《櫻井ジャーナル》

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2011.10.17
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 イランであろうと、イラクであろうと、イスラム武装勢力は危険な存在である。そうしたこともあり、イラクのサダム・フセイン政権は人権を無視した取り締まりを実施、アル・カイダに関する詳しい情報を持っていた。アメリカに対する「テロ計画」(実際に行われた世界貿易センターとペンタゴンに対する攻撃と同じかどうかは不明)にも気づいていて、アメリカ側に計画の存在を伝えているとするCIAエージェントの証言もある。この警告をアメリカ政府は無視したということだ。

 当時、サダム政権はアメリカとの関係修復を願っていた。国連による武器査察やFBIの捜査活動を容認すると表明していたほか、フランスやロシアの企業と同じ条件でアメリカ企業が探査開発を契約できると保証、アメリカ製自動車を購入するなどと約束、アメリカ企業が湾岸戦争の前と同じようにイラク市場へ参入することも認めていたのである。アメリカの旧保守にとって、戦争というリスクを冒すような状況だったとは言えない。

 軍事的に考えてもイラク攻撃は無謀であり、少なからぬアメリカ軍の幹部が開戦に反対していた。例えば、イラク侵攻作戦の前にエリック・シンセキ陸軍参謀総長(当時)が議会でラムズフェルドの戦略を批判ている。グレグ・ニューボルド海兵隊中将は2002年10月に統合参謀本部の作戦部長を辞め、後に「イラクが間違いだった理由」というタイトルの文章をタイム誌に寄稿してブッシュ・ジュニア政権を批判している。

 その記事が出る直前、アンソニー・ジニー元中央軍司令官もテレビのインタビューで国防長官を批判、さらにポール・イートン少将、ジョン・バチステ少将、チャールズ・スワンナック少将、ジョン・リッグス少将も続いた。

 ジェイ・ロックフェラー上院議員も早い段階からイラク攻撃に否定的な意見を述べていたが、その後、ジョージ・H・W・ブッシュ、つまりブッシュ・シニア政権で国務長官を務めたジェームズ・ベーカーはリー・ハミルトン元下院外交委員長と超党派のイラク研究グループを結成、ブッシュ政府の政策を批判している。アメリカ軍の段階的撤退、シリアおよびイランとの対話の開始、パレスチナ問題の考慮なども提唱した。

 こうした反対意見はあったが、新保守などの好戦派は偽情報を流しながら戦争に突入、イラクで破壊と殺戮の限りを尽くしてきた。医学雑誌のランセットに発表されたジョンズ・ホプキンズ大学とアル・ムスタンシリヤ大学の共同研究によると、2006年7月までに約65万人が死亡したと推計、またイギリスのORB(オピニオン・リサーチ・ビジネス)が行った調査では、2007年夏までに約100万人が戦争で殺されたという。

 しかし、戦争になった以上、戦費を回収するためにも略奪しなければならない。開戦直後に美術品などが盗まれているが、それは個人的な略奪。アメリカ経済の行き詰まりを考えると、石油で大きく儲けるしかない。そこで持ち出されたのがPSA(生産物分与協定)である。形式上、国が石油や天然ガスを所有するのだが、油田開発、生産、販売などは巨大石油企業が行う。つまり、利益は石油会社がいただくという取り決めだ。

 当然ながら、この協定は評判が悪い。イラン政府もイラクのシーア派政権に対して協定を結ばないようにアドバイスしたという。この助言もイランが敵視される一因になったという説もある。ある試算によると、1バーレル40ドルだと仮定して、25から40年間にイラクは740億ドルから1940億ドルを失うことになるという。

 イラク北部にあるキルクークとシリアのバニアスをつなぐパイプラインがある。イラクとイランが戦争状態になった際、シリアがイランから石油を輸入したことでイラクとの関係が悪化、1982年に石油の輸送が止まったことがある。2003年にアメリカがイラクに軍事侵攻した際に破損、それからは使用されていなかったが、2007年に修復することでイラクとシリアは合意、2010年には新しいパイプラインの建設も決まった。



イラン、イラク、そしてシリアのラディシアへつながるパイプラインの計画 もシリアを米英が煙たがる理由のひとつだろう。バクー油田からトルコのジェイハンをつなぐパイプライン(BTC)を建設され、2006年6月から本格稼動しているのだが、イラン・イラク・シリアを結ぶパイプラインはBTCにとって強力なライバルになる。

 ちなみに、BTCの権益を握っているのはイギリスのBPを筆頭にして、SOCAR(アゼルバイジャンの国有石油企業)、UNOCAL、STATOIL(ノルウェーの企業)が続く。日本からは国際石油開発帝石(INPEX)が加わっている。

 アメリカやイギリスはサウジアラビアや湾岸の独裁産油国をまだコントロール下においているのだが、石油支配の屋台骨が揺らいでいることも否定できない。アフリカの資源利権を脅かしていたリビアのムアンマル・アル・カダフィ政権を倒すことには成功したが、シリア、イラク、イランをコントロールできていない。中国やロシア、さらにラテン・アメリカのベネズエラというライバルも存在している。アフガニスタンから軍隊を撤退させることも簡単ではない。略奪に失敗すれば、体制の転覆、あるいは国家の消滅さえありえる。





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最終更新日  2011.10.18 01:34:37


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