居眠りをしていた。その傍には美しい人間の女性が鎖に繋がれ、哀れな表情をしていたが、どことなく激しい闘志を秘めた眼差しをトットさんたちに向けた。 トットさんが脇の壁を見ると、そこには冷凍保存されたバン・ソロのレリーフかこれ見よがしに飾られていた。 その固まった表情は明らかに苦悶のあまり歪んでいた。
2022.03.19
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「痛てっ!」医療ドロイドが取りつけ手術を終えた義手を針先でちょんと突くと、マルークは思わず声を上げた。ここは宇宙国家病院の一室。ベッド脇のテーブルの上に二人仲良くちょこんと乗って、心配そうに見つめるトットさんとジョンピーは手術がうまくいったことに安どの表情を浮かべていた。 そこへグーとタラが入って来た。「やあマルーク、調子はどうだい?」タラがにこやかに笑いかけてきた。マルークは顔を上げるとニコリと笑った。「ありがとう。すっかりいいよ。まるで自分の手のようだ。」そう言って彼は取りつけられた右手首を何度も開いたり閉じたりして見せた。「これ、例の細胞コピー技術のお陰ですか?」ジョンピーがタラに聞くと、タラは驚いて答えた。「君はほんとに鋭いね。そう、その通り、以前トットさんの複製のおもちゃたんぱく質を作ったあの技術を使っているのさ。」「なに?俺の複製?」トットさんはやや考えて再び口を開いた。「ああ、俺の代わりに解剖されちまったあのコピー肉の事か?」 あれから色々なことがあり、もう何年も前のような気がするが、まだほんの2か月前のことだ。トットさんが東京のど真ん中でデブリンバトと共にいるところを発見され、今まで知られていなかった新種の鳥が発見されたと大騒ぎになり、トットさんを解剖してみようと追われる身となったが、超ミニワームホールを抜けて、なんと地球から30万光年も離れたビリノン星にやって来た。本来はその星に住むデブリンバトにもみくちゃになっているところに、地球から戻ったばかりのグーとタラに偶然再会することになった。そして、グーたちのアイデアでトットさんを細胞レベルまでコピーした、人造肉を地球に送り込み、人間たちに解剖させ、単なるデブのハトだと思わせて一件落着となったあの出来事だ。 その細胞コピー技術を使ってマルークの右手は見事に再生されたのだ。 「で、これからどうするんだ?」グーがマルークに聞くと彼は答えた。「まずは冷凍保存されたバンを助けに行く。その後は悪漢ベーダ―を倒しに行く。」だが、マルークは悪漢ベーダ―を倒すと言ったものの、なぜか複雑な表情を見せた。その表情の訳も知らないグーは、気づくこともなく言った。「マルーク、ちょっと待って。ベーダ―の奴、実は後ろ盾に黒幕がいて、そいつはこの宇宙国家の中に潜んで、国家を密かに操っているようなんだ。だからベーダーを倒せばそれで済む訳ではなく、事は慎重に進めなくてはいけない。」俺たちに託された例の地図はアレ=デ・ランのベイロ・オッカナ議員に渡したから、議員の方で密かに活動を始めたところなんだ。 「何?宇宙で戦争が起こるって言うのか?だとすると地球が危ない。どうしたらいいんだ?」トットさんが叫ぶとタラはにこっと笑って言った。「地球の発展レベルはたったの2。そんな原始惑星になんか誰も興味を持たないから安心していいよ。」 地球からやって来たトットさんとジョンピーは、嬉しいやら悲しいやら、寂しい苦笑いを浮かべた。
2022.03.12
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激しい火花とライトセーバーの唸る音二人の男が切り結ぶ光景は光の共演とともに一種の美しさを感じさせた。 シャキッ、シュワッ、ジュジュ 光の柱は壁を貫き、柱を切り裂き、空気さえも殺気に震えているようだった。 「お前の目の奥に怒りが見える。怒れ。もっと怒れ。怒って我のもところへ来るのだ。怒れば闇はお前を俺のもとへ導き、俺の右腕となるのだ。かつての俺がそうだったように。」 暗黒のフォースを使うシスである悪漢ベーダ―はマルークを煽り、次第にマルークも暗黒面に足を踏み込もうとしていた。 ヨーダが言うように、まだマルークの修行は終わっていなかったのだ。 マルークのライトセーバーがベーダーに浴びせかけられた。呼吸は乱れ、目は血走り、腕は激しく振られ、渾身の力が注ぎ込まれた。 「そうだ、もっと、もっと。」ベーダーはマルークの攻撃を受け止めながら、満足そうに頷いた。 マルークが最後の一撃を食わせるために大きく腕を振り上げたとき、それまで受け止めるだけだったベーダーのライトセーバーが一閃された。 その刃はマルークの右手首を切り落とした。マルークは、今自分に起きたことに一瞬驚きの表情を浮かべたが、次の瞬間それは絶叫に変わった。 その時ベーダーは言った。「マルーク、俺の所に来い。俺とともに宇宙を支配しようではないか?」そこで言葉を切り、やや間をおいて言った。 「お前の父親は俺だ!」 マルークの目は恐怖と怒りと絶望に大きく見開かれた。 「嘘だあ!」 その時マルークを引っ張る者たちがいた。トットさんとジョンピーだ。 トットさんは足を引っ張り、ジョンピーは羽ばたきながら腕を引っ張った。彼らが乗って来た戦闘機へと必死に引っ張った。 もうこれまでだ。これ以上進めば、マルークは暗黒面に完全に引き込まれ、宇宙は暗黒のフォースに覆われてしまうだろう。 「こらマルーク!しっかりしろ。ここを抜け出すんだ。」トットさんは叫んだ。「マルークさん、しっかりして!」ジョンピーも叫んだ。 戦闘機のコクピットに収まったマルークはしばらくうなだれていた。今起こった信じがたいことが頭を埋め尽くし、体を弄び、気持ちを落ち込ませた。 悪漢ベーダ―は自分の父親なのか?ベンは、彼の父親は殺されたと言っていたのだ。 その時、ベーダーの手下が放つビームが戦闘機のキャノピーを幾度も叩いた。ようやくマルークは我に返り、戦闘機を発進させ、ベスッピンの浮遊都市を脱出した。
2022.03.04
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ボバ・フェットとの撃ち合いにベーダ―の手下が加わり、通路はエネルギービームの飛び交う惨状と化した。しかし、マルークも修行の甲斐があり見事にそのビームをはね返し、次第にその方向も正確になり始め、逆にベーダーの手下が反撃を食らって次々と倒れて行った。 「バン、マルークをおびき寄せることが出来たからにはお前の役目は終わりだ。裏切られた腹いせに始末してしま・・・・。」マルークと応戦する手下どもを残して、すかさず冷凍保存室に飛び込んで来たボバ・フェットが遮った。「生きたまま渡す約束だぞ。死体には何の価値もねえ。」ベーダ―はボバ・フェットに振り向き不敵に笑った。「そうだったな。まあ、これから冷凍保存する訳だ。冷凍保存は意識はあるが目も見えず、耳も聞けず、話すこともできない生き地獄だ、バンが一生悔いて苦しむならその方がもっといいとも言える。」そう言ってベーダーは部下に合図した。傍らで見ていたチューバッタは激しい咆哮を繰り返した。だが、彼の両手両足には怪力のウーキーでさえやっと持ち上げれるほどの重い手枷、足枷がはめられており、さすがにどうすることもできなかった、バンは部下たちに両腕を抱えられて冷凍保存装置の中に縛り付けられた。冷凍保存装置の冷凍ボタンのそばに技師が立ち、ベーダ―の合図を待った。ベーダ―は勝ち誇った顔でバンをにらみ、残忍な笑みを漏らしながら言った。「おお、哀れな古き良き友よ。これからはお前ひとりが暗闇の中で一人、死ぬまで何十年もの間一人、そうたった一人で苦しむのだ。俺には助けてやれん。達者でな。」バンはベーダーを睨んで呪いの言葉を吐いた。「悪漢ベーダ―。貴様の首は俺が再び戻る時まで、その体にしがみついていればいいさ、」ベーダ―はヘビのような視線で合図した、冷凍保存技術者はその合図にためらう事もなくボタンを押した。その途端、冷凍保存装置からマイナス80度の猛烈な白煙が吐き出され、一瞬うちにバンは冷凍保存された。凍り付いたバンが張り付けられた冷凍保存装置の板が床に、石板のように図太い轟音とともに倒された。技術者がすかさず駆け寄りバンの状態を確かめてうなずきながら言った。「生きています。」ベーダ―はうなずいてボバ・フェットに言った。「これはお前のものだ。持って行け、」フェットがバンの張り付いた装置の浮遊ボタンを押すとそれは浮き上がり、彼は意気揚々と戦利品を滑らせ部屋を出て行った。 それと入れ替わるようにマルークが部屋に飛び込んで来た。そこでも手下どもからマルークに浴びせかけられるビームを、その本人にはじき返すとたちまちベーダーとの二人だけになった。いや、遅れてトットさんたちも駆けつけたが、トットさんは邪魔になるだけで何の役にも立たない。 単なる重石。単なる足手まとい。単なるフニャフニャのサッカーボール。単なるデブ。 「マルーク、大分鍛えられたようだな。だがまだまだお前は未熟だ。俺の所へ来い。お前に死を与える。」そう言ってベーダーも腰からライトセーバーの抜き起動した。 ブーン。ブーン。 二人のライトセーバーが不気味に部屋の中で唸った。
2022.02.28
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「応答せよ、応答せよ。こちらベスッピン管制。機名と所属を報告せよ。」マルークは少ししかめっ面をして応答した。「こちらPウィング。機種番号はP-270-1125C。宇宙国家所属だ。」「OK。P-270-1125C所属を確認した。R783へ着床せよ。」 「ちょっと待ってくださいよマスPさん。あの有名なスペースファンタジー映画に出て来る反乱同盟軍の戦闘機は翼を拡げるとXの形になるからXウィングっていうんですよ。Pウィングってどんな形なんですか?」珍しいジョンピーの突っ込みにマスPはうろたえた。そしてPの字した翼を持つ戦闘機の姿を想像して、我ながら思わずプッと噴き出してしまう無責任なマスPだった。 それはさておき、臆面もなく物語は続く・・・ 悪漢ベーダ―の手下に引き立てられてバン・ソコは長い廊下をよろよろと歩いていた。あの厳しい拷問を耐え抜いた後だ、無理もない。ベーダ―は単にバンを痛めつけるだけで、何を聞き出すわけでもなかった。ただ、フォースの力でその苦痛を感じ取るマルークを呼び寄せるためだけの目的だったからだ。その後をバンの相棒であるウーキー族のチューバッタが人には持ち上げることもできないほど重い手錠をはめられてその後に続いていた。バンを捕らえたボバ・フェットがライフルを構えて、意気揚々と闊歩して行った。バンを冷凍保存した後は彼の物となり、バンに多額の賞金を懸けているシャンプー・ハット?いやジャバ・ザ・ハットに引き渡して多額の賞金が手に入るのだ。これで息子に思う存分ペロペロ・キャンディーを買ってやることが出来る。息子といっても惑星カミーノで、父のジャンゴ・フェットの遺伝子から作られたクローンなのだから、すべてが父自身つまりジャンゴ・フェットなのだが。 その後をマルークがつけ、彼の後ろをブツブツ言いながらついて来るトットさんを制した。「ヨーダのソーセージうまかったなあ。もっと食いたかったのに・・・」マルークたちに気づいたチューバッタが吠えた。ウーキー族の言葉は微妙な音の高低、強弱のため理解が難しかったが、グーさんたちにもらった自動翻訳装置で翻訳することが出来た。「マルーク!来ちゃダメ。これは罠よ!」何であの気の荒いチューバッタがお姐言葉なのかは別として、既にばれており。しかもこれは罠だという。しかし、こうなったら罠であろうがなかろうが、何とかバンを救い出さざるを得ないではないか。マルークは覚悟を決めて歩み出た途端、ボバ・フェットのライフルから発せられた高エネルギービームが危うく傍らの空気を引き裂いて行った。マルークは大きく深呼吸をすると廊下の真ん中に立ちライトセーバーを起動して構え目をつむった。ボバフェットはこの無謀な若者に一瞬眉をひそめたが、次の瞬間続けてビームを浴びせかけた。しかし、ヨーダの厳しい修行を終えたマルークはそのビームをライトセーバーでことごとく跳ね返して見せた。 マルークたちがボバ・フェットに足止めされている間にバンは冷凍保存装置のある部屋に連れて来られた。いよいよ冷凍保存が行われるのだ。 冷凍保存とは意識はあるものの、見ることも聞くこともできない、生きながら永遠に磔にされるようなものなのだ。 さてバンの運命やいかに・・・
2022.02.24
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今日もヨーダのもと厳しいジェダイの修行を行うマルーク・ウシウォーカー。今日もヨーダの作った意外とうまいソーセージを貪り食う太っちょポッポのトトさん。 ますます上達するマルーク。ますます太るトットさん。 マルークは瞑想をして、遠く遥かな宇宙に心を漂わせていた・・・・ 「バン・ソコ、よくも裏切ったな。」悪漢ベーダ―は飲んでいた熱いコーヒーを縛り上げたバンの顔に浴びせた。あまりの熱さにバンは身をよじった。だがバンも幾多の困難を乗り越えてきた強者である。すぐに気持ちを奮い立たせ、ベーダ―を睨みつけて皮肉った。「裏切るだと?それは信用していた者に対して言う言葉だぜ。お前だって俺を信用なんてしていなかっただろ?」ベーダ―はニヤリと冷たい笑みを浮かべた。「当たり前だ。だからお前を利用したのだ。」「利用?」ベーダ―の言葉にバンは眉を寄せた。「俺をどう利用したんだ?」ベーダ―は不敵な顔で言った。「お前たちがドックの宇宙船に駆け込むときに、殺したベン・ケイノービがマルークに叫ぶ声を俺も聴いたのだ。『マルーク、惑星ゴタゴタのヨーダのもとへ行くのだ。』とな。ヨーダはもっとも危険なジェダイの長だ。ただ惑星ゴタゴタは暗黒のフォースに満ちた惑星。ヨーダのフォースはかき消されとても見つけることはできない。だから奴らをわざと逃がしたあと、ボロコムに取り付けた発信機でお前だけは捕まえて今こうして拷問をしているという訳だ。」バンは混乱して聞き返した。「俺を拷問にかけるのとヨーダやマルークとどういう関係があるんだ?」ベーダ―は計画を話した。「お前を苦しめれば、宇宙のどこにいてもジェダイはそれを感ずることが出来る。そして必ず助けに来る。おれはマルークというあの若造が欲しい。奴を取り込めば俺の力強い右腕になる。そして奴をヨーダのもとに差し暗殺者としてさし向けるのだ。」そう言うなりベーダ―はバンのみぞおちに太い手首をめり込ませた。 マルークは深い瞑想から引き戻された。「お前のフォースが揺らいだ。未来を予知したのだな?」ヨーダは弟子のマルークに語り掛けた。マルークはバンの苦悩を感じたことを話した。「助けに行かなくては。」「ならぬ。修業はまだ半ばじゃ。今行けばお前は必ずベーダ―に暗黒面に引きずりこまれる。引きずり込まれたら最後、二度と光の世界には戻れぬ。」「友人を見捨てろと言うのですか?僕はバンに救われた。今度は僕が彼を助けなければ。」ヨーダにマルークは反論した。 『マルーク、思い留まるのだ。お前を失うことは出来ん。』その時、霊体となったベン・ケイノービが語り掛けてきた。「ベン、あなたまで。それがジェダイなのですか?」マルークの言葉に霊体のベンは言った。『どうしても行くのなら手助けは出来ぬ。』 「トットさん、もうそのくらいにしたら?もうお腹がはちきれそうだよ。」ジョンピーは呆れてトットさんに言った。「うまい、ヨーダ特性ソーセージはほんとにうまい。」マルークの苦悩に相反して、トットさんは食い気のダークフォースに支配されていた。そこにマルークがやって来て言った。 「出発だ。バンを助けに行く。」わけも分からず二人のハトは豆鉄砲を・・・・「こらマスP、もうそのギャグは古い。カビが生えてるぞ。」マスPはうなだれた。 こうしてマルークとトットさん、ジョンピーは惑星ゴタゴタを旅立った。 「だから言ったじゃろ。あの子は駄目だと。」ヨーダ―は夕焼け空に残る戦闘機の航跡を見つめなら、ベン・ケイノービにつぶやいた。
2022.02.20
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人の頭くらいの大きな石が浮き、それよりも重いのじゃないかと思える太っちょポッポのトットさんが浮き、片手で逆立ちをしてバランスを取るマルークの足先をグルグル回っていた。余りにもデブで、ハトのくせに飛ぶことのできないトットさんは、久しぶりの浮遊感に酔いしれていた。トットさんは調子に乗り、クロールしたり、片足を組んで寝転んだり、蝶々のようにひらひら舞うふりをして修行の手伝いを満喫していた。レースバトとしてスターになったトットさんにはもったいない相棒のジョンピーは、更にその周りを飛び回っていた。レオは・・・・(ここでマスPはしまったという苦い顔をした)ヨーダは杖を胸の前に立て、両腕を乗せ、数十年ぶりの弟子の上達ぶりを見守っていた。 その時、沼の方からズブズブトいう濁った音が聞こえた。マルークが操縦して来た戦闘機が沼の底に沈む音だった。それに気づいたマルークは集中力を失い、その途端その場に倒れ込み、岩もトットさんも真っ逆さまに地面に落ちた。「痛てててて。」腰をさすりながらトットさんはマルークに文句を言った。「こらー!マルーク!しっかりしないかああああああ!」トットさんは『あ』を6個も付けて怒った。だがマルークは慌てて沼に駆け寄り、沈んだ戦闘機が残す、湖底からの泡を見つめてうずくまった。「これじゃあ、もう戻れなくなる。」その時、ヨーダが後ろから歩み寄り静かに言った。「お前には強いフォースがあるではないか。持ち上げて見よ。」マルークは肩越しにヨーダに振り向き、首を振りながらうめいた。「石やトットさんを持ち上げるのとはわけが違う。あまりにも大きすぎる。」ヨーダはそれを聞き、厳しく言った。「お前は大きさで判断するのか?わしを大きさで判断するのか?フォースはお前に、木に、その石にもある。そして、お前と戦闘機の間にもフォースは存在するのだ。大きさなど関係ない。」しばらくうなだれていたマルークだが、やがてよろよろ立ち上がり言った。「やってみます。」「やるか、やらぬかじゃ。試しなどいらん。」すかさずヨーダは諫めた。マルークは戦闘機の沈んだ沼に振り向き、目をつむり、片手を差し出し意識を集中した。鏡のようだった水面がわずかに波打ち、やがて泡が湧き立ち、ついに戦闘機の舳先が水面にのぞかせた。ヨーダの顔に、短期間のうちに片鱗を見せ始めた新しい弟子への期待の表情が浮かんだ。だがそこまでだった。戦闘機は再び沼の底深く姿を消して行った。マルークはうなだれて、タオルを首に掛けて引き返してつぶやいた。「駄目だ。大きすぎる。不可能を期待しているんだ。」そう言って彼はしゃがみ込んだ。ヨーダはしばらく彼を見つめていたが、厳かに沼に振り返ると、目をつむり、片手を挙げて念じた。すると沈んだ戦闘機が再び湖面に現れ、そのまま水面を裂いて胴体を現し、雫を垂らしながら湖面を離れ、岸へと漂い、音もたてずに静かに地面に降り立った。やんやとはしゃぐトットさんや、ジョンピーたちの歓声を聴き、マルークはうずくまってジャングルの奥から歩み出して来て驚いた。彼は戦闘機をぐるっと歩きまわりヨーダのもとに来ると興奮して言った。 「信じられない。」 ヨーダはまっすぐマルークの視線を捉えて言った。 「さよう、だから失敗したのじゃ。」
2022.02.11
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猛烈な嵐の中をマルーク・ウシウォーカーとトットさんたちは木の葉のように揺れる戦闘機の中で必死に耐えていた。船体は激しく振動して、これが戦闘機でなければとっくに分解しているのじゃないかと心配になるほどだ。船は試練を潜り抜けて最後にして最大の衝撃を受けた果てにようやく止まった。泥だらけになったキャノピーの開ボタンを押すと途端に生臭いすえたような匂いが押し寄せて来た。外に出てみるとそこは霧に覆われた泥沼の端だった。そばの岸に降り立った一行はジャングルの中を慎重に進んだ。妙に静かな木々の間をライトの明かりを頼りに進むと少し開けた場所に出てきた。 「おいマルーク。俺腹減ったんだけどそろそろ飯にしないか?」食いしん坊のトットさんはトットさんらしい願いを訴えた。「そうだなここらで食事にするか。」マルークも同意して早速ショルダーバックから小指の先くらいの小さな携帯保存食をとりだし、袋を強く押すと途端に袋は100倍くらいに膨れ上がり、暖かい食事に変身した。味も保存食にしては悪くはなかった。これを作ったシェフは大したもんだ。 皆しばらく黙々と食べていると、突然マルークが背筋を伸ばすと辺りをキョロキョロと見回した。「妙だ。何か変だ。気配がする。」首を振り、ライトを構えて振り返ると緑色の肌をした小さな生き物がうずくまっていた。「おおお、眩しい。明かりを消してくれ。」その生物はすり切れたぼろ布のようなローブの袖で顔を覆うとブルブル震えた。「大丈夫何もしない。」そう言ってマルークはライトの明かりを暗くした。「この沼に何の用だ?」その生物は鷹揚に尋ねた。「俺はマルーク。この星に伝説の勇者を探しに来た。幾多の戦いを生き抜いた伝説の勇者だ。」マルークが言うとその生物はフンと鼻先でせせら笑い、吐き捨てるように言った。「戦いで英雄は生まれん。」彼は小首をかしげると続けた。「その伝説の英雄に何の用じゃ?」マルークはイラつきながらつぶやいた。「修行をしてもらうんだ。」するとその生物は叫んで言った。「それならわしにもできる。わしが稽古つけてやる。」「無理だなお前には。」遂に堪忍袋の緒が切れて怒鳴った。「俺はヨーダという勇者を探しているんだ!」するとその生物はうつむき、首を振ると、誰かに語り掛けるようにつぶやいた。」「この少年は駄目だ。辛抱が足らん。第一年を取りすぎている。修業は叶わん。」ムッとしながらマルークはふと気づいて恐る恐る尋ねた。「も、も、もしかしてあなたが伝説の勇者ヨーダ?」 そのときトットさんがどたどた歩み出てきて言った。「ヨーダ?お前、レオじゃねえか?」ヨーダはどぎまぎしなら慌てて答えた。「ぼ、ぼ、僕ヨーダだようだ。」 「おや?そんな駄洒落を言うところを見るとお前やっぱりレオだろ?」ヨーダは顔を真っ赤にして噴き出しそうにながらセリフを続けようとした。「お前、『ニャン騒シャーとミー八犬伝』に志茂玲央役で出ていただろ?」するととうとうヨーダは白状した。「もう、トットさんたら~。」
2022.02.05
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悪漢ベーダ―のアジトから命からがら逃げ延びたトットさんとマルークたちはアレ・デ=ランへ向かっていた。だがマルークは一人テーブルに体をうずくまらせ、一人頭を掻きむしっていた。「ベンが死んでしまうなんて。」ベン・ケイノービはかつてのジェダイの弟子であるパダワンだった悪漢ベーダ―との戦いでベーダ―に切り捨てられてしまった。ベンがボロコムに急ぐマルークたちに気づき戦いをやめてしまい、そのすきを逃さずベーダ―のライトセーバーがベンの体を裂いた。ベンの体はぼろ布が舞うようにその場に崩れ落ちた。 だがその時、確かにベンの声を聴いたような気がする。 『マルーク!惑星ゴタゴタのヨーダのもとへ急ぐのだ。』 ヨーダはジェダイの最長老であり、偉大な戦士であるとベンから常々聞かされていた、 一方、ボロコムの狭いレストルームではトットさんがグーとタラに話していた。「お前たちのお陰でえらい目にあったぞ。ほらお前達から預かったベーダ―のアジトの智頭だ。」トットさんはそう言ってアジトの地図を収めた小さなチップを渡して続けた。「俺はなあ、平和な地球に戻れればそれでいいんだ。」だがグーは言った。「トットさん苦労を掛けたね。でも平和な地球もベーダ―の奴らが目をつけていつ何時乗っ取りに来るか分からないんだよ。それでも平和かい?」「そうだよ、グーの言うとおりだ。宇宙国家の力に守られている俺たちだって今回捕らえられたんだ。奴ら何か強い後ろ盾を得て、最近一気に勢いを増しているようだ。それを危ぶんだ宇宙国家が、面だって動いてベーダ―とその陰にいる黒幕に気づかれないように、今回俺たちような民間人に地図を持って行ってくれるように頼んだんだ。俺たちも知らなかったんだけどな。」そう言ってタラは肩をすくめた。「それはすなわち、宇宙国家さえベーダ―をはじめ黒幕の操る手下に侵され、通常の通信さえも信頼できないという事だ。」グーの言葉にみんなの顔は雲った。 「喜べ、もうすぐアレ・デ=ランに着くぞ。忘れるな、2割増しだぞ!」その時バンが部屋に飛び込んで来た。 「僕は行かないよ。」その時マルークが部屋に入って来た。「ベンが僕の心にこう言うんだ。『マルーク!惑星ゴタゴタのヨーダのもとへ急ぐのだ。』だから僕はヨーダの住む惑星ゴタゴタに行く。」それを聞いたトットさんは頼んだ。「ヨーダだと?あのヨーダか?俺も連れてってくれ。俺もジェダイになりたいんだ。」「トットさん、トットさんはもうジェダイにならないんじゃなかった?」ジョンピーが言うとトットさんは食って掛かった。「馬鹿言え。今度は本当のヨーダに会えるんだぞ。」 こうしてマルークとトットさん、ジョンピーはヨーダの住む惑星ゴタゴタに向かう事になった。
2022.01.30
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ベン・ケイノービは首尾よくけん引装置を解除してミレニアム・ボロコムが係留されているドックへ急いでいた。 その頃トットさんとマルークたちはドックの影から中をうかがい、無数に行きかう手下たちの動きを目で追い、隙を見つけようと躍起になっていた。「爺さん、けん引装置をちゃんと解除できたのかな?さもなけりゃ折角ドックを飛び出してもすぐに逆戻りだぜ。」そう言ってバンは顔を歪ませた。「大丈夫さ、ベンはジェダイマスターだ。彼に出来ないことはない。」マルークはベンへの信頼を決して崩さなかった。「ジェダイマスターか。カッコいい!!俺もジェダイになりたかったんだ。」トットさんはそう言って夢見る乙女の眼差しになった。「トットさん。ジェダイって幼い頃に親から引き離されてジェダイテンプルで厳しい修行をしなきゃならないし、大人になっても結婚しちゃいけないんだ。トットさんもうおじさんだし、超美人の奥さんがいるじゃないか。」ジョンピーが言うと、「何?そうなのか?かみさんはともかく厳しい修行ってのは困るな。俺やっぱりこのままでいいや。」「以前ジェダイという人たちがいたと聞いたことがあるが本当だったんだ。」二人の会話を聞いた、救い出されたばかりのタラはつぶやいた。「ミディクロンという微生物が血液のなかに住んでおり、その数が多いほどフォースの力が強いと言われていたらしい。」グーも小学生の時に習った古代宇宙史を思い出した。 それはともかくトットさんたちが、ドックの中を見渡していると突如部下たちが一斉に一つの方向へ移動し始め、ボロコムの周りががら空きになるのが分かった。この機を逃さずボロコムへ向けてドックに飛び出した。 マルークは走りながら手下たちが移動し始めた方向を見るとドックの向こうの通路に二人の人影が立っていた。ベン・ケイノービと悪漢ベーダ―だ。二人はライトセーバーを構えて対峙していた。 「ケイノービ、久しぶりだな。」ベーダ―は老人に向かって唸った。「ベーダ―、落ちこぼれのベーダ―。」悪漢ベーダ―は少年期までジェダイテンプルで修業を受けたことがあり、ベン・ケイノービのパダワンと呼ばれる弟子だったことがあるのだ。だが生来怠け者で邪悪な精神の持ち主で、ジェダイの厳しい戒律に耐えられずテンプルを飛び出してしまったのだ。要するに彼はジェダイの落ちこぼれである。ベーダ―は少し身をよじったものの言い返した。「やかましい。俺はあの後ある偉大なシスの暗黒卿に拾われダークフォースを身に着けたのだ。お前はもう俺には勝てないぞ。」ベーダ―は胸を張りライトセーバーを右上に振り上げた。シスとはダークフォースを操るジェダイに対抗する闇の勢力である。ベンは横手にライトセーバーを構えて受けの体勢を取った。ベーダ―が先にベンに打ちかかったが、ベンは難なくはね返した。「おお、俺が昔観たスター何とかという映画みたいだ。」トットさんは感動した。しばらく切り結んで、ベンは再びベーダ―のライトセーバーを受け止めたとき、ドックの途中で立ち尽くすマルークに気づきニヤリと微笑み、何を思ったからライトセーバーを体の前に立てると目をつむった。ベーダ―はこの奇妙な行動に少し戸惑ったものの、すかさずベンをライトセーバーで切り裂いた。 が・・・・ ベンの体はその瞬間、着ていた服とライトセーバーを残して消えてしまった。それを見てベンは叫んだ。「ベーン!!」その声に気づいた手下たちはマルークの方へ戻って来た。その時、敬愛するベンの声がマルークの頭の中にこだました。「マルーク!惑星ゴタゴタのヨーダの元へ急ぐのだ。」
2022.01.22
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ミレニアムボロコムが係留されているドックの場所をようやく探り当てたところにグーととタラ、ラーズ夫妻を救い出したトットさんたちがやって来た。 「バン、あんた何かアイデアがあるのかい?」マルークが期待を込めてバンに尋ねると、期待を裏切るようにバンは肩をすくめた。「それがな、首尾よくボロコムまでたどり着いてドックを飛び出せたとしても、例のけん引ビームでたちまち引き戻されてしまうだろう。そうなりゃそれでおしまいだ。」ベンの言うとおりだった。「それは私がどうにかしよう。」それまで黙っていたベンが口を開いた。「この爺さんどうかしてるぞ?フォースとやらでけん引ビームから逃れようというのか?」そう言ってバンは鼻を鳴らした。「マルーク、けん引ビームのある場所を探してくれ。脱出する前に装置を停止させればいいのだ。そしてそこに私が行く。」「そんなことをしたらベン、あなたは宇宙船まで間に合わないかも知れないんだよ。」マルークの心配顔にベンは優しく微笑んで言った。「そうかも知れんな。そうなれば私はこの船で命を落とすかも知れん。だが今の私には希望がある、それはマルーク!君だ。もし私が戻れなければ惑星ゴタゴタのヨーダを訪ねるのだ。そして君が新たなジェダイオーダーの創始者となるのだ。」マルークが言い返そうとしたとき、ベンはそれを制して言った。「時間がない。マルーク頼む。」 その時基地にけたたましい警報が鳴り響いた。ようやく脱出に気づかれた。 すぐにベーダ―の手下が廊下に駆けだしてきた。いきなり銃撃戦が始まった。緑の高エネルギービームが廊下中を行き交った。雲の惑星べスピンで採取されるティバナガスの鼻を衝く匂いが辺り一面に充満した。 やがてベンはライトセーバーを片手に前に進み出た。「ベン!」マルークは悲痛な叫び声を上げた。一人の手下がベンめがけてビームを放った。その途端ベンのライトセーバーが一閃され、ビームは放った者を直撃して彼は倒れた。それにたじろいだものの、彼らは気を取り直して次々にベンに向けてビームを放ち、はね返されたビームが次々にその者たちを倒していった。 だが新手の援軍が押し寄せて来る。ベンは肩越しに叫んだ。「私がここを食い止める。君たちはボロコムに急げ!」「凄い!あの爺さん。ほんとにジェダイだ。俺のなりたかったジェダイだ!」トットさんには珍しく真剣な声色だった。そう、トットさんは一時スター何とかという映画を見て俺はジェダイになると言って飛び出したことがあるのだ。「そんなことよりトットさん、早く行かないと僕たちベン・ケイノービさんの足手まといになってしまうよ。」そう言ってジョンピーは重たい、重たい、重たーいトットさんの体を後ろから引っ張った。「こらマスP!今は緊迫した場面だぞ!『重たい、重たい、重たーい』って3つも繋いで話の腰を折るんだ?」その時、高エネルギービームがトットさんのすぐ近くをかすめた。「ひえぇー!待ってー!」今までの勇ましさはその辺りにかなぐり捨てて、トットさんはみんなの後を追って一目散。その早い事、早い事。皆を追い越す勢いだった。
2022.01.15
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バン・ソコとチューバッタを先頭に進む一団がいた。もちろんトットさんたちだ。もっとも二人がいるとすぐに怪しまれるのでバッグに入れられてチューバッタの背中に担がれていた。マルーク・ウシウォーカーとベン・ケイノービは倒した手下の制服を着こみ、バンたちの後に従っていた。 監房区域に入るドアは16桁のコードを入れなくてはならないのだが、それは現地で調達する計画だ。バンを先頭に区域の前まで来ると通路の影に隠れてしばらく待った。すると二人の手下が出てきて16桁のコードを入力して退出の手続きを行った。それを見逃さずバンは近づき声を掛けた。「ベーダ―がお前たちを呼んでくれと言ってたぞ。」手下二人は怪訝な顔をして答えた。「俺たちに?なぜ?俺たち何かしたかな?」バンは両手を広げしらばくれた。「さあな、俺に分かるもんか。お前たちの部屋で妙な物が見つかったとか言ってたぞ。」それを聞いて二人は青ざめて見つめ合った。これはバンのはったりで、海賊を生業とする手下どもは大抵何かをくすねて部屋に隠していることを知っていたのだ。「ベーダ―の親友の俺がとりなしてやろうか?」バンが思わせぶりに言うと二人はすぐに乗って来た。「じゃあついて来な。」 当然二人は物陰に呼び出され、当然中に入るコードを奪われて、当然部屋で気絶することになった。 首尾よく監房区域に侵入した一行は監視管の前に進み出た。トットさんに負けずデブの監視管がバンに詰問した。「いくらベーダ―親分と馴染みといっても、ここに入るコードは知らせられていないはずだぞ。」バンはニヤッと笑ってチューバッタに目配せした。チューバッタは一声吠えると肩から袋を降ろすと、トットさんとジョンピーを引っ張り出して、テーブルの上に置いた。「なんだこのデブの鳥は?確か今朝処刑されるはずじゃなかったか?」デブの監視管がデブのトットさんを見て叫んだ。「デブの鳥だと?おれはドバトのトットさんだ。お前にデブと言われる筋合いはねえ!」トットさんも負けずに言い返した。「お前達同じデブ同士で見苦しいぞ。」バンが怒鳴ると、デブの二人はそろってバンに振り向いた。その時チューバッタの強烈な一撃が監視管のみぞおちを捉え、あっさり気を失った。肋骨の5、6本は折れたことを覚悟しないといけないだろう。 口論に注意を奪われた監視管の完全な不注意だ。 マルークはコンピューターで検索して、すぐにグーとタラ、オーウェン夫婦が囚われている部屋を見つけ出した。「よし、ここは俺とチューイーが見張っておくから、鳥どもはベンの爺さん、夫婦はマルークが連れ出して来い。」 二組に分かれたチームは監房のそれぞれの通路に消えて行った。
2022.01.09
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「こいつなんて野郎だ。そんなに早く死にたいなら今ここでぶっ殺してやる、」手下はブラスターを構えるとマルークに向けた。 静かな誰も知らない秘密の通路にブラスターの不気味な発射音が鳴り響いた。 マルークは自分の上にのしかかって来た男の顔を見た。 もう生気はない。 わけが分からず彼が辺りを見回すと、その視線の先に一人の男が立っていた。 バン・ソコだった。 バンはブラスターの先を息で吹き消すようなそぶりを見せた。地球の西部劇ガンマンが良くやる仕草だ。もちろんブラスターは火薬拳銃ではないから煙などで出ないのだが、西部液など知らない彼もついそうしてしまった。 「バン・ソコ!お前が助けてくれたのか?でもどうして?俺たちを裏切ったくせに。」マルークはヨロヨロと立ち上がり言った。「俺がお前たちを裏切っただと?」バンはそう言って唾を吐き捨てた。「でもよくここがわかったね?」ジョンピーが言うとバンはトットさんを指さして言った。「そのペンダントのお陰だ。言ったろ。大事にしろお守りだって。そのペンダントは発信機になっていて場所を教えてくれるのさ。」そう言ってそこはトットさんを指さした。「えっ?そうなんだ。」トットさんは驚いて胸元のペンダントを見下ろした。だが残念そうに答えた。「でも俺、大事な地図を無くしてしまったんだ。」バンはいたずらっぽくニヤリと笑い懐からチップを取り出して言った。「地図ってこのことか?」「そ、そ、それ。どうしてお前が?いつ盗んだ?」トットさんが叫ぶとバンは澄まして言った。「盗んだとは人聞きの悪い。預かっただけだ。お前にペンダントをやったときに素早くな。お前が持っていると必ず見つかるからな。俺が持ってりゃ探されることはないってわけだ。」「なるほどそういう訳か?ジェダイの私をも騙すとは大したものだ。」ベンは感心して言った。「地図だけなら俺がアレ=デ・ランに行けばいいが、俺はあそこがあまり好きじゃないし、この地図にはこのアジトのあらゆる抜け道や構造が書かれているからやはり届けなくちゃならない。さあ、こうなりゃさっさとおさらばするぞ。」バンが言うと慌ててマルークが言った。「オーウェン叔父さんと、ベル叔母さんを助けなくちゃ!」「グーさんとタラさんも助けなくちゃ!」ジョンピーも続いた。「それは料金に入っていないぞ。俺の仕事はお前たちをここに連れて来るまでだ。これからは割増料金をいただくぜ。」 「でも彼らはどこにいるんだ?」ベンが聞くとバンは不敵に笑った。「それはここに入っている。」そう言って彼はデータパッドを手のひらの中で振った。 「なんだ、あんたもそうするつもりだったんじゃないか?」マルークが言うとバンはこう言ってウィンクした。 「2割増しだぞ、いいな。」
2022.01.06
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「トットさん、いつまで地図を持ってたの?」ジョンピーは記憶を辿ろうとトットさんに尋ねた。「そうだなあ。ああ確かお前がグーとタラを見つけたとき思わず羽の下に隠していた地図を触った覚えがある。だがボロコムから連れ出されたときもう一度確かめた時にはもうなかったんだ。」「そうするとその間か?何か思い出さない?」トットさんの答えにジョンピーは再び尋ねた。「そう言えばバンの奴、『大事にしろ、お守りだ。』とかなんとか言って、銀の鎖がついたこの小さなペンダントくれたなあ。」トットさんはお腹の溝に埋もれたペンダントを手繰り出した。「トットさん、そんなものもらってたの?」ジョンピーの言葉にトットさんは怒って言った。「なんだこんなもの。あんな奴にもらったものなど捨ててしまおう!」トットさんがペンダントを首から外し、ダスターシュートに投げ込もうとしたとき、ケイノービがそれを止めた。「まあトットさん、捨てるのはいつでもできる。そんなものだってなんかの役に立つかも知れんぞ。」バンの事を信用できないマルークは怪訝な顔で見つめていた。「ベン爺さんよ。こんなものがなんの役に立つか分からないが、ジェダイマスターのあんたが言うならしばらくは持っておくか。」「でも何でお守りなんて言ったんだろうね?」捨てることを思い留まったトットさんにジョンピーは疑問をぶつけた。「奴、なんかポケットをまさぐってゴミでも見つけたように引っ張り出して俺にくれたから、ただ単に邪魔だっただけじゃないか?」トットさんは毒づいた。 「どうやらあいつら本当に地図を無くしたらしいな。」悪漢ベーダ―はトットさんたちがいる部屋を監視するモニターから聞こえる音声を見ながら言った。「まあ、地図を無くしたのならアレ=デ・ランに届けることもできないのだから、いいんじゃねえか?」バンは皮肉っぽく笑いながら言返した。「そうだな。そうなりゃもうあいつらに用はない。明日にでも処刑してしまうか。」ベーダ―の言葉にバンは不敵な笑みを浮かべながら少し眉に皺を寄せて言った。「お前の好きにすりゃいいが、俺の出身のコレリアじゃ、その前の夜は好きな物を食わしてやるくらいの情けはかけるがな。」それを聞いてベーダ―はフンと鼻を鳴らして言い返した。「そんな風習なんて知らねえな。まあ最後の夜だ、ドド星で採れたベゴン豆くらいはつけてやろう。」「何?ベゴン豆だと?大海賊の親分のベーダ―様にしちゃ、余りにもしけたことを言うな?」バンは呆れて言った。「馬鹿言うんじゃねえ。これでも特別大サービスだ。」ベーダ―は憤慨した。 翌朝、ベーダ―の手下でもほとんど知らない秘密の処刑場に行く通路をトットさんたちは手下に後ろからブラスターを突き付けられて引き立てられていた。「ベン爺さんよ。あんたジェダイマスターだろ。どうにかできねえのか?」トットさんはベン・ケイノービに思い切り悪態をついた。「フォースと共にあらんことを。」老いぼれたかケイノービは何とも頼りないことしか言わなかった。マルークは先ほどから黙りこくっていたが遂に我慢できずに行動に移した。「マルークよせ!」ケイノービの言葉に耳も貸さず、彼は突如身をかがめてうずくまると次の瞬間後ろの手下に飛びかかった。どうせ処刑されるならここでひと暴れしても同じことだと思ったのだ。だが多勢に無勢、すぐに別の手下がマルークの後頭部を一撃して彼は床に倒れた。「こいつなんて野郎だ。そんなに早く死にたいなら今ここでぶっ殺してやる、」手下はブラスターを構えるとマルークに向けた。 静かな通路にブラスターの不気味な発射音が鳴り響いた。
2022.01.03
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「このアジトの地図をどこに隠した。宇宙船の中をくまなく探したが見つからない。なにせあの小ささだ、どこにでも隠せるからな。ならばこうして尋問して一人一人に訊いた方が早いと尋問台に座ってもらうことになった。場合によっては尋問が拷問に変わるかもしれんから注意して話すんだな。」悪漢ベーダ―は語気を強めて脅した。「地図?何のことだ?俺たちゃベイロ・オッカナの孫が描いた、爺さんの絵を持って行ってくれって頼まれただけだ。」トットさんは必死に言い訳をした。「どいつもこいつもそう言う。どうやら本当に拷問しなきゃならないようだな。」「ひっ!」トットさんは拷問という言葉だけで縮み上がった。だが、そんなに縮んでもデブの体、縮みようがないのだが。彼にしてはである。 「こら!マスP、彼にしてはとはなんだ?大体お前が書いているんだろう!筋書きを変えろ。例えば、うううん、例えばだな、トットさんの好きなソーセージをたらふく食べさせて気を許して白状するとかだ。白状するったって本当に知らないんだ。宇宙船を出るときにはもうないのに気付いたんだからな。」「そんなことしたら物語が面白くないじゃないですか?」その会話を横で聞いていたベーダ―はマスPに言った。「お前誰だ?この話を書いているだと?ならお前が地図の行へを知っているのだな?」「ひえ~!」マスPは慌てて筆を止めて考えた。「そうだ、ここに邪魔者を登場させよう!」マスPがそういうと、尋問室のドアが開きバン・ソコが入って来た。「ベーダ―。話は聞けたかい?」ベーダ―は不機嫌な顔をバンに向けると吐きせてるように言った。「お前も見たんだろ?その地図を。なら教えろ!」バンは驚いて、両手を横に広げて言った。「冗談じゃない。俺はただ雇われただけだ。確かに地図は見たが客の持ち物に手は出さない。欲しくもない。大体このアジトの地図だろ?見なくても目を瞑ってたっても来れるさ。」「こらバン!裏切り者!よくも俺たちをこんな目に遭わせやがって!」トットさんは短いを足を、ウィンナーのラインダンスのように振り上げた。「悪く思うな。俺も商売があるんでね。」バンは平然と澄まして言った。「きっとあの宇宙船のどこかに隠してあるに違いない。こうなったらお前の自慢のミレニアム・ボロコムを歯車一個一個までばらして探すことになるがいいのか?」ベーダ―の言葉にバンの表情は変わった。「そんなことをしたら、俺がベイロ・オッカナの所に垂れ込むぞ!」「何だと?その前にお前はお前の墓の中で永遠に眠ることになるんだぞ!昔の俺への借りがあるのを忘れたのか?でかい顔をするんじゃねえ!」ベーダ―は激しい剣幕だった。幾多の苦難をはったりと知恵と運で乗り越えて来たバンだ、ベーダ―に目配せすると外に連れ出した。 やがてトットさんとジョンピーとマルーク・ウシウォーカー、ベン・ケイノービは同じ部屋に移された。「トットさん、大丈夫だった?」ジョンピーが心配そうに言った。「バンの野郎が入って来たんで思い切りののしってやったんだが、その後二人で出ていてこうなったってわけだ。」トットさんが言うと、「何とも子供だましだな。私たちが気を許してうっかり地図の話をすると思っているんだろう。明らかに罠だ。」ケイノービは冷静に言った。「話をすると言っても本当に無くしたんだろ?トットさん言ってたじゃないか?」マルークはトットさんに聞いた。「恥ずかしながらそうなんだ。」トットさんは身を小さくしてうなずいた。彼にしてはだが。その時、トットさんはマスPをじろりと睨んで言った。「また話の腰を折るな!」
2021.12.30
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「まったくあの野郎、裏切りやがって。何がベーダ―の追っている奴は俺の味方だ!」トットさんは怒り心頭で、二頭身の体を転がすように兵士たちに引き立てられていた。「だから言ったんだ、あいつは信用ならないって。」マルークも同じくわめきたてた。兵士はブラスターで口やかましい二人の囚人の背中を後ろから小突いた。「トットさん、あんまり興奮するとお腹に、いや身に触るよ。」ジョンピーはトットさんをなだめた。ケイノービは相変わらず冷静に、周りを観察しながら監房への廊下を観察していた。 ソコは、バン・ソコはあれ以来姿を見ない。デブの土産のお陰で悪漢ベーダ―と仲直りし、恐らく祝杯でもあげているのだろう。 一行は第四監房、12区画、第三エリアに着くと、兵士は監視管に告げた。「囚人を連行しました。」監視管はモニターを確認して言った。「デブの鳥と痩せた鳥と老人と少年だな。収容指示が出ている。ご苦労。」監視管は部下を呼ぶと、それぞれの独房に連行させた。 「バン、あいつらどうやって見つけたんだ。」ベーダ―はバンに尋ねた。「いや、やつらの方からここへ連れてきて欲しいと頼まれただけだ。すぐにお前が探している奴らだと気づいたさ。だから迷わずここへお連れしたというわけだ。」「ありがとよ。借りが出来たな。」ベーダ―はソコの言葉に別段表情も変えず感謝の言葉を述べた。 ウォー!ウォー!ギャル―ガー! 「うるさい!黙れ!俺にも都合あるんだ。」バンは激しく攻め立てるチューバッタに怒鳴り返した。 ギャルル、ボワーオ、グワラー。 「俺も生きて行かなきゃならない。奴らの3倍のクレジットを積まれりゃ誰だってそうだろ。」 ギュリュリュ、グーア、ンンオーワ。 「お前はクレジットがすべてかだと?信用で酒が飲めるか?信用で腹いっぱいになるのか?」 バンはそう言い残すと荒々しく部屋を出て行った。 「なあグー、最近やけに監房がにぎやかだが何かあったのかなあ?」タラは海賊たちの料理にしては美味いジルクフルーツにかじりついているグーに言った。「そうだな。パトロールの奴らがデブの鳥とか言っていたのを聞いたぞ。」「デブの鳥ってもしかしてトットさんの事か?」とタラはグーの言葉に驚いた。「今頃とっくにこのアジトの地図をベイロ・オッカナの元に届けてくれて、今頃は救援隊が向かっているものだと思ったのだが。」二人は落胆の表情を浮かべ見つめ合った。あの地図ベーダ―に取り戻されたら、望みはついえてしまうのだ。 しかも、宇宙国家の二人はまだ制限区域以外なら、こうしてうろつき、好きな物を食べ、ゲームやスポーツも楽しめるが、そうでないものはいつなんどき命の危険に見舞われるか分からないのだ。
2021.12.26
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ミレニアムボロコムは巨大な宇宙戦艦のドックに係留されていた。海賊と言えども宇宙一の海賊を豪語する悪漢ベイダーの手下は、軍隊のように統制の取れたきびきびとした足取りで盛んに行きかっていた。その時ボロコムのビューポートの窓から外をうかがっていたジョンピーが叫んだ。 「グーさんとタラさんだ!」グーとタラは兵士に連れられてどこかへ向かうようだった。 トットさんも窓に這いあがって来た。「あの二人、この戦艦に乗せられていたのか?」そう言って顎と一緒にぼってりしたお腹を揺らした。 「ほう、あの二人がお前たちを地球という星に送ってくれるビリノン星の野郎たちか?」そう言ってバンは後ろで顎をしゃくった。 そのとき数人の兵士が銃を構えてこちらにやって来るのが見えた。兵士は窓から覗いているバンに気づくと銃で出口に来るように指示した。「俺を銃であしらうとはベーダ―の奴、手下にどんな教育をしているんだ?おいトット、お前にこのペンダントやろう。」バンは何を思ったのかポケットから銀の鎖がついた小さなペンダントと取り出し、トットさんの首に無造作に掛けて言った。「大事にしろ、お守りだ。」 バンはそう言い残しても出口に向かい、チューバッタが巨体を揺らしながら後に続いた。チューバッタは過去、バンに命を救われたことがきっかけで命の借りを誓い、いつ何時でもバンを守ることに忠実だった。 「大丈夫かな?俺たちの事気づいているかな?」トットさんは不安げにベンの後姿を見送った。やがてバンはボロコムの出口に立つと、兵士と何やら話し出した。ベンは目を少し細め、バンのやり取りをフォースの力で感じ取っているようだった。マルークはベンに向かって訴えた。「どうもあの男、信用ならない気がするんだけど。」しかし、ベンはそれをたしなめた。「マルーク、フォースに身を委ねるのだ。不安は疑惑を呼び、疑惑は恐怖を呼び、恐怖はダークサイドへと導く。」 「俺はバン・ソコってんだ。ベーダ―の野郎とは昔なじみの仲だ。これは何の真似だ、ベーダ―に向かいに来させろ。」バンのいつもの横柄な言いように兵士は鼻を鳴らして一言返した。「そのベーダ―様のご命令だ。」「昔の馴染みがわざわざ訪ねて来たっていうのに結構なお迎えだな。」バンは思い切りの皮肉を込めて言い返した。兵士は平然と言い放った。「積み荷は何だ?」バンは口元を少しゆがませると、いたずらっぽく言った。「ベーダ―の野郎にちょっとしたプレゼントをやろうと思ったのさ。」そう言ってバンは親指でボロコムを指さすと兵士に耳打ちした。 兵士は態度を一変させ、すぐにボロコムの船内に走り込んで来てトットさんを見つけると怒鳴った。 「おい、お前!例のデブの鳥だな?」
2021.12.23
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グウォー!!チューバッタの恐ろしい咆哮がミレニアム・ボロコムのデッキに響き渡った。悪漢ベーダ―の秘密のアジトへ向かう船内である。「ハトは勝っちゃいけないと言うのか?」トットさんは謂れのない非難に言いつのった。トットさんとジョンピーがあり合わせで作った将棋にはまったチューバッタは5回連続で負けてこの上もなく不機嫌だった。それを見てバンはぼそりと言った。「気を付けた方が良いぜ。ゲームで負けて相手の腕を引っこ抜いちまいたことがあったがらなあ。」威勢の良かったトットさんの顔は途端に青ざめ、ジョンピーに耳打ちした。「負けてやれ。」 傍らではマルークがベン・ケイノービの指導で、浮遊するボールから発せられるビームをライトセーバーで受ける訓練を行っていた。 ビシュッ、ビシュッ ジェダイの血を引くマルークは、ビームをライトセーバーで受けはするものの、時々失敗して激しい痛みに身をよじった。それを見てバンはせせら笑った。「フォースなんていう、ものは信じないね。まやかしだろう。」ベンはそんなバンを尻目にマルークに近づき、高射ようの防眩ヘルメットかぶせて言った。「これでやるんだ。」「これじゃ何にも見えないよ。」マルークの言葉にベンは澄まして言った。「目に頼るな。心の目で感じるんだ。」信じられないというようにマルークは首を振りながら、それでも再びボールに向けてライトセーバーを構えた。ボールはマルークに向けて容赦なくビームを浴びせた。そのたびに身をよじりながらも、彼は気を取り直し対峙した。 ビシュッ、ビシュッ、ビシュッ そして最後の数発を見事ライトセーバーで跳ね返して見せた。マルークは興奮してヘルメットを取るとベンに叫んだ。「見えた気がしたよ!」ベンは満足げに言った。 「君はフォースの世界に一歩踏み出したのだよ。」 その時ボロコムの警報が船内に鳴り響いた。バンは背伸びをして立ち上がり、操縦席に向かいながら言った。「そろそろベーダ―の我が家に到着したようだな。」バンは操縦席に着くと眉間に皺を寄せて言った。「どうしたんだ。赤のランプだ。ボロコムに何かあったのか?」 その時船の軋む音が聞こえた。ジョンピーは思い起こすようにつぶやいた。「俺たちゃ一番号がけん引ビームに引き寄せられたときの音だ。」「そんな馬鹿な。仲たがいしているとはいえベーダ―と俺は昔密輸業で鳴らした仲だぞ。なぜそんな捕虜を取るような真似をするんだ。」 「お前さん、相当嫌われているみたいだな。」ベンの言葉にバンはムッとした顔をして睨みつけた。
2021.12.19
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砂漠の風は熱い。とにかく熱い。だが湿度は低く、高速のスピーダーで頬に感ずる風は心地よいともいえる。マルークはベン・ケイノービをモズアイスリー宇宙港に送るスピーダーの運転席で、オーウェンおじさんにあれほど宇宙へ出たいと訴えていたにも拘わらず、いざ実現するとなると尻込みしてしまうとは、自分の不甲斐なさを感じながら一心に操縦していた。「おや?あれはにっくきジャワ族のサンドクローラじゃないか?」奴隷としてこき使われたトットさんが右手の砂丘の向こうに見える影を見つけて言った。「何か様子が変だよ。」ジョンピーも気づいた。 クローラーに近づくと、あちこちにジャワ族の者が倒れていた。「おい、しっかりしろ。どうしたんだ?」マルークがその中の一人を抱き起して問いただした。「海賊が、海賊がいきなりやって来てデブの鳥をみなかったかと・・・」そう言ってそのジャワはまた気を失ってしまった。 「デブの鳥?」声を合わせてジョンピーもマルークもベン・ケイノービも一斉にトットさんを見た。「お、お、俺はデブの鳥、なんかじゃ・・・・、なくもないか。」その時マルークが叫んだ。「家だ!海賊は悪漢ベーダ―一味、二人を追って来て、ジャワから売り先を聞き出し、そして家へ向かったんだ!」 一行はマルークの住むオーウェン・ラーズの農場へ向かった。そして悪い予感はあたり、農場はもぬけの空だった。そして入り口にマルーク宛の手紙か貼られていた。「お前の家族はもらって行く。10日のうちにデブの鳥を連れて、お前たちが持っている地図の場所まで来い。さもなければ結果の責任はお前が取ることになる。」 マルークの目はベン・ケイノービに向けられ、揺るがない決意とともに告げた。「ベン、僕もジェダイになるよ。そして悪漢ベーダ―を倒す。」 こうして4人は宇宙の荒くれどもが巣くうモズ・アイスリー宇宙港の近くの酒場にやって来た。「マルーク、君はここで待っていてくれ。私が腕利きのパイロットを探してくる。」やがてベンは一人の横柄な顔つきの人間の男と、天上に頭が届くほどお巨大な猿を連れて戻って来た。「こっちは船長のバン・ソコ、こちらは副操縦士のウーキー族のチューバッタだ。」船長のバン・ソコは不敵な眼差しで見渡すと言った。「積み荷は爺さんと、この鼻たれと、デブの鳥とやせっぽちの鳥か?で行く先は?」バンがケイノービに振り向きじろりと睨んだ。「私たちをこの地図の所まで運んでもらいたい。ところでお前さんの船は速いんだろうな?」ムッとしてハンは怒鳴った。「速いかって?お前ミレニアム・ボロコムを知らねえのか?ケッセルランをたったの12パーセクで走り抜けたんだぜ。」得意そうにバンは鼻をこすってその地図を見て唸った。「なんてこった、これはベーダ―の野郎のアジトじゃねえか?」「お前さん、ベーダ―と知り合いかい?」ベンの問いにバンは言い返した。「知り合いかだと?ベーダ―と俺とはむかし密輸を競い合った仲だ。」「じゃ、会いに行くのは問題ないな!」トットさんが言うとバンはじろっとトットさんを見て、眉間に皺を寄せ片方の目を吊り上げた。「お前デブの鳥だな?たしかベーダ―の奴、デブの鳥を探しているようだな?」「この鳥はデブリンバトっていってデブなのは当たり前でいっぱいいますよ。」文句を言い返そうとするトットさんのくちばしを押さえながら、ジョンピーは必死に言いつのった。バンはいぶかしがる表情ながら言った。「まあいい。ベーダ―と俺とはあることで仲たがい中だ。ベーダ―に追われるのものは俺には味方ってことだ。もしそのデブの鳥に会ったらそう言ってやってくれ。」トットさんやマルークたちは複雑な表情で彼を見た。
2021.12.16
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トットさんとジョンピーはマルーク・ウシウォーカーとともにベン・ケイノービの前に座っていた。 「さて、話を聞かせてもらおうか?あっ、その前に・・・・」 ここはベン・ケイノービの家、いや家というより小屋という感じだった。寝る場所とスピーダーくらいの広さの床と小さなキッチンくらいしかない、質素という事もためらわれるほどの住み家だった。ベンは部屋の端にある、古ぼけた箱に歩み寄るとぼろ切れに包んだものを持って来た。彼が布をめくると20センチほどの筒状の物が現れた。「マルーク、これを君のお父さんから預かった。君に渡して欲しいと。」マルークは目を丸くして驚いた。「どうして今まで黙っていたの?」「何度か渡そうとしたのだが、君のおじさんが許さなかったのだ。」「そ、そ、それはライトセーバーじゃないか!」叫んだのはトットさんだった。そう、以前トットさんはジェダイになると言って家を出て、ヨーダダに教えを乞うたことがあるのだ。もちろん彼はジェダイになれるはずもないのだが。 マルークはライトセーバーを受け取ると顔の前まで持ち上げ、筒の中ほどにあるスイッチを押すと、ブーンという唸る音とともに、目を覆うばかりの細く長い白い光がまっすぐ伸びた。 「ようやく君に渡すことが出来た。それでは改めて、トットさんとジョンピー君。君たちがここに来た理由を聞こうか?」ジョンピーが今までの経緯を話して、グーとタラから託された小さなチップをベン・ケイノービに渡した。彼はチップを受け取ると、グーたちがやったようにチップを捻じって広げ、子供が描いた絵を表示させたが、更に絵の上をトン、ト、ト、トントン、トントーンと叩くと絵はたちまち地図に変わった。 トットさんも、ジョンピーも驚いて目を見開いた。「これをアレ=デ・ランのベイロ・オッカナに届けて欲しいという事だな?」ベン・ケイノービにトットさんは尋ねた。「なんだ?この地図は・・・・」ケイノービはニヤリと笑った。「これは宇宙大海賊の悪漢ベーダ―のアジトのある地図だ。子供の絵に隠し、民間人の君たちに頼んでカモフラージュしようとしたのだろう。」「カモのフライ?」トットさんの「いっぱいソーセージ喰わせ論」級のボケにジョンピーは慌てて訂正した。「違うよ。真の姿を偽って一見違うように見せることをカモフラージュって言うんだ。」それを聞いて、同じ鳥族のトットさんはハト胸をなでおろした。 「海賊の手下は様々な所に潜り込み、この情報もこっそり得ていたのだろう。グー君もタラ君も危ない橋を渡らされたわけだ。」ケイノービはしばらく考えマルークに向かって言った。「私と一緒にこれを届けにアレ~デ・ランに行く気はないかね?そしてマルーク、君もジェダイになるんだ。」急に自分に向けられた言葉に驚いて言い返した。「無理だよ。僕は農民だ。おじさんの農場を手伝わなくちゃならないんだ。」「君もおじさんに似て来たな。」「僕のスピーダーで宇宙空港のモズ・アイスリーまでは送りますよ。」ベン=ケイノービの言葉にマルークは渋い顔でつぶやいた。
2021.12.12
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ベル―おばさんはいつものようにせっせと家事仕事をしていた。マルークはおばさんお得意の地下豆スープをすすりながら、チラチラとオーウェンおじさんの顔を見た。おじさんは相変わらず不機嫌な顔で同じくスープをすすっていた。マルークは意を決して口を開いた。「おじさん、僕パイロットになりたいんだ。そのためには学校に行かなくちゃならない。行かせてくれないかな?」おじさんはギロッとマルークの顔を見たが、もう一口スープをすすると言った。「この農場をやって行くにはお前の力が必要なんだ。今年十分な収穫があれば来年は行かせてやるよ。」「去年もそう言ったじゃないか!」そう言ってマルークはスプーンをスープに沈めると食卓をあとにして、自分の部屋に戻った。 「マルークに農場の仕事は無理よ。父親の血が流れているのだもの。」ベルが言うとオーウェンはぼそっと言った。「それだから心配なんだ。」 マルークが部屋に戻るとトットさんもジョンピーも姿を消していた。マルークはおじさんが怒る顔を想像するといてもたってもいられなくなり二人の後を追った。あれだけ外にはオタスケン・レーダーという野蛮な種族が住んでいて、見つかればすぐに殺されてしまうと釘を刺していたにも拘わらず無茶な奴らだ。マルークは追跡機能を頼りにスピーダーを走らせ、ようやく二人を見つけた。 「お前達!逃げ出すとはなんて奴らだ!!前にもここはオタスケン・レーダーが住んでいるって言ったよな。殺されても知らないぞ。」「ごめんなさい。マルークさん、ベン・ケイノービという人を知らない?」ジョンピーは訴えるようにマルークに尋ねた。「ベン・ケイノービはこの先に住んでいる風変わりな爺さんだけど。」マルークは答えた。「僕たちグーとタラが悪漢ベーダ―に捕まってしまったので、このチップをアレ=デ・ラン星のベイロ・オッカナという人にこれを代わりに届けてもらうようにお願いしないといけないんだ。」ジョンピーの言葉にトットさんはムッとした顔をしながら言った。「俺は反対したんだけどな。」マルークは悪漢ベーダの名を聞くと人が変わったように顔色を変えて叫んだ。「悪漢ベーダだって?あいつは僕の父さんを殺したんだ。だからパイロットになって父さんの仇を討ちたいんだ。」 その時恐ろしく、野太い笛の音が谷間にこだました。オタスケン・レーダーの仲間を呼び寄せる角笛の音だ。マルークが辺りを見回すと、時すでに遅く5人のオタスケン・レーダーが武器を構えて迫っていた。マルークはレーザーガンを構えたが、多勢に無勢、しかも四方から近寄る敵になすすべもなく追い詰められて行った。 しかし、そのとき谷に恐ろしい咆哮が響き渡った。その咆哮を聞くとオタスケン・レーダーたちは途端にあたりを見回し、慌てて逃げだした。砂漠に棲むクレイト・ドランゴンの声だ。恐ろしいオタスケン・レーダーは逃げ出したが、それよりももっと怖いクレイト・ドラゴンが現れるとは。3人が身構えながら固まっていると、遠くに人影が見え次第に近づいてきた。「マルーク、こんなところに来るなんて。」この老人がクレイト・ドラゴンの吠え声を真似ていたのだ。「ベン。この二人があなたにお願いがあるって言うんだ?」ベン・ケイノービは深々と被ったフードをとるとトットさんとジョンピーを見て言った。「この老いぼれに頼みとはいったい何事かね?」
2021.12.09
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「おおーい!ここだ~!!」二人は必死で砂漠をやって来るサンドローラーという巨大なトラックに手を振った。がしかし、果てしない砂漠に現れた天の助けは地獄の悪夢に変わった。 「お前達ちゃんと働かないとかまどの燃料にしてしまうぞ。」ジャワという小柄ながら意地の悪い種族に拾われたトットさんたち二人は休む間もなく働かされていた。他にもそんな連中で乗り物の中は満杯だった。ジャワは砂漠で拾った奴隷たちをこき使いながら、砂漠で水分抽出農場を営む農民たちを回って、この奴隷たちを売りさばく商売をしていた。 やがてボーっとサイレンが鳴ると、乗り物の側面にある巨大な扉が開くと、外から乾いた砂混じりの風と強烈な日差しが一気に車内に充満した。「降りろ、さっさと降りろ。」ジャワは武器を構えると奴隷たちを降ろし始めた。商売の時間だった。トットさんとジョンピーも皆に続いて、熱い砂の上に降り立った。 「マルーク、マルーク。」「何だい?ベルおばさん。」マルークと呼ばれた少年が円形状に深くくぼんだ農場の中庭を覗き込むと、おばさんはまぶしい太陽に光を片手で遮りながらマルークに言った。「よく働くのにしてね。」「分かってるよ。みんなヨレヨレで使いものになりそうもないけど。」マルークはそう言ってジャワたちの店へ向かった。オーウェンおじさんと見て回り、小柄だが生きのよさそうな奴隷を見つけてマルークは言った。「おじさん、この見慣れない鳥は良く働きそうだよ。」指さした先にはジョンピーが立っていた。「よし、それをくれ。」おじさんはジョンピーを買うことにしたが、その横にいたトットさんには目もくれず。「おーい、ジョンピー!!俺も俺も!!」トットさんの悲痛な叫びにジョンピーはマルークの袖を引っ張って言った。「あの太った鳥は漬物石くらいにはなりますよ。」マルークはふだんおばさんが漬物に使う石がないと愚痴を言っているのを思い出しおじさんに言った。「おじさん、この太った鳥はどうかな?漬物石代わりに。」そうやってトットさんはジョンピーのおまけで、しかもタダでもらうことが出来た。ジャワの方も働かないこのデブの鳥を持て余していたのだ。 「俺はお前のおまけか?俺はタダか?ゴミか?俺は漬物石か?」ブツブツ言うトットさんにジョンピーは言った。「でも助かって良かったじゃないか?」 そうして二人はこの農場で働くことになった。働くと言ってもトットさんは漬物桶の上にただ座っているだけだが。 マルークは、ある日ベン・ケイノービという男が母親を亡くしたばかりの赤ん坊を伯父のもとへ連れて来て、少年へと成長した姿だった。 名前はマルーク・ウシ―ウォーカー。 新たなる希望となる少年だった。
2021.12.05
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グーとタラの手作り宇宙船『俺たちゃ一番号』は最初に地球に不時着した時のようなエンジントラブルもなく順調に惑星アレ=デ・ランに向かって航行していた。そこに住む宇宙国家きっての大物政治家ベイロ・オッカナの孫が描いた彼の似顔絵を届けるためだ。「グー、後どのくらいかかるの?」ジョンピーが尋ねるとグーは航行制御モニターを見て答えた。「あと3標準時間かな?」ジョンピーは目を丸くして言った。「さっきも3時間って言っていなかった?」それを聞きグーはもう一度モニターを確認したが、やはり到着残り時間3標準時間と表示されていた。「おかしいな?またタラの奴、宇宙船の整備に手を抜きやがったかな?」「何だと?俺が手を抜いた?グーじゃあるまいし。」ビリノン星の兄弟がにらみ合っていると、ジョンピーが気が付いて言った。「速度がゼロになっているよ!?」そんな馬鹿なと二人がモニターを見るとジョンピーが言った通り速度はゼロになっていた。しかも今度はマイナスになって行くではないか。「どうした?どうした?」そこに彼の行くところトラブルの嵐のトットさんがやって来た。 だが3人は青ざめてトットさんの顔を見つめて同じく叫んだ。 「速度がマイナスになっているんだ。」 そのとき船体に激しい揺れが起こり始めて、最後にガクンと大きな揺れとともにおさまった。 タラはその時、宇宙船の窓から外の景色を見て気づいた。「宇宙海賊だ!奴らに宇宙船がけん引されて捕まったんだ。」「なに!」グーはそう言ったまましばらく黙っていたが、おもむろに口を開くとトットさんたちに言った。「君たちは宇宙国家の者ではないから、宇宙国家の法律で守られていない。だから脱出ポッドで逃げるんだ。さもないと命の保証はないからね。」宇宙国家の者はその法律で守られており、それを侵すと宇宙国家全体を敵に回すことになるのだった。 「グーさんたちは大丈夫なの?」ジョンピーは不安げにグーを見上げながら言った。「なあに、俺たちは大丈夫さ。」グーの言葉にタラも怪訝な顔で頷きながら、「それにこの絵を託した人が、もし難しそうなら惑星タートルインに住むベン・ケイノービという人に頼んでくれと言ったんだ。その時、たかが子供の絵に大そうなことだとは思ったんだけど。だからこれをその人に届けてくれるかい?」そう言ってタラはベイロ・オッガナ議員に届ける絵のチップをジョンピーに渡した。 急がねばならない。 トットさんとジョンピーは脱出ポッドに入れられ、すぐさま惑星タートルインへ向けて発射された。 「ボス、宇宙船から脱出ポッドが1機飛び出しました。しかし、中には知的生物は乗っていません。」ボスと呼ばれた男は乗組員の言葉にフンと鼻をこすって言った。「放っておけ。どうせあのオンボロ宇宙船のことだ、機器が故障でもしたんだろう。」 そのボスの名はベーダ。宇宙では悪漢ベーダと呼ばれていた。 一方、惑星タートルインに着くなりポッドの扉を開き、周りの景色を見た途端途方に暮れるのだった。 そこは見渡す限り砂漠の世界だった。「なんか、とんでもないことになっちゃったね?」ジョンピーの言葉にトットさんは黙ってうなずいたがやがて怒鳴った。「こらマスP!また俺を大変な目に遭わせやがって!」
2021.12.02
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「地球に行く前にアレ=デ・ランって星に寄ってみようと思うんだ。」グーはトットさんたちに言った。「アレ=デ・ラン?どんな星なんですか?」ジョンピーが尋ねるとタラが答えた。「アレ=デ・ランは平和な星で、そこにある物を届けて欲しいと友達に頼まれたんだ。」 ビリノン星にはエントランス・センターがあり、そこをくぐるだけで星のどこへでも行けるのだが、さすがに5千7百光年離れた星間でのエントランス・システムは開通していなかった。それにはまさにブラックホール級のエネルギーが必要になるからだ。 タラが言った。「アレ=デ・ランにはベイロという爺さんが住んでいて、その孫が自分で描いた爺さんの似顔絵の実物をそのまま送りたいそうなんだ。今度俺たちが地球へ行くって言ったら、その途中にこの絵を届けてくれないかと頼まれたんだ。ほらこれだよ。」そう言ってタラは小さなチップを見せた。「何だいこのかけらは?どこが絵なんだ?」トットさんの目の前でタラがそのチップをちょっと捻るとたちまち広がってちょうど画用紙くらいの平らな白い板に変形した。グーがその板を指先でトントンと軽く3回たたくと、瞬く間に絵が現れた。それはそれはいかにも子供の絵らしい一人の人物だった。「これがベイロってお爺さん?」ジョンピーが尋ねた。「シロネトヤマコ・スペース・ロジスティックスに配達してもらえばいいのに。」 「二人はいつも何かトラブルに巻き込まれるみたいだけど大丈夫なんだろうな?」トラブルそのもののトットさんが言った。「何?」トットさんはそう言ってじろっとマスPを睨んだ。グーとタラは自信ありげに大きく頷きながら、「絶対、必ず、誰が何と言おうと、正真正銘、神に誓って、100%大丈夫だ。」きっぱりと言ったが、最後にぼそっと付け加えた。「・・・・多分。」 「ん?」最後の言葉にトットさんは一抹の不安を感じたが、宇宙発展レベル2の地球になんか誰も行こうともせず、唯一グーとタラたちが送ってくれるというのだからそれ以上は何も言えなかった。
2021.11.28
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カナイドに向かう途中ワームホールで黄色いデブリバトに出会い、彼についてなんと170万光年に離れたビリノン星にやって来たトットさんとジョンピーはビリノン星でグーとタラに再会し、ビリノン観光を終え、さあ地球に帰ろうとしたところ、あろうことかワームホールの入り口は消滅してしまっていた。いくら気まぐれなワームホールといっても、さあ帰ろうかというときに消滅してしまうとは。「でも中にいるときでなくて良かったじゃないか。そんなことになったら永遠にワームホールの中に閉じ込められてしまうことになるんだよ。」タラの言葉にトットさんもジョンピーも鳥肌が立つ思いだった。 もっとも元々鳥なのだから鳥肌なのは当たり前だ。 今までそんなことなど露にも思わず気楽に中を行き来していたとは・・・・ 「トットさん、僕たちどうしよう?」ややあって、気を取り直したジョンピーはトットさんに尋ねた。「どうするかって、どうもこうもねえだろう。帰る道が亡くなっちまったんだ。」「トットさんはいいよ、仲間のデブリンバトがいるから・・・」ジョンピーの言葉にトットさんはブヨブヨのやかんのような体を震わせて、「お、お、俺は地球のドバトのトットさん・・・・」やかんが沸騰して、今まさに弾けようとしたところににグーが割って入った。「まあ、まあ君たちそんなに揉めないで。地球までのワームホールが亡くなってしまったけど、宇宙船組み立てキットで俺たちが組み立てた『俺たちゃ一番号』でも15標準日ほどでつけるんだぜ。何なら送って行ってやろうか?」グーの言葉にトットさんとジョンピーは目の色を輝かせてうなずいた。「でも俺たちは宇宙国家の色々な所で行われるイベントに乗り込むためにこの宇宙船を作ったんだ。だから悪いけど所々寄り道させてもらうけどいいかい?」このタラの言葉にも二人は、いつか故郷の地球に戻れるのならこの際、宇宙旅行ができることを喜んだ。 だが思い出して欲しい。 そもそもグーとタラの宇宙船は故障して地球に不時着し、そこで出会った宇宙国家のオノ星のジョンジさんの助けで地球を飛び出せたものの、今度はボチコレオ星という最低レベルの宇宙国家加盟星でぼったくりにあいながら、どうにかビリノン星までたどり着いたのだ。彼らの行くところトラブル続き、果たして無事二人は地球にたどり着くことはできるのだろうか? 「『果たして無事二人は地球にたどり着くことはできるのだろうか?』ってマスPお前が書くんだろうが?くだらん話に俺たちを巻き込むんじゃねぇ!!」またまたトットさんは哀れなマスPに食ってかかった。「それはそうなんですが、そうしないとこのお話進まないじゃないですか?」「トットさんとジョンピーはグーとタラに地球まで送ってもらったとさ、ジャンジャン!これでいいんだよ。」マスPの言葉には耳も貸さずトットさんは喚いた。
2021.11.25
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