FBIは8月8日、フロリダ州マー・ア・ラゴにあるドナルド・トランプ前大統領の自宅を家宅捜索、金庫も開けたと伝えられている。公的な機密文書をホワイトハウスから持ち出した疑いだという。家宅捜索はトランプがニューヨークのトランプ・タワーにいるタイミングで行われた。通常、家宅捜索すれば何らかの違法行為は見つかる。それを狙っているのかもしれない。
ジョー・バイデン大統領はバラク・オバマ政権の反ロシア政策を引き継いでいるが、有権者に支持されているとは言えない状態。 CNNの依頼で6月13日から7月13日にかけて実施された世論調査によると、バイデン政権の仕事ぶりを認める人は全体の38%にすぎず、認めない人は62%に達する 。
分野別に見ると、認める人が最も少ないのは「インフレーション」の25%で、「経済」も30%に止まる。「COVID-19(2019年-コロナウイルス感染症)対策」として打ち出された政策によって人びとの動きが厳しく制限され、社会は収容所のようになった。
その結果、経済活動は麻痺して企業は倒産、人びとは失業、ホームレスや自殺者が増加している。ロシアに対する挑発政策ではロシアが設定したレッドラインを踏み越えてウクライナへの軍事作戦を誘発、東アジアや中央アジアでも緊張を高めた。トランプは2024年の大統領選挙に出馬するという噂があるが、バイデンの不人気を考えると、トランプが大統領に返り咲く可能性はある。
アメリカでは2016年にも大統領選挙があったが、欧米エリート層の内部では、その前年の段階で次期大統領はヒラリー・クリントンだということで内定していたと見られている。クリントンはオバマと同じようにロシアとの軍事的な緊張を高める政策を推進するとみられていた。
これはアメリカが世界を制覇するというネオコンの政策だが、それを危険だと考える勢力が支配層の内部にはいる。そのひとりであるヘンリー・キッシンジャーは2016年2月10日にロシアを訪問してプーチン大統領と会談する。そして大統領候補として浮上してきたのがドナルド・トランプだ。
トランプの当選が決まると民主党や有力メディアは彼や国家安全保障補佐官への就任が予想されていたマイケル・フリンに対する攻撃が始まるが、その背後ではCIA、司法省、FBIが暗躍していた。そして始まるのが「ロシアゲート」劇場だ。
選挙期間中、ヒラリー・クリントンをめぐる不正行為を明るみに出す電子メールをウィキリークスが2016年3月から公表しはじめる。7月22日にはDNC(民主党全国委員会)に関係した1万9000件以上の電子メールと8000件の添付資料を公表、その中には民主党の幹部へバーニー・サンダースが同党の大統領候補になることを妨害するよう求めるものも含まれていた。
しかし、公表された電子メールの内容を西側の有力メディアは問題にせず、ロシア政府にハッキングされたという宣伝が展開されたのだが、アメリカの電子情報機関NSAの技術部長を務めた内部告発者のウィリアム・ビニーを中心とする専門家のグループVIPSもこれを否定している。(Veteran Intelligence Professionals For Sanity, “Intel Vets Challenge ‘Russia Hack’ Evidence,” Consortiumnews, July 24, 2017)
VIPSのメンバーで、IBMのプログラム・マネージャーだったスキップ・フォルデンは、転送速度など技術的な分析からインターネットを通じたハッキングではないという結論に達している。インターネットから侵入したにしてはデータの転送速度が速すぎ、内部でダウンロードされた可能性が高い。
ハッキングされたと主張していたのはクラウドストライクなる会社。サイバーセキュリティが専門で、軍や情報機関と契約している巨大戦争ビジネスでもある。2015年7月にはグーグルから1億ドルの投資を受け、19年5月には4億8000万ドルまで増額されている。その当時、同社は民主党に雇われていた。
この会社が2016年12月に公表した報告書によると、ウクライナのクーデター政権が武器管理に使っていたアプリケーション・ソフトがロシアにハッキングされたのと同じ手法でDNCのサーバーがハッキングされたのだという。
ウクライナでハッキングがあったことはロンドンにあるIISS(国際戦略研究所)のデータに基づく主張だとされているが、その研究所はクラウドストライクによるデータの使い方が誤っていると主張、自分たちとクラウドストライクの報告書との関係を否定し、さらにクラウドストライクはIISSに接触していないともしている。
また、ヒラリー・クリントン陣営や民主党全国委員会の法律顧問を務めていたマーク・エリアス弁護士がフュージョンなる会社にドナルド・トランプに関する調査を依頼する。
フュージョンを創設したひとりのグレン・シンプソンによると、同社は2016年秋にネリー・オーなる人物にドナルド・トランプの調査と分析を依頼した。その夫、ブルース・オーは司法省の幹部で、このオーとシンプソンは2016年11月に会っている。その直後にブルースは司法省のポストを失い、フュージョンはクリストファー・スティールに調査を依頼することになった。(The Daily Caller, December 12, 2017)
スティールはイギリスの対外情報機関SIS(通称MI6)の「元オフィサー」だが、情報機関に「元」はないと言われ、この工作もSISが関与していた可能性がある。彼は長期にわたるFBIの情報提供者だったとも言われている。
スティールの作成した報告書が根拠薄弱だが、その報告書に基づいて2017年3月に下院情報委員会でロシア疑惑劇の開幕を宣言したのがアダム・シッフ下院議員。そして同年5月にロバート・マラーが特別検察官に任命されたわけだ。
ジム・コミーFBI長官がヒラリー・クリントンの電子メールに関する声明を発表した5日後、DNCのスタッフだったセス・リッチが背中を撃たれて死亡している。警察は強盗にあったと発表したが、金目のものは盗まれていない。その発表に納得できなかったリッチの両親は元殺人課刑事の私立探偵リッチ・ウィーラーを雇う。
ウィーラーによると、DNC幹部の間で2015年1月から16年5月までの期間にやり取りされた4万4053通の電子メールと1万7761通の添付ファイルがセス・リッチからウィキリークスへ渡されたとしている。
この調査結果は封印され、ヒラリーに対する徹底した捜査が行われたとは思えない。ロシアとアメリカとの関係悪化を目論んだのはCIA長官だったジョン・ブレナンだとも言われている。
ウィキリークスは2010年4月、アメリカ軍のAH-64ヘリコプターが07年7月に非武装の一団を銃撃して十数名を殺害する場面を撮影した映像を公開 した。犠牲者の中にはロイターの特派員2名が含まれている。
その情報源だったアメリカ軍のブラドレー・マニング(現在はチェルシー・マニングと名乗っている)特技兵は逮捕され、スウェーデンの検察当局は2010年11月にアッサンジに対する逮捕令状を発行したものの、のちにスウェーデン当局はこの令状を取り下げている。
一方、アメリカの司法省はその直後にアッサンジをハッキングのほか「1917年スパイ活動法」で起訴している。ハッキングで最も重要なアメリカ側の証人だったシギ・トールダルソンは虚偽の証言をしたと発言しているが、それから間もなく収監された。
アッサンジはスウェーデン当局が逮捕令状を出した直後にロンドンのエクアドル大使館へ逃げ込み、エクアドル政府は亡命を認めたが、大統領が交代して2年後の2019年4月11日、エクアドル大使館内でロンドン警視庁の捜査官に逮捕され、イギリス版グアンタナモ刑務所と言われているベルマーシュ刑務所へ入れられた。
オバマ、ヒラリー、バイデンを支えてきたネオコンは1992年2月に世界制覇プランを作成し、そのプランを実現しようと今でも必死なのだが、その途中、21世紀に入ってからプランの前提だったロシアの属国化が崩れている。それを力付くで何とかしようとしているのが現在。ウクライナや台湾で軍事的な緊張が高まり、世界大戦へ進む可能性が出てきたのはそのためだが、それでも暴力に頼ろうとしている。
暴力機関のひとつであるCIAはウォール街の人脈によって組織された経緯もあり、金融資本とは緊密な関係にある。FBIには政治警察としての役割もあるが、その政治色がここにきて強まってきたようだ。