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えらいことです。木星を周回しながら数々の衛星や木星本体を調査しつづけていたあの探査宇宙船ガリレオ号が、最後の任務を前についに故障してしまったようです。ガリレオが今まで送り続けてきた膨大で貴重なデータは惑星探査に大いに貢献してきたのですが、最後の段階でぶっ壊れてしまうのはなんとも残念な話です。どうして故障してしまったかといいますと、最近ガリレオは最内衛星であるアマルテイアの内側に入り、木星の表層部を過ぎて木星の最も激しい放射能帯に入ったことが原因のようです。この強烈な放射能がテープ記録装置を破壊してしまったのです。テープが再起動できなければ貴重なデータは全て失われることになってしまいます。探査機がこのまま木星の重力により落下し続けると、2003年の9月には木星に吸い込まれてしまう運命にありますが、それより先に地球に向いたアンテナを維持するだけの推力を失ってしまう可能性もあります。NASAのガリレオプロジェクトの科学者たちは、もう数週間はなんとかテープ装置を修復するべく努力を続けると言っていますが、望みは薄いかもしれません。探査機の機器類は自動的にセーフモードに入る前までは正常に動作していました。セーフモードとは放射線による被害を最小限にするため不要な装置を全て停止することですが、11月15日にシステムが再起動した後もテープだけがなぜか再起不能に陥っていたのです。当初、過去にも何度かあったようにテープが詰まってしまったのでは考えられましたが、現在では技術者は放射線に晒された装置の電子系統がやられてしまったようだと結論付けています。回路の発光ダイオードもしくは光トランジスターが影響を受けたとNASAは発表しています。木星のような巨大ガス惑星の成り立ちを知る手がかりになり得る貴重なこれらのデータが失われることは、惑星科学者たちを大いにがっかりさせることでしょう。ところで、このような強烈な放射線は大気圏外では至極日常的なことであり、実を言うと人間がこれに耐えるだけの防御システムは未だに確立されていないのが現状です。磁気嵐などによる電磁波のバーストでは外宇宙では簡単に致命傷になりえます。最近、テレビなどでも取り上げられている人間の月面着陸はまやかしだと唱えている人たちの一つの根拠がこのことなのです。それでもガリレオは当初計画されていた期間より5年近くも長持ちし、設計上耐えられる量以上の放射線を4度も乗り越えてきていますのでとても良く頑張ったと言えます。やがては木星の膨大な重力に捕らわれて打ち砕かれるであろうガリレオは、最後の務めを果たして有終の美を飾ることが叶わずさぞかし無念であろうと、太陽に吸い込まれていった鉄腕アトムとだぶらせて感情移入してしまう私はロマンチックに過ぎるでしょうか。
2002年11月28日
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1960年代から始まったの米ソの宇宙開発競争ではたくさんの無人、有人あるいは有犬、はては有猿(?)の人工衛星が打ち上げられてきました。気象衛星や通信衛星も多数地球周回軌道上にあるわけですが、当然老朽化したり故障したりして永久に人工衛星であるわけではありません。役目が終わったり故障したりしたものは、徐々に速度が落ちて、やがて地球引力に引き寄せられて大気圏に突入し、多くは燃え尽きてしまうのですが、巨大なものに関しては完全に焼失せずに人工隕石として地上に落下するものもあります。以前の某国営放送による番組では無数のこういった不要となった大型のスペースデブリ(宇宙ゴミ)が地球の周りを回っているようです。News Scientistによりますと、最近打ち上げられた通信用衛星に不具合が発生し、十分な高度を得るに至らず下手をするとすぐに地球に落っこちてしまいそうだということです。この衛星はカザフスタンのBaikonur宇宙センターから打ち上げられた5.25トンの無線通信用のASTRA-1Kというものですが、これに使われたプロトンKロケットが故障してしまったのです。現在の高度は175kmで、この地点からさらに高度を上げるためのロケットが点火せず、このままだと数日間のうちに大気圏に再突入してばらばらになってしまいそうなのです。そしてこの破片のうちどのくらいが燃え尽きずに地上に落下するかは定かではありません。考えられる緊急措置としては衛星に搭載している補助エンジンを噴射して、少しだけ高度を上げて、しばらく(それでもおそらく数ヶ月の寿命延長と言われています)落下を延期させ、その間に本格的な救済策を検討する方法があります。衛星の操縦を行っているSES ASTRAはこれに成功して少しだけ寿命を延ばすことに成功したと報告してます。本格的な救済策ですが、英国のロケット製作会社であるサリーサテライツの技術者によると、宇宙タグボートのようなものを使って、衛星の本来の高度である36000kmまで曳航してやることが可能であるとしていますが、未だに現実にこれが行われたことはないのです。スーパーマンがいれば簡単に引っ張って本来の軌道に戻してくれるのでしょうが、架空の人物には頼りようがありませんしね。記事によりますと、不幸中の幸いというか、衛星の軌道が地球の赤道上にありますので、最悪燃え残った衛星のかけらが地表に激突するとしても、赤道上付近、つまり海洋上か人口のほとんど無い地域に限定されるので被害は殆んどないだろうと予測しています。しかし!シンガポールや中部アフリカには人口は少ないとはいえ、人間が暮らしているのです!万が一にも被害が出たりしたら誰が責任を取るのでしょうね?それに加えて人が住んでいなければ、アマゾンのジャングルや南洋の小島だったら構わないというのもなんだか乱暴な話のような気がします。ロケットを打ち上げたヨーロッパ宇宙機構の面々であるヨーロッパの国々には影響がないからよしとしているのでしょうか?ずいぶん勝手な話のように思うのは私だけでしょうか?外宇宙からの飛来物である隕石ならば、ある種の天災としてとらえることもできますが、この場合や、将来発生するであろう過去の遺物の衛星が落ちてくるのは明らかに人災というほかありません。自力で制御不能でどこに落ちるか分からないような代物に関しては、打ち上げた国が責任を持って被害が出ないようにするのが当然と言えるでしょう。地雷といい、放射性廃棄物といい、自分で自分の尻が拭けない(下品にて失礼)のはとても文明国の所業とは思えません。第一、子供たちに示しがつかないではありませんか。
2002年11月27日
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本日の話題は宇宙や環境からちょっと離れまして、「コンプレックス」です。実はこの言葉は、人によってはそれぞれの専門分野に応じて連想する事柄が異なる場合があります。ごくごく一般的には「私は頭が大きいからコンプレックスがある」などと、劣等感と同義の言葉として認識されています。普通の会話の中では「劣等感」と解釈して特に異議を唱えることもないのですが、厳密に言うとちょっとニュアンスが異なります。コンプレックスの本来の意味は「複合観念」というものです。劣等感を指す場合は、inferiority complex と言うべきですが実際には区別されることはありませんね。では複合観念とはなんぞや、ということになりますが、文字通り複雑な想い、あるいはちょっとしたこだわりが生まれているという心理的な状態のことです。言い換えれば怒りや悲しみなどの感情と結びついている意識ということなります。例えば、マザコンだのファザコンだのと言う言葉ははそれぞれ、マザー・コンプレックスとかファザーコンプレックスの短縮形ですが、母親や父親に対して普通以上に愛情や拘りがあってその存在が大きなものになっている状態ですね。私の感覚では、一般的には母親などへの依存度の高い傾向の人をこう呼ぶことが多いように思います。幼児期から成長するにつれて、人の心の中には上位自我やアニマ(理想の女性像)やシャドウ(影)などいろいろな像が精神的世界に無意識に存在し、それぞれのイメージによって人の考え方や嗜好の傾向が決まっていくとされいます。バランスよくこれらのイメージが形成されるのが好ましいのですが、ときとして偏ってしまうと性格異常として体現されてしまうことがありますね。ところで、この言葉は数学や電気などの分野に深く携わっている人たちには「複素数」という言葉を連想させるでしょう。数学の話ですので蕁麻疹が出たりする人はここは飛ばしましょう。数学の世界ではそれ自身を二乗すると負の数値になる不可思議な数を定義しています。実際にはそんな数はありませんので想像上の数、つまり虚数と呼びますね。実数aと虚数iを組み合わせて、a + bi などと表現したりしますので複素数と呼び、英語ではコンプレックスとなるのです。ただし、虚々実々の駆け引きをコンプレックス・ウォーなどとは呼びませんのでご注意を。最後に、私などもそうですが化学関係に縁の深い人間にとっては錯化合物という複雑な構造を持った特殊な化合物を、この言葉から連想してしまいます。詳細は・・どうしよう。簡単に言いますと、錯イオンという金属と非共有結合を持つイオンが結合したイオンがさらに化合物を生成したものなんですが、・・・要はとっても複雑なんです。これもコンプレックスと業界では呼ばれているのです。まるで日常的ではない話ですが、例えば紅茶などで布を染色する技法では、この際に色素と結合する錯イオンが着色に用いられるなど、目に見えないところでは頻繁に登場しているものなのです。ま、こんなこと知っている必要はさらさら無いのですが。ことほどさように同じ言葉でも聞く人の立場や知識によって内容が変化するこものですね。でもこの言葉の共通項は、複合という意味です。その後に続く言葉が普段多く使用している言葉と繋がるものなんだということができそうです。同じ言葉でも環境が違えば、いわんや国や民族が異なれば当然その意味合いが変わっていくことを認識しておく必要がありそうです。これは国際化というキーワードには大切なことなのかもしれないと思う今日この頃であります。ちなみに私は出来が悪かったので、複素数も錯化合物もちんぷんかんぷんでいつもコンプレックスを感じておりました。
2002年11月25日
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ブラックホールに関する話題をまた一つ。ブラックホールは通常巨大な星が爆発して超新星になる際に発生すると考えられています。星がその生涯を終わるときにはこのような超巨大な花火を打ち上げるわけですが、その中心には元の星の核が縮壊して残り、これがブラックホールへと変化するのです。ブラックホールは超高密度であり、その重力場は光でさえも取り込んでしまいますので、文字通り真っ暗で目で見ることはできません。こと座の平行四辺形のヴェガから遠いほうの短辺上にあるM57リング星雲などは、このような超新星爆発の名残と考えられています。リングの中心には、かつて鮮やかに輝いていた恒星があったはずです。まるで煙草を吸いながら、口をすぼめて舌で煙を押し出して出来る煙の輪のような趣です。多少口径の大きな望遠鏡を使えば、条件が良ければその美しい輪を確認することができますので、機会があれば一度レンズを向けてください。このほどハッブル宇宙望遠鏡が銀河系内を高速で移動するブラックホールを新たに発見しました。目に見えないブラックホールですので、発見する手段はX線の観測およびその重力場に捕らわれ、高速で周回する星を見つけることです。今回発見されたのはさそり座方向にある星で、ブラックホールを2.5日で一周していて地球から6000光年の彼方にあります。この星を捕まえているブラックホールの質量は太陽の5倍ほどと推測されています。この星が移動している様子を観測できたのはひとえにハッブル宇宙望遠鏡の精度の高さなのですが、1996年から2001年の間に視角にして7万分の1度の角速度で動いていました。この星系への距離から移動速度を計算すると、時速40万kmという速さです。近隣の星に比べるとその移動速度は4倍になり、ブラックホール誕生のきっかけとなった超新星爆発のすさまじさを物語っています。欧州宇宙機構ではガンマ線観測衛星を打ち上げて、ブラックホールへ落ち込む高温物質の観測し、この種の、銀河系に点在し高速で移動しているブラックホールの発見を目指しています。ところで、ブラックホールの軌道平面で光がその重力から逃れられる限界の位置を「事象の地平」と呼びます。その位置を越えると光でさえも脱出できなくなる限界点ですね。この言葉は英語では「イベント・ホライズン」(日本語が英語の直訳と言えますが)といいます。以前、同名のアメリカ製のSF映画を見たことがあるのですが、こちらのほうはB級ホラーSFという感じで商売上のイベント・ホライズン(損益分岐点)を上回ったのかどうか定かではありません。
2002年11月21日
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最近、ヨーロッパで最大級の火山であるイタリアのシシリー島のエトナ火山が噴火して話題になりました。吹き上げる噴煙は対岸のリビアまで影響をおよぼしており、衛星画像でもそのたなびく様が見事に捉えられていました。ところで、これも最近ですが、太陽系の歴史の中でも特筆すべき火山の大爆発が土星の衛星で起きました。この衛星はイオと言う名前の、多くの人はご存知だと思いますが、四大衛星のうちのひとつです。New Scientistに報じられたこの爆発の模様は、衛星の大きさから見ても相当なもので、爆発するイオの画像を一度ご覧下さい。噴き上げられた溶岩は、数kmの高みに達し、溶岩流は四方数百平方kmに及んだであろうと、観測者は述べています。過去の観測された太陽系内での火山の噴火ではおそらく最大級のものであるようです。この映像を捉えたのはハワイのケック天文台の望遠鏡で、2001年の2月に撮影されましたが、最近になって細かい解析がなされました。画像を中波長域の赤外線で処理し、地球大気によるゆらぎを補正した後のこの画像が得られました。これだけではその規模はなかなか想像し難いと思いますので、具体的な数値に換算しますと、1992年のエトナ火山の爆発のエネルギーが12ギガワットなのに対し、78,000ギガワットという途方も無い数字です。地球でも過去数百万年のスパンでは、インドやシベリアなどでこれに匹敵するような火山活動があったであろうことが地形学的に類推されています。このような規模の火山活動を観測することによって、地殻とマントルの構造や運動を類推する惑星地理学にとって大事なデータが得られることは言うまでもないでしょう。ところで本日は、しし座流星群がピークに近づきつつあり、深夜から明け方にかけて去年ほどではありませんが、多くの流れ星が観測できるでしょう。明け方のほうがいいかと思いますが、天体ショーを楽しみたい方は十分な防寒装備をして条件のいいところに出かけてください。願い事の優先順なども整理されておくことをお勧めします。
2002年11月18日
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南極大陸と言えば、古くから探検の対象として多くの人間が赴いた場所です。南極点への踏査や、資源調査、はたまた観光目的など、近代になるまで未踏の地であったこの極寒の地は今や世界一汚染された場所と言えます。先進各国が競って探検基地を設営し、生活した結果その廃棄物や排出物によってこの大地は甚だしく汚染されてしまったのです。もともと低温の地なので有機物の活動は低レベルですから、いったん汚染されると回復の難しい脆弱な生態系なのです。南極探検に初めて組織的に挑んだスコットやシャックルトンなどが基地として使用した小屋が崩壊の危機に瀕していると、New Scientistのサイトで報じられていました。極低温の世界なので微生物の活動も抑えられ、腐食・分解が起きないのでその気候が良い保存環境となると考えられていたのですが、もう一つの力がこの偉大な探検家達の遺跡を蝕んでいるようです。それは何かと言うと潮の脅威です。もともとこれらの小屋がある地域は悪名高い高塩分の波浪が押し寄せる一帯なのです。当初は凍結ー解凍の繰り返しが構造物を弱らせた原因だと思われていましたが、塩分のミストが木の中に浸透し、ヘミセルロースやリグニンといった木の成分と反応して、その結果、木の組織をずたずたにすることが分かってきました。専門家は、木の中の塩分濃度を計測してその濃度の高さに驚愕したようです。樹木組織が塩分によって朽ち果てるプロセスはあまり知られておらず、研究もされていませんでした。アメリカで、波止場の杭が塩の結晶によってどのように弱らされるかを調べた研究もあったようですが。この調査をしているグループがもうひとつ奇怪な点を発見しました。それはフィロフォーラ菌と呼ばれる菌類が木製の基礎を食いつぶしていたことです。木々の生えない南極で、なぜこれらの菌類が木を侵蝕しているのか首をひねっていますが、とりあえずもう少し詳しく菌の正体を暴き、対策を講じようとしているようです。シリコンベースの木の保護材も対策のひとつとして検討されていますが、保護団体が復旧が不可能となるような処理には反対するであろうことは明白です。今のところ、小屋の周りに防風バリアーを築き、潮が直接小屋に当たらないようにし、訪れる観光客には靴に付着した汚染物質を小屋の中に持ち込まないようにオーバーシューズのようなカバーをつけるようにお願いしているそうです。結果として、南極を更なる不毛の地としかねない人間の進出の足がかりを作った偉大な探検家たちの遺跡が、このような形で保護されようとしているのはなんとも皮肉な話です。ある意味では人間の貪欲な好奇心と探究心は宿命のようなものであり、探検家達の魂自体は責められるべきではないでしょう。ただ、自分達の行動が及ぼす影響について余りにも無知であったことについての認識と反省が未だに十分ではないようにも感じます。そもそも、温暖化が進んだ結果これらの史跡の周辺の海域が湿潤となり、多くの海水が潮を巻き上げることになった可能性もあるのではないかと私は考えます。自分達の行動がどういう結果をもたらすかを予測できたにも関わらず、それを避けようとしなかった場合は未必の故意という法律用語が適用されますが、人類全体でそれをやってしまうと自殺行為になりかねません。環境の保全は自然のためにあるのではなく、自分達の存続のためなのだということをもっと自覚する必要があると思います。
2002年11月14日
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健一は9時にベッドを抜け出し、伸びをしながらダイニングへ入っていった。 妻の真理子はキッチンで昼食の下拵えをしていたが、健一に気が付き、微笑みかけながら訊いた。 「お飲み物、何になさる?」 「うん、そうだな。コーヒーがいいな」 濃い目のコーヒーを啜りながら、サラダと厚めのトーストでゆっくりと朝食をとると、真理子に新しいコーヒーを注いでもらってから、健一はリビングへ向かった。 休日の朝の開放感に浸りながらソファに座ると、開け放たれた窓のレースのカーテンを揺らしながら風が通り抜けた。木立の匂いがした。 テーブルの上のリモコン装置を手にすると、壁面にかけてある48インチの薄型テレビのスイッチを入れた。 チャンネルを変えながら、いくつかの番組をスキャンしていると、健一も見知っている科学者の顔を認めて、そのチャンネルに落ち着いた。新理論を対談風に解説しながら、一般に紹介する科学番組だ。 最近、とみに有名になった量子理論の専門家で日本のアインシュタインともてはやされている人物だ。 健一はリモコンをテーブルに戻すと、背もたれに身体を預けて画面に見入った。 * * * * * * * * 十六年前。健一はいつもよりちょっと早めに朝食を食べていた。 今日は真理子とのデートの日だった。 いつもより一時間以上早く起きて、シャワーを浴びた。普段はあまり身なりに構わないが、真理子に恥をかかすわけにはいかない。 足元にシルクが忍び寄ってきた。もう飼い出して五年になるシャム猫である。 いつもは単なる同居人としてしか自分を認めていないのだが、尾を立て健一の足に身体を擦り付けてくる。 無視してトーストを齧っていると、突然、猫は膝からテープルに飛び乗ってきた。 「あ?なんだ?シルク!」 慌ててミルクのカップを押さえようとしたが、逆にカップはテーブルのふちから傾いで半分ほど入っていたミルクがこぼれ出た。ズボンの太ももの部分が熱くなった。 思わずかっとなって、シルクを叩きたい衝動にかられたが、猫にあたっても仕方がない。 せっかくコーディネートしたつもりのズボンが台無しになってしまった。急いで他のズボンを探さなければならない。 焦って自分の部屋に戻ると、洋服ダンスを開けて代わりのズボンを物色した。 さんざん迷った挙句に、適当にズボンを替え家を飛び出すと、愛車の銀色のスカイラインGTをタイヤをきしませながら発進させた。もう約束の時間まで十分少ししか残っていない。 真理子は約束の場所である商店街の入り口に佇んでいた。約束の時間までもう5分を残していない。 商店街の入り口にある大きなデジタル時計と自分の腕時計を見比べると、ちょっと眉を上げて、軽く溜息をついた。 いつもならば、健一は必ず時間の十分前には現われる。決して遅れるようなことはなかった。(どうしたのかしら・・・。初めてだわ。こんなこと。) 昨日は遅くまで残業していたようなので、起きられずにいるのかもしれない、と考えて公衆電話を探そうと首を巡らしたとき、救急車のサイレンが耳に飛び込んできた。救急車はこちらに近づいているようだ。 いやな胸騒ぎを覚えながらも、街灯の横に設置してある電話ボックスに入り、健一の自宅の電話番号をダイアルした。呼び出し音を十回ほど聞いたところで諦めて受話器を戻した。 救急車は事故現場で大破した銀色のスカイラインから、手間取りながらも血まみれの若い男を救出した。救急隊員はその状態から、彼が既に息をしていないであろうことを確信していた。 頭部に大きな挫傷を負い、大量の血と脳漿が流出していた。 ほとんど信号無視に近い無茶な交差点突破をしようとしたらしい。トレーラーにまともに突っ込まれて、運悪く運転席を直撃されたようだ。 「それは、なんと言うか・・とても大胆な推論ですね」 番組の進行を務める司会者は、科学番組では定評があり、十分な基礎知識と理解力を持ち、かつ平易な言葉で難しい内容を視聴者に伝えることができる人物だったが流石にこの話には俄かに対応が出来ない様子だった。 「大胆と言いますか、我々の感覚では認知できないのですが、理論的には十分考えられることなのです」 「整理しますと、時空は振動していて、不可逆と考えられている時間までも振動している、つまり行きつ戻りつしている可能性がある、ということですね」 健一はその話を聞きながら、興奮を覚え身を乗り出した。 * * * * * * * * 十六年前。健一はいつもよりちょっと早めに朝食を食べていた。 今日は真理子とのデートの日だった。 いつもより一時間以上早く起きて、シャワーを浴びた。普段はあまり身なりに構わないが、真理子に恥をかかすわけにはいかない。 足元にシルクが忍び寄ってきた。もう飼い出して五年になるシャム猫である。 健一は何かしら不吉なものを感じ、壁の時計に目をやると身体を擦り付けてくるシルクを無視して、椅子から立ち上がった。まだ少し早いが、出かけよう。そう思った。 食器を台所へ運び、飲みかけのミルクを皿に移すと、床へ置いた。シルクがのそりのそりとそれに近づき、びちゃぴちゃと舐め始めた。 真理子は待ち合わせの場所に来ると、もう健一の車が道路沿いに止まっているのを認めた。健一は車の外で煙草をくゆらせながら、真理子のほうへ掌を振って見せた。 二人はこれから新婚旅行の打ち合わせで、旅行社へいく予定なのだ。 助手席のドアを開けて、おおげさに腕を差し伸べる健一に気恥ずかしさを覚えながら、真理子はナビゲーターシートに滑り込んだ。 * * * * * * * * 司会者はちょっと困ったような表情を浮かべると、 「それで・・我々はどの時間を生理的な時間として感じているのでしょうね」 「それはわかりません。ただ、時間軸をある幅で往復する際に、経験した時間の記憶は一つしか持つことができないと思いますね。」 「つまり、生理的には一つの流れでしか感じることができないということですね」 「そういうことです。ただ・・・稀にその記憶を持つ可能性も無くはありません」 「そのようなとき、ある種のデジャ・ヴュのような既視感として甦ることがあるかもしれません。あるいは・・胸騒ぎとか、予感とかいった感覚になるかもしれませんね」 ふうん・・・ますます面白い話だなと興味をそそられながら、妻に向かって言った。 「おーい、真理子。こっちへ来てみろよ。面白い話をやっているぞ」
2002年11月12日
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私の会社の得意先の某三○重工は巨大な会社ですが、例によっていくつかの関連会社を持っています。なかでも○○興産という名前の関連会社は不動産の管理から、マンパワーサービス、清掃など幅広い仕事を受け持ちます。正社員の退職後の受入先としても重要な存在であることは言うまでもありませんが。この会社はまた、親会社の社員の福利厚生の一環として、いろいろな商品を手ごろな値段で取り扱い、社内販売したりもします。最近、親会社だけでは需要が足りなくなったのか、我々のような協力会社にまでその販売の対象を広げてきました。そういうわけで、健康器具としての超音波風呂を私の会社でデモしたいという申し出があり、本日の昼休みを利用して昼ご飯を食べながら説明と実演を見学しました。(弁当を無料で支給してくれました!)超音波風呂と言っても、風呂そのものを販売しているわけではなく、コンプレッサーを使って空気を送り込み、セラミックで出来た多孔質の円板から無数の気泡を発生させるというものです。50cm立方のプラスチック水槽にお湯を張り、その中に直径40cmほどの円盤状の泡発生装置を投入して泡の出る様子を見せてくれたのですが、思いのほか強力な泡が吹き出してちょっとびっくりしました。説明によりますとこの機械で発生させている超音波は一万六千ヘルツほどの周波数で、超音波と言うにはやや周波数が低いのですが、人間の身体にはこの程度が最も安全で有効らしいです。それで、超音波風呂にはいったいどんな効用があるかといいますと、概ね次のとおりです。 ・鎮痛作用 ・筋肉の緩解作用 ・消炎作用 ・菌の抑制作用 ・浸透作用浸透作用というと、よくご存知のメガネなどの洗浄器にも超音波が使われ、その波長の細かさのぶん微細なごみに対して効力を発揮しますから人間の身体に対しても、毛穴に詰まったごみまでもきれいに掃除してくれるというわけです。しかも、無数の泡が細かく皮膚から筋肉まで振動させますので、マッサージ効果も大きいのです。超音波は身体の奥まで浸透し、骨まで暖めてくれ、血液循環を良くして疲労物質の排出を促進してくれるでしょう。なんだか、ここまで書いて自分がこの超音波泡発生装置の宣伝をしているみたいな気分になってきましたが、納得できる部分が多く、もう少し研究してみたいなと思ったのです。僚友、武蔵野唐変木様はご存知のように交通事故や重量物の下敷き事故で筋肉や靭帯を損傷されて未だに苦しんでおられますす。何か氏の苦しみを和らげる治療法や装置がないものかと思っていましたのでここで紹介してみようと思いついたのです。もちろん、今日私が見たものだけではなく、いろいろな形式の装置がありますが、今回のものは比較的値段も安く、浴槽内で移動が簡単ですので特に集中して患部に超音波を当てたいときにとても便利そうでした。私自身も頭髪が薄くなり、ひょっとしたら毛根が汚れで詰まっているのではないかと危惧しておりましたので、この装置で頭をマッサージしたら再び豊かな髪が期待できるかなと、馬鹿なことを考えました。「頭を突っ込んでもいいですよ」と説明員の方が言ってくださいましたが、巨頭ゆえお湯が大量に漏れ出しては大変なので遠慮いたしました。
2002年11月07日
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私の職場は小さな3階建てのビルの最上階にあります。事務所の向かいには外国語教室があるのですが、お隣さんということもあって、付き合いで生徒になっています。なにしろ歩いて三歩ですから遅刻することもありませんし、都合が悪ければすぐキャンセルの連絡もできますので不精な私にはうってつけです。ときどきは英語のネイティブスピーカーと話す事も刺激になっていいですし、生徒さんたちとの付き合いも人間関係を広める上でも有効かなと思ったのです。同じクラスの生徒の中に、県の職員で考古学者の男性がいます。最近仕事が忙しいらしくて久しく顔を見ていないのですが、以前発掘した古代の石器を持ってきて、我々に披露してくれました。刃物として使ったと思われる、石を荒く加工したものでしたが、我々のはるか以前の祖先がその石で何を切り裂き、何をしようとしたのかと考えるとたまらないロマンを感じました。同時に、こんな大事なものを軽々しく一般人の我々に触らせてもいいものかと彼の大胆さにびっくりもしました。かばんに無造作に突っ込んでいましたので、路上でひったくりに遭ったりしたら貴重な歴史的資料を失いかねませんよね。実際、歴史的資料が盗難の憂き目に遭って失われてしまうという事件が最近起こりました。盗まれたものはなんと2億5千万年前の両生類の化石なのです!盗まれた人物は南アフリカの学者で、旅の途中で泊まったホテルで、駐車場に止めた車の中に乗せていたところを車ごと盗まれれてしまったのです。もちろん犯人が考古学マニアでその化石が欲しかったと言うわけではなく、単なる車泥棒だと思われますので、そんな妙ちくりんな化石などは、薄気味が悪いとばかりに捨て去られている可能性が高そうです。関連する専門の科学者は、その種類の生物の化石が今のところ見つかっていないので、この損失は極めて重大なものだと嘆いています。もし盗難に遭った化石が見つからなければ、再び同じものを発掘する幸運を祈るしかないからです。実は南アフリカはそのような重要な化石が数多く見つかる場所であり、考古学の宝庫と言ってもいい土地柄なのです。ヨハネスバーグの北方にあるスタークフォンテイン洞穴は、350万年前の最古の猿人の化石が数多く見つかる世界遺産にも指定されている場所なのです。もしこれを読んでいるあなたがそんな仕事に携わる人だったら、どうか貴重な学術的資料を扱うときは十分に注意していただくようにお願いします。できれば耐火金庫などにしまっておいて欲しいものですが、最近はショベルカーで根こそぎ持っていってしまうという乱暴な泥棒が増えていますから安心できませんね。放射性物質のマークでも貼っておけばなんとかなるかな?
2002年11月06日
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我々の住む太陽系が所属している天の川銀河、幾億もの星々がその中心の周りを粛々として回っています。宇宙に浮かんだ壮大な渦巻きです。このような銀河がこの宇宙には無数に存在しているわけですが、なぜこのような形態になっているのでしょう。某国営放送でも以前紹介していましたが、どうやら銀河の中心には巨大なブラックホールがあり、その途方も無い重力場に支えられて星々の渦巻きが成立しているようです。これは天文学者たちが銀河中心の星の動きを長年にわたり観察した結果、可能性として論じていたことなのですが、状況は巨大質量のブラックホールの存在を色濃く示唆していると最近の研究の結論として示されています。いずれにしても巨大質量の星が中心部分になければ銀河の運動を説明できなかったのですが、小さなブラックホールが数多く蝟集していても条件は成立しますし、中性子星の集団という可能性も考えられますし、X線の観測だけからはその姿を特定することができませんでした。観測されていたのはS2と呼ばれる中心付近を超高速で回転している星でした。チリのパラナル天文台のNAOS-KONICA光学観測装置による新たな映像と、過去10年間にわたりいろいろな天文台で得られたデータを総合して解析した結果、S2はサジタリウスAから17光時から5光日の距離にあり、15.6年で一周しています。S2自身の質量とこれらのデータから計算すると、銀河中心ブラックホールは実に太陽の370万倍の質量をもっていることが分かります。しかもその直径は少なくとも17光時なのです。この規模でこの質量を説明するには単一の超巨大なブラックホールしか選択肢がなく、これに異論を唱える天文学者はいません。状況が一つ確定したことで、天文学者たちはこれを既成の事実として、更なる研究、銀河の発生過程とこれからの銀河の動きなどの探求に精力を注ぐことができるようになりました。おそらくは全ての銀河は、このようにその中心に巨大なブラックホールを回転軸として持っているのでしょう。考えてみれば、ものを回転させるときはその遠心力を支えるだけの求心力が必要です。宇宙には様々な種類の銀河があり、天文写真などでその姿を楽しむことができますが、その中心には全てその銀河の回転を支える心棒のようなブラックホールが鎮座しているのです。ビッグバンから成長した宇宙で、星間物質が寄り集まり熱を持ち、やがて星々が生まれ、強力な重力場が発生したとき、銀河を構成する条件が整っていったのでしょう。宇宙自体は膨張を続けているにも関わらず、宇宙を構成する要素は寄り合い、固まり、幾何学模様のつむじを生みつづけてきたのです。ブラックホールは全てを呑み込み、その先はワームホールとなって別の宇宙とつながっていると言います。ワームホールの向こうの宇宙はワームホールができるにつれて発生したのでしょうか?もともとあった別の宇宙がワームホールができたことによって連結されたのでしょうか?ひょっとしたら、ワームホールの宇宙は我々の宇宙と全く相似形で、その宇宙にも我々の鏡像のように人類が営みを続けているのかも知れません。宇宙の神秘と言う言葉では片付けられない宇宙の意思、宇宙の必然性を見出すことができるような気がします。
2002年11月05日
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観測機器とコンピューターが性能が高度化するにつれて、太陽系内や外宇宙の様子をより正確に知ることができるようになり、宇宙のなりたちや太陽系の歴史に肉薄できるようになりました。このこと自体は悪くないのですが、あまりよろしくないのは小惑星クラスの小天体をいち早く発見し、それが地球を掠めるだの衝突するかもしれないだの、数年、または数十年先のことまで心配しなくてはならなくなったことです。つい数ヶ月前にも、すわビッグ・インパクトかと思わせる小天体の接近予想がニュースになっていましたが、またまた物議をかもしそうな小惑星が発見されました。折りしも西洋ではハロウィーンというキリスト教がらみのお祭りの時節、あちらではハロウィーン小惑星と呼ばれているようです。この小惑星の正式名称は1997XF11と言い、名前が表すように1997年に最初に発見されたもので、その当時は注目されていなかったのですが、現在蟹座に位置し、地球に950万kmの距離まで接近しています。(これは地球から月までの距離の25倍ほどですね) サイズは概ねさしわたし1kmほどです。小惑星の場合は大きな惑星と異なり、球形をしているわけではないのでごつごつした岩の塊を想像してくださいね。それで、これからどうなるかと言いますと、今から26年後の2028年に最接近し,その距離は現在のおよそ10分の1の95万kmになるようです。科学者の計算によるとこの小惑星は地球を過ぎて金星まで接近して、その後また小惑星帯の軌道まで戻るようです。ご安心下さい。地球に衝突したりしないことは保証済みのようです。でも、仮にこれが地球に衝突すると仮定すると、現在地球上にある最大級の核爆弾の3000倍の破壊力になると言いますから、空恐ろしいですね。ちょっと安心したところで、最大接近時にこの小惑星は地球から確認できるのでしょうか?この小惑星もそうですが、殆どの小惑星は色が濃く太陽の光を反射する率がとても低いので、あまり明るくなりません。星の明るさの等級でいくと、13等星ということですので、肉眼はおろか双眼鏡でも確認することは難しいでしょう。でも、天文学者にとっては小惑星の調査にとってまたとない機会なので、大口径の望遠鏡を駆使して、成分や小惑星の自転の模様を詳しく調査することでしょう。冒頭にも書きましたが、科学技術が進歩するにつれて未知の世界が解明され、それに伴って心配の種も増えているのは皮肉なことですが、予想される危険についての問題対処の方法が進歩していないような気もします。人間自身に起因する危機があまりにも増大しています。小惑星の衝突によらずとも内部崩壊の可能性が高いことも忘れてはならないでしょう。
2002年11月01日
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