ここまで読んでみなさんは、たぶんこう思っただろう。「ははあ、チャールズ・ブラウンの CD を手に入れたな」......と。
89年の初め頃に CD プレーヤーが我が家に来た。以来、毎年少しずつクリスマスアルバムを買っている。 それまでに僕が持っていたクリスマスの LP は、不朽の名盤の2枚、ビーチボーイズとフィル・スペクター、それとバンドエイドだけで、あとは自分で作った寄せ集め盤のカセットが数本あるだけだった。 例によって CD の買い方は、とりあえず中古屋がメインなので、クリスマス・アルバムといえども例外ではない。
中古屋とて商売だから、季節に合わせたディスプレイを心がけるのが常識。クリスマスが過ぎると、クリスマス・アルバムの商品価値はとたんに落ち、値段が極端に下がる例も珍しくない。 でも、その時こそ、我々 (おっと失礼) わたくしの出番なのだ。このような方法で、今までに相当数の CD を手に入れた。現在とりあえず 25~6枚あるうちの半数以上がこうして僕の手元に収まっているのだ。
というわけで、数年前の季節はずれの時期に ACE Records の "Rock and Roll Christmas" を手に入れた。季節はずれにもかかわらず、1000円ちょっとしたので、比較的高い方だった。 ジャケットは、サンタ・クロースとミニスカ・サンタ衣装のおねえさんを描いたマンガタッチの絵で、老眼鏡をかけないと読みとれないような小さな文字で、FEATURING : HUEY P. SMITH,CHARLES BROWN,THE DR. JOHN BAND......と全部で10のミュージシャン&バンド名が書いてあるだけ。曲目もプロデューサー名も書いてない。 けれど、ACE レコードと Dr. John の名前だけあれば、即買いの条件には十分だった。
早速聴いてみると、これがまた、いい。 イーグルスのイントロに慣れていたので、「キーン コーン カーン コ~ン」の鐘の音のかわりに、サックスとオルガンが「ミレドシラソファミ~~」と鳴るのは意外だった。"♪ Bells will be ringing...." の歌詞は同じだ。間奏も予想どおりサックスのソロで、全体にブルース臭が漂うチープな名演だった。 しかし、チャールズ・ブラウンという人の声は、比較的さらりとしていて、黒人ブルースマンによくある、いわゆる野太い声でもしゃがれた声でもない。その声と淡々とした歌い方が、またこの曲に合っている。
ところが、この CD が不親切きわまりないのだ。二つ折りのジャケットを開くと、中に PRODUCER : John Vincent and Dr. John とは書いてあるのに、どの曲を誰が歌っているかが記されていないのだ。 このときまだ僕は、『ふたりだけのクリスマス』がチャールズ・ブラウンの曲だということを知らなかったのだから、イライラは募ったが、インターネットはすごい。ちょっと検索すれば、すぐに出て来るではないか。google サマサマでごわす。
世の中にはすごい人がいるもんだ。この人のクリスマスレコードのコレクションは、半端ではない。博物館ができてしまいそうだ。僕は CD 25~6枚なんて自慢げに書いたけど、ちょっと恥ずかしくなってしまう。
"Please Come Home for Christmas" という曲は、オリジナルもイーグルス・バージョンも、ともに後世に記憶されるべき素晴らしいクリスマス音楽だ。 ただ『ふたりだけのクリスマス』の邦題は、歌詞をふまえたら『ふたりだけのクリスマスが迎えられたらいい。もしだめでも、正月までには戻って欲しい』という長い題名を縮めたものだと思ってもらわないと、とんだ誤解を招きそうだ。原題の方を理解してもらえればよろしいかと......。