ホワイトハウスの報道官を務めているジェン・サキは1月14日、ロシア政府がウクライナの東部地区、つまりドンバス(ドネツクやルガンスク)の周辺で「偽旗作戦」を行おうとしているとする情報があると発言したが、ウクライナで戦争の準備を進め、挑発的な行為を続けてきたのはアメリカにほかならない。
恫喝外交を継承したジョー・バイデン政権のウェンディ・シャーマン国務副長官は1月10日にジュネーブでロシアのセルゲイ・リャブコフ外務次官と会談、安全保障問題について話し合ったようだが、合意には至らなかった。
アメリカがNATOを東へ拡大させ、ついにウクライナへ到達しようとしている。こうした状況を容認できないとロシア政府はアメリカ政府に抗議してきた。
ウクライナをNATOへ加盟させず、モスクワを攻撃するシステムをロシアの隣国に配備しないように求めているほか、ロシアとの国境近くで軍事演習を行わず、NATOの艦船や航空機をロシアへ近づけないようにとも言っている。さらに定期的な軍同士の話し合いを実施、ヨーロッパへ中距離核ミサイルを配備しないことも要求。そして、それらを保証する文書を作成するように求めている。
こうしたロシア政府の要求をアメリカ政府は拒否、リャブコフ次官は交渉が袋小路に入り込んだと表現した。双方の問題への取り組み方が違い、交渉を再開する理由が見つからないともしている。ロシア政府はアメリカに見切りをつけたと言えるだろう。
バイデン政権は2021年1月に誕生して以来、ウクライナ周辺で挑発的な行動を繰り返してきた。例えば、3月10日にNATO加盟国の軍艦がオデッサへ入港、同じ頃にキエフ政府は大規模なウクライナ軍の部隊をウクライナ東部のドンバス(ドネツクやルガンスク)やクリミアの近くへ移動させてロシアを挑発。
4月に入るとアメリカ空軍は1週間の間に少なくとも3度、物資を空輸していると伝えられた。4月5日にはウクライナのゼレンスキー大統領はカタールを訪問、そのカタールの空軍は5機の輸送機を使い、トルコを経由でウクライナへ物資を運んでいるという。
そのトルコはウクライナでアメリカと連携、3月14日には少なくとも2機のC-17A輸送機がトルコからウクライナへ物資を輸送、トルコ軍兵士150名もウクライナへ入る。
4月10日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はトルコを訪れてレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と会談、その直後にトルコの情報機関は「ジハード傭兵」を集め始めている。
その直前、4月6日と7日にはNATO軍事委員会委員長のスチュアート・ピーチ英空軍大将がウクライナを訪問、9日にアメリカは「モントルー条約」に従い、トルコ政府へ自国の軍艦2隻が4月14日か15日に地中海から黒海へ入り、5月4日か5日まで留まるとると通告した。
その前にアメリカの軍艦2隻が4月14日か15日に地中海から黒海へ入り、5月4日か5日まで留まると通告されていたが、ロシアの反発が強いため、米艦船の黒海入りはキャンセル。
そうした中、ウクライナの国防大臣が辞意を表明し、その一方でネオ・ナチ「右派セクター」を率いる ドミトロ・ヤロシュ が参謀長の顧問に就任したと伝えられた。
6月28日から7月10日にかけてアメリカ軍を中心とする多国籍軍が黒海で軍事演習「シー・ブリーズ」を実施したが、これには 日本も参加 している。
シー・ブリーズに参加するために黒海へ入っていたイギリス海軍の駆逐艦「ディフェンダー」は6月23日にオデッサを出港した後、ロシアの領海を侵犯してクリミアのセバストポリへ接近。それに対してロシアの警備艇は警告のために発砲、それでも進路を変えなかったことからSu-24戦術爆撃機が4発のOFAB-250爆弾を艦船の前方に投下している。この爆弾は模擬弾ではなく実戦用。その直後にディフェンダーは領海の外へ出た。
当初、イギリス海軍は警告の銃撃や爆弾の投下はなかったと主張したが、問題の駆逐艦に乗船していた BBCの記者ジョナサン・ビール が周囲にロシアの艦船や航空機がいて、銃撃音や爆弾を投下した音を聞いたと伝えている。
6月24日にはオランダのフリゲート艦「エバーツェン」がクリミアへ接近したが、ロシア軍がSu30戦闘機とSu-24爆撃機を離陸させると、領海を侵犯しないまま、すぐに離れていった。
12月に入るとアメリカの偵察機が黒海の上空を何度も飛行、民間航空機の飛行ルートを横切るなど脅しを繰り返し、ウクライナ軍はアメリカ製の兵器を誇示してロシアを挑発している。その前にはアントニー・ブリンケン国務長官がロシアを恫喝、ロード・オースチン国防長官はウクライナを訪問していた。
一方、ウクライナの現政権は部隊をドンバスの近くへ移動させて軍事的な圧力を強めている。ゼレンスキー大統領は外国の軍隊が領土内に駐留することを議会に認めさせ、キエフ政権側で戦う外国人戦闘員にウクライナの市民権を与えることも議会は認めた。脅しのつもりだろう。
また、CIAがウクライナ軍の特殊部隊を秘密裏に訓練しているとする情報も伝えられている。この訓練は2015年、つまりウクライナでアメリカ政府がネオ・ナチを使ったクーデターを成功させた翌年にアメリカの南部で始められたという。訓練を受けた戦闘員はドンバス周辺で活動することが想定されているはずだ。ウクライナ軍の活動をアメリカ政府は「ロシアの偽旗作戦」だと宣伝する可能性がある。
アメリカは侵略戦争を正当化するため、偽情報を流すが、偽旗作戦も計画している。中でも「ノースウッズ作戦」は有名だ。
ソ連や中国を先制核攻撃する計画を持っていたアメリカの軍や情報機関はキューバが目障りだった。ロシアと国境を接しているウクライナほどではないが、アメリカはキューバを脅威と考えていた。そこへソ連が中距離ミサイルを持ち込めば、反撃の拠点になるからだ。
統合参謀本部議長だったライマン・レムニッツァーは1962年3月にロバート・マクナマラ国防長官に対してノースウッズ作戦の内容を説明したが、拒否される。10月にジョン・F・ケネディ大統領はレムニッツァーの議長再任を認めなかった。
ノースウッズ作戦に関する資料の大半は廃棄されたが、わずかながら残された重要な文書もある。それが1962年3月13日付けの機密文書。それによると、グアンタナモにあるアメリカ海軍の基地をキューバ側の工作員を装って攻撃したり、マイアミを含むフロリダの都市やワシントンでの「テロ工作」も実行、民間旅客機を装った無人機をキューバ近くで自爆させ、キューバ軍に撃墜されたように見せかけることも含まれていた。この計画を阻止したケネディ大統領は1963年11月22日にテキサス州のダラスで暗殺される。